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■春銀(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2020-12-04
 
その日、聖子(西湖F)は英語の授業を受けていた。
 
「日本でも例えば『犬も歩けば棒に当たる』という言葉は出歩いていれば悪いことが起きる場合もある、という解釈と、出歩いていれば良いことも起きる、という解釈がある。英語にもそういう解釈の分かれるイディオムがある」
 
「よく議論されるのが "Silent is Golden" という諺だ。日本語では、『沈黙は金(きん)』と訳されることが多い。黙っているのがいいという意味に解釈される。ところがこの言葉は実は19世紀に生まれた新しい言葉で、本来は"Speech is silver, silent is golden" という諺の後半たけを抜き出したものだ」
 
「言葉の途中だけ取り出すと全く意味が変わる好例として『健全な身体に健全な精神が宿る』というのがある。これは本来は『贅沢な望みを神に祈ってはならない。健全な身体に健全な精神が宿ることだけを神に祈るべきである』というのの一部を取り出したもので、原典の意味としては、むしろ健全な体に健全な精神が宿ることがめったにないということになる」
 
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「まあ元の話の一部だけ取り出すのは、テレビの街角インタビューとかでは常套手段だな」
と先生が言うと、爆笑になる。
 
「それで "Speech is silver, silent is golden" だが、元の諺は直訳すれば『弁論は銀、沈黙は金』ということになる。そしてここで問題になるのが、銀と金の価値観だったりする」
 
「現代では金(きん)の方が高価だ。同じグラム数で金は銀の100倍くらいの値段がする。それで最近はこの言葉は、しゃべるより黙ってろという意味に解釈する人が多い」
 
「ところが古代には金より銀の方が高かった。それは金(きん)という金属は自然界にそのまま自然金の形で産出されることもあるが、自然銀はとてもレアで貴重だった。それで古代には銀の方がレアで高価なものという意識があり、金に銀メッキをした宝飾品なども存在していた」
 
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「へー」
 
という声があがる、
 
ものの価値って、結構相対的だよなという気もする。アクアさんが戦時中とかに生まれていたら、きっと日陰の生き方を強いられていただろう。殺されちゃったかも知れない。性的役割に寛容な時代に生まれたから人気アイドルになった。
 
「だから、実は『弁論は銀・沈黙は金』というのは、弁論の方が価値がある、沈黙していてはいけないというのが元々の意味らしい」
と先生は解説する。
 
「銀はその後、銀を含む鉱石から銀だけを取り出す、水銀を使ったアマルガム法とか、鉛を使った灰吹法といった技術が開発されて大量に調達されるようになった。それで銀があふれるようになって銀の価値は大幅に下がった。中世ヨーロッパでは銀のスプーンやフォークは、庶民が普通に使う食器になった」
 
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そんなにありふれていたのかと驚く。
 
「この頃、日本は世界でも有数の銀生産国で、当時日本は世界で産出する銀の3分の1を生産していたという」
 
そんなに!
 
「そしてその日本の銀の大半を産出していたのが島根県の石見(いわみ)銀山こと大森銀山だな」
 

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ここで質問がある。
 
「石見銀山って毒薬の名前なんじゃないんですか?」
 
「時代劇でよく出てくるね。あれは実は同じ石見国でも、一般に石見銀山と呼ばれる大森銀山ではなく、笹ヶ谷鉱山で産出される砒石から生産される砒素化合物(三酸化二砒素 As2 O3)だったりする。大森銀山では砒石は産出しないんだよ。地元の有名スポットの名前を勝手に使った製品だったりする」
 
「なるほどー」
 
「ディズニー本社のあるのと同じ州で生産している冷蔵庫にディズニー冷蔵庫と勝手に名前をつけたようなもので、今の時代なら商標権侵害で訴えられているよ」
 
「ああ」
 

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「そういう訳で、銀が他の混合物から取り出せるようになった後でも、金(きん)は宝飾品にしたり、金貨として使う以外にはあまり使い道が無かった。それに対して銀は、宝飾品や銀貨にも使えるが、それ以外に食器にしたり、鏡にしたり、様々な製品の重要なパーツとして使ったりで、実用的な金属だった。それで、銀というのは“使える”、金(きん)は飾るだけ、という価値観の時代もあった」
 
「へー」
 
「その時代になると、この言葉は。弁論ができる人は使える人、沈黙している人はお飾りにはなるが使えない人という解釈もできたらしい」
 
「なるほどー!」
 
と教室内から一様に感心する声があがる。
 
「どっちみち、沈黙が良いというのは、庶民に意見を言わせたくない政治家の都合なんじゃないかね」
 
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「解釈が分かれる例としてもうひとつ有名なのが "Rolling Stones Gathes No Moss" という諺だ。日本語訳としては『転がる石は苔(こけ)が生えぬ』などと言われるが、この言葉は元々イギリスでは、コロコロと職業を変える人は何も技術を身につけられない、という意味だった。ところが、同じ言葉がアメリカでは、色々と環境を変えていく人は苔が付かずに新鮮なままでいられる、という良い意味に解釈されている。仕事は一生続けるものだという保守的な考え方のあるイギリスと、転職すればするほど多くの経験をすることができると考えるアメリカとの国民性が出ているんだろうね」
 
「ちなみにこの諺がロックバンドのローリングストーンズの語源だね」
と先生は言ったが、生徒の反応が悪い。
 
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聖子は、この教室の中にローリングストーンズを知っている人が少ないんじゃないかなぁと思ったが、先生の話したことは実はありがちな間違いだということを知っていた。この件はつい先日、上島先生から聞いたばかりだった。それで聖子は手を挙げた。
 
「どうした?天月」
「それわりとよくある誤解なんですけど、そうではないんです」
「そうだっけ?」
 
「もうひとつよくある誤解が、ロックンロール(Rock'n' Roll) のロック(Rock) を Rock(岩) より小さな Stone(石) にして、stone roll から Rolling Stone となったというものですが、それも違うんですよ」
 
「あ、その説は聞いたことある」
 
「実は "Rolling Stones gathers no moss" という諺をヒントにMuddy Watersという人が "Rollin' Stone" という曲をヒットさせて、その曲をブライアン・ジョーンズがバンドの名前を決める時に使ったんです」
 
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「そうだったのか!」
 
「電話でバンド名を尋ねられた時、名前を決めていなかったことに気付いて、ふと見回したら、 "Rollin' Stone" のレコードが落ちていて、『あ、これでもいいや』と思って、それを記者さんに伝えたらしいです」
 
「ああ、よくある話だ」
 
「曲名からバンド名が出来たのでは、ハウンドドッグとかEvery Little Thingとかもありますね」
 
「うんうん。ありがち。レディガガもクイーンのレイディオ・ガガ(Radio Gaga)からだし」
 
「以上、実は先日、上島雷太先生から聞いた受け売りでした」
 
教室内がドッと沸く。
 
「あの人の情報なら間違い無いだろうな!」
と先生も言った。
 
うんうん。これが雨宮先生だと間違いが多いよな、と聖子も思った。
 
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千里は織姫・牽牛が竣工した8月25日の夜は、和実の家に泊めてもらったのだが、ゆっくりと寝て、午前中、和実の娘たちの面倒を見てあげていたら、青葉から連絡があった。それで軽ワゴン車の出現場所が分かったら教えて欲しいと言われたので、地図をメールしてもらい「あ、ここだ」と思った場所にマークして、ちょうど日暮れくらいにそのポイントに行けるよう「18:30に氷見ICを出て」と書いて送り返した。また、本当に事故にならないようにするため、“おとり”のフェラーリの助手席に乗る、青葉の友人・吉田邦生に、重要な助言をした。
 
千里は26日の午後、浦和に帰還した。
 
翌日8月27日は西湖が1ヶ月間居候していたアクアのマンションから、新しくできた橘ハイツのオーナーズルームに移動したので、この20日まで千葉の川島家に置いていた黄銅鏡(緩菜の依代)をアクアのマンションに持参し、そちらに置いて欲しいと頼んだ。アクアはそれを快諾してくれたが、これが数ヶ月後にアクアを大いに助けることになるとは、千里は思いもよらなかった。
 
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8月29日には青葉の親友・明日香が経堂のアパート(1月まで桃香と千里が住んでいた所)から、橘ハイツの6階に移動した。これで橘ハイツの6階の2つの戸は、東側の241号に明日香が住み、西側の243号に西湖たちが住むことになった。
 
明日香が退出して空き家になった経堂のアパートから千里は青銅鏡(京平の依代)を持ち出し、千葉の季里子の家を訪ねて、桃香と季里子にこの鏡をこちらに置いてもらえないかと依頼した。桃香も季里子も快諾してくれたので、これで京平と緩菜の依代の当面の置き場所が定まった。
 

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恵馬(恵真)がスカートを穿いて自室で勉強していたら、トントンとノックがあり、「入るよー」と言って、母が入ってきた。不意打ちだったので「きゃっ」と声を挙げて、スカートの裙を足の間にはさみ、一見ズボンを穿いているように見える(かもしれない)格好をする。
 
でも無駄な抵抗である。
 
「その服で居間にも降りてくればいいのに」
と母は言ったが
「これあげるね」
と言って、恵真の前に薬(?)の瓶を2つ置いた。
 
「これ、その気になったら飲むといいよ」
「何これ?」
「こちらは卵胞ホルモン、エストロゲン。こちらは黄体ホルモン、プロゲステロン」
「女性ホルモン?」
「そうそう。卵胞ホルモンは女性らしい身体を作る。黄体ホルモンは、卵胞ホルモンが効いている前提でバストを発達させる」
 
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「へー」
 
「その代わりこういうお薬を飲んでいれば男性としては不能になる。おちんちんは立たなくなるし、睾丸は精子や男性ホルモンを生産しないようになる」
 
「・・・・」
 
「そして飲み始めた以上、後戻りはできない。飲むのをやめても男性能力は回復しない」
 
「うーん・・・」
 
「だから飲み始めた以上は一生飲み続ける必要がある。でも女らしい身体になれる。飲むかどうかは自分で決めなさい」
 
「うん。考えてみる」
と恵真は答えた。
 

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ところで青葉が開発を進める?(既に主体は若葉と千里に移っている気もする)火牛スポーツセンター(正式名エグゼルシス・デ・ファイユ津幡−この名称を使う人は青葉以外には存在しない!)であるが。
 
ここには元々黄色い彼岸花(鍾馗水仙)が自生していた。また青葉たちが同時期に関わったX町の集会所には白い彼岸花(白曼珠沙華)が生えていた。青葉たちは、火牛スポーツセンターに生えていた黄色い彼岸花を工事の邪魔にならないようプランターに移し替えた。またX町の集会所にある白い彼岸花も少し分けてもらってプランターに植えてこちらに持って来た。更に別の所からふつうの赤い彼岸花も少し分けてもらいこちらに持って来た。それで今年の秋には赤白黄色の3色の彼岸花が並んで咲くのが見られることを期待していたのだが、ここでその話を聞いたテレビ局のスタッフの1人が
 
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「うちの近くに青い彼岸花がありますよ」
と言った。
 
「本当にあるんですか?」
「それ『鬼滅の刃』の中の話じゃなくて?」
 
というので昨年撮ったという写真を見せてもらう。
 
「彼岸花とは少し形が違う気がする」
「でも少し似てるよ。近隣種かもね」
 
その花はムラサキキツネノカミソリ(紫狐の剃刀)という花で、青というよりは青紫の、ユリとか水仙にも似た花である。
 
「もしたくさんあるなら少し分けてもらえないでしょうかね?」
「たくさんあるからいいと思うよ」
 
それでそこに行って、土地の持ち主さんと話してみたら、そこの土地はマンションを建てる予定で近い内に全部掘り返してしまうということだったので、全部もらうことにした。それで植木屋さんを連れていき、全部プランターに移植させてもらった。これがちょうど今年の6月、梅雨の時期であった。
 
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これも火牛スポーツセンターに持って来たので、今年の9月頃には4色の彼岸花が並んで咲いてくれる見込みとなった(黄色・赤・青がメインになる予定で、白は少数)。
 

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