広告:めしべのない花―中国初の性転換者-莎莎の物語-林祁
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■春銀(25)

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(C)Eriko Kawaguchi 2020-12-13
 
恵真たちが四谷に着いたのはもう23時だが、事務所のドアをノックすると、50代くらいの男性事務員さん?が笑顔で中に入れてくれた。
 
「あ、ヒロミンだ。久しぶりー」
と男性が言っている。
「お久しぶり、ナイトちゃん」
 
母はこの人も知ってる?ひょっとして母って芸能界にコネがあったりして?
 
応接室に通される。母がナイトと呼んだ男性がコーヒー(恵真だけ紅茶)とケーキを持って来てくれて、そのまま椅子に座る。それで恵真はこの人が社長さんだったんだ!と認識した。
 
「済みません。社長さんにお茶とか入れてもらって」
「いやいや、この業界、社長というのはつまり雑用係なんですよ」
と白河社長は言っている。
 
「それでこの子なんだけど、お宅で世話してくれない?」
とAさんが言うと
 
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「いいよー。こういう可愛い子は大歓迎」
などと即答である。やはりタレントなんて容姿で採否が決まるのかなあ、などと考える。
 
Aさんがパソコン内の写真を見せると
「可愛いね!」
と声を挙げる。さっき母が見ている時に自分も一緒に見たが、とっても可愛く撮れている。
 
「これは売れると思うよ」
と白河社長は言っている。
 
「この写真集については印税契約で」
「OKOK。5%ずつ(写真家とモデルが各々5%ずつもらう)でいい?」
「それでいいですよー」
 
Aさんは一般的な契約書に、高校在学中は学業優先という条項を入れたことを説明した。
 
「うん。問題無い。だいたい高校生の間はそれでいいと思う」
 
「そういえばこの契約書には恋愛禁止条項が無いのね」
と母が言う。
 
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「コスモス君が§§ミュージックで恋愛禁止条項を廃止したから、うちもそれに倣うことにした」
「そうだったんですか!」
 
「鈴木さんはぶつぶつ言ってたけどね」
「ああ、あそこは困るでしょうね」
 
「ただ文面には入れてないけど、交際を始める場合はできるだけ事前、急な場合は交際開始後すみやかに事務所にも話して欲しいし、結婚する場合は最低半年前にこちらに伝えて欲しい。また妊娠が分かった場合もすぐ伝えてほしい。いづれも仕事の調整があるから」
 
妊娠?ボク妊娠するのかなぁ。
 
「それはいいよね?」
と母が恵真に確認するので
 
「はい、その場合は必ず事務所にも伝えます」
と恵真も言った。
 

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ここでAさんは言った。
 
「ただこの子、ひとつだけ問題があるんですけどね」
「何?国籍とかは気にしないよ」
「国籍は日本・・・だっけ?」
「日本です」
「処女じゃないとか?」
「処女くらいはどちらでもいいんだけど、現時点ではまだ女ではないんだよ」
「女ではないって、まだ男性未体験ということ?」
「じゃなくて、この子、今の時点ではまだ男の子なんだよ」
 
白河社長は一瞬驚いたようだった。しかしすぐ言った。
 
「そのくらいは些細なことだから問題無い」
「問題無いんんですか?」
と思わず恵真が訊いた。
 
「だってどうせアイドルなんてバーチャルな存在なんだよ。だったら本人の実際の性別がどっちかいうことは関係無い。女の子を演じていれば女の子アイドルなんだよ」
 
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へー。確かにアイドルってヴァーチャルな存在かも、と恵真も思った。
 
「まあ性転換手術したいというなら止めない」
「性転換手術する?今から飛び込んでも即手術してくれる病院知ってるけど。そしたら明日起きた時にはもう女の子だよ」
とAさんは言っている。
 
今夜??
 
「済みません。いきなり今夜性転換手術って心の準備が」
と恵真は言った。
 
「まあ今高校1年なら高校卒業する頃までに女の子になれぱいいんじゃない?」
などと白河社長は言った。
 
やはり性転換手術しないといけないのか。ちんちん無くなるのはいいとしても、痛そうだなあ、と恵真は思った。
 

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「じゃ契約していい?」
 
「いいでーす」
と全員賛成なので、契約することになる。
 
2通の契約書を作成した。
 
1通は芸能活動全般に関わるもので、これにより恵真は♪♪ハウスの専属ということになり、♪♪ハウスを通して活動するということになる。ギャラは新人で一般的な固定給方式ではなく、比率配分方式として、比率は当面3:7である(♪♪ハウスの標準契約。実績次第では応相談)。地方から出てきた新人さんとかは最低限の生活費を確保するため固定給方式にするのだが、恵真の場合は生活費を心配する必要が無いので、最初から配分方式にしようということで、恵真の母、Aさん、白河社長の意見が一致した。比率は4:6にできないかとAさんは言ったが「だったら3月までに2000万円売れたら、、そう改訂する」と白河社長は“口頭で”約束した。
 
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2000万円?そんなに売れるもんなの??そんなに売る人って芸能界でも一握りなのでは?と恵真は思った。
 
もう1通は今回の写真集出版に関わるもので、仮名Aさんが著作権者および発行者となり、♪♪ハウスの関連会社である♪♪メディアが出版して、出荷額の5%を恵真、5%を(撮影者・制作者である)仮名Aさんが受けとるというものである。
 
これに白河社長は“白河夜船”と署名した。しかしAさんは“仮名A”と署名した!それを見て母は“仮名H”と署名する。それで恵真も“羽鳥セシル”と署名した!!
 
(誰1人として戸籍名を書いていない!)
 
「モーリーもヒロミンも仮名(かめい)なのか」
「お互いに契約の意思を持って署名したのだから、契約書は有効なはず」
「まあ契約は書面より意志が重要だからね。ではこれで契約成立ということでエア握手」
と白河社長が言い、4人でエア握手した。
 
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なおCDを出す場合はあらためてレコード会社と一緒に三者契約をすることにした。レコード会社としては、アクア、ラピスラズリ、ステラジオなどが在籍するTKRを考えているということであった。
 

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四谷の事務所を出たのはもう深夜1時である。
 
「私が運転するからヒロミンもセシルも寝てなさいよ」
とAさんが言うので、そうさせてもらうことにする。
 
その時母が言った。
「この子、2学期が始まったら、女子制服で通学させようと思っているんてすけどね」
 
「ああ、それがいいんじゃない?男の服は全部捨てちゃえばいいよ」
 
もう捨てられました!
 
「ああ、それがいいかもね」
などと母は言っているが。
 
「学校から何か言われないかと少し心配して」
「大丈夫だと思うけどねー。何なら病院に行って、確かに女の子だという診断書を書いてもらえば?」
「そんなの書いてもらえる?」
「この子を診断すれば、精神的には女の子だという診断書もらえると思うよ」
 
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「ああ、精神的には女の子だよね。じゃ一度病院に連れて行くかなあ」
「私、そういう病院のコネ多いよ」
「多いだろうね!」
「何なら私が連れて行こうか」
「それでもいいかな」
 
「学校はいつから始まるの?」
「来週の月曜日」
「だったら、今週中に連れていくべきかな」
「あ、そうか」
 
「でもお母ちゃん、今週は忙しいと言ってなかった?」
「それはそうなんだけど、娘のためには無理言っても休むよ」
 
やはりボクは娘なのね。
 
「私も今週は忙しいけど、私の信頼できる友人に頼んで同伴してもらおうか?その子も性転換してるんだよ」
 
「当事者なら、安心かもね!」
 
「だったら明日“仮名M”って子を行かせるから」
「分かった。仮名Mさんね」
 
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それで明日にも恵真は仮名Aさんのお友達の仮名Mさんと一緒に病院に行くことになったのである。しかし母といい、みんな仮名(かめい)ばかりだ!
 
その夜、恵真たちは夜中3時頃に自宅に辿り着いたが、車内ではほとんど寝ていた。
 

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翌8月20日(木)朝、母は
「本当に私付いて行かなくていい?」
と心配していたが
「大丈夫だと思うよ」
と恵真は明るく答えた。
 
7時頃、
「おはようございます。仮名Mと申しますが」
と言って女性が訪問してくる。
 
「きゃー!仮名Mさんってあなただったんですか?」
飛早子が喜んでエア握手してもらっている。
 
「有名な人?」
と恵真が訊く。
 
「実名は出さない方がいいですよね?」
と飛早子が確認する。
 
「うん。私は“仮名M”」
と女性は言った。
 
母も「あなたなら安心だ」と言っている。それで恵真は母の出勤より早く、その女性と一緒に家を出た。
 

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路地(実は隣家の敷地内)を通り、道路に出ると、通りに格好良いスポーツカーが駐まっている。ライオンが立ち上がっているようなデザインのエンブレムが付いている。
 
恵真は車のこととかさっぱり分からないのでメーカーも車種もよく分からないが、このロゴは外車かな〜?と思った。一応、国産車同様の右ハンドル車だったので、恵真は左側のドアを開け「失礼しまーす」と言って助手席に乗り込んだ。
 
2ドアだし車長が短いので、てっきり2シート車かなと思ったら後部座席も付いていた。助手席ドアを倒して後部座席に乗り込むタイプなのかな?。
 
恵真がシートベルトをしたのを確認して、仮名Mさんは車を発進させた。
 
「何か性別検査を受けさせてと聞いたから、スポーツする子かなと思ったけど、君は違うみたい。スポーツ女子で優秀な子はしばしば性別を疑われて性別検査を受けさせられるんだけどね」
と言われる。
 
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「私、男の子なんですー。でもこうやって女の子の格好をして、写真とか撮られて写真集を出すとかいうことになって。学校にも女子制服で通ったらと言われて」
 
「ああ、君の写真集なら売れるよ。可愛いもん」
 
「でも学校で何か言われた時のために、検査を受けて、精神的には女の子であるという診断書をもらえないかという話で」
 
「ああ、そういうことか。分かった。じゃその旨、私がお医者さんにも話しておくね」
「ありがとうございます!」
「でも君、本当に全然男の子には見えないね。声も女の子っぽいし」
「そうですか?でもあまり女の子っぽい高い声が出ないから、結構低い音域で話しているんですが」
 
「そう言われたらそうかも知れないけど、このくらいの声の高さの女の子はわりといるよ。でも話し方が女の子っぽいから、君と話していて男だと思う人っていないと思うなあ」
 
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「そうですか」
「ただ、訓練すればもっと高い領域の声も出るようになると思うよ」
「それで仮名Aさんに指導してもらって、女の子の声が出るように練習しているんです。今、歌だけなら女の子の音域で1オクターブ程度出るようになってきた所て」
 
「へー。何か歌ってみてよ」
と言われたので恵真はAさんと練習していた『荒野の果てに(Gloria)』を歌ってみせた。この曲は大半の音がドレミファソラの6音でできているが、1音だけ、Glo---- ----- ----- -ria という所の ria だけ、下のソを使っている。恵真は大半をAさんと一緒に開発した“女の子の声”で歌い、下のソは、実声ではあるものの、できるだけ低い倍音かあまり混じらないように注意して声を出した。
 
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「君、歌うまいじゃん。肺活量あるし。だったら女の子歌手としてデビューするの?」
 
「女の子歌手かどうかは分かりませんけど、1年以内に歌手としてデビューさせてあげると言われました」
 
「君を男の子歌手で売り出すわけがない。女の子歌手でしょ」
「やはりそうですかねー」
 

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そんなことを言っている間に、恵真はうっかりアクビが出てしまった。
 
「済みません」
と謝る。
 
「寝不足?」
「昨夜、契約のことで深夜まで♪♪ハウスさんにお邪魔していて。帰宅したのが3時になったもので」
 
「その状態ではきちんと診察できないよ。途中公園で駐めるから、1時間くらい後部座席で仮眠しなよ」
 
「そうですかね」
 
それで仮名Mさんが通りがかりの公園に駐めてくれたので、恵真は失礼して後部座席に横になる。
 
しかし狭い!
 
そしてまぶしい!!
 
この車は後部座席の上までリアガラスが来ているので、上は青空である。
 
「後にタオルケットがあるから、良かったら使って」
「ありがとうございます」
と言って恵真はタオルケット(洗濯されているようで軽い洗剤の香りもした)を借りて身体に掛けて、目を瞑った。
 
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そして本当にすぐ眠ってしまった。
 

目が覚めてスマホを見たらもう9時過ぎである。
 
「きゃー、こんなに寝ちゃった」
「大丈夫、大丈夫。私は作曲の作業してたから」
「作曲家さんなんですか!」
「まあ月に5-6曲くらい書いているかなあ」
「それかなりお忙しいのでは」
「こういう細切れ時間にわりとアイデアが思い浮かぶんだよ」
「へー」
 
「じゃ病院に行くね」
「はい」
 

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