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■娘たちの予定変更(26)

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最初に昭子が撃つ。
 
昭子は正確に撃つ。撃ったのは、ほとんど入る。
 
ところが慎重に撃っているので、どんどん時間が経過する。結局3ヶ所目の途中で時間切れのブザーが鳴る。
 
「うっそー!?」
と本人は言っているが、ここまで13球撃って10球入れ、点数は12点である。どうも時計を全く見ていなかったようだ。
 
次に石立さんが撃つ。彼女はこのルールのコンテストを何度もやったことがあるので、このコンテストでは如何に「早く撃つ」かがポイントだということを知っている。それで時計がスタートすると、ボールを取っては撃ち、取っては撃ちする。おかげで最後まで辿り着く。
 
25球全部撃って、入ったのは8本、点数は10点であった。
 
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玲央美が撃つ。
 
玲央美はボールを取る度にしっかりゴールを見て撃つ。結構な確率で入るが昭子ほどの正確性は無い。しかしあんなにゆっくりも撃たない。結局最後の撃ち場で2本撃った所でブザーが鳴った。全部で22本撃ち、入ったのが11本で点数は14点であった。
 
和服姿の千里が登場する。
 
観客の多くはここまでの3選手で終わりで玲央美の優勝、千里はタレントさんか或いはミス平塚か何かの余興だと思っている。
 
時計がスタートする。千里はボールを取るとゴールに“意識を入れて”撃ち、取ると意識を入れて撃つ、というのを繰り返す。5球目を撃ったら次の撃ち場にダッシュする。裾が乱れるが気にしない。
 
そして撃った球は全て入る。
 
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4ヶ所目のを全部撃ち、5ヶ所目に向かって走って行く最中に、足袋が床で滑る。「あっ」と声を出すとともに転ぶ! すぐに立ち上がったものの、最後の撃ち場に辿り着く前にブザー。「あぁ」という感じで天を仰いだ。
 
しかし結局20球撃って全て入れている。点数は24点である。
 
玲央美は「参った!」という顔をしている。観客は思わぬ展開にざわめくと共に物凄い拍手が贈られた。
 
「優勝者は、昨年のU19世界選手権でスリーポイント女王に輝いた旭川N高校出身の村山千里選手でした」
というアナウンスに歓声があがって再度凄い拍手があった。千里も拍手してくれている観客に向かって深くお辞儀をした。
 
急遽用意された賞状、それに「囲碁最中(いごもなか)」を1箱もらって、千里は和服姿で観客に手を振った。
 
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ああ、玲央美の言う「人気」って、こういうのの積み重ねで作られていくのかなと千里は思った。
 
しかし・・・旭川N高校出身と言われたなと思う。ローキューツと言われなかったのはローキューツに実績が無いせいだろうな。
 

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打ち上げに一緒においでよと藍川真璃子が誘ったので、玲央美たちと一緒に用意されていたバスで移動する。
 
「千里って身体が切り替わっても記憶は継続しているよね?」
と隣に座った玲央美が小声で訊く。
 
「うん。記憶まで切り替わったら、生活が破綻するよ」
と千里は答える。
 
「記憶だけじゃなくてバスケの技術も継続するんだ?」
 
玲央美はそれを確かめたかったのだろう。
 
「だって、それも記憶だから。おそらく小脳のね」
「なるほどー」
 
玲央美は、ずっと疑問だったことがある。千里が高2のインハイに出たのは性転換手術をしてから11ヶ月くらいのボディだと言っていた。そして高3のウィンターカップの時のボディは16ヶ月くらいのボディという話だった。その間わずか5ヶ月しか経っていない。その間に千里は高2の総体・選抜・総合、高3の総体・アジア選手権・選抜と大きな大会を6つ経験している。当時の千里は会う度に物凄く進化していた。それがわずか5ヶ月の間の成長とは考えられなかったのである。実際に千里の技術がその間、1年半掛けて進化したのであれば理解できる。それでも物凄い急成長なのだが。
 
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「でも筋力が無い。それで最後まで辿り着けなかった。身体が動かなーい、と思ったよ」
「それでもシュートはちゃんと撃てるんだ?」
「まあ6.75m届かせる程度の筋力は高校1年の頃でもさすがにあったよ。ボールの行方をコントロールする部分は技術的な記憶だし」
「なるほど」
「あと今回は和服だしね」
「いや、和服でよくあそこまで動けたと思った」
 
玲央美はしばらく考えていたが、やがて千里を見ながら強く《思考》した。
 
《今、ちんちん付いてるよね?トイレどっちに入る訳?》
 
玲央美の脳内に千里の声が響く。
 
『私は女の子だから女子トイレを使うよ』
 
玲央美は笑った。
 
《痴漢で通報しようかな》
『それ警備員さんが来たら、絶対玲央美の方を捕まえる』
 
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その時、千里が「あっ」と言った。
 
「どうしたの?」
「和服の脇が破けてる」
 
「そりゃ、あんな激しい運動をしたらね〜」
と言いながら玲央美は千里の和服を見る。
 
「ああ、これは布そのものが裂けてる。縫い目がほつれたのなら縫い直せばいいけど、こういう裂けかたしたのはどうにもならないと思うよ」
と玲央美は言った。
 

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20日の日、結局千里はジョイフルゴールドのメンバーと一緒に夜遅い電車で東京に帰還した。
 
「千葉までどうやって帰るの?」
「都内に車駐めてるから、それで帰るよ」
「打ち上げでお酒は飲んでないよね?」
「私、未成年だから飲んでないよ」
「偉い。**なんてまだ18歳なのに、ビール15杯は飲んでる」
「そういうの、バレないようにね〜」
 
それで彼女らと東京駅で別れ、大手町駅から東西線で葛西駅まで到達する。ここからジョギング・・・しようとして、和服では無理だぁと思う。
 
『りくちゃん乗っけて』
『いいよ』
 
ということで《りくちゃん》の背中に乗って1分で、インプレッサを駐めている駐車場に到達した。《りくちゃん》に御礼を言ってから荷物を積み込み、草履を車内に積んでいるスニーカーに履き替え、自分で運転してアパート近くの月極駐車場に駐める。
 
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この時期、千里は江戸川区の駐車場(本来の置き場所)、大阪の貴司のマンション近くの駐車場、そしてアパート近くの駐車場と、3つの駐車場を月極契約していた。なお、この車の車庫登録は雨宮先生のご自宅になっている。
 

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翌9月21日。千里は朝から白いブラウスとスカイブルーのロングフレアスカートに薄紫のカーディガンという出で立ちでアパートを出ると、インプレッサに乗って大学に行った。実を言うとインプレッサの構内進入許可証と構内駐車許可証は以前から取っていたのだが、あまり使う機会が無かったのである。
 
理学部近くに設けられている駐車場の空きに駐めて、2つの許可証をフロントグラスの所に掲示した状態にして車を降りると、バッグを持って華原先生の教官室を訪問した。
 
要件については既に先週の内に電話しておいたので、まだ夏休み中なのだが、先生は出てきてくれていた。
 
「済みません。お休み中に」
「いや大丈夫だよ。研究があるからほぼ毎日出てきているし。でもお疲れ様。何か色々変動があって大変みたいね」
 
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「そうなんですよ。本来は今月頭からフランスとチェコに行って、来月はインドという予定だったのが、両方の大会が重なってしまって、私はインドの方にだけ行ってくれということになりまして、これが最新の日程表です」
 
と言って千里はバスケ協会からもらったスケジュール表のコピーを渡す。
 
「それで今夜から合宿所に入ってそのままインドに渡り、帰国するのが10月5日になるので、申し訳ありませんが、また講義の受講登録をお願いできないかと思いまして」
 
と言って、千里は希望する講義のリストを見せた。
 
「じゃ、受講申込書をもらっておいたから、これに書いてくれる?」
「はい」
 
と言って千里は受けたい講義を全部申込書に記入した。
 
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「帰国後は色々行事とかがあるかも知れないし、余裕を見て10月8日(金)までは、授業に出ていなくても出席扱いにするから」
と先生はカレンダーを見ながら言う。
 
「助かります」
 
「講義の登録に関しては、来年の春からは学内ネットで学生自身がオンラインで登録できるようになる予定なんだけどね」
 
「へー。すると学内にノートパソコンを持ち込んで、そこから登録するんですか?」
と千里が訊く。
 
すると華原先生は目をぱちくりさせた。
 
「いや。オンラインなんだから、君が沖縄とか北海道で合宿していようと、ブラジルで大会に出ていようと、そこから学内ネットに接続して登録できるよ」
 
「え!?そんな大学の外から接続できるんですか?学内ネットなのに」
と千里がマジで驚いて言う。
 
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すると華原先生はジョークと思ったようで
 
「君って、時々面白いこと言うね」
と言って笑っていた。
 
後ろでは《きーちゃん》や《せいちゃん》が顔をしかめていた。
 

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「だけど君今日は女性らしい格好をしてきたね」
と華原先生は言った。
 
「え?」
「ごめーん。これセクハラだよね?」
「あ、いえ全然気にしませんけど、そんなに私、女らしいですか?」
 
「君のスカート姿は初めて見たような気がして」
 
「あぁ!」
と千里は言った。
 
「いつも自転車とかスクーターで通学しているので、たいていズボンだったんですよ」
「なるほどー!」
 
「今日はこの後、回る所があるので車で来たんで、それでスカートでもいいかなと思ったんですよね」
 
「ああ、そういうことだったのね」
と先生は納得している。
 
「それに最近、忙しくて時間が足りないから、自転車での移動が減っている感じで」
 
「君、どこに住んでいたっけ?」
「**町なんですよ」
「そんなに遠かったんだ!」
「入学した時に、家賃のひたすら安い所を探したもので。そこ共益費込みで11,000円なんです」
「それは安い!」
「でも交通費が掛かりすぎで」
「そりゃそうでしょ」
「だから今年の代表活動が落ち着いたら引っ越すかも知れません」
「それがいいかもね」
 
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華原先生との話が終わると、千里は学食で早めの昼食を取った。それで出ようとしていたら、紙屋君にばったり遭遇する。
 
「おお、千里可愛い」
などと彼は言う。
 
「そんなに?でも清紀もキュロットなんて珍しいね」
「休み中だし、誰にも会わないだろうと思ったら、千里に遭遇するからなあ」
「スカートにすればいいのに」
「さすがに恥ずかしい」
 
「私みたいなこと言ってる。でもそういう服の時、トイレどうすんの?」
「ふつうに女子トイレ使うけど」
「ああ、やはり清紀って女子トイレに慣れてるよね?」
「知ってる人がいる所では使わないけどね」
「今度通報してあげよう」
 
「勘弁して。でも初めてじゃない?千里がスカート穿いて学校に来たのは?」
「そうかも。でも私、入学式ではふつうにスーツ着たんだよ」
「スーツって背広?」
「まさか。レディスフォーマルだよ」
「びっくりしたー!千里の背広姿なんて想像がつかないし」
「塾の先生のバイトした時、実は彼氏から借りて着てみたけど、違和感ありありだった」
「そりゃ変だよ」
と紙屋君は言う。
 
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「この後はいつもこんな格好?」
「そういう傾向になるかもね。この後ちょっと海外に行ってくるから戻るのは10月上旬だけど、その後はもうこんな感じにしちゃうかも。例によってその間は公休扱いにしてもらえる」
 
「海外って性転換手術?」
「まさか。私がとっくに手術済みなのは知っている癖に」
 
紙屋君は千里のフルヌードを見ている数少ない男の子のひとりである。
 
「じゃ、バスケットの大会?」
「そうそう」
「じゃ頑張って金(きん)取っておいでよ」
「ありがとう。取ってくるつもり」
 
紙屋君とは笑顔で握手して別れた。
 
「じゃ千里、今後はスカートで出ておいでよ」
「清紀もスカート穿いてくるといいよ〜」
 

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