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■娘たちの予定変更(13)

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(C)Eriko Kawaguchi 2017-04-14
 
千里は大学のレポートを無事期限の8月6日(金)までに全て提出した。4ヶ月分の授業内容をわずか半月くらいでトレースしながら書いたので、頭がオーバーロードしたような気分であった。
 
8月8日はそれで気分転換も兼ねて、先日の呉服店で開かれた、着物ミニ講座に参加した。若い女の子が多数居て、千里も心が解放されていく気分になる。
 
講座が終わってお店の外に出たら、ばったりと桃香に出会う。実は桃香はまた渋谷で迷子になっていた所であった。
 
「千里、和服買うの?」
と桃香が訊く。
「実は先週ここで浴衣買ったんだ」
と千里は答える。
 
「へー?男物?女物?」
「えへへ、女物」
「おぉ。千里は女物の服を着るべきだと思っていたよ」
と桃香は言った。
 
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結局隣の喫茶店に入る。メニューを見て桃香がギョッとした雰囲気があったが、千里が
「金曜日にバイト代入ったから、ここは私が持つよ」
と言うと、桃香はホッとした感じであった。
 
「サンキュ、サンキュ。じゃ何かの時に埋め合わせを」
などと桃香は言っている。
 
「そういえば千里、先週の試験期間中、全然見なかったけど、大丈夫?」
「実はちょっと休んでたから、レポートに代えてもらったんだよ。もう全部レポートは出した」
「それは良かった。もう大丈夫?」
「うん。平気平気」
 
どうも桃香は千里が病気で休んだと思ったようである。
 
「呉服屋さんから出てくるから振袖でも買うのかと思った」
桃香は甘いコーヒーを飲みながら言う。
 
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「実は振袖を買いたいなと思ってるんだ」
 
と千里はブラックコーヒーを飲みながら答える。
 
「へー、いいんじゃない?成人式用でしょ?」
「うん。でもそんな写真、父親には見せられないけど」
「見せちゃえばいいじゃん。どうせそのうちカムアウトするんでしょ」
「カムアウトかぁ」
 
「やはり千里、女の子になりたいんだよね?」
「そうだねぇ。小さい頃ずっと女の子になりたいと思っていた」
「なっちゃえばいいと思うよ〜。最近そういう子、珍しくないし」
 
桃香は、寝坊での遅刻欠席が多い上に、授業よりバイトを優先しているので特にこの頃までは大学に出てくる率が低く、千里の“実態”があまり分かっていなかった。
 
「でも私これまで和服って全然知識が無かったんだよね。こないだ浴衣を買ったから、着方を解説してあるサイト見ながら頑張って着てみて、夜中のコンビニとかに行ったりしてたんだけど、5分くらいで着崩れしちゃって」
 
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「あれ最初はなかなかうまく行かないと思うよ。私は自己流で着ているけど、人に教えるまでの自信は無い」
と桃香は言う。
 
「でも実際問題として、振袖買うにしても、どんなのがいいかとか、どんなのが似合うかとか、さっぱり分からないんだよね。幸い、成人式まであと4ヶ月くらいあるし、浴衣の季節じゃなくなったら街着とか買って、それで又練習してから、12月くらいに振袖買おうかなと思っているんだよ」
 
と千里が言うと、桃香はその考えの重大な欠点を指摘する。
 
「千里、振袖は買ってすぐ受け取れるものではない。お仕立てに時間が掛かる」
「え!?」
 
「特に千里は背が高いから、既製品ではサイズが合わないはず。浴衣着てるって言ってたけど、おはしょり作れないでしょ?」
 
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「うん。実は、おはしょり無しで着てる」
 
「お仕立てには3〜4ヶ月は掛かると思う。だから今月中くらいに買っても多分成人式ぎりぎりだよ」
 
「わぁ、それはマジで考えてなかった」
「振袖選び、手伝ってあげようか?見立ててあげるよ」
「それ、頼もうかなあ」
 
「でも千里、どんな浴衣買ったの?」
「赤い花柄なんだけどね」
「それ見たい。そうだ。今週の花火大会とかに、それ着てこない?なんか数物科の女子みんなで行こうとか言ってたよ」
 
そういえばもし合宿とかにぶつからないなら花火大会を見に行かない?というのは友紀からも誘われていた。千里は普通の服で行くつもりだった。
 
「え〜?みんなの前で女物の浴衣を着るの?」
「みんなにも千里が女の子であることを理解してもらった方がいい。それに夕方からだから、多少変でも目立たないよ」
 
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女の子だってことはだいぶ理解されている気はするが、確かに多少着付けがまずくても、夕方なら目立たないかも知れないなという気はした。
 
「そうだなあ。花火大会に浴衣着ちゃおうかな」
「うん。頑張れ頑張れ」
 

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8月11日。千里は日中、千葉県クラブ選手権大会が近いので、市内の体育館に集まって練習していたローキューツのメンバーと一緒に汗を流した後、いったんアパートに帰ってシャワーを浴びる。
 
その上でパンティとブラにスリップを着けてから、浴衣を着た。帯の結び目があまり自信が無かったものの、まあいっかと思い(浴衣では自転車が使えないので)タクシーに乗って、桃香との待ち合わせ場所まで行った。
 
やがて桃香がやってくる。桃香はピンクの浴衣を着ていた。千里の帯の結び方がおかしいと言って直してくれた。
 
一緒に花火大会の会場へ歩いて行く。
 
他の子たちも近くまで来ているはずなのだが、携帯がつながりにくくなっていて連絡がつかない。それでこの日は結局桃香と2人だけでずっと花火を見ていた。
 
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3時間くらい桃香とおしゃべりしていたのだが、桃香とこんなに長時間話したのは、ひょっとしたら初めてかもという気がした。桃香はさかんに千里にスカート穿いて大学に出ておいでよとか、いきなりスカート穿く勇気がなかったら、最初はキュロットでもいいんじゃない?などと唆していた。
 
千里も“男装”での通学が限界に来ているのは感じていたので、もう夏休み明けからは女装で通学するようにしようかなぁと思い始めていた。
 
そういえば、私、なんで男装で通学しているんだろう?と考えたら、どうにも理由が分からなかった。
 
千里がそんなことを考えていると、後ろで《りくちゃん》や《いんちゃん》が呆れているようだった。
 

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花火大会から帰ってバッグの中から携帯を出すと、母から着信していたことに気付く。それで少し遅い時間ではあるものの、掛けてみた。
 
「ごめんねー。友だちと花火大会に行ってたから気付かなかった」
「それはいいけどね。あんた今年もお盆は帰って来られないんだっけ?」
「無理〜。今年は10月まで全く時間が無いんだよ」
「玲羅が言ってたけど、今年はあちこち海外にも行ったんだって?」
「うん。バスケの試合で、6月にはロシア、7月にはリトアニアに行った。今月は海外には行ってなくて沖縄に行った程度だけど、来月はチェコに行って、10月にはインドに行ってくる」
 
「忙しいね!」
「去年は夏にタイに行っただけだけどね」
「・・・・」
「どうしたの?」
 
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「タイって、もしかして性転換手術を受けた?」
「まさか。試合やってただけだよ」
「あんた結局いつ性転換手術したんだっけ?」
「うーん。。。再来年くらいに受けようかと思っているんだけど」
「え?だって既に済んでいるよね」
「まさか」
「うーん。。。。」
 
「あ、そうそう。忘れてたけど、今月末は深川と札幌に行くよ」
「留萌には来ないの?」
「チームと一緒だから無理。8月28日に札幌で試合があって、その前に23日から25日まで深川市で合宿するんだよ」
「へー」
「それで28日の試合に出すと言われてるけど、この試合、HTBで録画になるけどテレビ放送されるから」
「ちょっと待って。それあんた女子の試合に出るんだよね?」
「私が男子の試合に出る訳ない。それと26日には同じHTBで選手へのインタビューもあって、メインは最終ロースターに選ばれる可能性のある札幌P高校出身の石川選手と佐藤選手なんだけど、旭川N高校出身の私にも一言しゃべらせるからと言われた」
 
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「え〜〜〜!?それ何時?」
「26日のインタビューは15:45から。28日の試合は14:30からでスカイAスポーツ+で生中継されて、HTBの放送は録画で夜中の0:30から」
「そのスカイ何とかってうちのテレビで映るんだっけ?」
「さあ。私そういうの分からないから玲羅に聞いて」
「そうする。どっちみち父ちゃんが間違って見ないように、その時間帯はテレビのコンセント抜いて、テレビが壊れていることにしとこう」
 
「たいへんね〜」
と千里は他人事のように言った。
 

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「そういえば、あんた成人式はどうするの?市から案内が来てたんだけど」
と母は訊いた。
 
「千葉の方で出るよ。留萌の方には出ない」
「何着るの?」
「振袖着ようと思うんだよ。今週末、友だちに見立ててもらって予約するつもり」
「そうかぁ。そっちで着るんならいいか」
 
母としては“世間体”を考えるのだろう。もっとも留萌でも、私のこと女の子と思っている人の方が多いと思うけどね。
 
「写真撮ったら、お母ちゃんに送るね」
「うん」
と母は短く答えた。
 

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マウンテンフット牧場のオーナー山本さんが
 
「俺がおごるから、みんないっぱい食べてよ」
と言って、函館から来た美鈴・ミラ・理香子、旭川から来た天津子・織羽、そして亜記宏と、亜記宏を送って来てくれた龍一さんまで網走から呼び、美智(春美)・しずかも一緒に、焼肉を食べた。
 
子供たち3人は「お肉、おいしい〜」と言って喜んで食べていた。
 
食事の後、子供たち3人を桜川陽子と桜木八雲の2人が
「お姉ちゃんたちと遊んでようよ」
と言って、別棟に連れて行ってくれた。
 
それでその後、大人だけで話し合った。山本さんは
 
「色々各々にわだかまりはあるだろうし、簡単に消えるものではないと思う。でも、あんたたち、子供たちのことを一番に考えて話し合うといいよ」
と言った。
 
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それでこの日、主として話し合ったのは、子供たちをどこに置くかという問題であった。
 
まず亜記宏の許には置けないというのが決まる。
 
男の亜記宏1人でとても子供3人の面倒は見切れない。お店の仕事は夜中まで続くし早朝から仕込みもしなければならない。そうなると子供たちに朝御飯も晩御飯も、食べさせるのが難しいし、学校の参観とかにも行ってやれない。
 
それに亜記宏自身、今は居候(いそうろう)の身である。また破産処理に時間が掛かることから、その間にヤクザ紛いの債権者が来て悪質な嫌がらせをしないとも限らない。安全を考えても当面亜記宏の許には置かない方がいいだろう。
 
それと、重大だったのは、しずか(和志)の性別問題である。
 
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しずかは元々身元不明の少女ということになっていたので、女児として今の学校に受け入れてもらっている。亜記宏の許に引き取ったりした場合、男児として学校に通うことを強要されかねない。
 
それを考えると、しずかは今のままの生活の方が間違い無く幸せである。
 
理香子にしても、現在函館の学校で、男の子たちに「準・男子」と認められて他の男の子たちと、仲良く遊んでいる。理香子も今のままの環境の方が幸せである。
 
そう考えると、結局、子供たちは今居る所にそのまま居た方が良いのでは無いかという方向に、大人たちの意見はまとまっていった。
 

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「それで織羽の性別なんですけど」
と天津子は言った。
 
「私、あの子にお母ちゃんって慕われているし、毎日一緒にお風呂入ってるから見ちゃったんだけど、あの子、性別が曖昧ですよね?」
 
「実はそうなんです」
と亜記宏も言った。
 
「どういうこと?」
 
「あの子の性別は、生まれた時に見た産科のお医者さんもよく分からないと言ったんです。精密検査してもらったら《性別が曖昧である》ということが明確になりました。それで実はあの子は、性別の届出を保留しているんです」
 
「出生届の提出を保留しているの?」
とミラが訊く。
 
「いえ。性別を記載しないまま出生届を出すことが可能なんですよ」
「そんなことできるんだ!?」
 
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「僕も正直、美智と出会っていなかったら、その付近のことも知らなかったと思います。やはり美智との出会いで僕自身、性というものについてたくさん勉強したし」
と亜記宏。
 
美智はそのことばに少ししんみりとしている様子である。
 
「私はあの子を次女と認識していたんだけど、あっちゃんは次男と言ってたね」
と美智が言う。
 
「あの子、結構精神的に不安定みたいで、自分は男と認識している時と、女と認識している時があるみたい。でも僕と有稀子が連れ回って北海道のあちこちに行っていた頃は、ずっと男の子みたいな言動をしていたんです。だから男という意識になってきたのかと思っていたんですけど、今回会ったら女の子になっているから、あれ〜?と思ったんですよ」
 
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と亜記宏。
 
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