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■娘たちの予定変更(23)

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マカロンを食べた後、朋子が「実は朝御飯も作っていたんだけど」と言うと、千里が「じゃ、そちらも頂きましょう」と言うので、冷めてしまった鰤の照焼きをレンジで温め直し、お味噌汁の鍋も火を点ける。ジャーの御飯を盛る。千里は食器棚から茶碗を3つ出した。
 
色鍋島っぽい赤と青の唐子模様の茶碗に盛ったものを朋子の所に、放射線状の模様の小石原焼きっぽい茶碗に盛ったものを桃香の前に、そして花鳥模様の藍鍋島っぽい茶碗(しばらく使ってない雰囲気だったのでいったん洗った)に盛ったのを千里自身の席の所に置く。暖めていたお味噌汁は山中塗っぽい椀の黒いのに盛ったものを朋子の所に、茶色いのに盛った物を自分の所に、合鹿椀っぽい男性的な椀に盛ったものを桃香の所に置く。
 
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そしてお箸は輪島塗の箸が何本も立っている箸立てから、緑色のを朋子の所に、黒いのを桃香の所に、赤いのを自分の所に置いた。
 
お魚を皿に盛っていた朋子が皿をテーブルの所に置いてから気付く。
 
「あら、茶碗とか箸とかは桃香が教えてあげた?」
と朋子が言う。
 
「いや、私は何も言ってない」
と桃香。
 
「あ、済みません。違ってました?」
「もしかして知らずに適当に置いた?」
「何となくここかなぁという感じで置いたのですが」
「私のと桃香のは大正解」
「わあ、良かった」
 
「千里ちゃんの所に置かれている茶碗・お椀・お箸は、2年前に亡くなった私の伯母が使っていたものだけど、構わなければ、千里ちゃんが使っていいよ」
 
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「じゃ、使わせて頂きます」
と千里は笑顔で言った。
 
「じゃ、千里がうちに来た時はそれを使うということで」
と桃香が言ったのに、朋子がピクッとしたような気がした。
 
(朋子は桃香の言葉から、この子を頻繁にうちに連れてくるつもり→やはり恋人なのか?→やはり双方ウェディングドレスの結婚式?と発想が飛躍してややショックを覚えたのである)
 
「でも桃香さんの持ち物はだいたい男性的なものが多いから、結構見当が付きますよ」
と千里は言う。
 
「そうそう。この子、男っぽいものが好きなのよ」
と朋子は言った。
 
「1万円くらいで性転換手術が受けられるなら男になりたいのだが」
などと桃香は言っている。
 
「料金だけの問題な訳?」
と朋子は呆れたように言う。
 
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「女から男への性転換手術は料金が高いんですよ。どうしても200万くらい掛かっちゃうみたいですね」
と千里。
 
「そんな高い手術はパスだな」
と桃香は言った。
 

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御飯が終わった後、茶碗を片付けて、千里が洗う。千里が洗剤を最小限に使う洗い方をしているのに朋子は感心していた。洗い終わった食器を拭いて食器棚に戻すが、千里は正確に元あった場所に戻す。
 
「あら、よく置き場所が分かるわね」
と朋子。
「出した所に戻しただけですよ」
と千里。
「そんなの私なら忘れてしまう」
とまだ雑誌を読んでいる桃香が言った。
 

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その後で、玄関のそばにある座敷に移動して、着付けの練習を始める。
 
(北陸の家は、玄関の横に座敷があり、引き戸を開けることで、玄関を通らずに直接そこにあがることができるようになっている形式のものが多い。ここでお祭りの時に通りかかった知人に声を掛けて座敷にあげ、接待できるようになっているのである)
 
最初に千里はパッドを外すように要求された。和服はできるだけ寸胴体型のほうが着せやすいので、凹凸のある体型の場合はそれを補正しなければならないと言う。
 
千里はこんなに胸の無い身体って、なんか懐かしいと思ってしまった。胸にパッド入れていた時期も懐かしい。
 
千里の下着姿を見て朋子が何だかがっかりしたような口調で言う。
 
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「パッド外しても胸少しあるのね」
「あ、はい。ずっと女性ホルモン飲んでいるので」
 
朋子が更にがっかりした表情になる。
 
「おちんちんはもう取っちゃってるの?」
「いえまだ付いてますが隠してます」
と千里は答えた。
 
「あら、付いてるのなら問題ないわね」
と朋子が少し明るい様子になって言うので、どういう意味だろう?と千里は訝る。桃香は
 
「へー。隠せるものなのか」
などと他人事のように言っていた。
 

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9月18日は1日中着付けの練習をした。
 
お昼は千里が「ありあわせの材料で作っていいですか?」というので朋子が任せると、千里は冷蔵庫の奥の方にあった賞味期限の切れた魚肉ソーセージを朋子に確認してから使い、キャベツの微妙に残ったもの、タマネギの芽が生えかけていたものなどを使って、炒め物を作った。
 
「おお、美味しい美味しい」
と言って桃香が食べている。
 
「千里ちゃん、お料理上手いし、こういう材料をうまく使うのって主婦の鑑(かがみ)だわあ」
と朋子も褒めている。
 
「千里、私の嫁さんにならんか?」
などと桃香は言う。
 
「ごめーん。私、好きな人がいるから」
と言ったら、朋子はまたがっかりした表情を見せた。
 
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「千里ちゃんの好きな人って、女の子、男の人?」
と朋子は訊く。
 
「えー?男の人ですよぉ。私レスビアンじゃないし」
と千里が発言するので
 
「えーっと・・・・」
と朋子は考えている。
 
桃香は(当時はまだ千里に恋愛感情を持っていなかったので)
「そういえばバレンタインの時、男の子にチョコ贈っていたなあ」
などと単純に言っていた。
 

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晩ご飯は千里と朋子が着付けの練習をしていたので、桃香が買物に行ってきたものの、桃香はカップ麺を3個に、お総菜のトンカツとフライドチキン、菓子パンをたくさん、さきイカ・サラミソーセージ、そしてキリンラガービールを1箱買ってきた。
 
「桃香は少なくとも主婦にはなれないようだ」
と朋子が呆れたように言っていた。
 
「じゃ明日は千里が買物に行くということで」
とさっそくビールを開けて飲みながら桃香は答える。
 
「うん。いいよー」
と千里は笑顔で答えた。
 

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夜は、桃香の部屋に布団を2つ敷いて千里と桃香が寝ていたのだが、千里は夜中に何か異様な気配を感じて目を覚ます。
 
触られている!?
 
「桃香?」
と千里が小さく声を出すと、桃香はいきなり千里にキスしようとした。
 
慌てて身をかわす。
 
桃香が
「少しくらいいいじゃん。やらせて」
などと言って、更に千里に抱きつき、自分の下にしようとしているので千里は“身の危険”を感じて立ち上がる。
 
「ちょっと外に出てるね」
と言って、毛布とバッグを持って部屋の外に逃げ出した。
 
えーっと、この後どうしよう?と思ったら《たいちゃん》が
『そちらの隣の部屋に寝られるよ』
と言うので、そちらに入って乱雑に物が置かれているのの隙間を見つけて横になり、毛布をかぶって寝た。《たいちゃん》はこの部屋の押し入れから布団を1枚出してきて、千里に掛けてくれた。
 
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『りくちゃん、私を守って』
『OKOK。あの子をこの部屋には入れないから』
 
それで千里は安眠したが、部屋の戸を開けようとする音が聞こえていたような気もした。
 
ちなみにこの部屋は、昔朋子の姉・喜子が使っていた部屋(喜子が大阪に移動した後は、朋子の妹の典子が使っていた)で、長く空き部屋になっていたが、約半年後には青葉が使うことになる。
 

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翌日も1日着付けの練習をする。千里はどんどん上手くなっていった。お昼前に千里が朋子のヴィッツを借りて買物に行って来たが、千里はフクラギ(ブリの小さいの。関東ならイナダ、関西ならヤズ)を1匹丸ごとの他、野菜、竹輪、ウィンナー、食パン、ジャムなどを買ってきた。
 
「あら、丸魚なんだ」
「包丁とまな板貸してください。今、おろしますから」
と言って、それをあざやかに三枚に下ろす。そして片身をスライスしてお刺身にしてお昼御飯用に出した。
 
「残りは晩ご飯に焼魚か煮魚にしましょう」
 
「なんかお魚屋さんみたいにあざやかにおろしたね」
「あっという間だった。凄く速い」
 
「私の父が漁師なので、漁師の娘なら魚くらいおろせなきゃと言って小さい頃から母に仕込まれたんですよ。だから鮭・鱒とかホッケみたいに寄生虫のいる魚でもちゃんと寄生虫を取り除いておろせますよ」
 
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「それは凄い」
と朋子。
「やはり私の嫁にならんか?」
と桃香。
 

2日目の午後は桃香が出かけて、どうも友人(恋人?)に会ってきたようであった。その間も千里は朋子と一緒に着付けの練習を続けていた。
 
その晩千里は「私こちらで寝るね〜」と言って、最初から隣の部屋で寝た。《りくちゃん》が守ってくれたので、熟睡することができた。
 
3日目の午前中まで着付けの練習をして、街着・浴衣に関しては、だいたい着られるようになった。応用で付下げなども借りて着てみたものの、うまく着られた。
「千里ちゃん、物覚えがいいよ。どんどんうまくなる」
と朋子は千里を褒めてくれた。
 
お昼御飯は、昨日買っておいたウィンナーをボイルして、昨日買ったジャガイモや人参などで作ったポテサラと一緒に食べる。
 
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「桃香じゃなくても、私が千里ちゃんをお嫁さんに欲しくなった」
と朋子から言われる。
 
「だって初日の桃香の買物なんて5000円使っても晩ご飯1回分しか無かったのに、千里ちゃんの買物は1500円で、昨日のお昼・晩・今日の朝・昼と4回分の食材になっている」
と朋子。
 
「実を言うと、そのあたりが私は苦手だ」
と桃香も言っている。
 
「すみませんけど、私、他に好きな人がいるので」
と千里は言った。
 

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午後少し練習した後で。桃香と朋子も適当な和服を着て、3人でお出かけした。朋子のヴィッツに3人で乗り、朋子の運転でイオンモールまで行くが、時間によってはそのまま高岡駅に行って帰るかもということで荷物も持っていく。
 
イオンモールの駐車場に車を駐めたあと
「そういえばここにも着物屋さん、あったね」
などと言ってエスカレーターで2階に上る。
 
エスカレーターを登った所には喜久屋書店がある。朋子は左方向の通路に進もうとしたのだが・・・・桃香が
 
「あっ、ちょっと待って」
と言って、書店の方に行き、なにやら雑誌を読み始める。
 
すぐ終わるかと思ったが動かない!?
 
「桃香、桃香」
と朋子が声を掛けるものの
「ごめん。適当に散歩してて」
などと言う。
 
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「お母さん、お茶でも飲んでましょうか?」
と千里が誘い、桃香を放置して結局フードコートに行く。
 
「何か適当に買ってきますね」
と言って千里はマクドナルドに行き、ホットミルクティーとホットコーヒーを買ってきた。
 
「どうぞ」
と言ってホットミルクティーを朋子に勧める。
 
「あら、ちょうど私、紅茶が飲みたいなと思ったのよ」
と言って朋子は受け取った。
 

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結局、この日桃香は2時間以上本屋さんから動かなかったので、千里と朋子はフードコートで、たこ焼きなどもつまみながらおしゃべりをしていた。
 
「そういえば言葉が標準語っぽいけど、東京近辺の人だったっけ?」
「いえ。北海道なんですよ。北海道の内陸部の言葉って、関東の言葉に近いんです。微妙にイントネーションが違うんですが」
「へー!そうなんだ。あなた色白だもんね〜。やはり北国育ちか」
「富山も雪が深そうですね」
「ああ。北陸も意外に雪が多いのよ」
 
しばらく話している内に朋子は言った。
 
「あなたの身体を見ていなかったら、あなたが男の子だというのが信じられない。話している感覚が女の子と話している感覚でしかない」
 
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「そうですね。私、自分が男だと思ったことは、生まれてこの方無いので」
「なるほどね〜!」
 
「だから私は桃香さんの女友だちということにしておいてください」
と千里は言ったのだが、
「そこが問題なんだけど」
と朋子が言う。
 
「はい?」
「桃香は女の子が好きだから、あの子、恋人以外の女の友だちってほとんど居ないんですよ。千里ちゃんはそっちじゃないよね?」
 
「すみません。私は女の子には興味無いので。それに私、交際中の男性もいるんですよ」
 
「そっかー。じゃ恋愛の可能性は無いか!」
と朋子は嘆くように言った。
 
「でも確かに千里ちゃんくらい女の子らしいと、付き合ってくれる男の子もあるかもね」
 
その時、千里はやっと朋子がここまで自分のことを桃香の恋人と誤解していたことに気付き、冷や汗を掻いた。
 
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「えっと・・・・桃香さんってFTMではなくてレスビアンでいいんですかね?」
と千里が訊くと朋子は急に不安になったようである。
 
「私実はそのあたりの区別がよく分からないのよ。あの子、ちんちんはあってもいいとよく言っている」
 
「え〜っと、一昨日の晩、私の布団に潜り込んできたのって、まさか・・・・」
「うーん・・・千里ちゃん、貞操大丈夫だった?」
「お股に触られてキスされそうになったけど、寝ぼけているんだろうと思って自主的に隣の倉庫のような部屋に毛布持って避難しました。実は昨夜は最初からそちらで寝せてもらいました」
 
「避難して正解だったかも」
「あははは」
 

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娘たちの予定変更(23)

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