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■娘たちの予定変更(6)

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試合が終わった後、今日のロースターになっていた15人はその後休養ということになったようだが、入っていなかった13人で、遠征中確保してもらっている、近くの中学校の体育館に行き、練習をした。ここに試合にも出ていた、玲央美や玲央美の先輩になる石川美樹、そしてレッドインパルスの広川さんなども加わった。
 
やはり主として練習したのが「撞き出しのトラベリング」問題である。
 
「あんたたち途中で居なくなったと思ったら、その練習してたのか」
と広川さんが言う。
 
「これ簑島さんにも教えよう」
と言って、ホテルに戻っていた簑島さんを呼び出していた。
 
「**がかなり怒っていて審判おかしいとか言ってたけど、羽良口さんも横山さんも審判が正しいと言っていた。確かに私もそのあたりはアバウトだったかも知れないよ」
 
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と広川さんは言う。
 
「外国のチームで戦っている人は、しっかりしているでしょうね」
 
この練習は、やっている内に次第に人数が増えてきて、最終的には28人全員が揃ってしまった。今日審判に怒っていたという**さんも「そうだったのか」と言って、素直にトラベリングにならないようにする練習をしていたが・・・
 
「だめだぁ!これで行こうとするとワンテンポ遅れる!」
などと言っている。
 
「そのワンテンポ遅れないプレイを、はい、亜津子ちゃんやってみよう」
 
と広川さんが言って、亜津子に模範演技をやらせてみる。千里がディフェンス係である。
 
「速い!」
「1個余分な動作が入っているはずが、それが逆に相手に対するフェイントになっているのか」
 
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「撞き出した側を突破するとは限らないよ」
と横山さんが言う。
 
「今日のこの後と、明日の午前中もこの練習しよう」
と田原監督も言って、たくさん練習させていた。
 

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亜記宏は荘内さんのお孫さん・龍一さんの車に乗せてもらって美幌町のマウンテンフット牧場の入口まで来た。
 
この牧場に来るには、実は車を使う以外の手段が存在しない。網走駅から40km以上あるのでタクシーなどもいきなり頼むと拒否されてしまうし、ちゃんと予約したとしても往復で3万円くらい掛かる。それなら網走でレンタカーを借りた方がマシだが、カードの類いを持っていない亜記宏はレンタカーを借りることができない。それで結局、お孫さんがここまで自分の車で送ってきてくれたのである。
 
「じゃ僕はいったん網走に戻っていますから、帰る時は呼んで下さい」
「すみません。ありがとうございます」
 
亜記宏は龍一さんの車が去って行くのを見送ると、意を決してゲートをくぐり、建物の方へ歩いて行った。
 
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メインの棟と思われるところで声を掛けるが誰も出てこない。呼び鈴を押しても反応が無い。亜記宏は近くの別の小さな棟まで行く。牛の乳を搾っている人がいる。声を掛ける。
 
「すみません。こちらに桃川美智さんは、おられませんでしょうか?」
 
彼の声に
「はい?私ですが」
と言って振り向いたのは、亜記宏が3年ぶりに見た、懐かしい妹、そして恋人であった人の顔であった。
 
「あきちゃん!?」
と言ったまま、桃川美智は凍り付いたかのように、亜記宏の顔を見つめていた。
 

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亜記宏は土下座した。
 
牛舎なので牛の尿の臭いが凄まじい。しかしそんなことは構っていられない。
 
「済まなかった。本当に悪かった」
と亜記宏は言った。
 
桃川美智(春美)はしばらく、そんな亜記宏を見ていた。
 
「どうして子供たちを捨てたの?」
と美智は静かに尋ねた。
 
「僕と有稀子だけでも、食べて行くのにギリギリだった。実際あの時期は2日に1回くらいしか飯にありつけない状態だった。それで誰かに託そうと話した。でも1ヶ所に3人も置いたら申し訳ないから、理香子は美鈴さんの所に、和志は美智の所に置き去りにした。実はあの時、何とかして美幌町までいくつもりだったけど、行く手段がなくて困っていた時に、偶然美智たちを見かけたんで、和志に『ママだよ。行っておいで』と言って行かせたんだよ」
 
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「織羽は?」
「富良野にいる古い友だちの所に託すつもりだったんだけど、その前にヤクザに捕まってしまって・・・・美智、織羽の行方を知らないか?」
 
「私のお友達が保護しているよ」
「ほんとに!? 良かった。本当に良かった」
と言って亜記宏は泣いているようである。
 
「実はヤクザに捕まって、僕も有稀子も織羽も殺されそうになったんだけど、そこに大姐御(おおあねご)さんみたいな人が来て、まず子供だけは助けてやれと言ったんだよ。ところがその後、ヤクザ同士で話し合っていて、なぜか僕と有稀子も助けてもらえるという話になった。でもとても信じられなかったんで隙を見て逃げ出した。僕たちがいなければ子供だけ殺す意味はないし、かえって助かる確率が高くなると思ったんだけど、純粋に恐かったのもあった。織羽が助かったのなら良かった。僕は一生織羽に頭が上がらない」
 
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「ちょっと待って。有稀子って・・・あきちゃん、実音子さんと一緒に逃げてたんじゃないの?」
 
「え!?実音子はもうとっくに死んでいたけど」
 
「うっそー!?」
 

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美智は乳を搾らないといけないからといって、その作業を継続し、その後、絞った乳を入れた容器を主棟まで運んだ。加熱殺菌用の機械の中に入れてスイッチを入れる。そして食堂に亜記宏を案内し、お茶を入れて、お菓子も出して来た。
 
亜記宏はお茶は飲んだが、お菓子までは手を出さない。美智は亜記宏に彼と最後に会った、母(弓恵)の四十九日の頃以降のことを尋ねた。それは以前美鈴が調べてくれた話と微妙に違っていた。
 
2001年に亜記宏は実音子と結婚し、2002年に長女の理香子、2003年に長男の和志、2004年に次男の織羽、と3人の子供が生まれた。そして話は2007年、弓恵が亡くなった年の話になる。
 
「あの年の4月に駆志男さん(実音子の兄)が交通事故を起こして亡くなった。同乗していた実音子も瀕死の重傷をおって入院した」
 
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「同乗していたのは有稀子さん(駆志男の妻)じゃなくて、実音子さんだったの!?」
「そうだけど」
「お店の従業員さんが若社長と若奥様が亡くなったと言っていたから」
「それ加藤さんでしょ?」
「なんかそういう名前だった」
「加藤さんは駆志男さんを若社長、実音子を若奥様と呼んでいたんだよ」
「あきちゃんは?」
「婿さん」
「なるほどー!」
 
「事故は駆志男さんの車がセンターラインをはみ出して対向車線を走ってきた車に正面衝突した。だから右側の運転席に座っていた駆志男さんが死亡した。左側の助手席に居た実音子は大怪我で済んだ。向こうは外車だったんで運転席が左側だった。それで向こうの人も死なずに済んだ」
 
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「それこちらが悪いことになるよね」
「うん。だからこちらが100%悪いことになった。そして困ったことにこの車の保険が切れていた」
「なんで切らしたのさ?」
「金が無かったんだよ。3ヶ月続けて掛け金が落ちてなくて、強制解約になっていた」
「それ凄くまずい。安い保険とかに切り替えても自動車保険だけは掛けておかなきゃ」
 
「うん。だから向こうの治療費とか休業補償を全部こちらが見る必要が出た。そもそも保険の掛け金を払えないほど、当時お店は経営が苦しかった。どこも銀行は貸してくれなかった。それで僕とか有稀子とかが個人的にサラ金から借りてその治療費を払った」
 
「それで借金が増えた訳か」
 
「そんな中、うちの母ちゃん(弓恵)が亡くなった」
「あの時、実音子さんは入院中で来れなかったのね」
「そうなんだよ。子供たちは洲真子さん(実音子たちの母)に見てもらっていた」
 
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「そういう話、あの時、してくれればいいのに」
「済まん。やはり僕が美智を裏切って実音子と結婚してしまったことがずっと後ろめたい気持ちがあって。それで美智ともあまり話ができない気分で」
「ふーん。そうなんだ?」
と美智は冷たく言う。
 
「結局母ちゃんの遺産を美智と半分ずつ受け継いで、僕はあの自宅を受け継いだけど、それを売却して向こうの人の治療費、そして実音子の治療費に充てた。美智が受け継いだ楽器類とか楽譜類とかは、あの時美智と連絡が取れなかったから、美鈴さんと話して札幌市内のトランクルームに預けた」
 
「うん。それ後から聞いた」
と美智も答える。
 
「それで駆志男さんが亡くなったことで、店の跡継ぎが居なくなってしまった。実音子のお父さんは、僕に継いでくれないかと言った」
 
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「僕は自分が客商売に向いてないのは分かってるから、渋っていたんだけど、入院中の実音子が、あなただけが頼りとか言うからさ、やむを得ず受諾した。それで母ちゃんの四十九日が終わった後、会社を辞めて稚内のラーメン屋に修行に出た。昔気質の厳しい店でさ。修行中は携帯も持てない。休み無し。毎日包丁の背でぶん殴られる」
 
「ああ。昔の板前さんはそうやって鍛えられたんだよ。でも、あきちゃん、昔から料理は上手かったね。私より上手かった」
 
と言いながら美智は今の亜記宏の言葉の中に何か引っかかるものがあるのを感じていた。
 
「確かに、僕と美智が結婚したら、僕が主婦やってもいいよとか言ってたな」
「ふふ。あきちゃんにスカート穿かせてね」
「スカートは勘弁して欲しいけどなあ」
「スカート好きなくせに」
「そんなことはない」
 
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少し冗談を言い合ったので、少しだけ美智の気分はほぐれた。
 
「でもその年の11月に結局実音子は亡くなった」
 
その言葉に美智は顔を引き締めた。その時ふと美智はそれって自分が自殺しようとした頃ではなかろうかという気がした。
 
「更に翌年春に、お店でガス爆発が起きた」
「その話は聞いた」
 
「お店を建て直すための融資はどこからも断られた。それで結局お店は閉めることになったけど、そのことと膨大な借金の返済を迫られたことから、実音子の父・騨亥介さんが自殺した。そのショックで実音子の母・洲真子さんが認知症になってしまった。僕と有稀子は話し合って、洲真子さんを入院させた」
 
「それで有稀子さんと恋人になっちゃったの?」
と美智は厳しい顔で訊く。
 
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「セックスしたことは認める」
と亜記宏は言った。
 
「結局潰れて『金返せ』という紙が大量に貼られた食堂や実家に、有稀子さんと、理香子・和志・織羽の姉弟、多津美ちゃんが取り残された。僕は修行明けまでは、たとえ親が死んでも途中で抜けることは許されなかったから、ずっと稚内に居た」
 
「有稀子さんのお母さんが見かねて、取り敢えず多津美ちゃんだけは実家に連れて行った。有稀子さんはパートに出ながら、理香子たちの面倒を見てくれていた。その間にも借金取りが頻繁にやってきては、安眠妨害していた」
 
「やがて、やっと僕は1年間の修行が終わって、ラーメンの調理人としての免状をもらって、理香子たちの所に戻った。しかし莫大な借金があるから店の再建は困難だった」
 
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