広告:オンナノコになりたい! コスプレ編
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■春銀(2)

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恵馬は朝起きてからパジャマを脱ぐと、まずじっと自分の下着を見詰めた。そして「このままでいいや」と言って、学生ズボンを手に取ると、そのまま穿いた。そして上半身にブラウスを着るかワイシャツを着るか、物凄く悩んだが、やがてブラウスの方を手に取った。そして少し苦労しながらボタンを填め始めた。
 
恵馬が1階に降りて行き、食卓に座ると、高3の姉が恵馬の顔をじろじろ見た。
 
「どうかした?」
「あんた、その顔で学校に行く気?」
「え?何か変?」
「お母ちゃん、ちょっと直してあげてよ」
「うん、そうだね。ちょっと、まーちゃん、そこに座ってて」
「うん」
 
それで母は自分のバッグから何かスティック状のものを出すと蓋を開けて引き出す。
 
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マスカラ??
 
母は恵馬の眉毛の所にそれを塗りつけるようにしていた。
 
「まあこれでいいかな」
「うん、そんなものかな」
 
「眉を描いたの?」
「これ繊維入りの眉マスカラだから。水で洗ったくらいでは落ちないから」
「落とす時はどうすればいいの?」
「クレンジングで落ちるよ」
「だったらいいか」
 

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それで恵馬はその日学校に出かけたが、友人たちや先生などからは特に何も言われなかった。
 
なお、恵馬の学校の男子夏服は、ワイシャツにネクタイである。ネクタイはネクタイピンできちんと留めることになっている。すると、ネクタイがボタンの部分を隠してくれるので、右前のボタンか左前のボタンかは、一目見ただけでは分からない。袖の形を見たら実はワイシャツとブラウスの違いは分かる(ワイシャツは袖の角が角張っている。ブラウスは丸く曲線になっている)のだが、先生はそこまで見ないだろうというのに恵馬は賭けた。
 
ただ女子のクラスメイトにはバレないかな、と少しヒヤヒヤだったのだが、特に何も言われなかった。
 
恵馬はこの日、トイレはむろん男子トイレを使うのだが、小便器は使わずに個室を利用した。女子用ショーツを着けていても、上から出せば小便器は使えるのだが、立ってすることに抵抗を感じたのであった。
 
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なお今週は体育は無かった。あまりに熱いのでこんな時に体育なんてしたら倒れる人が続出するという職員会の話し合いで、体育の時間は他の授業に振り替えられた。
 
こういう生活が終業式の行われた7月31日(金)まで5日間続いた。母は毎朝眉毛を描いてくれた。
 
ブラウス、それにショーツは、少し迷ったが、洗濯機に入れて普通に洗った。洗濯が終わったら、洗濯物を自分で干したが、ブラウスとショーツに関しては、さりげなく2階に持って行って、自分の部屋に干した。夏でもあるので、だいたい朝までには乾いていた。
 

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日本水泳連盟は2020年春以降の大会を延期・中止にしていたのだが、コロナ対策の手法がだいたい確立してきたことから、8月28日の早慶対抗水上競技大会から大会の実施を再開した。ただしこの大会は無観客で行った。
 
今年のインカレは例年より1ヶ月遅れの10月1-4日にやはり無観客で実施することが8月23日に発表された。青葉が卒業したK大学は昨年シード権を取っているので、出場できる。
 
青葉は10月17-18日の短水路日本選手権に出場するので、それに向けて日々練習を重ねている。昨年10月の短水路日本選手権以来、1年ぶりの大会になる。
 
みんな各々の環境で日々練習はしているものの、大会からずっと遠ざかっている。“大会感覚”を取り戻さなきゃね、などと青葉は南野さんともジャネとも話した。
 
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ところで今年1月の卒論の締め切りまでに卒論を提出せず、留年していた南野さんだが、コロナ下で行動が制限されているしということで、ずっと津幡に滞在して練習をする傍ら、書き掛けであった卒論を書き上げて提出。審査にも合格した。
 
それで結局他の人たちから半年遅れで9月に卒業できることになった。
 
「良かったね。これでNN社(STスイミングクラブの運営会社)に入社するの?」
と青葉は訊いたが
 
「いや、その話は完全に消えている」
と彼女は言った。
 
「だからこのまま〒〒スイミングクラブにお世話になるよ。石崎さんも歓迎するって言ってくれているし」
 
「それもいいかもね」
 
「今は練習に便利だから、ずっと火牛ホテルに滞在しているけど、オリンピックが終わったら、津幡か金沢あたりにアパート探すかも」
 
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「結構北陸が気に入った?」
「気に入った。お魚美味しいし」
「お魚は美味しいよねー」
 

ところで、経堂のアパートが千里たちが浦和に引っ越してから、明日香が4月5日に入居するまで空き家になっていたので、その間、鏡の番人として《げんちゃん》に住んでいてもらったのだが、今度は尾久の筒石のマンションが、筒石たちが東京方面のプールが閉鎖されたのに伴い、練習場所を求めて津幡にやってきて、結果的に彼の尾久のマンションが空き家になってしまった。
 
そこで千里は《げんちゃん》に、経堂のアパートから尾久のマンションに移動してもらい、4月上旬以降はそちらに住んでもらっている。
 
「ちなみに女装する?」
「だが断る」
 
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しかし《げんちゃん》が尾久に住んでいると、こちらの鏡を通して出入りする緩菜のお友達たち(北海道のキタキツネの子たちが多い)が、筒石のように様々な用事でこきつかわれたりしないし、油揚げやお稲荷さんも供えてくれるので、好評だった!
 
「げんちゃんさん、ずっとここに住んでて欲しいなあ」
「筒石がこちらに戻るまでだよ」
「その時は、げんちゃんさんのおうちに鏡を持って行ってくれない?」
「女装してもいいよ。可愛い女の子の服を調達してきてあげるし」
「お化粧も教えてあげるよ」
「だが断る」
 
「げんちゃんさん、美男子だし。ごつくなったりしないように睾丸抜いてあげようか?」
「だが断る」
 
(誰もげんちゃんとセックスしてあげると言う子がいない。げんちゃんも、キツネの子供たちにまで欲情したりはしない。でもそれで女の子に興味が無いのかもと思われていることを、げんちゃんは知らない!)
 
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西原はその日、高岡市のカ少し先で仕事をした後、国道415号で、羽咋(はくい)市の自宅に向かっていた。
 
高岡方面から羽咋に行く場合、国道8号で津幡まで行き、のと里山海道(全線無料)を北上する道と氷見まで能越自動車道(無料区間)または国道160号で北上してから国道415号で山越えする道がある。
 
その日、西原は国道8号の車の流れが遅かったので415号を通ろうと思い、高岡ICから能越道に乗って北上した。
 
国道415号は、能越自動車道の氷見−七尾間が開通するまでは、能登半島の富山県側と石川県側を行き来する主要3道(国道160号越え・県道18号荒山峠越え・国道415号熊無峠越え)の中では、もっとも楽に走れる道ではあったが、それでも初心者ドライバーや、田舎道に不慣れなドライバーには、かなりきつい道である。
 
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西原は仕事が終わった後で疲れが溜まっていることもあり、缶コーヒーを飲んだり、クールミントガムを噛んだりして意識を明瞭に保ちつつ、スピードも控えめにして、慎重に運転していた。
 
熊無峠のドライブインでいったん休憩し、トイレに行ってくる。草餅とコーヒーを買って車に戻る。疲れているなあと思ったので、後部座席に行き30分ほど仮眠した。それですっきりしたので、いったん車外に出て少し体操してから運転席に就いた。
 
もう日没を過ぎたのでエンジンを掛けたらライトを点けて出発する。石川県側に降りていく。大きなカーブを慎重に曲がり、あくまでスピード控えめに走って行く。しかしその西原の車を、この見通しの利かない道で、強引に追い越して行ったスポーツカーがあった。
 
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乱暴な運転するなぁと思う。西原はあくまで慎重に走って行っていたが、5分と走らない内に、さっきのスポーツカーが道路外に逸脱して中破しているのを見た。
 

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ハザードを点けて停止する。
 
懐中電灯を持ち、車を降りて近寄る。
 
「大丈夫ですか?」
 
男女2人が乗っている。
 
「大丈夫みたい」
「でも車から出られない」
「ドアが開かなくて」
 
「窓が開かない?」
「ボタン押すけど、動いてくれない」
「窓割るハンマー持ってるけど、割ってもいい?」
「お願いします」
 
それで西原は自分の車に戻ると、軍手をはめ、常備している窓割りハンマーを持って来た。
 
「窓から離れてて」
「はい」
 
それで西原が思いっきりスポーツカーの助手席の窓を叩くと、窓はあっさり割れた。数回叩いて全部ガラスを割った。
 
「これでここから出られないかな」
「やってみます」
 
それでまずは助手席側の女性が脱出。続いて、運転席にいた男性も脱出した。
 
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「JAFを呼びましょう。JAF入ってる?」
「それが入ってなくて」
「その場でも入会できるよ。呼んでもいい?」
「はい」
 
それで西原は男女に万一のことがあったらいけないから、車から離れるように言い、JAFに電話して連絡した。
 

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「すみません。お手数おかけして」
「いや、お互い様だし。無事で良かったです。怪我してない?」
「ちょっと足が痛いけど、血とかは出てないみたい」
「打ち身かなあ」
 
西原は“女性”と思っていた側(スカートを穿いている)の声が男声であることに気付いた。男の娘だったのか。でもこんなに可愛かったら、自分でもデートしたくなるかもと思った。
 
それで3人で少し話していた時のことだった。
 
車から煙が出てくるのに気付いた。
 
「危ない。離れよう」
 
それで急いで3人が車から離れると、そのスポーツカーは大音響を出して爆発炎上したのである。
 
男女が呆然としている。西原も無言だった。
 
「車から脱出した後で良かった」
と燃え上がる車を見ながら、女が言った。
 
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「うん。外に出られなかったら、俺たち死んでた」
と男も言った。
 

「でもどうしたんです?カーブを曲がりきれなかった?」
と西原は彼らの気分を紛らすためにも訊いた。
 
「それが脇道からいきなり車が飛び出してきたんですよ。ライトも点けてなくて。その車を避けようとして、反対側の道路外に逸脱してしまって」
 
「脇道?」
「そこの脇道ですよ」
 
それで西原が懐中電灯を持ったまま、言われた所に行ってみる。暗いのでよくは分からないものの、確かに脇道っぽいものはある。割と急な下り坂になっている。しかし、ほんの10mほどで行き止まりになっているようである。
 
ここから車が出て来たとすれば、どこかから来た車ではなく、ここで休憩か何かしていたか、あるいは山菜採りでもしていたのだろうか?と西原は疑問を感じた。
 
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そして思った。この子たちが自分を追い越して先に行ってなかったら、自分が事故を起こしていたかも知れない、と。
 

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