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■春銀(19)

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「アクアに睾丸が無いことは既に日本中の常識となっている訳だが」
と雨宮先生が言うと
 
「僕、睾丸あります」
とアクアは抗議する。
 
「まあそういう建前ではあっても、みんな実際には睾丸が無いことを知っている」
と雨宮先生。
 
「ただここで重要なことは、アクアは小さい頃の病気治療のために睾丸を取ったのだとみんな思っているということだな。これが女の子になりたいとかで睾丸を取ったというのであれば人気は急落する。キャロル前田がその好例。ところが、アクアの場合は病気治療のために仕方なく取ったのだということになっていて、睾丸を取った大義名分がある。だから、睾丸は無くても人気には傷つかない。それどころか、睾丸くらいなくてもアクアと結婚したいという女の子は大量にいる」
 
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「睾丸あるのに」
というアクアの発言は無視される。
 
「じゃこのまま行けばいいですね」
 
「そうそう。アクアは睾丸が無いから声変わりもしないので、ずっとボーイソプラノで歌っていればいい」
 
「万一まだアクアに睾丸があった場合は?」
とコスモスが訊くと
 
「万一そのようなことがあるなら、即刻病院に連行して、有無を言わせず手術して取ってしまうに限るね」
と雨宮先生が言う。
 
「賛成!」
と川崎ゆりこが言った。
 
「だってアクアに声変わりでも起きたら、うちの会社もあけぼのテレビもTKRも倒産して、たくさんの人が路頭に迷いますよ。日本経済にとってもオリンピックが中止になるレベルの大損失ですよ」
とゆりこは言っている。
 
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「全く全く。日本の経済のためにも、アクアの睾丸なんてものが存在するなら即刻抹消すべきだね」
と雨宮先生は言い、アクアは不快そうな顔をしていた。葉月の方は、ボクはどうしよう?みたいな顔をしていた。
 

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恵真の母の会社は8月12-14日が臨時休業で、結果的に12日(水)から16日(日)までが5連休になったものの、会社からは「休みにはするけど三密になる所には行かないように」という指示があったらしい。
 
8月13日(木).
 
母は恵真に
「市役所に行こう」
と言い、
 
「お姉ちゃんから制服もらったんなら、それを着なよ」
と言った。
 
それで恵真はブラジャー・ショーツの上に、昨夜姉からもらったL高校の夏服上下を着た。リボンは自分では結べなかったが母が可愛く結んでくれた。
 
母のキューブに乗って市役所まで行く。そして住民課の窓口で
「この子の名前の読みを変更したいんですけど」
と言った。
 
窓口の人は本人を見て
「ああ。“けいま”では男の子と誤認されますよね」
などと言って用紙を出してくれたので、そこに
 
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(旧読み)けいま
(新読み)えま
 
と記入し、印鑑を押し、母の運転免許証と一緒に提出した。マイナンバーの通知票も用意していたのだが「通知票はもう無効になりました」と言われた。
 
しかしこれで恵真は法的には「恵馬(えま)」ということになった。
 
窓口の人は
「戸籍上の性別は男になっているようですが」
と母に言ったが、母は
「この子、半陰陽だったんですよ」
と言った。
 
「ああ。それで学校には女子として通学しておられるんですね」
と窓口の人は恵真の制服姿を見て言う。
 
「でしたら、家庭裁判所に申告して性別も変更してもらえばいいですよ」
と窓口の人は言っていた。
 
裁判所に申告して性別変更?そんなことができるのか。
 
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でももしボク、法的にも女ということになったら、お嫁さんに行くことになるのかなあ、などと考える。恵真は自分のウェディングドレス姿を想像(妄想)して、ドキドキした。
 
(実は結婚ってどういうことをするのか、よく分かっていない。恵真の性知識は、かなり怪しい)
 

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窓口の人は確認した。
 
「それではお子さんの名前は、長男さんが“かくぎょう”(覚行)、長女さんが“ひさこ”(飛早子)、次男になってますが本当は次女さんが“えま”(恵馬)、三男さんが“きょうしゃ”(香沙)でよろしいですね?」
 
「ちょっと待って下さい」
「何か違ってますか?」
「一番下は“かずな”なんですが」
「こちらには“きょうしゃ”と登録されています」
「確かに当初“きょうしゃ”と名付けようと、父親が言ったのですが、みんな反対して“かずな”になったはずなんですが」
「たぶん“きょうしゃ”で出生届けが出されたんでしょうね」
「お父ちゃんが勝手にそう出したのかもね」」
「訂正できます?本人も周囲も“かずな”としか呼んでないので」
「ではその方の分も読み方の変更届けを出して下さい」
「分かりました」
 
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それで母は弟の分の読み方変更届けも提出した。
 
「受け付けました。この人も本当は女の子なんですね?」
と窓口の人は言った。恵真も母もギクッとしたものの、いいことにした。
 
確かに“かずな”という名前は音で聞くと女の子の名前にも思える!でもそれで本人ずっと14年間やってきてるし、性別を誤認されたこともないので多分いいのだろう!
 

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その日、千里は《こうちゃん》に連れられて太平洋の小さな国、バリヌル共和国に来ていた。
 
「共和国とは名ばかりで、実際は各々の島の事実上世襲制の村長たちが4年に1度オーストラリアに集まって合議で大統領を互選しているというのが実態なんだよ」
 
「クック諸島なんかと似ているね」
「同じシステムだと思うよ。ちなみにオーストラリアに集まるのは国内でどこかの島に集まると苦情が出るから。首都は大統領を出した島に設定するから4年ごとに首都が移動する。大統領を務めた村長は引退するから連続当選はできない」
 
「面白い」
 
「別に首都とかも名前だけで、各々の経済は島毎に独立してるしね。通貨も無くてオーストラリアドルが公式の通貨ということにはなってるけど、実際は貨幣経済が不要な島も多い。物々交換と助け合い。夫が死んだ妻には近所の人たちが食べ物とかを分けてくれる」
 
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「かえって理想社会だったりして」
「その代わり仕事もせずに遊んでることはできない」
「厳しくもある訳だ」
 
「男の仕事ができるだけの体力が無い男は社会的な女になることを宣言して、女用の仕事に換えてもらうこともできる」
 
「ほうほう」
「その場合は女の服を着て過ごす。男と結婚して妻の務めをする。夜の奉仕もする」
「うーん・・・」
「むろん体力の問題でなく女の子でいたいと思う男も社会的な女を宣言できる。これをマフというんだけどな。ポリネシアでは昔からある制度だよ」
 
そういえばhavai'99の月ちゃんがそんなこと言ってたなと千里は思った。
 
「元々一夫多妻制だから養うことさえできれば、1人か2人男の娘の妻がいてもあまり問題無い。それに虚空の趣味で本当に女になる手術を無料で受けられる治療所を作った」
 
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「ほんとにあの子の趣味だね!」
「他の島からも手術を受けに来ている。バリヌルの国民で16歳以上なら手術代は無料。この国の住民になるなら、女になりたい男の娘はここに移住するといいぞ」
 
「その内世界中から押し寄せて来たりして」
「ありそうで怖い」
 

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ルキアは事務所の社長・松田から言われた。
 
「今後うちの事務所では仙道聡美ちゃんを男の娘タレントとして大々的に売り出していくことにするから」
 
それは仕方ないだろうなとルキアは思った。あの子、可愛いもん。でもいいのかなあ。あの子、お父さんが一度怒鳴り込んできて、絶対女装させませんという約束をしたのでは?
 
「それで君には男の娘はもう卒業してもらうことにしたけど、いい?」
「いいですよ。ボクも高2だし、いつまでも男の娘路線で行くのは無理かもと思ってました」
 
ルキアは先週もバラエティ番組でフライトアテンダントのコスプレをさせられた。月に1度はどこかの局で女装させられている気がする。
 
「良かった、同意してくれて。では今から手術を受けてもらうから」
「手術?男の娘をやめるのに手術が必要なんですか?」
「だから、男の娘を辞めて女になる手術だよ」
 
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え〜〜!?男の娘を辞めるって、男になるんじゃなくて、女になるの〜〜?
 

ルキアは手術台に寝かされ、裸にされた。
 
「では手術を始めます」
と手術着を着て手袋をはめた医師が言った。
 
「最初に女らしいバストを作ります」
と言われ、胸の所に大きな注射器を刺された。
「このくらいでいいという所で『いい』と言ってください」
「分かりました!」
 
それで医師が左胸に何かの液体を注入していく。
 
「今Aカップサイズです」
 
もう少しあってもいいよね。
 
「今Bカップサイズです」
 
うーん。結構大きくなった気がするなあ。
 
「今Cカップサイズです」
「そこでいいです!」
 
それで医師は注射をやめ、今度は右胸に注射器を刺して同じくらいの大きさになるまで液を注入した。
 
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あはは、おっぱいできちゃった。
 
「注入した液体は何ですか?シリコンですか?」
「女性ホルモンですよ。だからあなたの身体を女らしく変えていきます」
 
女らしくなるのはいいとして、それだと次第にバストサイズが小さくなっていかないか?とルキアは疑問を感じた。
 

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「お股が女らしくないのでそちらも手術しますね」
 
やはり手術されるのか。
 
「陰嚢を切開します」
と言ってメスを入れられるが痛くないのは麻酔が掛かっているのだろう。
 
「睾丸を摘出します」
 
取っちゃうの〜〜?まあ、既に機能は停止していた気もするけど。
 
医師は陰嚢の中に指を入れて卵形のものを引き出す。そしてそれについている紐状のものを切断した。
 
あ〜。切られちゃった。
 
医師は再度陰嚢の中に指を入れてもうひとつ卵形のものを引き出す。そしてそれについている紐状のものをあっさり切断した。
 
「これでもう君は男性を廃業したから、身体がごつくなったりすることはないよ。可愛いままだよ」
と医師は言う。
 
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まあいいかな。既に男は廃業していた気もするし。
 

「君はもう男ではなくなったから、男以外には不要なものを切っちゃうね」
 
それってまさか・・・・
 
医師はペニスの根元に大きなハサミを当てると、チョキンと切り落としてしまった。
 
切られちゃった!
 
「じゃ次は女のシンボルを作るね」
と医師は言うと、残っている陰嚢の皮膚を内側に折りたたんで縫合していく。あっという間に女の子のような割れ目ちゃんができてしまった。
 
「女のシンボルの割れ目ちゃんを作ったから、君はもう立派な女だよ」
と医師は言った。
 
ルキアは、突起物が無くなり、代わって縦の亀裂ができている自分のお股に指で触りながら、ひょっとして大変な手術を受けてしまったのではという気持ち、そしてボク、もう女として生きていかないといけないのかなあという不安が入り乱れていた。
 
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「でもこれ大陰唇だよね?小陰唇もできてるのかな?」
などと変なことを考えていた。
 
どこかで誰かが自分のヒット曲『少女の夢』を歌っている気がした。発表した時に、本人が少女になりたい願望では?などと言われた曲だ。
 
でも本当に少女になっちゃったよ、とルキアは思った。
 

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ルキアはこれが夢であることに気付いて枕元で鳴っているスマホの画面をタップし、着うたを止めた。(クラスメイトの)モナからの電話だ。時計を見ると8時半である。「何だろう?こんな朝早くから」などと思うが、世間的にはそんなに早い時刻ではない。
 
「おはよう、モナちゃん」
「おはよう、みっちゃん。今日は仕事の予定は?」
「今日はオフだけど」
 
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