広告:プリティフェイス 6 (ジャンプコミックス)
[携帯Top] [文字サイズ]

■娘たちの予定変更(17)

[*前頁][0目次][#次頁]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 
前頁次頁目次

↓ ↑ Bottom Top

(C)Eriko Kawaguchi 2017-04-15
 
ともかくもその3人で富永さんの部屋に行った。今日のホテルは基本的に全員シングルなのだが、富永さんの部屋は色々打合せなどにも使うためスイートである。行くと、そこに田原監督、夜明コーチ、三木エレン、羽良口英子というメンツがいるので驚く。
 
「あのぉ、何の話でしょうか?」
と玲央美が代表して言った。
 
「まずはこのメンバー表を見てもらいたい」
と言って、田原監督は千里たちに世界選手権のエントリー表(英語)を見せた。
 
Eiko Haraguchi / Hiromi Muto / Atsuko Hanazono / Chisato Murayama /Taeko Hirokawa / Reomi Sato / Atsumi Yokoyama / Mutsumi Miyamoto /Kimiko Takahashi / Miki Ishikawa / Mari Shirai / Keiko Umada /
 
↓ ↑ Bottom Top

そこに"Chisato Murayama"の文字があるのでドキッとする。
 
漢字で書けばこういうラインナップだ。
 
PG.羽良口 武藤  SG.花園 村山 SF.広川 佐藤 PF.横山 宮本 高梁 石川 C.白井 馬田
 
「これは何のメンバー表ですか?」
と玲央美はわざと訊いた。
 
「むろん世界選手権のメンバー表だ」
と田原さんは言ったが、ひじょうに厳しい表情をしている。
 
「その前に別のメンバー表もあったけど、私が拒否した」
と三木エレンが言う。
 
たぶんその三木さんが拒否したというメンバー表は、こんな感じてはないかと千里は想像した。
 
PG.羽良口 武藤  SG.三木 花園 SF.広川 佐伯 PF.横山 宮本 高梁 石川 C.白井 馬田
 
つまり最初提示されたメンバー表をキャプテンのエレンが恐らくプライドが許さないとか言って拒否し、千里と玲央美をメンバーに入れさせたのだろう。それで結果的にエレン自身と佐伯さんが落ちることになる。羽良口さんがここに居るのは、落選したエレンに代わって主将をすることになったのか?
 
↓ ↑ Bottom Top

「これで明日というか、もう今日になってしまうが発表することで協会側の了承を得た。三木君を落とすというのに協会幹部の抵抗が凄まじかったけどね」
と田原監督は言う。
 
「ところがここで困ったことが起きたんだよ」
と富永代表が言った。
 
「結論を先に言うと、村山君と佐藤君は申し訳ないが、今回はフル代表からは外れてもらう」
 
千里は苦笑した。期待しただけに内心落胆が大きかったものの、何とか自分を慰める。
 
「私は問題ありません。今回はたくさん勉強させて頂きましたので、それで充分です。来年のアジア選手権で今度こそはフル代表に選ばれるように頑張ります」
と千里は無表情で言った。
 
すると富永代表は困ったような顔で
「その前に今年11月のアジア大会もあるんだけど」
と言った。
 
↓ ↑ Bottom Top

「すみませーん!」
 
しかし玲央美は言った。
「何が起きたんです?」
 

「僕が説明する」
と富永代表が言った。田原さんにしても富永さんにしてもひじょうに厳しい顔をしている。
 
「実はU20アジア選手権の日程が変わってしまったんだよ」
「え〜〜!?」
 
「本来10月17-24日の予定だったのが、インドで総選挙が行われることになってね。それでこの時期は暴動なども起きやすいというので繰り上げられることになった。更にインドでは10月8日から16日まで大きなお祭りが行われてその期間は交通機関とかもまともに動かないし、祭りで興奮している人もあるし、熱心な信者さんは断食とかもするので、その前にしようということで、新しい期日は9月26日から10月3日になる」
 
↓ ↑ Bottom Top

「A代表の世界選手権と日程がぶつかるじゃないですか」
と亜津子が言う。
 
「実はそういうことなんだよ」
と富永さんが言った。
 
「試合終了後、三木君も入れて激論をした結果、村山君・佐藤君・高梁君を入れるメンバーが決まった。田原君も三木君も、これが現時点での日本の最強布陣だと言った。ところが、その後、U20選手権の日程変更のニュースが飛び込んできてね。3人はU20の代表も兼ねているが、どうするか?と協会から言われた。実は僕とU20の高居君の話し合いに任せると言われてボールをこちらに投げられてしまった。さっきから何度も高居君と電話で話している」
と富永さん。
 
高居さんは今福岡、篠原監督は大阪、片平コーチは沖縄、高田コーチは札幌に居て、U20関係者は今夜は山形まで来られなかったらしい。
 
↓ ↑ Bottom Top

「先日は日程が重なったので、U24のウィリアム・ジョーンズカップ参加をキャンセルした。またキャンセルという訳にはいかないし、FIBA公式戦のU20アジア選手権はさすがにキャンセルできない。キャンセルすれば来年のU21世界選手権にも出られなくなるしFIBAからも制裁を食らう可能性がある」
と田原監督が言う。
 
「それでやむを得ないので、高居君と話し合いの結果、戦力を分けることにした。高梁君は申し訳無いけど、フル代表に欲しい。その代わり、村山君と佐藤君はアジア選手権の方に出て優勝して欲しい」
と富永さんは言う。
 
「高梁抜きで優勝しろと言うんですか?」
と玲央美は言った。
 
「君たちなら出来る」
と夜明さんが言う。
 
↓ ↑ Bottom Top

千里としても正直、王子抜きの布陣というのは不安だ。2年前のU18選手権で優勝できたのは半分まぐれのようなものである。実力的には中国の方が勝っていたが向こうの「隠し球」に偶然気付いて、しかもうまく相手の弱点を見つけることができたから勝てた。今回、中国はあの時のリベンジに燃えてくるだろう。しかし王子がいれば何とかなると千里は思っていた。
 

↓ ↑ Bottom Top

千里は突然思い付いて言った。
 
「U18の渡辺純子をもらえませんか?」
 
「え!?」
とその場に居たほぼ全員が言った。
 
「体格が良くて強い選手が欲しいんです。高梁をU20から外した場合、常識的には、補欠からの昇格は竹宮星乃だと思います。彼女も充分強いけど彼女は167cmで中型の選手です。中国の体格の大きな選手に対抗するのには、180cmの体格を持ち、しかもスピードも併せ持っている渡辺が欲しいです」
 
渡辺純子は足も速い。札幌P高校の校内マラソン大会で銅メダルを取ったとも言っていた。
 
「ちょっと待って。渡辺君はその時期、確か国体に出るのでは?P高校が彼女を出してくれるかな?」
と田原監督は言ったのだが
 
「今年、札幌選抜は道大会で旭川選抜に負けちゃったんですよ」
と玲央美が言う。
 
↓ ↑ Bottom Top

「おぉ!」
 
「私もそれで思いついた。うちの湧見絵津子なら背が低いから竹宮星乃とあまり差は無いと思う。それなら経験の豊かな星乃を出した方がいい。でも渡辺純子は体格がいいから、こういう国際大会では使えるんですよ。しかも彼女はU18で本気の中国と先日、激しい戦いを経験したばかりです」
と千里は言う。
 
「私もそれいいアイデアだと思います」
と玲央美が言った。
 
田原監督と富永代表が顔を見合わせている。
 
「待って。いきなり2つ下の学年じゃなくて今の19歳の学年には誰か強い子は居なかったっけ?」
と富永さんが言うが
 
「それは森田雪子とか丸山愛理紗とか篠原美津江とかですよ。国際試合で使える程の子と言ったら」
と夜明コーチが言った。
 
↓ ↑ Bottom Top

「うーん・・・・」
「森田も丸山も小型だな」
「篠原はたしか175-6cmだけど、篠原を使うなら、むしろ同じJ学園でひとつ下の加藤絵理の方が篠原より強い」
「その加藤はインターハイで渡辺純子に完璧にやられたね」
 
「女子四天王(絵津子・純子・絵理・志麻子)のもうひとり、F女子高の鈴木志麻子は確か172cm。この4人は実力はそう違わないとは思うのですが、背丈でいうと渡辺純子がひとつ飛び出ているんですよね」
と玲央美。
 
「国体道予選の時、渡辺(純子)と湧見(絵津子)の対決ってどうだった?」
「ビデオで見ましたが、拮抗していたと思います」
と玲央美。
「私も同意見です」
と千里。
 
「背丈だけでいえば、吉住杏子とか富田路子、U17で5位になった小松日奈、あるいは先日高梁王子とインターハイで死闘をした吉田愛美などもいますけど、その付近よりは渡辺純子が使い手がありますよ」
 
↓ ↑ Bottom Top

と夜明コーチ。
 
それでその場で30分ほど何人かの補充候補について話し合ったものの、やはり渡辺純子がベストチョイスという結論になる。U20のチーム代表・高居さん、監督の篠原さんとも連絡を取る。最終的には、その2人と田原さん・富永さん、バスケ協会の強化部長の5人でオンラインのチャットをして話し合い、その方針を固めた。
 
深夜で本当に申し訳無かったのだが、富永代表が札幌P高校の十勝監督に電話した。そして事情を説明した上での20分以上に及ぶ話し合いの結果、9月末から10月上旬のインドでの大会に彼女を出すのは問題無いという回答が得られた。
 
千里たちが自分の部屋に引き上げたのはもう3時近くであった。
 

↓ ↑ Bottom Top

翌朝、朝食の席で彰恵たちから何があったのか尋ねられたが、レストランで話せるような内容ではないので、朝食が終わった後、玲央美の部屋に集まり、昨夜の話し合いの内容を説明した。
 
「何〜!? U20アジア選手権の日程変更?」
「彰恵、何か予定があった?」
「結婚式挙げる予定だったのに、結婚式はキャンセルだな」
「誰と結婚するの?」
「その相手を探さなければいかんと思っていた」
 
あまりジョークを言わない彰恵がこういうジョークを言うというのは驚きの現れなのだろう。
 
「リリー(大野百合絵)が性転換してくれたら結婚してもいい」
「それ以前から疑惑が囁かれているけど、あんたたちの関係は?」
「キスしたことならあるけど」
「怪しいな」
 
↓ ↑ Bottom Top

「しかし王子の離脱は痛い」
「それで渡辺純子が緊急招集されることになったのか」
「うん。お偉いさんたちが深夜に激論して決めたらしい」
 
その話を千里たちが提案したことは彼女たちには言わないことにしていた。結果的には自分たちの親友でもある星乃の代表入りの機会を奪ったことになる。
 

↓ ↑ Bottom Top

9時頃、千里・玲央美・彰恵・江美子・王子の5人があらためて富永代表の部屋に呼ばれた。華香も呼ぶつもりが、彼女に連絡したら既にホテルをチェックアウトしていたということで、後日説明することにしたらしい。
 
U20アジア選手権の日程変更でフル代表の世界選手権と時期が重なってしまったことが説明された上で、本来なら千里・玲央美・王子の3人をフル代表に入れる予定でメンバー表も書いたこと(そのメンバー表を見せてくれた)、しかし日程が重なるので、苦渋の決断で戦力を分けることにし、千里と玲央美はU20に出てもらって、王子はフル代表の試合に出てもらうことにしたと富永代表は説明した。
 
「それで村山君と佐藤君には、いったんメンバー入りの登録をした上で、変更で外す形も考えた。そうするとふたりは公式に日本代表の経験者ということになる。しかしふたりからは、どっちみち次の機会では日本代表入りするつもりだから、そんな配慮は要らないし、そんな形になれば自ら村山君と佐藤君を推してくれた三木さんはいいとして、佐伯さんのプライドを傷つけることになるから、むしろその話はどこにも出さないでくれと要請された。経過説明のために君たちには話したけど、この件は彼女のためにも、この場限りで忘れて欲しい」
 
↓ ↑ Bottom Top

と富永代表は言った。
 
ただ、バスケ協会の内部データベースには千里と玲央美の2人はフル代表経験者というマークを付けるし、FIBAにもそう登録すると富永さんは言っていた。
 
「まあそうすると他の国の代表にはなれなくなるけどね」
「日本以外の国の代表になるつもりは無いから問題無いですよ」
 
「結局今回、若手からのフル代表チーム入りは、花園亜津子と高梁王子ということになる」
と夜明コーチが言う。
 
「私、チェコ行って、その後インドに行きたいと思っていたんですけどねぇ」
と王子が言った。
 
「何か見たいものとかあったの?」
「チェコでチョコレートを買って、インドで紅茶買って、紅茶飲みながらチョコレートを食べようと」
 
↓ ↑ Bottom Top

「じゃ、インドの紅茶、お土産に買ってきてあげるよ」
と千里は言った。
 
「ありがとうございます。じゃチェコでチョコレートをサンさんとレオさんに買ってきますね」
と王子も言った。
 

↓ ↑ Bottom Top

朝10時。
 
千里たちが泊まっているホテルの会議室に席が設けられ、記者が集まる中、富永チーム代表が、世界選手権に臨む12名の選手を発表した。
 
その12名を雛壇に並べて、各々抱負を述べさせる。王子は「チェコでチョコを買ってきます」などと発言して、記者さんたちが苦笑していた。
 

↓ ↑ Bottom Top

↓ ↑ Bottom Top

前頁次頁目次

[*前頁][0目次][#次頁]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 
娘たちの予定変更(17)

広告:ここはグリーン・ウッド (第2巻) (白泉社文庫)