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■娘たちの予定変更(18)

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千里たちは10時前にホテルをチェックアウトした。東京への帰り新幹線のチケットはフリーにしてあったので、玲央美・彰恵・江美子の4人で山形市在住のU20代表・鶴田早苗に連絡を取り、落ち合ってお昼を一緒に食べることにした。
 
山形駅そばの霞城セントラルに行き、24階にある中華レストランに入った。窓際の席に案内してもらったので、山形市の眺望を楽しみながら食事をすることができた。
 
「結果的には落選したんだし、やけ食いしようよ」
と玲央美が言うので、
「じゃ財布は私が持つから、どんどん頼んで」
と千里が言い、コース料理を頼んだ上で更にたくさん追加で注文した。
 
お店の人が心配になったのか、途中で
 
「今このくらいのお勘定になっているのですが」
と言いにきたが、千里が財布から黒いカードを出して
「これで払いますから、伝票作っておいてください」
と言うと
 
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「分かりました!お預かりします」
と言い、そのあと、どうも対応が丁寧になった感もあった。
 
「何か凄いカードを見た気がした」
と銀行員である早苗が言う。
 
「まあ、けっこうあれでハッタリが効くよね」
とやはり銀行員で、これまで数回千里があのカードを使う所を見ている玲央美が言った。
 
「あれ会費が結構痛いんだけどね。あのカードでしか決済できないようなものが時々あるんだよ。私、突然ドイツまで0泊で行ってきてとか言われたこともあるし」
 
「なんか大変そうだ」
 
「朝4時にパリに着いてハンブルグに移動して、フランクフルトを21時の便で帰って来たよ」
「まじ!?」
「冗談ではなかったのか」
「ワールドワイド・ビジネスレディだね」
 
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結局1時間半ほど大量に飲み食いして、お勘定が14万円もあった。あはははと思いながら、持って来てもらった端末に暗証番号を打ち込んで決済した。
 
「でも本当におごってもらって良かったの?」
「うん。OKOK」
「この子、昨年の税金2億円払ってるから」
と玲央美がバラしてしまう。
 
「うっそー!?」
「そんな高額納税者なんだ」
「うん。だから個人事業主では辛すぎるから、個人会社設立したんだよ。もし株式を買いたいという人はいつでも歓迎。1株500円」
 
と言って、取り敢えず株式申込書を彰恵と早苗に渡した。玲央美と江美子は実は既に千里の会社の株を所有している。
 
「500円なら買ってもいい気がしてくるなあ」
「まあ定期預金よりは良い配当ができるつもり。但し倒産したらごめんね」
と千里は言った。
 
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「ねね、そんなにお金あるなら、うちの銀行に定期預金作ってくれない?利率があまり高くなくて申し訳無いけど」
と早苗が言う。
 
「いいよー。1000万円くらいでいい?」
「そんなにしてくれるなら、大歓迎。サービス品たくさん出すね」
 

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食事の後、何となく
 
「食べたら身体を動かさないと変だよね〜」
という話になる。
 
「どこか体育館借りて少し汗を流そうか」
などと江美子が言い出すと
 
「だったらうちの練習場に来てよ」
と早苗が言うので、みんなでお邪魔することにした。
 
練習場には早めに銀行の仕事をあがったメンバーが来て練習をしていた。千里が昨年7月にお世話になったキャプテンの奥山さんに
 
「ご無沙汰しておりました」
と言って挨拶する。
 
「うん。ご無沙汰、ご無沙汰。今日は例の男子に見える刈り上げ頭の子は来てないの?」
「あの子だけフル代表に選ばれて、私たちは落選したので、憂さ晴らしにやけ食いしてきた所です」
 
「おお、やけ食いいいよね」
などと奥山さんは言っている。
 
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それで彼女らと一緒に練習するが、
「あんたら強ぇ!」
と言われる。
 
「村山さんも、佐藤さんも去年の倍くらい強くなっている」
とスモールフォワードの鹿野さんが言っていた。
 
「今月下旬の実業団競技会では、もし当たったら佐藤さんにはダブルチームで行かないと無理だな」
などと鹿野さんは言っている。
「お手柔らかに」
と言って玲央美は笑っていた。
 

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練習場には昨年ここにお邪魔した時にも居た“男の娘”選手・梅津真美(180cm)も居た。昨年に比べて、かなりリバウンドを取るのが進化していた。
 
「真美ちゃんも随分進化している」
と千里が言うと
「ありがとうございます。頑張ってます」
と真美は答える。
 
「ところで去勢はしたの?」
と小さい声で訊くと
「結局、去年の冬のボーナスで手術受けたんですよ」
「おお、これで真美ちゃんも女の子の仲間だね」
「みんなから祝福してもらいました。女性ホルモン2年間していたら女子選手になれるという話なんで、それまでしっかり鍛えます」
 
「うん。ただ睾丸が無くなるとどうしても筋肉は落ちるからね」
「はい。それは仕方ないと思っています。その分、頑張って練習します」
「うん。偉い偉い」
 
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夕方くらいになって奥山さんが心配する。
 
「君たち、最終は?」
「江美子がいちばん大変なはず」
 
「新大阪まで乗り継げる最終は山形駅18:08ですけど、都内に1泊してから帰ってもいいです。だから山形新幹線の最終20:40に乗ろうかと思っているんですけどね」
 
「ああ、それでもいいかもね」
 
それで結局18時に練習をあがることにする。奥山さんたちに御礼を言って4人は汗を掻いた服を着替え、バスで山形駅に移動した。早苗も付き合ってくれた。みどりの窓口で4つまとまった座席を確保するが、20:40にはまだ時間があるので、駅に隣接したS-PAL内のロッテリアに入り、おしゃべりしながらハンバーガーやリブサンドなどを食べる。代金は取り敢えず玲央美が払っておき、後で早苗以外の4人で割り勘にすることにした(つまり早苗の分はおごり)。
 
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散々追加注文して結構食べてからロッテリアを出る。土産物店に入って、早苗に
 
「もらえるとしたらどのお土産がいい?」
と訊いたら
「個人的には、ただっ子かなあ」
と言うので、だだっ子18個入りを4個千里が買って、早苗に
「重いけど、皆さんへのお土産に」
と言って渡した。
 
改札口で早苗と別れ、新幹線が(新庄方面から)到着するのを待っていたら、千里と玲央美の携帯が鳴る。千里が見るとフル代表の田原監督からである。
 
「村山君、今どこに居る?」
「今山形駅で、東京行きの新幹線を待っている所です」
「東京着は何時?」
「23:28です」
「だったら、それからでいいから、タクシーでバスケ協会まで来てくれない?緊急事態が発生したんだよ。バスケ協会の場所は知ってる?」
「はい。何度か行きましたから」
 
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電話を切ると玲央美も同じ要件だったようである。玲央美は富永代表からだった。
 
「何だろう?」
「あれだけ緊急事態が起きて、更に緊急って何だろうね?」
と言い合った。
 
ふたりが言っているのは黒江さんの骨折とU20日程変更である。
 

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更にその後今度は、昨日まで一緒にフル代表候補をしていて、U20代表にも入っている華香から玲央美に電話が掛かってくる。
 
「ボク、突然バスケ協会から呼び出されたんだけど、何かあったの?」
などと言っている。
 
「今、ソラ(華香のコートネーム)はどこに居るの?」
 
「山形から新幹線乗り継いで、夕方、(愛知県の)豊明(とよあけ)に戻った所だったんだよ。寮に戻って鍵を開けようとしていた所で呼び出されたから、結局そのまままた駅に向かっている最中。パスポートも持って来てと言われたけど、そもそも合宿の荷物を持ったまま。寮に置いてたおやつ少し追加したけど」
 
「パスポート!?」
 
「もしかして、白井さんか馬田さんかが怪我か急病でもしたのでは?」
「え〜〜!?」
「それでソラが呼び出されたのかも知れないよ」
「そうか!黒江さんが怪我しちゃったから!」
 
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そうなのである。白井か馬田に何か事故があった場合、本来なら黒江さんが補充されるべきであった。ところが彼女も怪我しているため、華香が緊急にフル代表に入れられることになったのかも知れない。
 
しかし華香がフル代表に入ったら、またU20のメンバーが足りなくなる!
 
千里たちが呼び出されたのは、その話し合いのためかも知れない。
 

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「でもなんで私たちが呼び出される訳?U20のキャプテンは朋美なのに」
と千里。
「うーん。私がキャプテンで千里が副キャプテンと思われていたりして」
と玲央美。
 
「あ、そういえば彰恵は副キャプテンだよね?」
「すまん。目立たない副キャプテンで」
と彰恵は言っていた。
「彰恵も来る?」
「いや、呼ばれた人だけが行くべき」
 

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新幹線に乗ってから、ロッテリアの支払いと、早苗に渡したお土産の代金を精算しようということにする。
 
ロッテリアのレシートを合計してみたら5人で12540円食べていた。
 
「ロッテリアでこれだけ食べられるのは凄い」
「まあ激しい練習の後はお腹空くよね」
などと言いつつ、お互い感心していた。
 
「早苗に渡したお土産の分は私の負担でいいよ」
と千里が言う。
「じゃそれは高収入さんに任せた」
 
それでロッテリアの分だけ割り勘にしようということになったが、玲央美が端数はいいよと言ったので、彰恵・江美子・千里が3000円ずつ玲央美に払った。
 

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新幹線の中ではみんな寝ていた。23時半に東京駅に到着。ここで解散する。
 
江美子は予約していたホテルに行くが、彰恵も今からつくば市には帰れないので結局江美子と同じホテルに泊まることにして(新幹線車内から予約をシングルからツインに変更した)、一緒にタクシーで移動していた。
 
千里と玲央美もタクシーで代々木のバスケ協会(この当時は岸記念体育会館)に向かった。
 
「私も何度か来たけど、なんかいつ崩れてもおかしくないビルだよなあ」
と玲央美。
「かなりやばいよね、これ」
と千里。
 
それで5階のバスケ協会の事務局に行く。華香がまだなので少し待ってと言われたが、その華香もすぐに到着した。
 
一緒に会議室に案内される。
 
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フル代表のチーム代表富永さんと田原監督・夜明コーチ、そしてU20代表の篠原監督と高居チーム代表が居た。他に数人顔を知らない人がいるが、全員厳しい顔をしている。どうも千里たちが入室する前の段階でかなり厳しい議論をしていた雰囲気である。
 
千里たちはまるで面接でも受けるような気分で着席した。
 
「U20の高田コーチと片平コーチにもこの場に臨席して欲しい所なんですが、片平さんは今沖縄、高田さんは札幌で、とても無理ということで、篠原監督に任せるということでした」
と強化部長を名乗る人が言った。
 

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「それで説明しますが、実は昨日の午前中に発表したメンバーでエントリー表を提出したら白井真梨さんのエントリーが拒否されました」
と強化部長が説明する。
 
「え!?」
 
「実は彼女はアメリカでU18のアメリカ代表に選ばれ、FIBA Americas U18選手権に出場したことがあるのです。1度だけですが」
と強化部長。
 
「代表になっていたのですか!?」
 
「だから、そもそも日本代表になれる訳が無かったですよね?」
と篠原さんが指摘する。
 
「申し訳ありません。代表経験があった場合に、他国では代表になれないという規定はフル代表の場合のみと認識しておりましたもので」
と強化部長さんは歯切れが悪い。
 
あれ?そんな話を昨夜富永さんとしたじゃん、と千里は思った。
 
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「それはおかしい。同様のケースは中国籍の**選手がU18アジア選手権に中国代表として出ていたのに、EuroBasketのギリシャ代表になろうとして拒否された事件があったはず。それをご存知無かったんですか?」
と篠原さんは厳しい。
 
「申し訳ありません。きちんと認識しておりませんでした」
と強化部長。
 
高居さんが発言する。
「そうすると、白井さんって今後も日本代表にはなれませんよね?」
「なれません」
 
「彼女、日本代表になってくれと言われて日本に帰化したんでしょう?」
「そのあたりは何とも・・・」
「これかなり揉めませんか?バスケ協会だけじゃなくチームとも」
 
「すみません。各チームの事情まではこちらとしては把握できません」
と強化部長は逃げ腰である。
 
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「そういう訳で、こちらがエントリー表を提出したのが11時でして、それはフランス時刻では朝4時になります。向こうから昼12時、日本時間の19時に拒否の連絡が届きまして。エントリーの締め切りが向こうの時刻で夕方16時、日本時間で夜23時でしたので、急遽、田原さん、富永さんに連絡致しまして、交替で登録するとしたら、中丸さんしかないということでしたので、御本人の了承も得ないままで本当に申し訳無かったのですが、日本時間で夜22時半に中丸さんの名前を白井さんに代えて書いたメンバー表を提出致しました」
 
と強化部長は言った。
 
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娘たちの予定変更(18)

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