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■娘たちの予定変更(4)

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朱音は母との電話で大喧嘩してしまった。
 
朱音自身は1年生の時から、厳しい学生生活の中でバイト代を毎月1万円ずつ貯めて、成人式の振袖を買うお金を用意し、先日、比較的低価格の振袖を揃えている千葉市内のお店で購入の予約をした。価格は帯と合わせて20万円で、予約金も3万円払っている。最新鋭のインクジェットプリンターで染める方式なので、こんな低価格が実現したらしい。
 
ところが母が突然電話して来て、地元で振袖の展示会があり、振袖を買ってしまったというのである。価格までは母は言わなかったものの、多分50万円くらいではないかと思われた。
 
「そんなの私の好みも考えずに買わないでよ」
「いや、これ絶対あんたに似合うと思うから」
「私もバイト代貯金して帯入れて20万円の振袖買う予約したんだよ」
「予約だけならキャンセルで。帯付き20万円なんてとんでもない安物じゃん」
「安物かも知れないけど、自分でお金貯めて買うのに意味があるんだから。そっちの振袖はお母さんが着たら?」
 
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母は買った振袖を送ってくると言ったが、朱音はそんなの送り返すと言い、送り返されても困ると言うと、じゃ捨てると言った。
 
結局最後は「もう話したくない」と言って朱音は電話を切った。
 
朱音は元々母との折り合いが悪い。実はここ半年ほど全く連絡を取っていなかった。もしかしたら母は仲直りのためにプレゼントしてくれるつもりだったのかも知れない。もし50万円くらいだとしたら、それは買うのにかなり無理をしている。しかしこちらに何も言わないまま勝手に買うなんてひどい。
 
朱音はこの鬱憤をどこで晴らそうかと悩んだ。
 

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亜記宏はすっかりそのラーメン屋さんの「調理係」として居座った形になってしまった。おやじさんが作っていた洋風ラーメンを「美味しく食べられる」味に改造した“ラーメンA”と、亜記宏自身が稚内のラーメン屋さんで習った魚介スープの“ラーメンB”を主力にして、おやじさんが作る絶品の餃子、それに地元産の日本酒と地ビールを出す。
 
あとはラーメン屋さんには珍しいカラオケ装置があり、1曲100円で歌えるようになっており、夜間はこちらの利用客が割と多い。
 
しかし亜記宏が来てからこのお店は「昼間の利用客」が増えた。実際問題としてお昼時は、弁当持参で!おやじさんをからかいに来る常連客くらいしか居なかったのが、亜記宏が来てから、ちゃんとラーメンを食べに来る客が発生したのである。
 
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お店の売上は3倍になった。
 

常連客で、おやじさんと同級生という年老いた税理士・荘内さんが、亜記宏のことを心配して言った。
 
「おやじさんは、みんなにあんたのことを孫だとか言ってるけど」
「すみません。無関係です。店の前で行き倒れていたのを助けてもらったんです」
「なぜ行き倒れとかする羽目になった訳?」
「実は莫大な借金から逃げてました。ヤクザ絡みのものがあったので、法的な処理も難しかったんですよ」
 
「それはきちんとした弁護士さん使って破産処理すればいいと思う。弁護士が介入した場合、ヤクザは手を出せないんだよ」
「そうなんですか!」
 
「弁護士への依頼料が30万円くらい掛かるけど、そのくらい、おやじに出させなよ。この店自体、いつ潰れてもおかしくなかったのが復活したんだからさ」
「そうですね」
 
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「何なら俺がおやじに言ってやろうか」
「あ、はい」
 

それで亜記宏はおやじさんとも話し合いの上、転居届けを出して法的な住所をこの町の、その荘内さんの自宅にいったん移動(借金取りが来た場合にお店に迷惑を掛けないため)した上で、札幌市内の弁護士さんに依頼して、自己破産の手続きを始めた。
 
「あんた、子供がいたの?」
 
と引越の手続きをした時にそれに気付いた荘内さんが驚いて言った。
 
「すみません。3人の内、1人は親戚の家に、1人は元恋人の許に、そして実は3人目は・・・」
 
と言って、織羽と別れた時のことを語った。
 
「それ、そのヤクザに殺されたのでは?」
「その可能性はありますが、私と有稀子さんを助けてくれた、大姐御のような人が、最初に子供だけでも助けてやると明言したんです。あの人は信頼できそうな感じでした。私はその可能性に賭けています」
 
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「取り敢えず、あんたはその上の2人の子供の所に一度行くべきだ」
と荘内さんは言った。
 
「でもどういう顔で顔を出せばいいかと」
「何なら俺が付いていこうか?」
 
亜記宏は少し考えて言った。
 
「私がひとりで行ってきます。すみません。数日お店の方をお願いします。スープを作り貯めて行きますから」
 
「うちの娘にその間はラーメンを作らせるよ。あのおやじにやらせるよりはマシなラーメンになるはずだ」
 
「すみません」
 

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7月7日(水)、バスケットボール女子日本代表候補チームは、選手28名に、田原ヘッドコーチ、夜明アシスタントコーチ、富永チーム代表、トレーナーの内藤・田中、事務担当の赤井、通訳(英語)の角川、付帯審判の薬師、という合計36名で、早朝、合宿所をバスで出発した。8時頃成田空港に到着。すぐに搭乗手続き・出国手続きをする。「国外エリア」に出てから朝食を取った。そしてコペンハーゲン行きに搭乗する。
 
11:40 NRT SK984 A340 16:05 CPH:Copenhagen
 
機内では寝ている子が多かった。実は千里は亜津子・玲央美・英美・彰恵たちと朝4時に起きて早朝練習でたっぷり汗を流していたので、飛行機に乗るとすぐに熟睡してしまった。
 
同日16:05、コペンハーゲン空港(CPH.別名カストルップ空港)に到着する。時差は7時間で、飛行時間は11:25であった。
 
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ここでトランジットなのだが、“シェンゲン圏”に入るため、入国手続きにけっこう時間が掛かった。しかし乗り継ぎ便まで充分な時間があるので、晩御飯を食べることになる。
 
「私、機内で2回御飯食べたから、もう晩御飯は終わったのかと思った」
「今こちらは夕方だし」
「日本時間では何時?」
「私の時計は24時を過ぎている」
「じゃ、お夜食感覚かなあ」
「ヴィリニュス行きはデンマーク時刻で20:55だから、日本時刻でだいたい朝4時」
「私、寝ていたい」
「あんた機内でひたすら寝てたじゃん」
「それでも寝る」
 

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千里は亜津子・玲央美と「身体動かさないと気分良くないよね〜」と言って、ボールを1個膨らませて、あまり邪魔にならなそうな場所でパス練習をした。江美子が「混ぜて」と言って、加わり、結局もう1個ボールを膨らませて、1on1を2組、組合せを変えながらやった。他の子たちは免税店を見てまわってりしていたようだが、ひたすら寝ている子もいた。
 
20時半頃、ヴィリニュス行きに搭乗する。
 
20:55 CPH SK742 CRJ900 23:25 VNO:Vilnius
 
地上から飛行機に乗り込む階段がわずか6段しかない、とても背の低い飛行機である(一応90人乗り)。この飛行機を見た時
 
「可愛い!」
 
という声が多数あがっていた。
 
CRJはカナディア・リージョナル・ジェットの略で、カナディア社が開発した中型機である。日本のMRJ(三菱リージョナル・ジェット)の完全競合商品である。この飛行機は水平尾翼が無い代わりに垂直尾翼の上部が左右に伸びたT字型になっているのが特徴で、エンジンは主翼に付いているのではなく、機体後方、垂直尾翼の少し前に、機体に直接付いている。
 
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カナディア社はその後ボンバルディア社に吸収されている。ボンバルディアというと事故を多発したDHC-8が日本では悪名を馳せているが、そちらはボンバルディアが吸収した別の会社デハビランドが開発した機体で、CRJとは全く系統の異なるシリーズである。
 

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「でもまだ明るいね」
 
という声が搭乗してから聞こえる。
 
「というか、まだ太陽が沈んでいないような」
 
時刻は現地の時刻で20:40である。
 
「今日の日没は何時?」
「21:49」
と暦の計算サイトで確認した彰恵が言う。
 
「すげー」
「今日のコペンハーゲンの日暮れは23:03。明日のヴィリニュスの夜明けは3:46」
「夜が短い」
「物凄い高緯度なんだね?」
 
「コペンハーゲンやヴィリニュスは樺太の北端くらいの緯度」
と夜明コーチが言う。
 
「寒そう!」
「でも気候的には青森市くらいの気温だよ」
「少し安心した」
 

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コペンハーゲン(デンマーク)からヴィリニュス(リトアニア)への所要時間は1時間半なのだが、時差が1時間あるので20:55発23:25着ということになった。ヴィリニュスと日本の時差は6時間である。
 
コペンハーゲン空港とヴィリニュス空港との距離は810kmで、羽田−新千歳(846km)などと似たようなものである。
 
そういう訳で夜の11時半リトアニアの首都ヴィリニュスに到着した。
 
デンマークとリトアニアは“シェンゲン圏”の内側での移動なので、国内移動と変わらない。ここでは何の手続きもないまま、空港から出て、リトアニアのバスケ協会が用意してくれていたバスに乗る。
 
「バスで1時間半ほど移動します」
とチーム代表の富永さんが言うと
「え〜〜!?」
という声があがる。
 
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「いや、空港から1時間半掛かるというのは最初に説明されていた」
とエレンさん。
 
「みんな話を聞いてないな」
と夜明コーチ。
 
「私寝てます」
と広川妙子が言う。
 
「うん。みんな寝てるといいよ」
と夜明コーチも言う。
 
それで実際選手は全員寝ていたようである。
 
結局夜中の1時過ぎにホテルに到着。ほぼ全員が、部屋に入るとそのまま寝たようである。
 
千里は水分補給を兼ねてホテルロビーの自販機でコーヒーを買ってきて飲んでから寝たが、玲央美は「私はそのまま寝る」と言って、部屋の入口からベッドに直行して、すやすやと寝入っていた。
 

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今回の合宿は、いつものように玲央美と同室である。
 
代表合宿でツインになる場合、他の子はけっこうその度に組合せが変わるのだが、千里はいつも玲央美と同室になっていた。自分のセクシャリティ問題で、理解のある玲央美と一緒になっているのかなぁという気はした。しかし玲央美とはお互い気心が知れているので、気楽である。
 
なお王子は華香と同室だった。王子をどうかした子と一緒にすると相手が貞操の危機!を感じて落ち着けないかも知れない。
 
(それ以上に寝相が悪いし、いびきが酷いらしいが)
 
「念のため訊くけど、きみちゃん、ちんちんは付いてないよね」
といつかサクラが訊いていた。
 
「あってもいいけど、今の所装備してないです」
と王子は答えていた。
 
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「ところで、あれってどこかで売ってませんかね?」
「お店で売られていたら、ちょっと恐いな」
 
「そもそもどこから仕入れるんだ?」
「要らない人が売るのでは?」
「確かに要らないと思っている人は多数あるけど」
 
「貧乏学生が学費稼ぎで売り飛ばしちゃったりして」
「それでちんちんの無い学生が増えるのか!?」
「なんか借金のカタに心臓を売るみたいな話だな」
「待て。さすがに心臓は売らないだろ!?」
 
 
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