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■春銀(21)

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(C)Eriko Kawaguchi 2020-12-12
 
ルキアは表彰式の時、テレビカメラがいることに気付いた。
 
「あれ?テレビカメラがいる」
とルキアが今気付いたように言うと
 
「この大会の様子はケーブルテレビで放送されるらしいよ」
と美琴が言う。
 
「へー。私たち映るかなぁ」
とモナは言っているが
 
「まさかボク映ってたらどうしよう?」
などとルキアは不安そうに言っている。
 
「決勝まで行ったし、わりと映ると思うよ」
 
「女子制服着てるのが映っちゃう〜」
「ケーブルテレビくらい平気では」
「いやきっとyoutubeとかに無断転載される」
 
「みっちゃんも、そろそろボク女の子になっちゃったんですとカムアウトして堂々と女の子の格好でテレビに映るといいと思うな。みっちゃんが女の子になっても、私結婚してあげるよ」
などとモナは言った。
 
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ルキアはそんなカムアウトしなくても頻繁に女の子の格好をさせられている気がした。それより、女子として出場したことがバレたらただでは済まないよーという気持ちが先行してモナが重大な“愛の告白”をしたことには気付かなかった。
 
もっとも実際はルキアは三将戦でしかも決勝では1分で投了したし、表彰式でも美琴とモナだけが映ったので、ルキアが映ったのは2-3秒にすぎない。更にマスクで半分顔が隠れていたおかげで、それがルキアであることに気付いた視聴者はいなかったようであった。準優勝の記念品を受けとったモナには気付いた視聴者もあり、後でバラエティ番組でネタにされていた。でもルキアも出場していたことは言わず(言うと違反になるからヤバい)、囲碁サークルで出たんですとだけ話した。
 
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さて、恵真であるが、水着撮影をした8月12日の次は本来なら8月15日(土)か16日(日)になる所だが、お盆だし、人も多いしやめておこうということでお休みになった。それで次は8月19日(水)にセッションをすることにした。
 
19日は母は日中仕事がある。それで、母と仮名Aさんの面談は次の22日か23日にしようという話になっていた。
 
19日は制服のできる日だったので、午前中に取ってこようと思い、朝からイオンに行って、母からもらったお金で支払い、できあがっていた女子制服を受けとった。
 
代金は、冬服のブレザー・ベスト・カーディガン・スカート・リボンで5万円、夏服のオーバーブラウス(洗い替えを兼ねて色違いで2着)と夏用スカートで2万円、合計7万円である。お母さんから渡された“政府からの給付金”10万円から払ったが、うちそんなに経済的にゆとりがある訳でも無いのに悪いなあと思った。残りの3万円は家計で使ってとお母さんに言おうと恵真は思った。
 
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「念のため試着してみられます?」
「あ、はい」
 
それでフィッティングルームで、ここまで着てきた膝丈スカートを脱いで、ブラウスの上に制服のオーバーブラウス(これは真夏には下着の上に直接着てもよい)を着て、夏服の裏地が無いスカートを穿いた。姿見の中には可愛い女子高生がいる。先日もL高校の女子制服を身につけて市役所に行ったが、他校の制服なのでコスプレでもしている気分だった。でもこれは自分の学校の制服である。ボク24日から、この制服を着て登校することになるのかなあ、と恵真は不安に思った。
 
恵真は(荷物を持ち)その制服のままフィッティングルームの外に出ると、
 
「問題無い感じです」
と店のお姉さんに言った。店のお姉さんも恵真の身体のあちこち触ってサイズを再確認している。
 
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「大丈夫みたいですね。ウェストはこのアジャスタターである程度調整できますから。夏服で大丈夫だから、冬服までは確認しなくてもいいかな」
 
「いいと思いますよ」
 
「じゃもし合わなかったら持って来て下さいね。多少は補正が利きますから」
「分かりました。ありがとうございます」
 
それで恵真がフィッティングルームに行き、元着てきた服に着替えようと思った時のことだった。
 

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通りがかりの女子高生と目が合ってしまう。
 
「えまちゃん?」
「かずきちゃん?恥ずかしい」
と言って恵真は真っ赤になってしまった。クラスメイトの一希(かずき)である。彼女も制服を着ている。つまり今恵真が着ているのと同じ制服である。
 
恵真の高校の女子夏服オーバーブラウスはピンクとサックスの2種類があるが、偶然にも恵真・一希ともにピンクの方を着ている。
 
「恥ずかしがることないのに。似合ってるよ」
「そうかな?」
「24日からはそれで出てくるの?」
「悩んでる」
「恥ずかしがらなくてもいいよ。みんな歓迎してくれるよ」
「そう?」
 
その時、一希は突然何か思いついたようである。
 
「ちょっと待って」
と言って、どこかに電話している。どうも電話の相手は、やはりクラスメイトの汐里(しおり)のようである。
 
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「そういう訳で3人目を確保したのよ」
 
その“確保した”って、まさかボクのこと?
 
それで一希は汐里との電話を終える。
 
「えまちゃん、今日は何か用事ある?」
とは訊いてくるが、何か少々の用事があっても強引に連れていきそうな雰囲気である。
 
「午後から用事があるんだけど」
「それまでには終わると思う。取り敢えず一緒に来て。話は途中で説明するから」
 
「あ、うん」
 

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それで恵真は強引に一希に連れられて、彼女のお母さんと合流し、駐車場に駐められていたレガシィに乗ることになる。
 
お母さんとは面識は無かったのだが、一希が
「うちのクラスメイトのえまちゃん」
と紹介すると
「あら、一希がお世話になってます。よろしくね」
と挨拶されたので、恵真も
「浜梨恵真(はまり・えま)です、よろしくお願いします」
と挨拶した。
 
「それでさ、囲碁の大会に出てくれない?」
と一希は言った。
 
「いいけど、囲碁部なら、汐里ちゃんと・・・美凉ちゃんとかで出るのでは?」
「それが美凉ちゃんが今日はピアノの試験と重なっちゃってさあ」
「平日に試験があるんだ!?」
「夏休みだから設定したみたい。あの子直前まで忘れていたらしくてさ」
「ああ」
「弓恵ちゃんも穂香ちゃんも捉まらなくて。だから、代わりに出てくれない?」
「そんな当日出場者の差し替えとか利くの?」
「大丈夫だと思うよ。こちらは広中汐里ほか3名で登録してるから」
「なるほどー」
 
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一希は恵真が女子制服を着ていることについては何も言わなかった。お母さんがいる場では、実際何も言えなかったろう。
 

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品川のアクエリアスプラザ前で降りる。玄関前で降ろしてもらい、お母さんは車を駐車場に入れに行った。汐里はもう来ていた。
 
「誰かお友達?」
と彼女は訊く。恵真に気付いていないようである。
 
「そうなのよ。小学校の時、囲碁部に居たのよ」
「へー。何級くらい?」
「当時1級だったね」
「それは凄い」
「しばらくやってないから腕は落ちてると思う」
「問題無いよ。参加できない所だったし」
 
それで既に「主将・広中汐里、副将・桜井一希」と書かれている登録用紙に、一希が「三将・浜梨恵馬」と記入した。
 
「なんか見たことあるような名前だけど」
「だから、えまちゃんだよ」
「え〜〜〜!?そういえば確かにえまちゃんだ!」
と汐里は驚いている。
 
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「取り敢えず出してくる」
と言って汐里はその登録用紙を本部に出してきた。
 

戻って来てから尋ねる。
 
「でもなんで、えまちゃんが女子制服着てるの?」
「何から説明したらいいのやら」
と恵真も説明の順序が分からない。それで悩んでいたら
 
「えまちゃんは女の子になったんだよ」
と一希が言う。
「とうとう性転換したんだ!」
 
「さっき車の中で胸に触ったみたらちゃんとおっぱいあるし」
 
うん。さっき何かいやにベタベタして触られた。
 
「ちんちんも無いみたいだし」
 
うん。そこにも触られてギクッとした。
 
「ちょっと触らせて」
と言って汐里も恵真の服の上から、胸とお股に触る。
 
「確かに女の子だ」
「でしょ?女の子なら参加資格あるよね?」
「ある」
「それに囲碁も強いし」
「それは歓迎」
 
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しかし恵真は困惑する。
「ちょっと待って。これもしかして女子の大会?」
「そうだよ。男女混合の大会なら、私たちとても選手にしてもらえないし」
「それはそうかも知れないけど、ボクが出てもいいの?」
 
「女の子になったんでしょ?」
「うーん。やはり女の子になったのかなあ」
「ああ、もしかしてまだヴァギナは作ってないとか?」
「性転換手術って、最初ちんちんとたまたまを切って、後からヴァギナと子宮を作るらしいね」
 
え?そうなの??
 
「でもちんちん無ければもう女の子ということでいいよね」
「うん、それで問題無いよ。何か言われたら裸になって見せればいいし」
などと一希と汐里は言っている。
 
でも自分も囲碁部やめてから3年以上経ってるし、大会なら強い人ばかり出てきているだろうから、あまり問題無いかなと思い、恵真はこの大会に出ることにした。
 
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参加しているのは全部で16校という話であった。元々は男子の大会・女子の大会を同時開催する予定だったが、三密を避けるために分離開催になったらしく、男子の大会(女子でも女子の大会と両方でなければ参加してよい)は16日にあったということだった。それで女子の大会は平日になってしまったらしい。
 
恵真は負ける気満々で臨んだのだが、1回戦の相手は、囲碁を始めてまだ1〜2ヶ月という感じの子だった。恵真は簡単に勝ってしまう。そしてこの子との対戦を通して恵真は小学生の頃に囲碁をしていた頃のことを少し思い出した。
 
1回戦は一希も汐里も勝って、BEST8進出。次はもう準々決勝である。
 
準々決勝は、勝ちあがってきただけあって、恵真の相手は初心者ではないものの、まだ10級くらいという感じだった。いくらブランクがあっても、このくらいの相手に負けることはない。楽勝である。一希と汐里も勝ち、準決勝に進出する。
 
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そして次は準決勝と思っていた時のことだった。
 

「君、君は本当に女子だっけ?」
 
という声が近くでして、恵真はギクッとしたが、別の学校の生徒である。見た感じ、背が高くて、髪も短い。筋肉質っぽい体型である。
 
「はい、そうですけど」
と答える声は女の子の声である。
 
「証明するもの持ってる?」
「生徒手帳でいいですか?」
「うん」
 
それでその生徒はバッグから生徒手帳を提示した。
「ちゃんと女と書いてありますね。ごめんなさいね。疑ったりして」
 

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しかし恵真は思った。万一自分が疑われた場合、自分の生徒手帳には男子制服を着た写真が貼り付けてあって、性別も男と書かれているぞ。やばいんじゃない?
 
などと思ってそちらを見ていたら、大会スタッフさんと目が合ってしまった。慌てて視線をそらすが、これがかえって変に思われたのかも知れない。
 
「君は・・・女子生徒だよね?」
と恵真を見て言う。
 
「はい、そうですが」
と恵真はもう開き直って答えた。
 
「いや、念のためと思って。生徒手帳か何か、性別を確認できるもの持ってる?」
 
それを見せたら、男と確認されてしまう!それで言った。
 
「済みません。私、補欠で急に呼び出されたもので。何も持ってきてなくて」
 
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すると一希が言う。
 
「間違い無くこの子は女の子ですよ。一緒にお風呂入ったこともあるし。こんな男子がいたら大変ですよ」
 
「いや、チームメイトの証言では・・・」
と大会スタッフさんは困っている。そこで恵真は思いきって言った。
 
「何でしたら裸になってみましょうか?」
 
すると一希が少し不安そうな表情をしているので
 
「女であることを確認してもらうだけだよ」
と恵真は彼女に言う。
 
スタッフさんが、
 
「じゃちょっと別室で」
と言うので、一緒に大会会場を出る。それで一緒にそのフロアの多目的トイレに入った。
 
「じゃ脱ぎますね」
と言って、恵真はまずスカートを脱ぎ、ついでリボンを外してから夏服の上とブラウスも脱いだ。これでブラジャーとパンティだけになる。大きな胸がブラジャーに収まっている。パンティには変な物がその下にあるような突起は無い。すっきりしたフォルムである。
 
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「全裸になった方がいいですか?」
「いえ、そこまでで充分です。疑ってごめんなさいね。ちょっと視線が合ったものだから」
「済みません。私も視線が合っちゃったと思って外しました」
 
それで(少し暑いなと思っていたので)ブラウスは着ずに下着の上に直接夏制服を着てリボンを結び(L高校の女子制服を使って姉にだいぶ練習させられていたのが役に立った)、スカートを穿いた。
 
スタッフさんと一緒に大会会場に戻る。
 
「確かに女性であることを確認しました」
とスタッフさんが言う。
 
「疑ってごめんね」
「いえ。ちゃんと生徒手帳持って来てなかったのが悪いんです」
 
しかし一希と汐里がホッとしていた。
 

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