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■春銀(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2020-11-30
 
その日の夕食時、中学生の香沙(かずな)がテレビの上の棚(正確には棚自体にテレビが載っている)の本を取ろうとしたら、棚に飾ってある、小さな船の模型(長さ4cmくらい)が落ちて船のマスト部分が外れた。
 
「あ、また落としちゃった。これマストがすぐ取れちゃうし、もう捨てちゃわない?」
 
「それはお父ちゃんが勤続20年の記念にもらった大事な模型だから粗末にしちゃいけないよ」
と恵馬は注意し、外れたマストを本体の穴に填めた。ここは緩くなっていて、わりと簡単に外れてしまう。
 
「でもこれ割りと重いよね。アルミじゃないみたい。ステンレス?」
「これは純銀製だからね」
 
「銀メッキじゃなくて?」
「中まで銀だよ。銀に銀メッキしたもの・・・だったよね?」
と言って母を見る。
 
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「そうそう。銀の銀メッキ」
「なんで銀に銀メッキするの?無意味な気がする」
と香沙はごくまっとうな疑問を呈する。
 
「銀のフルートなんかも、銀に銀メッキをする。ただ純度が違うんだよ」
と母は説明した。
 
「へー」
 
「純銀で全部作ると、柔らかすぎるんだよね。だからだいたいこういうのはスターリングシルバーと言って92.5%の銀で作る。でもそれだと純銀より丈夫なのはいいけど、今度は錆びが出やすいんだよ。だから表面に純銀でメッキをするんだよ」
 
「へー!!」
と香沙は感心している。
 
「だからこれはスターリングシルバーの純銀メッキ」
と言い、母は大事そうにその船の模型を恵馬の手から取ると、棚の上に戻した。
 
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「まー兄ちゃんが使ってるフルートとかも、銀の銀メッキ?」
と弟は訊く。
 
「あれは洋銀の銀メッキ」
 
「洋銀って銀じゃないの?」
「銀は入ってない。洋銀は、銅とニッケル・亜鉛の合金だよ」
「なぁんだ」
「純銀のフルートなんて高いから、とても買えない」
 
「でもフルート吹くのって、美少女ってイメージがあるよね。まー兄ちゃんがお姉ちゃんだったら、良かったのに」
と香沙が言うと
 
「あ、それ賛成。まーちゃんは女の子になって、白いドレスを着てフルートを吹くといいね」
と姉の飛早子(ひさこ)が言った。
 
それいいなあ、と恵馬も思ってドキドキした。白いドレスを着て、フルートを吹く少女って絵になるよね?
 
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そしてそんなやりとりを母は優しい目で見ていた。
 

青葉は基本的には〒〒テレビでは、早番勤務なので、早朝に出勤してお昼過ぎには上がる。そして午後からは津幡の火牛スポーツセンター(通称)のプライベートプールで、ジャネ・筒石、南野、リルなどと一緒に練習している。K大の希美や夏鈴、またジャネの妹分(娘?)の月見里姉妹が来ることもある。しかし日本代表候補の5人は各々の専用レーンで泳ぎ、他の人はそのレーンを使用しない。プライベートプールならではの贅沢な使い方である。
 
テレビ局の仕事では、青葉はたまに、ツェーゲン金沢(サッカー)、金沢武士団(男子バスケット)、石川ミリオンスターズ(野球)、PFUブルーキャッツ(女子バレー)などの試合や練習風景、また高校生の大会などのレポートに出ていくこともある。そういった場合は勤務時間が変則的になる。
 
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午前中の主な仕事はニュースを読むことだが、その日は事故のニュースを読んだ。
 
「次のニュースです。金沢近郊で車同士の衝突事故があり、2人が軽い怪我をしました。白山市内の国道360号線で、本線を走って来た乗用車と、脇道から飛び出してきた軽ワゴン車が衝突し、乗用車が反対車線道路外にあった樹木に衝突。乗っていた2人が軽い怪我をしました。2人は後続の車に救助され、病院に運ばれましたが軽症とのことです。飛び出してきた軽ワゴン車はそのまま逃走したとのことで、警察ではその軽ワゴン車の行方を追っています」
 
青葉はこの日3件のニュースを読んだのだが、この事故のことが気になった。この記事を書いた記者・箕山さんに尋ねる。
 
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「すみません。これ現場はどの付近ですか?」
「えっとね」
と言って、記者さんはパソコン上の地図で場所を示してくれた。
 
「もしかしてここは・・・」
「何か気になる?」
「こないだ、うちの“霊界探訪”のクルーが取材に行った場所かも」
「何かあるの?」
「つまりですね。脇道ではないかも」
 
「何かありそうだね。何なら一緒に現場に行く?」
「もし良かったら。うちのクルーも一緒にいいですか?」
「OKOK」
 

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それで、箕山記者を案内役に、霊界探訪の神谷内ディレクター、撮影係の森下カメラマン、青葉、幸花の5人で、テレビ局のプリウスに乗って現場に出かけた。カメラマンは制作部のカメラマンだが、もし報道番組としても成立すると思われた場合は映像を融通する約束である。
 
「あ、ここは純粋坂道じゃん」
と幸花が言った。
 
「やはりそうだよね」
と青葉。
 
「どういうことです?」
と箕山記者が言う。
 
「つまりですね。ここって一見“脇道”に見えるけど実際は脇道ではないんですよ。すぐ行き止まりになってますでしょう?」
と青葉は説明した。
 
「ほんとだ。10mくらい道らしきものがあるだけ」
「元々はここが本道だったと思うんですよ。でも線形改良でまっすぐでアップダウンも無い道ができたからこちらは廃道になった。でもその入口10mほどだけが埋められずに残ったんだと思います」
 
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「なるほどー。でもどうして残すんでしょうね」
 
「私たちもよく分からないんですけどね。こういう場所はわりとあるんですよ。こういう感じの傾斜の強い坂道が多いので、霊界探訪では“純粋坂道”と名付けて純粋階段とか純粋シャッターなどと一緒に紹介するつもりだったんですよ」
 
「ああ、純粋階段は聞いたことある。というか、実は僕の家の近くにもあるんですよ」
「へー。どこの町ですか?」
「**町なんですけど」
「そこは行ってないかも。あとで取材させてもらえません?」
「いいですよ。後で案内しますね」
 

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「しかしここが行き止まりだとしたら、これはどういう事故だったんでしょうかね」
 
「ここが本当に脇道なら、ずっとこの脇道を走ってきた車が一時停止を怠って本線に飛び出して、本線を走って来た車と衝突したと考えられる。でもこんな10m程度の距離で、それは考えにくいです」
 
「ということは?」
 
「つまりその手の事故ではないということでしょうね」
「うむむ」
 

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青葉たちは、もしかしてこの手の事故が他にも起きてないか調べてみることにした。最初に警察に取材してみた所、確かに未解決の飛び出し衝突事故が最近頻発していると言われる。石川県警で把握しているだけで、この半年で10件起きているらしい。いづれも、脇道から飛び出してきた車はそのまま逃走している。これは車を保険で修理あるいは廃車にして代替の車を買うため事故証明を出してもらうために警察に届けたケースである。富山県でも起きてないかと思い、そちらにも取材したら、富山県警でも同様の事故を4月以降だけで8件把握していることが分かった。
 
青葉たちは、警察が把握していないものはもっとあるかも知れないと考えた。それで幸花がテレビ局の名前で、この手の事故あるいは事故寸前になったことが無いか、あるいはそういう事故を目撃していないか、ツイッターで質問を流してみた。
 
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すると出るわ出るわ、わずか1日で80件もの反応があったのである。
 
事故内容には明らかな共通点があった。
 
・脇道からいきなり飛び出してきた。
 
・日没後間も無い時間(いわゆる逢魔が時)で結構暗くなったいたが、飛び出してきた車はライトをつけていなかった。
 
・向こうはそのまま走り去った。
 
また、ほとんどの通報で、衝突しそうになったのは“青い軽ワゴン車”であったことが判明する。
 
「この日数の中でこの件数というのは、ほとんど毎晩起きてるよ」
 
幸花は数人のテレビ局のスタッフにも手伝ってもらい、反応があった各々の人に、できるだけ詳細を教えて欲しいと頼むとともに、場所が分からないか尋ねてみた。すると30人の人が位置情報を送ってくれた。ただし、結構な重複があり、現場は全部で18箇所であった。幸花は真珠に頼んで、彼女のバイクでその場所を巡り道路の状況を記録すると共に、写真も撮ってきてもらった。彼女はこの18箇所を1日で回ってくれた。
 
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「18箇所の内、15箇所が純粋坂道でした」
と真珠は報告してくれた。
 
「残り3件は普通の事故かもね」
「ありがちな事故ですからね」
 
「どうもこれは霊界探訪の仕事かも知れないね」
 
「3月に取材した“幻のワゴン車”の事件に似ているけど、あれより更に雲を掴むような話だなあ」
 

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「ツイッターで反応があった人たちにさ、こちらの車種も尋ねたんだよ。そしたら、どうもスポーツカーが多いんだよね」
と幸花が言った。
 
「へ?」
 
「これが事故に遭った車の車種一覧」
と言って幸花はメモを見せる。
 
トヨタ86
マツダロードスター
マツダ RX-8
ホンダNSX
三菱ランサーエボリューション
スバル・インプレッサ
日産フェアレディZ
日産スカイラインGT-R
光岡オロチ
光岡ビュートなでしこ
ポルシェ911
ポルシェカイエン
VWゴルフカブリオレ
フェラーリ・テスタロッサ
アルファロメオ4C
ランボルギーニ・ウラカン
メルセデスAMG
アウディR8
アルピーヌA110
マクラーレンMP4-12C
アストンマーティンV8
ロータス・ヨーロッパ
 
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「石川富山って、こんな高級車が走ってるんだ!」
「北陸も捨てたもんじゃないね」
 

「私も取材してて呆れたんだけど、普通のプリウスとかアクセラとか、そういう車の事件が全然無いんだよ」
 
「スポーツカーが狙い撃ちされてる?」
 
「その可能性もあるけど、ひとつはスポーツカーで田舎道走ってる人って、通行量が少ないのをいいことに、わりとスピード出すから、飛び出しに即時対応できなかった可能性はある」
 
「確かに。40km/hとかで走ってたら、脇道から飛び出してきても避けきれるよ」
 
「報道番組なら、みなさん事故に注意しましょう、と言って終われるな」
「でも霊界探訪はそうはいかない」
「でもこれどうしよう?」
 
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「ドライブレコーダーにはそのぶつかりそうになった車は映ってないんですか?」
と明恵が尋ねた。
 
「あ、それそれ。ここまで取材した中で、ドライブレコーダー付けてた人が3人あったんだけど、ドライブレコーダーには何も映ってなかったらしい」
 
「え〜〜〜!?」
「アングルの問題で映らなかったのかもと、3人とも言ってた」
 
「怪しい」
 
「それ、この世の物ではないから映らなかったんですよ、きっと」
と真珠も言った。
 
「これはおとり取材でもするしかないかも」
と幸花が言う。
 
「つまり?」
「純粋坂道のある道路を夕方、高級スポーツカーで走ってみる」
 
「誰か高級スポーツカー持ってる人?」
 
「ここには居ないな」
「ひとり心当たりがあるけど、あの子は何もなくても普通に事故起こすから、あまり頼みたくない」
と青葉は言う。ムーランの社長山吹若葉である。RX-8乗りだが、数ヶ月に1度はどこかにぶつけて修理している。もうひとり、鮎川ゆま(ポルシェ・パナメーラ)も思いついたが、あちらはもっと危ない。
 
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「テレビ局の予算で NSX か GT-R 買って下さい」
「さすがにそんな予算は無い」
 

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