広告:ここはグリーン・ウッド (第2巻) (白泉社文庫)
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■黄金の流星(13)

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(C) Eriko Kawaguchi 2022-12-25
 
振袖姿の語り手(元原マミ)が登場して経過を語る。
 
「ゼフィランやミレイユたちの一行が目的地のウペルニヴィク島に到達したのは、7月16日でした」
 
「ウペルニヴィク島は無人島ということです。島の取り敢えず西側に船を停泊させました。この島の北側にナヴィク・フィヨルドの本流があり、また東側はフィヨルドの奥側になるのでいづれも流氷が多く、大きな船は航行自体が危険とのことでした」
 

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画面は船内に切り替わる。
 
船長(松田理史)が首をひねっている。
 
「オーナー、島の位置が変なのですが」
「ん?」
 
「オーナーから頂いた地図では、この島は72°53′30″N, 55°35′18″W にあるということだったのですが、その緯度経度は海の上になってしまうんですが」
 
「え〜〜〜!?」
 
案内人のタトカさんに確認する。
 
「この島がウペルニヴィク島ですか?」
「間違い無くこの島です。あの山の形が特徴的です。人は今は住んでないけど、南東側に漁師が緊急時に使う小さな港がありますよ」
 

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語り手「1時間ほど、ミレイユ、ゼフィラン、船長と1等航海士のシャルル(演:坂口芳治)、およびタトカの5人で議論したところ、要するにゼフィランが持っていた地図帳が、あまりにチャチだったことが判明しました」
 
タトカが
「この地図は酷すぎる。島の形が全然違う。位置関係もおかしい」
と言った。船長が持っている海図はかなり正しいが、それでも東側の地形が少し違う気がすると彼は言う。
 
アトランティスに積んでいる小型のエンジン(*72)付きボート“アルジャン”で、案内人さんとシャルル、記録係としてパーサーのベルナールの3人で島を一周して、それを元にだいたいの地図を描いてみた。
 

 
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(↑小説の記述とできるだけ矛盾しないように描いた地図。上方の青い線の格子の所がゼフィランの買った3km×3kmの“土地”)
 
語り手「ゼフィランが“買った”72°53′30″N, 55°35′18″W 周囲の9km2の領域はその半分以上が海の上であったことが判明しました。島にも少し掛かっていますが、一部です。島にかかる部分は3分の1にも満たない、2.72km2しか無いことが分かりました。中心点は島の北端から251m(*73) 北にありました」
 

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(*72) エンジンは1876年にニコラウス・アウグスト・オットーにより発明された。いわゆるオットーサイクルである。
 
(*73) 原文では最初に大雑把に見た時 250m, 正確に測ったら1251m と書かれているが、1251 は 251 の誤りだと思う。中心点から1251mも南に行くと残りは249mしかなく、面積が2.72km2なら、東西が 2.72÷0.249 = 10.92km もあることになり 3km×3km という話と矛盾する。
 

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「馬鹿。本当に馬鹿」
とミレイユ(アクア)がマジで怒っている。
 
「なんできちんとした地図で見なかったのさ。この地図帳って小学生が使うような地図帳じゃないの?」
「ごめん」
とゼフィラン(アクア)も謝る。
 
「それでどうすんの?わざわざグリーンランドまで来て金玉を海に落として帰るの?」
 
「今のままなら確かに海に落ちる」
 
(台本は“金の玉”だったが、アクアは“の”を見落として“金玉”と言っちゃった。それで監督が面白がって、それを活かした!)
 

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ミレイユは少し考えてから言った。
 
「でもさ。400kmも離れていた天体に力を作用させてたんでしょ?今天体はだいぶ降下してきてるよね?距離が近くなってるんだから、もっと簡単に力を作用させられるんじゃないの?」
 
「無理だ。距離が近くなると地球の重力も強くなる。距離が近い分、天体の角速度も大きくなる。更に空気の密度も大きくなって、その抵抗があるから動かしにくくなる。大気圏突入の時は操作するけど、落下地点を無理に南に変えようとすると進入角度が浅くなって、大きな被害が出る危険が出てくる」
 
「大きな被害というと?」
「周囲30km全滅とか」
「有人島があるじゃん!」
「だから進入角度はあまり浅くできないんだよ」
 
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「じゃ何も打つ手は無いの?」
 
ゼフィランは怒りに燃えた目で言った。その怒りは自分に対する怒りである。
 
「難しいけどやってやろうじゃん」
「よし」
 

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語り手「船の上では波で揺れて正確な操作ができないので、上陸することにしました」
 

 
「買った土地の中心点真南の海岸近くに小屋を建てます。天体操作のため時間が惜しいので、ゆっくりと建てている時間はありません。それでテントのようなものを建てることにしました」
 
「島の北岸は高さ40-50mの切り立った崖ばかりで、上陸に適した場所がありません。かろうじて西側に高さ10m程度の場所があるので、ミレイユとダカール船長はここをダイナマイトで爆破して上陸可能にしました(*76)。そして“アルジャン”を何度か往復させて作業班を上陸させます」
 
「あのボートってなんで銀色なの? (Pourquoi ce bateau est en argent?)」
とゼフィランが訊きます。
 
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「私、金銀財宝が大好きだから (Parce que j'aime bien l'argent.)」 (*74)
 
とミレイユ。
 
「確かに好きそうだね!」
 
(*74) フランス語で「銀」と「お金」がどちらも argent (アルジャン)というのに掛けたダジャレなのだが、日本語台本を書いた稲本亨さんが悩んでいた。ちなみにこれは映画オリジナルのエピソードである。念のため。
 
今回の台本はオリジナル脚本を、レイモン紀子さんがフランス語で書いて大和映像・モンドブルーメ双方の承認を取り、それを元に稲本さんが日本語台本を作成。同時にモンドブルーメでドイツ語台本、大和映像で英語台本を作成している。台本に変更があると4つの台本を同時に修正する。“次の映画”が控えているので、この4つのバージョンを同時公開したいため、こういう流れにした。多言語台本の同時修正は昨年の『白雪物語』でも実施している。
 
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語り手「まずは材木を組んで骨組みを作り、帆布で屋根と壁?を作り、床の半分くらいに板を並べました。傾いていても構わないから平たい床が無いと安定して操作ができません。そして実は屋根が布で電波が通るため、室内で作業できます!」
 
「取り敢えずそこにゼフィラン(アクア)が入り、監視役!のミレイユ(アクア)、雑用係としてパーサーのセルジュ・ベルナール(七浜宇菜)(*78) も入りました。ゼフィランが機械の改造をしている間に、セルジュが暖房、食器、調理器具、寝袋などを搬入します。北東の風が強い(*77) ので、そちらにはまともな壁を作ることにし、これはゼフィランが作業をしているのと並行して、作業班が丸太を並べて壁を作ってくれました。これで随分寒さがやわらぎました」
 
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「更に作業員たちは、小屋の西側に櫓(やぐら)を組み、望遠鏡で天体観測ができるようにしました。この櫓は小屋の屋根より高く、天井はガラスになっているので、凍えずに観測ができます」
 
「作業班は更に小屋内の、床を敷いていない所を掘って地下室を作ってくれました」
 
(この作業をしたのは“本物の”播磨工務店のメンツで、彼らの手際良さに河村監督が感心していた)
 
「お休みになられる時は、地下の方が多分暖かいです」
と作業員のリーダー(演:新田金鯱)。
 
「私もセルジュもそこで寝よう」
「ジルダル様は?」
「寝ている時間なんて無いはず」
とミレイユが言った所でカメラは何か計算をしているっぽいゼフィランの後姿を映す(むろん演技しているのは葉月)
 
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語り手「ゼフィランはその日(?)の内に機械の改造をあらかた終え、作動させました。ミレイユは航海中もそうでしたが、普段なかなか読めない、顧客からの手紙に目を通し、お返事を書いていました」
 
「太陽が沈まないから、どうも時間感覚が分からない」(*75)
「自分の時計で生活すればいいよ」
「うん。アトランティスの時計はグリニッジ時刻のまま」
「そのほうが換算しなくてすんで楽だ」
 
「ところでミルって、結婚しないの?」
とゼフィランは訊いた。
 
「好きな人はいるよ」
とミレイユ。
 
「どこか大きな企業の社長の息子とか貴族とか?」
「仕事を持ってる人だよ」
「ふーん」
 
「もちろん結婚しても銀行のお仕事はやめないし、それを彼は納得してくれてる」
「奧さんになれという男とは結婚できないだろうね」
「うん、そんな男とは結婚しない。赤ちゃんも彼に産んでもらう」
「ああ、いいかもね」
 
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(*75)(この物語の)ウペルニヴィク島の位置では、1908年の場合、5月6日から8月8日までが白夜だったと思う。白夜は気象条件によって光の屈折が変わるためこの計算から数日ずれていたかも知れない。
 
(*76) ダイナマイトは1866年にアルフレッド・ノーベルにより発明された。1875年までにそれに改良を加え、今日のものに近い形にしている。
 
(*77) ここは極地なので、常に北東の風(極偏東風)、つまり北東から南西に向けて吹く風が吹いている。それで櫓も小屋の西側に組んであまり寒くないようにした。しかし、この風が実はあとで問題になる。
 
高緯度:極偏東風 北半球では北東の風、南半球では南東の風
中緯度:偏西風 北半球では南西の風、南半球では北西の風
低緯度:貿易風 北半球では北東の風、南半球では南東の風
 
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貿易風も偏東風と呼ばれることがあるので区別するため、貿易風を熱偏東風、極地のものは極偏東風と呼び分けることが多い。
 
(*78)宇菜はアクアが2人いることを知っているので、ここはボディダブルを使わずに撮影できて便利である。宇菜はコスモスや山村でさえ知らない、2人のアクアの各々のスマホ番号を知っている数少ないひとり。もっとも宇菜は2人とも女の子なのだろうと思っているふしもある。
 
宗教規律の厳しい国用バージョンでは宇菜の出番が物凄く減ってしまうので、端役ではあるが、ここで宇菜が二役登場である。長髪でフロックコートやスーツを着たセスと短髪で制服姿のセルジュではかなり印象が違うので、二役であることに気付かなかった人も結構あったようである。
 
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振袖姿の元原マミが出て来て、隕石落下の衝撃について語る。
 
「ここにあげる写真(写真省略)は有名なアリゾナの隕石孔、バリンジャー・クレーター (Barringer Crater) です。、直径1.2km, 深さ200m あります。この巨大なクレーターを作った隕石は、直径30-50m くらいのサイズだったと言われています。今回の物語の隕石にわりと近いですね」(*79)
 
「この隕石衝突のネルギーは10メガトンくらいで広島型原爆のおよそ1000倍程度と推定されます。落下した時は、マグニチュード5.5の地震を起こし、半径3-4km以内が超高熱となり、衝突の衝撃で発生した火の玉で半径10km以内のものを焼き尽くしました。マッハ2の衝撃波が半径40km以内に広がりました」
 
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「奇しくもこの物語が発表された直前1908年6月にロシアのツングース地区で起きた隕石落下の場合、半径30-50kmの範囲の森林が炎上し、1000km離れた所でも窓ガラスが割れたとされます。この爆発を起こした隕石は直径50-60mと推定されています。ツングースの爆発のエネルギーはバリンジャーのものの半分以下の規模と推定されます。ただしツングース事件は隕石の激突ではなく、空中爆発であったことを考慮する必要があます」
 
「ちなみに明治時代に噴火して山体を吹き飛ばした磐梯山の噴火は25メガトンくらい。エネルギー的にはバリンジャー衝突の倍くらいの規模です。また、東北地方太平洋沖地震の地震エネルギーは約500メガトンで、バリンジャー衝突の50倍です」
 
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(*79) 筆者が極めて大雑把な計算をしてみた所、この物語の隕石の衝突は質量は大きいものの速度がかなり遅いので、“原作通りにぶつかった場合”、恐らくアリゾナのバリンジャー隕石の1.4倍程度の衝撃に留まるものと
思われる。それでも落下地点から10km以内に居た場合、生命の保証は全くできない。特に2km以内に居た場合は即死(即蒸発)すると思われる。
 
この計算に基づき、今回の翻案ではミレイユたちの行動、ツアー客たちの行動を一部修正している。
 
落下地点から500mの所の小屋など中に居る人もろとも瞬間的に蒸発する。また隕石が落ちた後、3日程度は“普通の装備では”見える所までも近づけない。
 
原作では、天体落下の時は「激しく揺れた」と書かれているが“激しく揺れた”程度では全然済まない。パワーの桁が違いすぎる。
 
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字幕:1908年7月15日(水).
 
ボストン天文台が声明を出した。
 
(ジルダルたちがグリーンランドに到着する前であることがミソ)
 
朗読者1(西宮ネオン)「我々はフォーサイス・ハデルスン天体の動きを慎重に観察してきた。5月30日から6月9日に見られた不規則な動きが消え、6月10日から7月5日に掛けては秩序のある何かの力が作用して軌道がずれてきた。そして7月6日以降はその未知の力も消え、この10日間、天体は地球の引力だけを受けて物理法則に従った動きをしており、高度も降下してきた。ここまで降りてくると、空気の抵抗などもあるので、天体が元の軌道まで上昇することは考えにくい。従って天体は落下するものと思われる」
 
「空気抵抗などは予測しがたい面もあり、また何かの作用が働く可能性はあるが、現時点では下記のことが予測できる」
 
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(1) 天体は落下する
(2) 現在の動きが保持された場合、落下はグリニッジ時刻で8月19日の2時から11時の間であろう。
(3) 落下はグリーンランドのウペルニヴィクを中心とする半径10kmの周囲と思われる(*80).
 
語り手「この発表が行われると、金鉱株はそれまでの価格の5分の1程度まで暴落しました。相場が底まで落ちたところで、ルクール銀行は、ミレイユが予め出しておいた指示にもとづき、先に空売りしていた金鉱株を全て買い戻しました。これによって同銀行は莫大な利益を得ました」。
 

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(*80) この声明は明らかに矛盾している。落下時刻を2時から11時までという物凄い時間幅で予測しているのに、落下地点が特定できるわけがない。9時間もあれば、天体は地球を5周するのに!(落下地点候補が5つできるはず)
 
しかし小説の展開としては、場所を特定しないと話が進まないので、ここは誤魔化したものと思われる。
 
ゼフィランが正確に落下地点を制御できるのは、自分で軌道を管理しているし、自分で大気圏突入のタイミングと角度を制御するつもりだからである。
 
むろんこれは難しい計算である。1979年のスカイラブ落下の際には、NASAはアフリカのケープタウン南南西1000kmの海上に落とすつもりだったのが、僅かな計算ミスがあり、実際にはオーストラリア南西端近く、パース(Perth) という町に落下してしまった。幸いにも怪我人などは無かったが、町長はジョークでNASAに400ドル(10万円)の罰金を科した。NASAは黙殺していたが、2004年にアメリカのテレビ番組がこのことを取り上げ募金を呼びかけた。そして400ドルをNASAに代わって町に届けた。
 
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黄金の流星(13)

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