広告:放浪息子(5)-BEAM-COMIX-志村貴子
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■春銀(28)

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その後、水着を着る。パンティ部分を着けてから、すっごく頼りないブラ部分を着けるが
 
「そのビキニ凄いね」
とお母さんが言っていた。
 
「私たちが選んであげた」
「私程度の胸でビキニは恥ずかしい」
「いや、もっと貧弱な子もいるから大丈夫」
 
後はゴム仕様になっており、肩紐代わりに首の後で紐を結ぶタイプである。その結ぶ所は一希がしてくれた。一希と汐里はワンピース水着だが、ふたりとも結構可愛い。
 
「可愛いね」
と恵真も思わず声を挙げた。
 
一希のは花柄模様で、パレオ付きである。汐里のはドレスのようなデザインである。
 
つまり・・・・
 
ふたりともお股の付近は隠れるようになっており、そこを堂々と出しているのは恵真だけである!
 
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お母さんはタンクトップとフレアパンティという感じのセパレート水着であった。
 

「えまちゃん、泳げたよね。一緒に25mプールで泳がない?」
「さすがにこの水着で泳いだら外れる!」
「女子高生のストリップはさすがにヤバいな」
 
そうか。ボクって女子高生なのか。
 
「じゃスライダーに行こうよ」
「あれ怖い」
「平気平気」
 
それで結局プールに入ってから1時間くらい、ひたすらスライダーをしたが、スライダー初体験だった恵真は、もう死ぬかと思った!特にいきなりストンと落ちる所が本当に心臓に悪かった。
 
その後は、一希とお母さんと一緒に流れるプールで水中を歩きながら、途中の花園やお魚の水槽なども見て楽しんだ。汐里は本当に25mプールに行きたっぷり泳いで来たようである。
 
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残り1時間になった所でスパに移動することにする。
 
いったん更衣室に戻り、各自のロッカーを開けて水着を脱ぎ、ビニール製の水着入れに入れる。そのあと、裸で更衣室内の階段で地下に降りるとそこがスパである。つまりプールから直接スパには行けないようにして、誤って異性用の浴室に迷い込むことがないようにしている・
 
なお地下スパと1階プールの間は本来はエレベータでも移動できるのだが、“密”を発生させないように使用禁止になっている。ただし、お年寄りや怪我している人・障碍者の人は係の人に言えば利用できる。言わなくても巡回しているスタッフが大抵声を掛けて誘導してくれているようだった。
 
スパは、むろん男女別なのだが、女湯は“七つの海をお楽しみください”と書かれていて、地図まで掲示されていた。
 
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中央にあり、最も大きく青いお湯が入っているのが Pacific Ocean, その向こうの奥側にある白濁したお湯のが Atlantic Ocean, 左手に電気風呂のAegean Sea, ワイン風呂の Mediterranean Sea, 右手に打たせ湯のJapanese Sea, 水風呂のAntarctic Ocean という:掲示が出ていた。
 
「アエジェアン・シーってなんだっけ?アジア海」
と汐里が訊く。
 
そんな海は無い!
 
一希のお母さんが
「Aegean Sea はエーゲ海」
と教えてあげる。
 
「へー!」
 
「メディタレイニアン・シー は地中海?」
「そうそう」
「アンタークティック・オーシャンって北極海だっけ?」
「惜しい。南極海。北極海はArctic Ocean」
「へー」
 
「Arcticが極ということで Antarctic は反対側の極ということよね」
「そうか。昔は南極って知られてなかったから」
 
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取り敢えずみんな洗い場で身体を洗う。恵真はここ一週間毎日自宅のお風呂でこの身体を洗っていたので、だいぶ慣れてきていたのだが、髪を洗い、顔を洗い、ドキドキしながら胸を洗う。胸を洗った時に何か違和感があったのだが、理由は分からなかった。更にドキドキしながらお股を洗う。お股を洗った時、偽装している割れ目ちゃん(実は閉じ目ちゃん)が開くことに気付いた。やっばー。これ後で接着剤でしっかり留めておかなきゃと思う。でも幸いにも“中身”は飛び出してきていないようである。万一あんなものが女湯で飛び出してきたら、マジで警察に通報されちゃう。
 
足を洗い、足の指と指の間を洗うと疲れが取れていく感じで気持ちいい。
 
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最後に身体全体にシャワーを掛けてから浴槽に向かう。一希も汐里も既に“太平洋”に入っていたので、その近くの湯面に身体を沈めた。
 
「でもきれいに女の子の身体になってるね。手術痛くなかった?」
「特に痛くなかったかな」
「麻酔利いてるから大丈夫じゃないの?」
「麻酔無しで切ったら凄まじく痛いよね」
「ショックで死んじゃったりして」
 
「あれ?でもちんちんを切ったのは幼稚園か小学生の頃だっけ?」
と訊かれるので
「よく分かんなーい」
と答えておく。
 
実際にはまだ付いてるからなあと恵真は思う。でも♪♪ハウスで話したみたいにボク、やはり高校卒業するまでには性転換手術を受けることになるのかなあ、と思った。お母ちゃんは乗り気みたいだし。ひょっとしたら今度の冬休みくらいに「手術受けに行こう」とか言われたりして。
 
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それまでに自分も覚悟を決めなきゃ。あまりの急展開に戸惑ってるけど、ボク小さい頃から女の子になりたかった気がするもん。自分でちんちん切ろうとしたこともあったし。
 
「やはり小さい頃に手術されたのでは?」
「だからあまり男っぽくなかったんだよ」
「病気の治療か何かで切ったのかな」
「ちんちんに腫瘍ができたりすると切らないといけないらしいね」
「あれって小学校に入る前までにちんちん切った場合は、性別訂正届けを市役所に出すだけで性別を女の子に訂正できるんでしょ?」
 
そうなの!??
 
「近所の子で幼稚園まではズボン穿いて通園してたのが、入学式の時はスカート穿いてた子いたよ」
 
羨ましい!!
 
「実際、私、えまちゃんを高校入学式の時に見て、なんでこの子、男子制服着てるんだろう?男の子になりたい女の子なのかな、とか思ったもん」
 
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「まあ、えまちゃんは普段着だと、よく女の子と間違われてたね」
などと一希は言う。
 
「小学生の頃は結構スカート穿いて学校にも来てたし」
「そうだっけ?」
と恵真は驚く。全然そんな記憶がない!
 
「だからえまちゃんがスカート穿いてきた日は『えまちゃん女子トイレ使いなよと言ったけど『恥ずかしい』とか言って男子トイレ使ってたし』
 
「へー」
と汐里は言っているが、恵真自身はそんな記憶が全く無い。
 
「24日からは女子トイレ使うよね?」
と汐里。
「そりゃ女子制服を着てるのに男子トイレ使おうとしたら、男子たちに追い出されるよ」
 
やはり女子制服で通学するのは確定なのか。
 

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そんな話をしていた頃、一希のお母さんが“地中海”からこちらに移ってきた。
 
「気持ちいいけど、酔いそうな気分だった。あれはおとな限定ね」
などと言っている。
 
「男湯は日本酒風呂らしいけどね」
 
「男湯も7つの海なのかな。えまちゃん、ここの男湯入ったことない?」
「男湯には入ったこと無いよ!」
と恵真が言うと
「女の子が男湯に入る訳無い」
とお母さんも言う。
 
しかし恵真の「男湯に入ったこと無い」という発言には、一希と汐里が頷いていた。彼女たちは、恵真が小さい頃にちんちん切っちゃったので、女の子の裸にしか見えないから、男湯には入れなかったのだろうと判断したのである。
 
「うちのお父ちゃんによると、向こうは7つの山らしいよ」
「山なんだ?」
 
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「確か、富士山、大雪山、阿蘇山、エベレスト、ロッキー、アルプス、キリマンジャロ」
 
「山と山脈が混在している」
「まあいいんじゃない?」
「だけど富士山に湖みたいなのあったっけ?」
「富士五湖」
「あっそうか!エベレストは?」
「うーん。知らないなあ」
 
「やはり女は引っ込んでるから海で、男は出っ張ってるから山なんじゃない?」
という一希の発言には、汐里も反応に窮し、お母さんは他人の振りをしていた!
 

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しかしその日、一希と汐里は別れ際に恵真に言ってくれた。
 
「えまちゃんが完全に女の子だというのはしっかり確認したから、私たちが証言してあげるから安心してね」
 
なお、恵真は“外れ掛かっている”お股の工作箇所の補修をしなきゃと思っていたのだが、午前中の病院に午後のプールでクタクタだったので、忘れてしまい、夕食を食べたら、お風呂にも入らずにそのまま眠ってしまった。
 

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“仮名M”はこの日、午前中に可愛い男の娘を病院に連れて行った帰り、その子から“取り外したプレストフォーム”を見ながら
 
「これ誰かおっぱいを欲しがってる男の娘に取り付けてあげよう」
と呟いた。
 

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8月22日(土)、恵真はまたAさんとのセッションをした。この日は恵真もかなり女の子ライフに慣れてきて、普通に女の子の服で出かけ、Aさんの家でもわざわざ“女装”させられることもなく、すぐに発声と歌の練習に入った。
 
「女の子の声が出る音域が物凄く広がってる」
「あ、やはりそうですよね。昨日の午後あたりから急に広い音域出るようになった気がします」
 
「女声の発声ってわりとそうなんだよ。多くの人が突然出るようになったと言うんだよね。そして逆に男声が出なくなる」
 
「実はそうなんです!今男声が全く出なくて」
「でもそれで何も困らないでしょ?」
「はい、全く困りません」
 
「あんた、ちょっとこれ歌ってみて」
と言って、Aさんは恵真に楽譜を渡した。
 
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この曲は知っている。ミュージカル『キャッツ』のクライマックスで歌われる曲『メモリー』だ。
 
「最初の音はこれ。オクターブずらしせずに譜面通りに歌ってみて」
「はい」
 
それで恵真はAさんの伴奏に合わせて「Midnight, not a sound from the pavement, Has the moon lost her memory?」と歌い始める。恵真もこの歌を歌ったことはあるが、いつもサビに入る部分でオクターブ下げていた。しかしこの日はAさんが
「次そのまま上に行って」
というので、苦しい気がしたが、そのまま頑張って上に行った。自分でも高い声が良く出るので驚く。Aさんが頷いている。
 
そして結局オクターブずらしをしないまま、最後までちゃんと歌いきったのである。
 
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「凄いね。2オクターブ半、G3からC6までしっかり出ていた。ちょっと上はどこまで出るか確認しておこう」
とAさんが言うので、ピアノの音に合わせて声を出していったら E♭6まで出た。
 
「惜しいね。あと1全音上、F6まで出たら『夜の女王のアリア』が歌える」
「へー」
「練習してれば出るようになるかもよ」
「頑張ってみます」
「うん」
 
その後、フルートの練習もしたが、そちらも進化していると褒められた。
 
この日は母に連絡して許可を取った上で、逗子マリーナまで遠出し、ライフベストを付けてヨットに乗るシーンを撮影した。多くはAさんのお友達という女性が操るヨットに同乗しての撮影だったが、1度だけ波の静かなタイミングを狙って、1人だけでヨットの上に立ち、まるで帆を操作するかのようなシーンも撮影した(3秒後に海に落下した!)。
 
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この日は遠出したので帰宅が20時近くになり、また家までフェラーリで送ってもらった。それで御飯を食べたらそのまま寝た。
 

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8月23日(日).
 
恵真は母から言われた。
「美容院に行こう」
 
最初「病院に行こう」と聞こえたので、もしかして性転換手術を受けるの?と思ったが「髪切るだけだよ」と言われるので、美容院か!と脱力した。でも、母なら性転換手術に連れていく時も「ちんちん切るだけだよ」と言いそう!
 
それでお母さんがよく行っている美容院に行った。
 
「ああ、浜梨さん」
「予約していたけど、いいかしら?」
 
三密回避で、原則予約制にしている美容院が多い。
 
「はいはい。承ってますよ。あれ?そのお嬢さんですか?」
「そうなのよ。この子をお願い。明日から新学期ですし」
 
「飛早子ちゃんの・・・従妹さん?」
「妹なんですよ」
 
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「あら、そんな妹さんが居たんですか?」
「これまではこの子のお友達のお祖母さんがやってる美容院に行ってたんだけど、お祖母さんがもう年だし、コロナで客が減ってるで閉店になって」
 
「ああ、この業界も閉店の話をたくさん聞きますよ。どこもお客さんが美容院に来るの控えてるみたいで。代わりに髪切るセットが売れてるみたい」
 
「小学生くらいは結構お母さんが切ってあげてもいいかもね」
「そういう流れみたいですよ」
 

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それで10分も待つと「こちらへ」と言われて“カット台”に案内された。今まで恵真は床屋さんに行ってて、洗髪台付きの椅子に座らされていたので、ごく普通の椅子に座ることになり、物凄い違和感を感じた。美容院って、洗髪台とか無いんだっけ??
 
「どんな感じの髪型にします?」
と美容師さんから訊かれる。
 
「そうだなあ」
と恵真が悩んでいたら母が言った。
 
「ラピスラズリの朱美ちゃんみたいな髪型とかどう?」
と訊いた。
 
「ああ、あの髪型は似合いそうですね。そんな感じでやってみましょう」
 
と言い、美容師さんは恵真の髪に櫛を入れてはハサミでカットを始めた。
 
「今、髪の長い子は、はるこちゃんカット、髪の短い子は朱美ちゃんカットって流行ってるんですよ」
と美容師さんが言う。
 
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「ラピスラズリ大人気ですもんねー」
と母も言う。
 
「アクアちゃんカットも人気なんですけどね」
「あの子もかわいいわよね。男の子には見えないし」
「女の子アイドルだと思いこんでいる人も結構いますよね」
 
それボクです!と恵真は思った。
 
「でも実は本当に女の子なのでは?という噂もありますけどね」
「裸にしてみないと分からないかもね」
「水着写真を見る限りは女の子にしか見えないし」
「あ?写真集買いました?」
「買っちゃった。私が買ってきたら、旦那も買ってきてたんですよ」
「ありがちありがち」
 
へー。水着写真ってどんなのだろう?と恵真はアクアの水着写真というのに興味を持った。
 
 
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