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「でも微妙な話するけど、千里ちゃん、マジでパンティに男の子の形が出ないよね」
「あれタックという技法で隠しているんですよ。全部体内に押し込んで、出てこないように接着剤で留めちゃってるんです」
「へー。でもそれだとおしっこする時に困らない」
「おしっこは普通にできるんです。おちんちんの先だけ、ちょうど女の子のおしっこの出てくる場所くらいの位置に出るように、うまく処理する方法があるんですよ」
「それ凄いね」
「これ考案した人は凄いと思います。これで私みたいな子が世界中で何万人も幸せな気持ちになれていますよ。手術してないのに、見た目女の子とほとんど変わらないし。ここだけの話、実は女湯にちゃっかり入っちゃったこともあります」
「うっそー。でも千里ちゃんなら誰も女の子じゃないとは疑いもしないかもね」
「私、彼氏と何度かセックスしましたけど、一度も彼氏に自分のおちんちんを見せてませんよ」
などと言いながら、ここまで言っちゃって、後で《千里》に叱られないかななどと思ったりする。
すると朋子はごくりと唾を飲み込むようにした。
「実はその付近が訊きたかった。彼氏がいると言うけど、相手はゲイなのかなあとか」
「彼はノーマルだと思います。私以外で過去に付き合った子はみんな普通の女の子みたいだし」
「へー。それとそのセックスどうしてるんだろうとも思ったのよ。大学生がセックス無しで恋愛を維持できるものだろうかと思って。でも、セックスって、やはりあそこ使うの?」
と朋子が小さい声で訊く。
「すまたです」
「ほほお」
「足の挟み加減で圧力を変えられるから、相手は凄く気持ちいいらしいです。下手くそな女の子より気持ちいいという説もあるんですよ」
「なるほど」
「これがあちらの場合は、そういう加減が難しいみたいですよ」
「あ、そうかも」
桃香はいつまで待っても本屋さんから動かないようである。それでとうとう朋子は
「お腹空いた!」
と言って桃香に
「私たち、中華料理食べるけど」
と電話して言うと、やっと来た。
それで結局1階の中華料理屋さんに行き、一緒に中華料理を食べた。お勘定は「たくさん教えて頂いているので」と言って『千里』が払った。
朋子は千里がお金を払っている時、あら?昨日見た財布と違うけど、財布を何種類か使い分けているのかしら?などと思った。
結構遅くなったのでこのまま高岡駅に行くことにする。
夕食を取った後、食料品売場で夜食と飲物と買う。それからイオンモールを出て、高岡駅まで送ってもらった。
とってもまともに特急《はくたか25号》に乗車する!!
千里は千葉でチケットを手配した時、東京から高岡に行くのに夜行急行《能登》を使うので、帰りも《能登》かと思って、旅行代理店の人に言ったら
「9月20日の上り《能登》は運行されません」
と言うのである。
《能登》はこの3月のダイヤ改定で金曜土曜限定の運行になってしまったらしい。
(ちなみに、北陸本線は富山金沢方面が上り・直江津方面が下りだが、急行能登は高崎線の上り・下りに合わせてあり、金沢行きが下り・上野行きが上りである)
《能登》が帰りは使えないようだと言ったら、桃香は
「ああ。普通列車を乗り継げばいいんだよ」
と言って、時刻表を見ながら10分ほどで、こういう乗り継ぎを書き出した。
越中大門1841-1855富山1911-2111直江津2117-2126犀潟2227-2317六日町007-019石打
石打607-652水上655-800高崎819-1005上野
「ちなみに、犀潟から六日町まで《ほくほく線》を使うのがミソで、これ長岡経由にすると470.5km 7350円になるけど、ほくほく線経由だと、JRが356.8km 5780円+ほくほく線950円で6730円になって620円もお得なんだよ」
と桃香は得意そうに解説した。
「ほくほく線って第三セクターでしょ?それなのにその前後のJR区間を通算していいの?」
「ほくほく線(北越急行)跨ぎは特例でOK」
「へー。でもこれなんで始発が高岡じゃなくて越中大門なわけ?」
「高岡にすると360.5kmになって運賃計算区分が1つ上がってしまうのだよ。どうしても高岡から行きたければ、高岡−越中大門は180円で乗れる」
この手の「途中で区切った方が安くなる区間」というのはJRには割とある。
千里は「へー、そんなこともあるのか」と思いながら眺めていたのだが、やがてこの連絡の重大な問題点に気付いてしまった。
「これ改行されているからすぐには気付かなかったけど、この石打駅で6時間近く待つのって、駅の待合室とかで仮眠できるの?」
「石打駅は夜間は無人になるからそんなの使えないよ。でも駅舎の中には居れるから問題無い」
「今の時期に越後の山の中はかなり寒いと思うんだけど」
「毛布持っていけば平気」
「24時間営業のファミレスとかは?」
「こんな山の中にある訳無い」
「旅館とかは〜?」
「そんなのに泊まるのはもったいない」
千里はさすがに切れた。
「悪いけど、新幹線使わせてもらう」
「もったいない」
「桃香がお金出すんじゃないから、いいじゃん!」
ということで帰りは強引に“ごくまともな”はくたか+上越新幹線の越後湯沢乗り継ぎにしたのである。
ちなみに新幹線と特急を乗り継ぐ場合、特急の方は特急料金が半額になるので高岡−上野は4830円で済む。
そういう訳で
高岡18:47(はくたか25)20:59越後湯沢21:09(Maxとき350)22:28東京
という連絡で、とってもまともな時間で東京に戻れることになった。
特急《はくたか》の車内では、最初はおしゃべりなどしていたものの、桃香は途中で眠ってしまったようであった。それで千里が車窓の外の夜景を見ながら、頼まれている曲の歌詞などノートに書いていたら、桃香が頭を千里の肩に乗せてきた。
千里は困ったなあと思いながらも詩の推敲に集中していた。時々桃香の手が千里のお股とかに来るのは容赦無く払いのけた!
ところで・・・街着が破けちゃったの、どうしよう!?
千里が高岡に行っていた(?)9月18-20日、玲央美たちはひらつかアリーナで全日本実業団バスケットボール競技大会に出場していた。関東1部リーグで4位となり、この競技大会への出場権を獲得していたのである。
この競技大会の出場チームは当時は10チームで、この年までは少しややこしい方式で大会は行われていた(翌2011年以降は単純トーナメントに変更)。
ランク1位vs2位→勝者A、敗者B
ランク3位vs4位→勝者C、敗者D
下位の6チームは3チームずつに分かれてリーグ戦をして各々の勝者E・Fが決勝トーナメントに進出する。
A━┓
E┓┣┓
D┻┛┃
C┳┓┣
F┛┣┛
B━┛
玲央美たちは下位なので初日は関東1位・関東5位のチームと1日でリーグ戦を行った。14:20からの関東1位のチームとの試合では向こうはこちらには楽勝と思っていたようで、最初は控えの選手を出してきた。
実は今年は玲央美がずっと日本代表の合宿をやっていて、リーグ戦にはあまり出ていなかったので、向こうは玲央美を知らなかったのである。ところが玲央美が相手選手を蹴散らして得点をあげるし、性別問題でリーグ戦の時期はまだ“去勢手術証明書の日付”から2年経っていなくて出場しておらず、今月からやっと女子選手として出場できることになった昭子が美しくスリーを決めるので、いきなり大差ができる。
慌てて主力を投入するも、玲央美・昭子・ローザ・ナミナタといった面々は簡単に停められる相手ではない。結局はまさかのダブルスコアでジョイフル・ゴールドが勝利した。
「ここに勝つなんて、とてもうちのチームとは思えん。雲の上のチームと思っていたのに」
などと、この試合にマネージャーを買って出てベンチに座っている元山佐知香が言った。
「いや。ここはWリーグ下位のチームとほとんど差の無いチームだったよ」
とキャプテンの伊藤は言った。
17:40からの第2試合も関東5位のチームに快勝してジョイフルゴールドは決勝トーナメントに駒を進めた。
順調に勝利して明るい雰囲気で会場から引き上げようとしていた時、玲央美はどこかで見たことのあるような顔を見かけて、走り寄った。
「こんにちは、確か細川さんでしたよね?」
「あ、はい?」
「千里の友人で佐藤玲央美と申します」
「ああ!あの佐藤さん!千里がよくあなたのことを話していますよ」
「細川さんのチームもこの大会に出たんですか?」
「いや今年はまだ出ていないんですよ。うちは今期1部に昇格したばかりで。来年は来たいですけどね。今日は見学に来ていたんです」
「そうですか」
「10月に行われる近畿実業団バスケットボール選手権大会で優勝すれば来年のこの大会に出場することができます」
「大変ですね!でも頑張ってください」
「ありがとうございます」
と貴司は玲央美に笑顔で挨拶をしていた。
貴司の所から離れてチームの所に戻ると、たちまち訊かれる。
「あの人、まさか玲央美の彼氏?」
「違うよ。あれは千里の彼氏」
「おぉ!!」
「結構いい男じゃん」
「昭ちゃんはあの人知っているよね?」
と玲央美は昭子に振る。
「はい。元々同じ中学の先輩らしいですよ。千里先輩がまだ去勢から2年経ってなくて男子の試合に出ていた頃、細川さんのチームとインターハイ予選で激突して、その時、コート上で熱烈なキスをしたらしいです。1万人の観客の見ている中で」
と昭子は言う。
「すげー!」
「大胆〜!」
「まああれは、北海道の高校バスケ史上の事件として有名だからね」
と玲央美。
「でも北海道に1万人も観客の入る体育館って、あったっけ?」
「見ていた観客の数は年々数が増えて行っている気はする」
「ふむふむ」
「あと千里先輩が高校1年の夏休みにタイで性転換手術を受けた時は細川さんが付き添ってくれたそうですよ」
「へー。じゃ男の子時代から恋人なんだ?」
「でも千里先輩、高校1年の夏休みに細川さんの子供を産んだという噂もあるんですよね」
「え〜〜!?産める訳?」
「性転換手術を受けたという話と子供を産んだという話はまるで違う」
「どちらもあの付近が物凄く痛いのは共通かも」
「私はその子に会ったことあるよ」
と玲央美。
「え!?じゃ本当に産んだんだ!?」
「じゃ性転換したんじゃなくて出産したのか!?」
「千里ちゃんが育てているの?」
「その子はまだ生まれてないんだよ」
「はぁ!?」
「あの子は時系列通りに生きてないんだよなあ」
「どういう意味?」
「普通の人はシュートした後ボールがゴールする。でもあの子は先にゴールしてからシュートする」
「それ納得しちゃうかも」
「あの子は作曲するけど、だいたい最初に完成形が見えている。それを後追いで書き上げていく」
「それ天才なのでは?」
「あの子は性転換済みだけど、実は性転換手術はまだ受けていない」
「ん?」
「あの子が産んだ子が2人居るみたいだけど、あの子が出産するのはもう少し先」
「うむむ」
「でも千里先輩ってしばしば試合前にその試合の結果の点数を言い当てるんですよ」
と昭子が言う。
「普通の人の時間って川のように流れているんだけど、あの子の時間は池のように行ったり戻ったりしている」
と玲央美は独り言のように言った。
「だけど、あんないい男が彼氏だと、千里も大変だね。もてるんじゃない?」
「それも問題みたい。あの人、わりとガードが甘いから、うまく誘うとデートの約束とかしてくれたりする」
「え〜〜〜!?」
「ところが、あの彼氏が誰とデートしようとしても、そこに必ず千里が現れてそのデートをぶち壊すんだって。ある筋から聞いた話」
「それ、千里が彼氏に盗聴器か何か仕掛けているのでは?」
「噂によると、彼が大阪に居て、千里が高校時代に旭川に居た時でも、突然2時間前に約束したデートを千里はぶち壊したらしい」
「どうやって大阪に行く訳?」
「物理的に不可能な気がする」
「千里はどこでもドアでも持っているのか!?」
「まあ千里の実態には色々不思議なことが多いよ」