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アトランティスに乗船したミレイユ(アクア)とダカール(松田理史)が船内にある通信室を見て頷いているシーン。
「これで次に金の玉が落ちた時はすばやく情報を伝達させられる」
などとミレイユは言っている。
通信室の外見は当時のマルコーニ社の通信設備をかなり忠実に再現しており、送信室と受信室がドアで区切られて別になっている。これは受信の際に雑音に煩わされずにヘッドホンから聞こえてくるモールス信号を聴くためである。モールス信号を打電する女性通信士(演:広瀬みづほ)が映る。
広瀬みづほ(信濃町ガールズ2022春の本部昇格者)は、台詞こそないが、このシーン撮影のためにモールス信号を1ヶ月かけて猛練習した。通信士のために新たに作ったという設定の茶色のジャケットにズボンの姿が「りりしい」と観覧者には好評だった。たぶんこのシーンだけでファンが1万人できた。
なお彼女が映画の中で打電しているモールス信号は『おひるはまだかな』で、モールス信号の分かる人は大笑いしていた。この信号は海外版では『CAN HARDLY WAIT FOR LUNCH』という英文モールス信号に置換された。これも、みづほ本人が打電している。
振袖姿の元原マミが解説する。
語り手「ミレイユは黄金の流星事件翌年の1909年、アトランティスに通信設備を導入しました。無線はどこからでも送受信できるのがメリットですが、周波数さえ合わせれば簡単に傍受できるという問題があります」
「そこでミレイユは通常の挨拶文や帰還連絡などのほかは、基本的には暗号化した上で電信するようにしました。暗号には、定型文を特定の文に置き換えたもの、例えば“ライオンが走る”とか“赤いバラが咲いた”などといったものと乱数表を通したものがありました」
「ここで乱数表を使うものは、黄金の流星事件の時は伝達に苦労したのですが、この頃までにゼフィランの提案で、暗号化された通信文が普通の文章としても何とか?読めるように暗号化手法を改訂していました」
「3AE56JGR HI59BV32 みたいな電文を打つのは物凄く大変ですが、 "CE MATIN CECILE LIT UNE JOLIE JUPE CHEZ BOUCHER DES CHAMPS ELYSEES" 、今朝セシルがシャンゼリゼの肉屋さんで可愛いスカートを読んだ、みたいなのなら、同じ意味不明でも何とかなります」
映像に一瞬セシル役の津島啓太が可愛いスカートを手にして困ったような顔をしているのが映ったのは特に意味は無い!!
語り手「ルクール銀行は多数の金鉱を配下に納めましたが、基本的には現在の経営者にそのまま経営させることにしました。但し後述の理由で一部の経営者には息子などに譲って引退してもらいました」
「ミレイユは最初に金鉱の労働環境の改善を進めました。最も先進的な金鉱であると思われたカリフト鉱山の若い技師をアドバイザーに採用し、ゼフィランと3人で協議して、いくつかの改革をしました」
「まずは坑道の安全性を高め、また古い精錬法を取っている鉱山に、新しく、より安全な精錬法を導入しました。精錬作業についてはゼフィランが提案したリモート操作の手法に加え、作業者に防護服やマスクを装着させ、換気をよくすることで、当時世界で最も安全な精錬過程が導入できました」
「また労働時間を1日に最大10時間に制限、数年後には更に8時間に制限するとともに18歳未満には坑内労働をさせないよう指導しました。これらの改革に消極的な経営者には退いてもらい、息子などに代わってもらいました」
「これらの改善は結果的に労働者のモチベーションを上げ、かえって生産能力を上昇させました」
広い事務室に制服を着た多数の社員が居て、何かの機械を操作して、表示を書き写している。
語り手「シルヴィアがどうにも計算に苦労しているので、ゼフィランは彼女のために自動計算機を発明しました。それに目を付けたミレイユはこの機械を量産して、自分の銀行に導入しました」
「それで資産が何千倍にもなり営業規模が拡大したルクール銀行は、この機械のおかげで正確かつ高速に計算作業を進めることができるようになったのです」
語り手「このようにしてゼフィランは、しばしばミレイユの仕事を助ける発明や考案をしてルクール銀行の発展に貢献しました。ミレイユは彼の協力に感謝して、彼に多額の報酬を払いました」
「またミレイユは『金(きん)が余っているから』と言って、自分の資産も、ゼフィランの資産も。半分は金(きん)に換えて、自宅の地下、ゼフィラン家の地下に“お互いに半分ずつ”置きました」
「半分ずつお互いの家に置くのは、むろん安全性のためです。そして金(きん)にしていたお陰で、この後来る、ハイパーインフレにも耐えることができました」
クラシカルなデザインのバス(*125) をセス(七浜宇菜)が運転し、その横の席にアルケイディア(アクア)が座っている。パスには16人の子供が乗っている。
「子供もずいぶん増えたね〜」
「2人で産んだからね〜」
「最近もう全員の名前を言いきれなくなった」
「御飯食べさせるの忘れないようにチェック表作ったし」
「もう子供の名前を one, two, three, ... と改名したいくらいだよ」
「それは可哀想だよ〜」
「さぁ、みんな今日はナイアガラの滝を見に行くぞ!」
とセスが言うと
「はーい」
という子供たちの声が返ってきた。セスとアルケイディアは、笑顔でその返事を聴いた。
(出演してくれた子供は、春日部市内のJ幼稚園の園児さんたち)
(*125) 普通の日野のマイクロバスにプラスチックの外装を貼り付けて古い B-Type に似た雰囲気にしている。オリジナルのB-Typeは、イギリスのLGOC (London General Omnibus Company) が1910年代に製造し、イギリスやフランスで広く使用されたエンジン式バスのヒット商品である(それ以前のバスは馬が曳いていた)。
たくさん売れているから現存品がわりと存在すると思うが、日本国内では発見できなかったので、見た目だけクラシカルなバスを作り上げた。
今回撮影に参加してくれた園児たちは
「私、アクアちゃんみたいな可愛い女の子になりたいな」
「ぼく、宇菜さんみたいな格好いい男になりたいな」
などと言っていた!!
この後、常滑真音 with スイスイが歌う『君の身体は6兆フラン』(エンディングテーマ)に乗せて、この映画の“NGシーン”!が多数流れ、この映画のストーリーを振り返った。NGシーンには葉月がアクアの代役をしている所が大量に映っている。最後はアクアが判事公邸での結婚式のあと退出しようとしてバイクをエンストさせてしまい、再起動するのに苦労しているシーンが映った。そして
『本当に完』
という文字で終わった。
(*126) 今回の映画では、制作側は、アクアに主題歌を歌わせたかった。しかし元々“次の映画”を撮る前に、ほんの2〜3日だけでいいから時間を取って。撮影はすぐ終わるから、などと言われて、受けた仕事である。
結果的に出演がかなりの量になり、とても歌まで吹き込む余裕は無かった。そこで「だったら舞音ちゃんに」という話になったのである。舞音は悲鳴を挙げた。そして舞音が主題歌に起用されたことから、普段超多忙なバックバンドの4人も少しだけ休めることになった。そして木下君は貴重な両声類として“チョイ役で”で出演することになった。
彼の出番はゼフィランの所に訪ねてくる最初のシーンだけの予定だった。ところが実際にやらせてみると上手い!それで監督が「君、うまいねー」と言い、急遽出番が増えて、結果的にかなり重要な役どころになった。シルヴィアは木下宏紀という存在があって生まれた役である。彼以外には演じられない役だった。
彼と抱き合うシーンを演じたアクアは
「宏紀ちゃんの重大な秘密を知ってしまった」
と言い、木下宏紀も
「アクアちゃんの重大な秘密を知ってしまった」
と言っていた。
どういう秘密だったのか2人は何も言わなかった!!
ちなみにこのシーンを撮影したのはアクアM、宇菜とのベッドシーンを演じたのはアクアFである。
結局舞音が歌ったのは下記12曲である。映画の公開と同時にサウンドトラックとして発売された。元々の舞音ファン以外にも、40代以上の世代に異様に売れた!
『君の心は流星』主題歌(水野歌絵作詞・琴沢幸穂作曲)
『浦島太郎』(文部省唱歌。乙骨三郎作詞・作曲者不明)
『冬の星』(阿久悠作詞・三木たかし作曲) (*127)
『黒い鷲 (l'aigle noir)』(バルバラ作詞作曲・醍醐春海訳詞)
『昴』(谷村新司作詞作曲)
『愛しのクレメンタイン・隕石落下版』(アメリカ民謡・未来居住改詞)
『白鳥』(サンサーンス作曲・未来居住作詞)
『愛しのクレメンタイン・隕石水没版』(アメリカ民謡・未来居住改詞)
『悲しい悪魔 (Pobre diablo)』(Julio Iglesias, Michel Jourdan 作詞、Manuel de la Calva, Ramon Arcusa 作曲、醍醐春海訳詞)
『タイニーバブルズ (Tiny Bubbles)』(Leon Pober作詞作曲/英語歌詞のままアップテンポで演奏)
『オブラディ・オブラダ (Ob-La-Di, Ob-La-Da)』(Lennon-McCartney作詞作曲/英語歌詞のまま使用)
『君の身体は6兆フラン』エンディングテーマ(水野歌絵・未来居住作詞・琴沢幸穂作曲)
(*127) 『冬の星』は伊藤咲子の『木枯しの二人』『乙女のワルツ』と並ぶ代表作である。「つめたく凍える冬の星座を汽車の窓から見ーつめ、私は旅に出る」という歌い出しが印象的。この映画の旅は冬ではなく夏なのだが、寒い所への旅なので、大曽根さん!の希望で使用された。大曽根さん、紅川さんと藤原中臣さんの3人がこの曲を知っていた。
モジーク号のレストランで、フォーサイスとハデルスンが近くの席に居るのにお互い気付かないシーンのバックに流れていて、レストランのステージで舞音 with スイスイが招き猫バンドをバックに実際に歌っていた。舞音は間奏でサックスも吹いている。舞音はフルートやサックスも上手い。
が!このシーンは編集作業中にどうしても尺が指定の長さに収まらない!というのでカットされてしまった。サントラのPVにはこのシーンが収められている。このシーンは翌2023年に公開された、この映画の完全版で復活した。
このシーンでは、舞音・水谷姉妹・招き猫のメンバーの全員が猫のメイクでアールヌーボー風のドレスを着ている。谷口君と篠原君の女装が見られる貴重なシーンである。ステージの両脇に巨大な白猫と黒猫の招き猫が置かれている。この招き猫は常滑焼き組合からお借りしたものである。
★後書き
この物語の原題は "La Chasse au météore"(流星の追跡) で1908年11月に出版された。ジュール・ヴェルヌ (Jules Verne、1828-1905) の死後に息子のミシェル・ヴェルヌ (Michel Verne 1861-1925) が加筆修正したものである。物語の中に出てくる曜日が1908年の暦の曜日と一致するので、出版した年に合わせて調整したものと思われる。
元の物語では計算通りに流星は落ちたが、崖のそばに落ちたので自重でそこから落下し海に沈むという展開だった。流星を操作する科学者ジルダルを登場させたのが、息子ミシェルの加筆部分である。またミシェルはフォーサイス家・ハデルスン家の、家族の深刻ないさかいをかなりカットして、より明るくロマンティックな雰囲気にまとめあげた。
この本の英語版のタイトルは "The Chase of the Golden Meteor"(黄金の流星の追跡)となっていて“黄金”が追加されている。
日本では1968年に偕成社から塩谷太郎訳で『黄金の流星』のタイトルで出版されたが、この本は現在入手困難である。アマゾンでは品切れ、メルカリやヤフオクなどにも該当せず。古書店などの検索でもヒットしない。少なくとも北陸3県では図書館の横断検索を掛けても見付からない。国立国会図書館あたりに行かないと見ることができないかも知れない。
つまりこの物語を日本語で読むことは現在極めて困難である。
今回の翻案は、パブリックドメインになっているフランス語の原文↓
La_Chasse_au_Meteore
をベースに何とか入手した英訳本 "The Chase of the Golden Meteor" (1998) を大いに参考にした。この本の出版社は First Bison Books Printing というところで 1909年 London の Grant Richards から出た本のリプリントであると書かれている。この本に使用されているイラストは元々の本のものをコピーしている。