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■春銀(16)
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恵馬の家のトイレは昭和40年代に建てられた時は、2つの個室が作られ、片側に小便器、片側に和式のポットン便所が設置されていた。父が亡くなるまでは、この家の男女比は男4(父・覚行・恵馬・香沙)・女2(母・飛早子)で男が絶対的に強かった。なお和式のポットン便所の上には実際にはプラスチック製の乗せるだけで洋式になる便器を乗せていて事実上洋式として使用していた。
この地区は下水道の来るのがとても遅く、下水道に接続することになったのは一昨年夏である。それまでは道路から(他人の敷地内を通して!)長いホースを伸ばして汲み取りをしてもらっていた。
さて下水道に繋ぐことにした段階でトイレの改装もしようということになる。特に飛早子が「正式の洋式便器にして欲しい」と言ったので、そうすることにする。ここで問題になったのが小便器の方である。
「提案。両方洋式便器にしよう。朝とか結構トイレ戦争になってるもん」
と飛早子は言った。
「両方洋式なら、俺が小便する時はどうすればいいんだよ?」
と香沙が抗議する。
「洋式の便座をあげればできるじゃん」
「そもそも小便器を使ってるのあんただけだし」
「まー兄ちゃんは小便器使わないんだっけ?」
「使ってるの見たこと無い」
「いつも洋式の方を使ってるよね?」
「うーん。ボクも両方とも洋式の方がいいかな」
ということで、小便器を使うのは香沙1人、使わないのが3人(母・飛早子・恵馬)だったので、両方とも洋式に置換する案が通ってしまったのである。
姉はよく恵馬にこんな感じのことも言っていた。
「このスカートも小さくなっちゃった。穿くならあげるけど」
「いや、いい!」
と恵馬は恥ずかしそうに答える。
「私のスカート、実際問題としてしばしば勝手に穿いてるくせに」
「ごめん!」
でも恵馬の服で可愛いのがあったら
「あ、これ可愛い。貸して」
と言って、借りたまま返してくれないこともあるので、わりとあいこである。
でも姉は、実際問題として小さくなったスカートを段ボール箱に入れて、恵馬の使用部分とのパーティションそばのこちら側!に「私の所に入りきれないから置かせて」などと言って並べ放置していたので、恵馬は小学生の頃、しばしばその中からスカートなどを取りだして、こっそり(?)穿いてみたりしていた。
この箱の中には、小さくなって着られなくなった服だけではなく、新しい服でも姉がデザインなどが気に入らなかった服も入っていた。アウターだけでなく(未使用の)下着が入っていることもあり、恵馬はドキドキしながら、ブラジャーなど着けてみたりしたこともあった。
でもそういう時に限って、姉が突然帰宅して焦ることもある。
そもそも部屋の構造上、姉は自分が使用しているエリアに行くために恵馬が使用しているエリアを通過する必要があるのである。
(再掲)
むろん姉は自分の服を勝手に恵馬が着ていても怒ったりはしない。そもそも段ボール箱の中身は、恵馬を唆すために置いているようなものである。姉は「香沙には女装を唆せないのが残念だ」などとも言っていた。香沙は自分の部屋に母親さえ入れない。まだ1階の部屋にいた頃から、香沙の部屋に入っていたのは兄の覚行のみである。覚行は香沙にポルノ雑誌などをこっそり(?)渡して“男子教育”していた。そして恵馬は姉から“女子教育”されていた。
姉はこっそり(?)ブラジャーを試着していた恵馬にこんなことを言う。
「あんたちゃんとブラジャーの着け方分かる?」
「着け方があるの?」
「お母ちゃんは適当な着け方してるけど、あんなのマネしちゃダメだよ」
などと言って、ちゃんとした着け方を教えてくれた。後手でホックを留めるのは随分練習させられた。母は恵馬の前で堂々と着替えたりしていたが、前でホックを留めてからぐるりと180度回転させていた。
母は兄・覚行や弟・香沙のいる所では決して下着姿を見せないようにしていた気がする。でも恵馬は別に構わないようだった。母も兄や姉もどうも恵馬を最初から普通の男の子とは違う扱いにしていた気もする。「男の子はタマタマを風通しの良い状態にしておかないといけないんだよ」とか言って、覚行にも香沙にもトランクスを買っていたのに恵馬の下着はブリーフだった。
恵馬は姉から生理用品についても“教育”された。昼用・夜用の使い分け、羽根あり・羽根なしの各々のメリット・デメリット、そしてパンティライナーの意義なども、恵馬は姉から教えられたし、
「いつ生理が来てもいいように」
と言われて、生理用品入れに昼用ナプキン羽根なしとパンティライナーを入れて持ち歩くように唆した。恵馬はその生理用品入れをいつも学生鞄の内ポケットに入れていた。
そういう経緯で恵馬は女子の友人とのナプキンネタの会話にも付いてくるので
「ナプキン使うんだっけ?」
などと言われる。更には大会などに行っている時に
「急に来ちゃった。えまちゃん、ナプキン持ってないよね?」
などと言われてナプキンを貸したこともある。
友人にあげたり、または自己使用!して消費した分は姉に言うと補充してくれる。でもナプキンを買いに行かせられることもある!(おかげで平気でナプキンが買えるようになった)
恵馬が初めて胸にブレストフォームを付けた状態でもブラジャーを正しいやり方で着けることができたのは、元々姉に“教育”されていたからである。
姉は他にも「男性的な発達を遅らせたければこうしなさい」と言って、いつもパンツの中にホッカイロを入れておくことを勧めてくれた。高温になっていると睾丸は活動が鈍くなるのである。高校1年になっても喉仏が目立たず、体毛も薄いのは、そのおかげだろうなと恵馬は思っている。恵馬は身長も162cmで、男子の平均からはかなり低い方である。ウェストも60cmなので女子のSのスカートが穿ける(それが“シンデレラ事件”につながることになる)
クラスメイトの男子たちはどうも毎日オナニーしているらしいが、恵馬はせいぜい月に1度くらいしかしておらず、気がつくと数ヶ月していないこともあった。女子の友人たちと唐突にオナニーの話になった時、恵馬が月に1度くらいかもと言うと「それは女子の頻度だ」と言われた。
「いや女子の頻度としても少ない」
「女子もだいたい週に1回くらいする子が多いらしいよ」
「私週3回くらいしてるかも」
「たぶん男子並みに毎日する子もいると思うから、そんなに高頻度でもない」
結局、恵馬のオナニー頻度は女子としても少ない方ということになるようだった。
「ちなみに、えまちゃん、どうやってオナニーするんだっけ?」
(こんなこと訊く時点で既に女の子たちと男の子の会話ではない)
「え?普通だと思うけど」
「普通というと、あれを握って?」
「握るって何を?普通に指で押さえてぐりぐりと回転運動掛けるけど」
「何を押さえるの〜?」
「回転なの?往復じゃなくて?」
「指で押さえたまま往復運動してみたこともあるけど、回転する方が痛くないかも」
「つまり、えまちゃんには、握って往復運動するようなものが付いてないのでは?」
などと言われていたが、恵馬は“握る”って何を握るんだろう?と首をひねった。
8月19日(水)、彩佳たち3人は代々木の龍虎のマンションでケーキ作りをしていた。
明日は龍虎の誕生日なのだが、ちょうど映画の撮影中なので、帰りが何時になるか分からないし、徹夜になるかも知れないという話だった。それで、一緒に誕生日を祝ってあげることが難しそうなので、ケーキだけでも提供してあげようということで、3人で作っているのである。
彩佳・桐絵・宏恵の3人は3号サイズ(直径9cm)のラウンドケーキを3個作ることにした、なぜ3つ作るかというと、龍虎と現在一時的に同居している西湖も同じ8月20日の誕生日で、仕事も一緒にしているから一緒の帰宅になるものと思われること、2人のマネージャーの桜木ワルツ・和城理紗も一緒になる見込みであることから、明日は恐らく4人での誕生日になること。それなら小さなケーキを3つ作り、その内の2つを、龍虎と西湖に各々ロウソクを吹き消してもらえばいいだろと考えたのである。
ここで龍虎と西湖は男の子だから1個丸ごと食べられるだろうけど、女性の桜木ワルツ・和城理紗はそんなに食べないだろうから2人で1個くらいがちょうどいいのではと3人は考えた。
彩佳たちは龍虎のデビューの頃からを見ているので、西湖は女役が多いけど、男の子だったはずという認識である(こういう認識の人はとても少ない)。
実際には失敗した時の予備と試食用を兼ねて4個作ることにした。
ケーキ作りには必須のオーブンが、彩佳たちの渋谷のマンションには無いこともあり、代々木の龍虎のマンションを借りて作業をしているのである。生地を休ませている間を利用して、唐揚げなども作っておいた。
取り敢えずスポンジを焼く所までは(彩佳たちの観点では)成功して4個ともきれいな形に焼けている。
それを真ん中の高さでスライスし、いよいよ生クリームを塗り、フルーツやデコレーションを入れていく。
材料費は、ケーキ作りをすると聞いた和城さんが「予算」と言って、お金を渡してくれたのでフルーツなどもたくさん買い込んで来たし、この時期とっても入手しにくいイチゴに関しては、千里さんがコネで“なつおとめ”の大粒25個入りパック(高かったと思う)を確保してくれたので、それを使用する。
(イチゴには“いちご”の語源?とも言われる1-5月頃に実をつける“一季なり”と、年中実を付ける“四季なり”品種があり、後者は主として“一季なり”が出荷されない夏に出荷される。なつおとめ・なつあかり・夏姫などの品種がある。その他、主としてジャム用にカリフォルニア産の冷凍イチゴも輸入されている。カリフォルニア州は南北が日本列島くらいの長さがあり一年中どこかの地域ではイチゴが採れる)
「イチゴ美味しそう。少し試食してもいいよね」
などと言って試食していたので、ケーキに使用したのは25個の内16個である。
「25って4で割りきれないもんね」
などとも桐絵が言っていた。
生のフルーツにプラスしてレーズンなどのドライフルーツ、缶詰のチェリーも載せ、チョコペンで飾りやメッセージ(Happy Birthday!)を書き、トッピングシュガーにアラザンを振る。
「前から思っていたけど、アラザンってこの銀色はどういう素材なんだっけ」
「銀だよ」
「本物の?アルミとかじゃなくて」
「アルミは身体によくない気がする」
「鉄だと酸化する気がするしね」
「金とか銀はそのまま排出されるから人体に無害。仁丹も銀だよ」
「中身が生薬(しょうやく)かチョコレートかの違いだね」
「そもそも“アラザン”はフランス語で銀を意味する"Argent"(アルジャン)が訛ったもの」
「そうだったのか」
「ついでにいえばアルゼンチンもラテン語で銀を意味するArgentum(アルゲントゥム)が語源」
「銀が採れてたの?」
「銀が豊かだったんだろうね」
「じゃこれ本当に銀なんだ?」
などと言いながらケーキに振る。
「これ煮詰めたら銀が採れる?」
「だいたい100gのアラザンに銀は0.5gくらい含まれているらしいよ」
「小さいな」
「アラザンの銀を集めて銀メダルを作ろうとすると75kg程度のアラザンが必要」
「最初から銀の地金を買うより高く付く気がする」
「銀メダルに使われる銀はだいたい3万円くらいだけど、アラザン75kgは10万円くらいすると思う」
「割が合わないな」
「できたー!」
「じゃ出来のいい方から3個を冷蔵庫に入れて1個は持ち帰って食べよう」
それで彩佳たちは4個作ったケーキの内の1個と、他に作った唐揚げの一部などを持ち帰って、渋谷の1Kのマンションでワインを開け、龍虎の誕生日の前祝いをしたのであった。
(ワインだけで済まずにビールなども開けて結局3人ともダウンする。ちなみに3人とも未成年!)
8月12日、水着での写真撮影をしてから恵馬がワンピースを着て帰宅した時。
「ただいまぁ」
と言って自宅に入ると母が
「お帰り」
と言う。それでいつものように着替えるのに2階の自室に行こうとしたら母が止めた。
「着替えずにそのままでいればいいよ」
「そうかなあ」
「あんたはもう女の子になったんだから、堂々としていればいい」
恵馬は少し考えたる
「じゃ、今日はこのままでいようかな」
「うん」
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