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■春銀(24)
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その後、1時間ほど掛けて、大阪府寝屋川市の系列校・香里ヌヴェール学院高校(旧名:大阪聖母女学院高校)に移動する。元々は大阪の方が本流だが、近年は京都側に本部が置かれていた。
京都校舎も大阪校舎もどちらも国登録文化財(有形文化財建造物)に指定されている。京都校舎が煉瓦造りの古風な建物であるのに対して、大阪校舎は白亜のモダンな建物でアーチが多用されている。こちらは日本女子大などの建造物の設計をしたアントニン・レーモンドの作品である。
アクア(アクアF)は両校舎のあまりのギャップに驚いた。
ここも姫路スピカを使って結構シナリオを錬っていたのだが、撮影は夕方まで4時間も掛かった。実際問題として日没で撮影不能になったので、それで打ち切ったというのが実態に近い。
しかし真夏の振袖撮影は暑かった!!
撮影には和服メーカーの社長さんの他、聖母女学院の人も立ち会ったのだが、聖母女学院の先生(?)は撮影の合間にアクアに
「アクアさん、うちの生徒たちにも凄く人気ですよ。みんなあなたみたいな可愛い女性になりたいって言ってますよ」
などと笑顔で言っていた。この先生、ボクのこと女の子だと思ってる〜と、アクアは思った。こないだ、ゆりこ副社長も言ってたけど、元々ボクのこと女の子だと思っている人って、かなり多いよね!
今回の撮影には“お母さん役”でローザ+リリンのケイナが出演している、お陰で、ケイナもこの真夏に冬用の訪問着を着るはめになった。
お母さん役としては、最初、アクアのファンクラブ会員番号4番・春風アルトに打診があったものの、あけぼのTV社長という立場では、あまり遠出ができない。それでケイからケイナに依頼があったのである。
マリナが妊娠中でなければ、アクア・ファンクラブ会員番号119番のマリナがいかにも優しいお母さんという雰囲気で良かったのだが、妊娠9ヶ月ではさすがに無理で、会員番号110番のケイナの出番となった。
これは後から「母と娘に見えて、実は父と息子かも」などとネットで書かれることになる。でもこのCMのお陰でここの振袖は例年の2割増し売れ、社長さんは凄い笑顔で「来年もお願いします」と言ってきた。結果的にケイナは来年も真夏に訪問着を着るハメになる。
「本当にケイナがアクアを産んだんだったりして」
「もしそうなら、ケイナは18歳でアクアを産んだことになる」
「あり得ない年齢ではないな」
「でもアクアの本当のお母さんは亡くなっているらしいよ」
アクアの本当のお母さんが亡くなっているという話は出所不明であったが、元々アクアの本当の両親については20歳になって以降開示するということにしていたので、その地ならしに、ワンティス関係者が流したのだろうとケイは思った。
一方今回炎天下で振袖を着たアクアFは、来年はボクはもう居ないだろうから来年真夏に振袖を着るのはMになるなと思っていた。しかし、実際にはまた自分が着るハメになる!
恵馬は仮名Aさんのフェラーリの車内から母に電話を掛けて、予定外のことが起きて熊谷まで行っていたこと、それで少し遅くなったこと、またここの所ずっと会っていた“仮名Aさん”と一緒に自宅に向かっていることを話した。
それで自宅に到着したのは20時半になってしまった。近所に時間貸しの駐車場とかが無いので、近くにある公園の駐車場に駐め、そこから300mくらい歩いて自宅に戻った。
玄関には灯りが点いていた。ドアも開くのでそのまま開けて入る。
「ただいまあ、遅くなって御免」
と恵真が言い、
「失礼します。お嬢さんを遅くまで連れ回して申し訳ありませんでした」
とAさんが言った。
母が出て来た。
「お帰り、恵真。そしていらっしゃい、ミモちゃん」
と母が笑顔で言うと、仮名Aさんがギョッとしている。
「ヒロミン!?」
と言って仮名Aさんは驚いている。
「知り合い?」
と恵真は戸惑うように訊いた。
「この人たちが学生時代にワンバンというバンドをしててね。よく私が勤めていたライブハウスで演奏してたのよ」
へー。バンドをしていたのか。でもワンバンなんてバンドは聞いたことない。あまり有名じゃなかったのかも。そうだよねぇ。そんな有名バンドの人が自分みたいな子に目を付けるはずもないし。
「ヒロミンはそのライブハウスの看板娘だった」
とAさん。
「看板娘といっても既に結婚していたけどね。覚行を産むのに退職したんだよ。だから短期間のお付き合いだった」
「でも出産後もわりと出て来ていた」
「パートだったけどね。不思議とワンバンが出演する日にはお店に出ていることが多かった気もする」
「そうか、ヒロミンの娘さんだったのか・・・」
「うん。私の可愛い娘」
ボク、やはり“娘”でいいのか、と恵真は思った。
玄関の所で立ち話もなんだしということで、居間にあがってもらう。帰り途中に買って来ていた松花堂弁当を出すので、それをチンして、飛早子と香沙は2階に持って上がった。
「だけど私がこの子に関わっていると知ってたの?」
「あれは30年くらい前かなあ。ミモちゃんと女の子の格好をした恵真が新宿を歩いているのを見かけてさ」
「30年前はボクまだ生まれてないよ!」
「相変わらず、ヒロミンのギャグは寒い」
「うん。氷点下まで冷やしたチューハイが好き」
「で、見てたんだ?」
「新宿に行ったのなら先月の下旬かな」
「あら可愛くなってるじゃんと思ってさ」
「なるほど」
「この子女の子になりたいと思ってるくせに、なかなか女装しないなと思ってたから、とうとう目覚めたかと思った」
え〜?ボク女装して良かったの?
「あまり女装しないから、この子寝ている間に病院に運び込んで性転換手術してあげないといけないかしらと思ってた」
「ああ、それは賛成」
またそういうジョーク(ジョークだよね?)言ってるし。
「ただ、ミモちゃんが、この子を女装っ子として扱っているのか女の子として扱っているのかは判断が付かなかった。でも帰宅した様子がサックスしてきた雰囲気じゃなかったから、女装の味を覚えさせようとしてるなと思った」
「サックス?」
「あ、間違った。セックス」
「私、セックスもサックスも得意だけど」
「あの頃、結婚してる私まで誘惑してたからね」
Aさんがお母ちゃんを誘惑??恵真はその意味を理解できなかった。
「Aさん、レビアスンなの?」
「レバイアサン??」
「もしかしてレスビアンのこと?」
「あ、それかも」
「私は男の子も行けるけど、ストレートだよ。基本的には女の子とセックスしたい」
「意味が分からない」
母が恵真の誤解に気付いた。
「ミモちゃんは男だよ」
「嘘!?」
「ただもう25年くらいずっと女装生活だよね」
「あら、私女装とかしてないわよ。普通に男の格好してるつもりだけど、女装に見える?」
Aさんは男?うっそー!?と恵真は思う。
「普通に女性に見えるんですけど」
「あら失礼ね。私が女に見えるなんて、眼科行ったほうがいいわよ」
お弁当も食べ終わったので、母が紅茶を入れてくれた。
「ディンブラだ」
とAさん。
「ミモちゃんが好きだったから、用意しておいた」
と母。
「よく覚えてるね」
「懐かしいね。高岡さんはいつも無茶苦茶だったし、上島さんはいつも女の子のお尻を追いかけていたし」
「ああ。高岡はとんでもない奴だったよ」
とAさんも懐かしそうに言う。
「いつも何か考えてるから、しばしば変な物飲んでた」
「変なもの?」
「コーラの水割りとか」
「まずそう」
「ウィスキーの焼酎割りとか」
「そんなの飲んで大丈夫?」
「よくそんなのを水割りと誤認して一気に飲んで倒れてたね」
恵真は母に尋ねた。
「この人、何か有名な人?」
「ああ。女の子に手が早いことと、男の子を女装させたがることで有名」
と母。
女装させられました!
「あんた、この人と寝た?」
「寝たって?」
と恵真が意味が分からないので尋ねるが
「やはり何もなかったようね」
と母は言う。
「この子は商品になるから手を付けない」
などとAさんは言っている。
「それであんまり可愛いから、写真を撮っていたのよ」
と言って、Aさんはノートパソコンを取りだして開くとCeciliaと書かれたフォルダを開いて中の写真を母に見せた。恵真は恥ずかしくて顔を俯せた。
「あら可愛い」
「可愛いでしょ?」
母はたくさんの写真を見ながら笑顔である。恵真は最初恥ずかしかったものの、母がずっと笑顔でスクロールしていっているので、いいのかなあと思って少し心の余裕ができた。母は写真を30分くらい見ていて、
「振袖似合うね〜」
とか
「水着写真がわが娘ながら、なかなかセクシーだ」
などと言っている。
「それでこれどうするの?」
と母は訊いた。
「写真集を出したい。ヒロミン、契約してくれない?」
「いいよ」
と母はあっさり言った。
え〜〜!?本当に写真集出しちゃうの?恥ずかしー。
「で、ギャラは幾ら?」
と母は訊く。
「話が早いね。買い取りにする?印税にする?」
「各々の場合の金額は?」
「買い取りなら500万円、印税なら5%」
500万円!?それまさかボクがもらえるの?
「印税で」
「1000部しか売れなかったら10万円にしかならないけど」
「ミモさんが売り込むのに1000部ということは無い」
「だったら、この子をキャンペーンとかで全国連れ回してもいい?」
「いいよ。学校の休みの日か放課後なら」
「うん。高校卒業まではそれでいい」
「だったら芸能契約もして欲しい」
芸能契約??ボクまさか芸能人とかになるの??
「事務所はどこ?」
「♪♪ハウスを考えている。実はここは§§ミュージックの友好プロダクションだから、移動に自家用機が使えるんだよ。いまのご時世、有望タレントほど、公共交通機関には乗せたくない」
「でも飛行機ってアクアちゃん専用なのでは?」
「現在3機運用しているし、年内にもう1機くらい追加されるはず」
「儲かってんだね!」
「まあアクアの事業規模が大きいからね」
「だけどあの子、声変わりしたらどうすんの?絶対人気急落するよ」
声変わり??女の子アイドルが???
「そうならないように、去勢しようよと本人を口説いている所というのが実情。世間では既に去勢済みと思っているけどね」
恵真は疑問が膨らんで聞かずにはいられなかった。
「アクアちゃんが声変わりとか去勢とか、アクアちゃん、女の子ですよね?」
「男の子だけど」
とAさんも母も言う。
「うっそー!?」
と恵真は声を挙げた。
「でもでも、今日会ったけど、女の子の声で話してましたよ」
「まだ声変わりが来てないからね。だから彼はボーイソプラノなんだよ」
「あの子何歳ですか?」
「明日で19歳」
「それで声変わりしてないなんてあり得ない」
「だから去勢疑惑がある、というか多くの人が実際には去勢済みなんだろうと思ってる」
「去勢してるんですか?」
「してない、してない。あの子は小さい頃に、3年くらい入院する大病をしたから肉体的な発達が遅れているんだよ」
「幾ら遅れてもさすがにいい加減声変わりするのでは?男の子であるなら」
「だからそうなる前に去勢しちゃおうよと口説いてる」
「そんなの強要してはいけないのでは?」
「だから本人が自主的に去勢手術を受けるように口説いている」
「寝ている間に病院に運び込んで手術しちゃえばいいのに」
などと母はまた過激なことを言っている。
そういえばこないだも母はボクのこと、寝ている間に病院に運びこんで性転換手術しちゃったとか言ってたけど。
「まあそれは最後の手段だね」
などとAさんは言っている。
「じゃセシルちゃんと、芸能契約していい?」
「いいよ」
と母は言う。
「契約書の書式持って来たけど、これでいいかなあ」
と言ってAさんが書類を出す。
母は書類を見ていたが言った。
「学業絶対優先という条項を入れて」
「鋭いなあ」
「高校卒業まではそれが絶対条件」
「分かった。卒業したら仕事優先でもいい?」
「まあそんなものでしょ」
それでAさんはパソコン上で書類を訂正した。
「じゃ今からでも♪♪ハウスの白河さんに会ってくれない?」
「今からなの?」
「昼間は仕事があるんでしょ?」
「まあいいよ」
それで結局、母のキューブに3人で乗って、四谷にある♪♪ハウスまで行くことになった。Aさんのフェラーリを母のキューブを駐めている月極駐車場に移動する。
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