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■春銀(4)
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仮名Aさんは車に積んでいたバッグの中から巨大なカメラを取り出した。こんな凄いカメラを持ってるなんて、ひょっとして写真家さんか何か?などとも思う。アナ・オナのふたりは自分たちが乗って来たハリアーから巨大な銀色の板のようなものを取りだした。
「何ですか?それ」
「レフ板(ばん)を知らない?」
「光を反射して、明るくするためのものだよ」
「へー」
しかしそんなものを使うって、やはりこの人、プロのカメラマンなのかしら。ボク、写真集が出たりして!?どうしよう?女の子の格好で写った写真集とか出たら。変態とか、オカマとか言われたりして?」
急に不安になった恵馬だったが、あれ?と思った。
ボク、小さい頃からオカマって言われてたから、今更かも!
Aさんの手でメイクを直してもらってから、中に入る。口紅はさっきはリップスティックだけだったが、今回はきれいに紅筆で縁取りをしてから塗られた。
貸し切ったという通り、この4人以外には誰も居ない。
こんなお屋敷貸し切るとか、レンタル料金が凄い気がする。でもAさん、お金持ちっぽいから、そのくらいいいのかな?などと思った。
恵馬はお屋敷のあちこちでポーズを取るように言われ、写真を撮られた。アナさん、オナさんがセットするレフ板がちょっとまぶしい。意外に思ったのが、笑顔を要求されないことである。
「記念写真じゃないから、別にスマイルしなくてもいいよ」
と言っていたが、記念写真じゃないなら、何の写真なんだろう?と疑問に思った。やはり写真集作るのかなあ?今着衣だけど、この後ヌードとか要求されたりして?
撮影の途中でトイレに行きたくなった。
「トイレに行ってもいいですか?」
「いいけど、ちゃんと女子トイレに入りなさいよ」
「え〜〜〜?」
「だって、その格好で男子トイレに入ったら不法侵入で逮捕されるわよ」
「そうですか?」
それで恵馬はトイレの場所を教えられてそこに行く。男子トイレと女子トイレが並んでいる。恵馬は結構悩んだ末に、思い切って女子トイレのドアを開けて中に入った。
そこは異世界だった。
見慣れた小便器が全く無い。個室のドアだけが並んでいる。それは初めて見る女子トイレという世界だった。
恵馬はおそるおそる一番手前の個室のドアを開けて中に入った。ここから先は特に難しいことはない。便座除菌クリーナーをトイレットペーパーに噴射し、便座を拭く。
スカートをめくり(実際にはあまりにも短いスカートなので、めくるまでもない気がした)、ガードルを下げ、ショーツを下げて座った。
おしっこは普通に出来る。ただ前に飛び出したりしないように、恵馬はおしっこの出てくる器官を指で下に押し向けた。このやり方って自分はいつ覚えたんだろう?と思ったがよく分からなかった。結構前からしている気がした。恵馬はわりと昔から、小だけの時も時々個室を使っていた。
終わったらトイレットペーパーを少し取って、おしっこの出て来た付近を拭く。男の子みたいに小便器でする場合は、振ってしずくを落としたりするけど、あれって完全にはしずくが取れないよなと思う。男の子もちゃんと拭けばいいのに、などと変なことを考えた。
睾丸を体内に押し込み、ちんちんは後にやってショーツを上げる。お腹に力を入れて睾丸が下に落ちないようにしている間にガードルを引き上げてしっかり押さえる。実はここ1週間ほどの間に少し試行錯誤していて覚えた技である。横になって収納する時ほどうまくは行かないが、取り敢えず間に合わせにはなる。
スカートの乱れを直して、流した上で個室を出た。手を洗って撮影現場に戻った。
これが恵馬の女子トイレ初体験であった。
女子トイレの中にいる間は誰か入ってきて「男が女子トイレにいます!」とか叫んで、警察に通報されないだろうか?などと不安を感じていたので、外に出たらホッとした。
撮影は2時間ほど掛かったが、途中で「お召し替えしよう」と言われて、白い清楚?なミニドレスから、女学生のような、紺のブレザーとタータンチェックのミディスカートに着替えた。先週着せられたのとはまた別の女学生っぽい服である。更にもう一度着替えて、グレイの細ボーダーのふんわりブラウスと最初に穿いたのよりは少し丈の長いミディの紺のフレアースカートを着せられた。
「あまり長時間拘束してもいけないから、今日はこれで終わりにしようか」
「はい」
それでフェラーリで先週と同様、家の近くまで送ってくれることになる。結局最後に撮影に使った、ブラウスとミディフレアの服のままである。
「また来週は別の服を着て、別の場所で写真撮ろうよ。あんた可愛いから、色々な背景で色々な服を着せてみたい」
とAさんは言っていた。
「でも純粋に写真撮るだけなんですね」
「純粋じゃなかったら何なのよ?」
「風俗とかに売り飛ばされたりしないよな?とか思っちゃった」
「何、売り専したいの?したいのなら紹介してもいいけど」
「病気が怖いからいいです」
「まあ高校生は風俗とか売春はやめといた方がいいよ」
「そうですね」
「そうそう。先週はパンティ9枚渡したけど、今日はこの紙袋にキャミソールとブラジャーも5枚ずつ入れといたから。ずっと着けてるといいよ。それなら毎日着ても洗い替えがあるでしょ?あと今着ている服もあげるから」
「ありがとうございます」
それで今日も**駅前で降ろしてもらい、恵馬は紙袋を持って歩いて家まで帰った。先週は誰か知り合いに会ったりしないだろうかとビクビクしていたのだが、今日はわりと余裕があって、恵馬はのんびりと散歩するように歩いて帰宅した。
家は鍵が掛かっているので自分の鍵で開けて中に入る。母が居て
「お帰り、まーちゃん」
と言った。
「ただいま」
と今日は平常心で答えてから、恵馬は2階の自室に行こうとした。
「あ、まーちゃん」
「うん?」
「可愛いよ」
と母は言ってくれた。
「えへへ、ありがとう」
と恵馬は照れ笑いをしてから、上にあがった。
秋風コスモスは悩んでいた。
年末の紅白歌合戦について、ここ数年はアクア・品川ありさ・高崎ひろかの3人が出場するというのが定着していた。しかし今年はラピスラズリの人気が凄まじい。彼女たちを出さない訳にはいかないだろう。
放送局側から先日「そちらの事務所から出場者を3組推薦してください」と言われた。つまり、アクアとラピスラズリを確定として、あと1人、ありさか、ひろかか、どちらを出場させるか、事務所で決めてくれということだろう。
しかし、品川ありさ・高崎ひろかは、CDなどの売上にしても、ファンクラブの会員数にしても、ファンレターの数にしても、ほとんど並んでいる。どちらか1人だけというのは、決めにくい。
コスモスが悩んでいたら、川崎ゆりこが言った。
「ありさ・ひろかをまとめて1組で出しますかね?“ひろかりさ”とか命名して」
「いや、それは彼女たちのプライドが許さない」
とケイ会長は言った。
「私もそう思う」
とコスモスは言う。
「アクア、ありさ、ひろかの3人とも紅白は卒業させて、代わりにラピスラズリ、白鳥リズム、姫路スピカという方法は?」
とゆりこ。
「ありさとひろかをペアにして出すよりはマシな方法だけど、自分たちはお払い箱にされたような気分になると思う」
「だったら、恨みっこ無しで、ファン投票で決めます?§§ミュージック総選挙ですよ」
とゆりこは言った。
「物凄く不本意だけど、それをやるか」
とコスモスは言った。
そこで§§ミュージックは告知したのである。
9月9日に発売する§§ミュージックのコロナ対策支援CD(売上1枚につき300円を医療従事者への支援基金に寄付する)に投票券を封入し、その投票券からネットで投票してもらい、その上位の“数組”に§§ミュージック2020 Award のメダルを授与するというものである。
「紅白に推薦する」と言ってしまうと、まるでこちらが紅白の出場者を決めているかのように思われたらいけないので、極力そういうことを想像させるような表現は避けている。しかしファンの中には結構それを想像した人もあったようである。
この支援CDでは17組のアーティストの歌唱が収録されている。
アクア、品川ありさ、高崎ひろか、西宮ネオン、姫路スピカ、白鳥リズム、花咲ロンド、桜木ワルツ、石川ポルカ、山下ルンバ、桜野レイア、原町カペラ、ラピスラズリ、リセエンヌ・ドオ、大崎志乃舞、今井葉月、川崎ゆりこ。
むろん、これ以外の信濃町ミューズや信濃町ガールズの子に投票してもよい。
投票には投票券のQRコード以外にスマホの電話番号(ショートメールの受信用)も必要であり、これによってひとりで何枚もCDを買って多重投票することはできない仕組みにしている。
いくつか質問があった。
「メダルということなら、金メダル・銀メダル・銅メダルの3枚ですか?」
「そうとは限りません。メダルを何枚設定するかは実は現時点では未決定です」
「金銀銅以外にもメダルが設定される可能性はあるんですか?」
「プラチナ・メダル、パラジウム・メダル、あるいはダイヤモンド・メダル、サファイア・メダルなどが設定されるかも知れません」
「一度投票したんですが、訂正できますか?」
「一度だけに限り変更できます。最初に投票した時と同様にして投票してください。結果は電話番号単位で最終投票先を集計しますが2度以上の修正はできません」
§§ミュージックは同時に、年越しイベントの実施を発表した。
例年は、ローズ+リリーの年越しイベントが行われ、§§ミュージックの多くの歌手(実際問題として紅白に出ない子)がその前座を務めてくれていたのだが、今年はどっちみち大規模イベントができないということもあり、ローズ+リリーは年越しイベントをする予定が無い。
そこで§§ミュージック総出演による無観客・ネット中継方式のライブを実施することにしたのである。これはあけぼのテレビ、★★チャンネル、ЮЮネットの3つのネットを通して中継される。特別視聴料5500円(税込み)を徴収する。
会場は深川アリーナを使用し、例によって、多数のモニターを並べ、また視聴者のところに設置したマイクの音も拾って会場に流す方式である。
深川アリーナには前後ふたつのステージを設営して交互に使用し、反対側のステージで演奏中に今使用したステージの清掃・消毒を行う。清掃・消毒の担当は例によってルンバ隊である。
18組のアーティストをAグループとBグループに分け、Aグループは1時間、Bグループは30分ずつの演奏とする。グループ分けは下記である。
●Aグループ(8組)
アクア、品川ありさ、高崎ひろか、西宮ネオン、姫路スピカ、白鳥リズム、ラピスラズリ、川崎ゆりこ。
●Bグループ(10組)
花咲ロンド、石川ポルカ、原町カペラ、桜木ワルツ、山下ルンバ、桜野レイア、リセエンヌ・ドオ、大崎志乃舞、今井葉月、秋風コスモス。
それで合計13時間要するので、お昼の12時から始めて夜の1時までの13時間の放送とする。トップバッターは花咲ロンドであるが、ラストの2021年1月1日0:00-1:00はもちろんアクアである。そのひとつ前、カウントタウン役には姫路スピカが指名された。これはラピスラズリは中学生、白鳥リズムは高校生で、どちらも深夜には使用できないという背景もあった。ありさ・ひろか・ネオンはその誰をカウントタウン役にしても、他のファンから苦情が来るので、敢えて5番手か6番手くらいの位置づけになるスピカを使うのである。
もしスピカが紅白に出ることになった場合は、川崎ゆりこがカウントタウンを務めることにした。
Aグループの子の数名が紅白にも出ることになるが、そちらの出演時間が決まったところで、それとぶつからないように、演奏時間を調整する予定である。つまり紅白の予定が決まるまで、こちらの演奏順は確定できない。
あけぼのテレビは通常16:00-17:00は放送休止するのだが、この日は特別にぶっ通しの放送になる。
なお、例年カウントダウンイベントをしていたローズ+リリーは1月1日にあけぼのテレビで、同じ深川アリーナを使用してニューイヤーネットライブを行う予定である。
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