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(C)Eriko Kawaguchi 2017-04-21
9月13-14日に行われた大阪府総合選手権で貴司たちのチームMM化学は準優勝。10月末に和歌山県で行われる近畿総合選手権の切符をつかんだ。
船越監督になってから1年目の2007年に大阪3部で優勝して2部に昇格。貴司が加入した2008年は準優勝で入れ替え戦にも敗れて昇格できなかったものの2009年には2部優勝で1部昇格。この時期MM化学は順調に成績を上げて行っていた。来月には今年のレギュラーシーズンのリーグ戦も始まる。
9月13日(月)から17日(金)までの平日5日間について、千里はまたジョイフルゴールドの方に寄せてもらって、練習させてもらうことにした。
千里がその件で玲央美と話していたら
「僕もそれに参加できないかな」
と留実子が言い出した。
「ああ。るみちゃんならいいと思うよ」
と千里は言う。更に星乃まで
「藍川さんの指導って一度体験してみたい」
と言い出すが、
「ステラもOKだと思うよ」
と玲央美は言う。
それで玲央美は藍川さんに電話しようとしたのだが、その時、ふと近くにいる渡辺純子に気付いた。
「あ、だったら、純も参加させよう」
と玲央美が言い出す。
「え?」
と純子が驚いている。
「純ちゃんはU18の合宿があるのでは?」
と千里。
「うん。だからその後、こちらで鍛える」
「なるほどー」
「どう思います?高田コーチ」
と玲央美は少し離れた所に居た高田コーチに訊く。
「そうだね。花和君にしても渡辺にしても、少しレベルの高い所で鍛えた方がいいかもね。竹宮君にしても君のレベルが上がれば、ロースターの子たちも目の色が変わる」
と高田さんが言う。
それで高田コーチはあちこちに電話を掛けていたのだが
「渡辺君は13-15日にU18の合宿が入っているけど、これを免除して13日から17日までジョイフルゴールドとの合同練習。学校の許可も取った」
と高田さんが言うので
「え〜〜〜!?」
と純子は驚いている。
「U18は来年の世界選手権に向けての練習だから、それより目の前のU20アジア選手権に向けて少し強化した方がいいだろうと、U18の丸田監督も言っていた」
「あははは」
「花和君も少し鍛えようか。森下君もこちらに来るよね?」
と千里に訊く。
「ええ。13-17日は、うちの溝口麻依子共々、そちらに行かせてもらいます」
と千里は答えた。
「みんな頑張るなあ」
などと早苗が言っていたら
「早苗もこちらに来る?」
と玲央美が声を掛ける。
「え〜〜〜!?」
「敵情視察ってことで」
「それはいいけど私も解剖されそう」
「そのあたりはお互い様で」
早苗がそれでキャプテンに連絡していたが、キャプテンは驚いたものの、監督に確認してOKを出してくれた。
「たくさんスパイして来いと言われました」
「OKOK」
早苗は山形D銀行に所属しており、山形D銀行もKL銀行(ジョイフルゴールド)も、来週の全日本実業団競技大会に出場する。その直前に早苗がKL銀行の練習場に1週間滞在するという、凄い話なのである。
なお、このジョイフルゴールドの練習に参加するU20のメンツに関しては高田さんが交渉して、引き続きNTCに宿泊して良いことになった。千里もそれでNTCに引き続き泊まるが、自分のアパートに戻った方がよほど近い玲央美まで、「自分のアパートよりこちらの方が快適だし」と言って、どさくさに紛れて一緒に宿泊するようにしたようである。
13-17日の間、そういう訳でジョイフルゴールドの練習場でU20の千里・留実子・純子・早苗・星乃に雪子、ローキューツの麻依子・誠美が、かなり濃厚な練習をした。緩慢なプレイなどしたら、藍川真璃子が厳しい声を飛ばすので
「これU20の合宿より厳しい」
と星乃が言っていた。
「でもU20の合宿はフル代表の合宿よりユニバーシアード代表の合宿よりきついと言われていた」
「なんて恐い世界だ」
「まだ死人が出る前提じゃないだけマシ」
「それどこのファシズム国の話よ〜!?」
ジョイフルゴールドのベストメンバーと、U20+ローキューツ(玲央美はU20に入る)とで練習試合もたくさんやったが、9月から女子選手として試合にも参加できることになった昭子がどんどんスリーを放り込むので「すごい」と早苗が声を漏らしていた。
「今度の全日本実業団で、どうやって昭ちゃんを封じるか考えてるでしょ?」
と玲央美が早苗に言う。
「あの子、動きに穴が無い。厳しい」
と早苗が言っていたら、それを半分くらい耳にした星乃が
「あの子、手術で、ちゃんと穴は作ったらしいよ」
と言うので
「何の話をしている!?」
と早苗が呆れて言っていた。
渡辺純子が本来参加するはずだったU18の合宿は9月13-15日に行われた。これは6月にU18アジア選手権に出たメンバーに10名を追加して来年のU19世界選手権に向けての強化を図るものである。
この3日間、渡辺純子は昼間は三鷹の練習に参加したものの、夜間(9.12-14の夜間)NTCの体育館を使って湧見絵津子・加藤絵里・鈴木志麻子とライバル4人でかなり遅い時間まで自主的な練習をしていたようである。
千里もNTCに泊まり込んでいるので絵津子と会ったが
「国体の予選に勝った私が代表に呼ばれず、負けた純子が呼ばれたのは日程の問題で仕方ないとは納得するけど、何か割り切れないものを感じる」
と千里にだけ胸の内をさらけ出した。
「今回の事件はみんな不条理を感じているよ。U20の日程が変わってしまったのはインドの総選挙の影響で、選手の安全を考えると仕方ないけどね。白井さんの件は完璧に強化部の不手際だから。帰化なんてその人の一生のことなのに。結果的に彼女はどこの国の代表にもなれなくなった。再度アメリカ国籍を取り直してアメリカA代表を目指す手はあるけど、彼女は29歳だから、そんなことしている間にとても代表には呼んでもらえない年齢になってしまう」
「可哀相」
「でも正直、華香も使えなくて11人で戦ってくれなんてことになっていたら、残された11人にとっても辛すぎたね」
と千里は言った上で
「えっちゃんは、この鬱憤をぶつけて国体は優勝して、宇田先生を胴上げしなよ」
と絵津子に言った。
「千里先輩の時に続く胴上げですね」
「それが私たちが優勝した時は、宇田先生、恥ずかしがって胴上げ辞退したんだよ。結果的に暢子と私も胴上げしてもらえなかった」
「うーん・・・」
「だから今回は宇田先生がたとえ恥ずかしがっても、やっちゃいなよ。そしたらえっちゃんも当然胴上げされる」
「全国大会で優勝して胴上げされたら凄くいい気分でしょうね」
「インターハイで純ちゃんが胴上げされるの見てたでしょ?」
「凄く悔しかった」
「うん。だから頑張れ」
「はい!」
と絵津子は元気に答えた。
千里たちのジョイフルゴールドとの合同練習は17日の17時頃までたっぷり練習して、いったん解散となった。
U20は次は22日から合宿・遠征となる。
この連休、ジョイフルゴールドは大会に出て不在である。
留実子と純子はその間いったん地元に帰ってもいいのだが、4日間で北海道まで戻ってまた出てくるのも辛い。それで結局高田コーチの許可を得て、NTCに居残りし、一緒に21日のお昼くらいまで自主練習することにした。
この練習にジョイフルゴールドの練習に参加していた縁で、星乃・麻依子・誠美が付き合ってくれることになった。しかし奇数になってしまうので留実子が雪子を呼び出し、6人での練習になった。
麻依子はNTCに入るのは初めてである。高校時代にトップエンデバーに招集されているが、その時はこのNTCではなく羽田空港の体育館を使用している。麻依子はNTCの施設を見て
「きれーい」
と言っていたらしい。
「溝口さんもU20代表候補に招集されていいくらいの実力を持っている」
と麻依子と手合わせした星乃が言っていた。
「そうですね。私の感覚ではあと2メートルくらい日本代表に手が届かないんですよ」
「2メートルか。私はどのくらいかなあ」
「竹宮さんは既に届いている気がする」
と麻依子は言っていた。
千里は17日の17時で三鷹の体育館を引き上げ、いったん北区の合宿所に戻った。シャワーを浴びてから、女の子らしい服に着替えると、スカートも穿いてからメイクまでする。そして荷物は合宿所の駐車場に駐めているインプに放り込んでそのまま放置し!歩いて合宿所を出ることにする。洗い物は今回《すーちゃん》に頼んでアパートに持ち込み洗ってもらうことにした。
ロビーの自販機でコーラを買っていたら玲央美と遭遇する。玲央美は荷物を3つ持っている。引き上げる所のようである。
「デート?」
と訊くので
「和服の着付けの練習」
と千里は答える。
「和服かぁ。そうだ成人式はもしかして振袖?」
「振袖買ったよ。11月に仕上がり予定。レオはどうするの?」
「成人式かったるいなあと思っているんだけどね。兄貴がお金出してやるから振袖作ろうと言っていたんだけど、要らないと言った。もしかしたらレンタルして着るかも知れないけど」
「私くらいの身長でも既製品は寸が足りないよ」
玲央美は「え?」という顔をする。
「もしかしてレンタルでは無理?」
「無理だと思う。でも玲央美の収入があれば買えるでしょ?」
「うーん・・・どうしよう?
「注文するんだったら、早く注文しないと間に合わないと思う。あれ縫製にどうしても3ヶ月掛かるから。むろん今から生地を染めるのは間に合わない。既製の生地を縫うだけなら何とかなるけど、身長が高い子の振袖を作る場合、普通の生地では布が足りないんだよ。身長が高い人のために特に長く作られた生地を使う必要があるけど、そういう生地は少ない。需要が少ないから」
「それ全く考えてなかった」
玲央美は悩んでる。
「今貯金が50万くらいなんだけど、それで買える?」
「玲央美の身長に合うものでは微妙だと思う」
「いくらくらい?」
「70万か80万か」
「なんて高いんだ! やはり振袖諦めようかなあ」
「インクジェットなら半額か3分の1の価格で買えると思う。でも、玲央美は私たちの年代のトップ・バスケガールだからさ。見た目が安っぽいインクジェットの振袖とか着ている所の写真が出回るのはよくないよ。ああ、さすがトップアスリートと言われるものを着なくちゃ」
「私年俸600万だよ〜」
「19歳で600万はかなりの高年収だよ。人気を付けなきゃいけないんでしょ?」
「うむむむ」
「冬のボーナスで出せない?」
「冬のボーナスが出れば払えると思う。でもそれからではさすがに間に合わないよね?」
「たぶん一部前金で入れておけば、残りは受け取る時に払えばいいと思う」
「だったら買っちゃおうかな」
「うん」
玲央美が、千里が頼んだ店でいいと言うので、そちらに行くことにする。玲央美の合宿の荷物はバッシュなどの入っているメインのバッグ以外は「置かせて」と言って、千里のインプに取り敢えず放り込んだ。千里は念のためインプの合鍵を1つ玲央美に渡しておいた。
桃香との待ち合わせはどっちみち23時!なので、玲央美とふたりでタクシーに乗り、先日千里が振袖を買った渋谷の呉服屋さんに行った。幸いお店はまだ開いていた。
「あら、村山さん、いらっしゃい」
と鈴木さんがにこやかに言う。
「この子、まだ振袖頼んでなかったんです。この子に合うサイズで、今からオーダーして間に合うものありますか?」
と千里は訊いた。
鈴木さんは玲央美を見ると
「すみません。身丈や肩幅を測らせて下さい」
と言って最初に玲央美の肩から足首までの高さ、肩幅、腕の長さなどを測る。そして
「ちょっと待ってね」
と言って電卓で計算してから、端末で生地を調べているようだ。
「お客様の身長に合う振袖を作れる生地の在庫は全部で20個ほど在庫が存在します」
「わあ、良かった」
「でも期日的に今日くらいが限界でした。こういう長い生地は縫製できる人も少ないので、特に厳しいんです」
「在庫のあるものの中でこの子に似合うものを、見立ててあげてもらえませんか?私は目利きの自信が無いので」
「はい。見てみましょうね」