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■黄金の流星(16)

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8月18日早朝。
 
夜通し、フォーサイス・ハデルスン天体を観測していたボストン天文台のワーフ研究員は、天体が見える範囲を通過する度に、どんどん明るくなってきているのを認識した。0時頃の観測で東の空に見えた天体が、1時半頃の観測、3時の観測、で天頂に近づいてくる。4時半の観測ではもう今落ちるのではとも思ったが、落ちずに南の空へ遠ざかっていった。
 
(この緯度が近地点なので、ここを通り過ぎると地球から離れ、1時間半後まで戻って来ない)
 
「これは確かに6時頃の接近でここに落ちそうだ」
と彼は呟いた。
 

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朝5:50頃、北の空に大火球が現れる。ワーフ(計山卓)は震え上がった。
 
「やばい!」
 
彼は観測機器を町役場の庭に放置したまま、建物の中に駆け込んだ。そして町長(高牧雅秋)と資源大臣(揚浜フラフラ)を起こす。
 
彼が資源大臣を起こそうとしていた時、外は熱帯の昼間のように明るくなり、物凄い衝撃音が2度続いた。地面が激しく揺れ、ワーフも町長もその場に倒れる。3人が表に出て東の空を見ると、巨大なキノコ雲ができていた。
 
「何あれ?」
「あんな雲、見たことない」
「天体が落ちた衝撃でできたのだと思います」
「あんな凄い雲ができるのなら、もし近くにいたら・・・」
「一瞬で蒸発したでしょうね」
「ひゃー!」
 
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語り手「このあと、島には大量の黒い雨が降りました。どうも衝突の衝撃で上空に吹き飛ばされた土砂が雲に到達し、雨になって降ってくるようでした。なお、核爆発ではないので、この“黒い雨”に放射能は含まれていません」
 
「シュナク資源大臣はすぐに、派遣されてきている警備兵たちに指示し、港に停泊している船に被害が出てないか聞き取りに行かせました。また警備兵の半数とこの町の警官(全部で2名)、不測の事態のために待機していたボランティアの人たちで、住人たちに被害が出てないか町内を見て回りました」
 
「町や観光船などで大混乱が起きている中、1隻の船が全速力で南に向かって走って行ったことに、ナヴィク島内と停泊中の船に居た人たちは誰も気付きませんでした」
 
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「島内の住民たちはみな寝ていたので、激しい衝撃音と揺れで全員飛び起きたものの怪我人はほとんどいませんでした。家屋も激しく揺れましたが、木造住宅の強みで、壊れたりした家はほとんどありませんでした。窓ガラスは結構割れていましたが、みんな取り敢えず布や板で塞ぎました。年寄りや女ばかりの家では、見回りで訪れた人たちが片付けたり、応急修理をしてあげました」
 
「ナヴィク湾には物凄い津波が来て、一部の港湾施設に被害が出、小型の漁船がかなり壊れたものの、岸から離れて停泊していた客船の中には転覆した船はありませんでした。しかし立っていた人は全員転倒し、船室の窓ガラスがかなり割れました。窓を塞ぐ材料が足りないので、乗客の衣類を借りて窓を塞いだりしました。このあたりの処理は各々の船のクルーやスタッフで何とかなりそうでした」
 
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「まだ朝になる前でデッキに出ていた人が居なかったのも幸いでした。デッキにいたら、間違い無く海に投げ出されていたでしょう」
 

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字幕:夕方、町役場。
 
「住民は全員寝ていたので、怪我人は無かったようです。一軒だけカツェルターシビクで、古い家が崩れてしまったんですが、住んでいた人たちに怪我はありませんでした。親戚の家に避難しています。衣類と食料を提供しました。ほか崩れた家が10軒ありましたが、全て無人でした」
と警官1(演:滝沢小股)が町長に報告する。
 
「旅客船のスタッフの中で、警備で巡回していた人や、朝食の準備をしていた人の中に、転んだり、また揚げ物をしていてその油が掛かって軽い怪我や火傷をした人が全部で52名ありましたが、全員、船に積んでいた医療品で何とかなるらしいです」
と兵士2(演:沢村明美:男子@信濃町ガールズ関東)も報告した。
 
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「それは良かった。もう君たちが女だと言われても驚かないくらいびっくりしたよ」
と町長が言うと、警官が困惑したような顔をしている。
 
「どうかした?」
「本官は女でありますが」
と警官1(滝沢小股)。
「こういう時にそういう冗談はやめてくれる?」
 
「自分は子供の頃、よく女に間違われました」
と兵士2。
「ああ、君は女にしてあげたいくらい可愛い顔をしてると思うよ」
と町長も言った。
 
語り手「ともかくも8月18日は夕方までこの激しい衝撃波や津波の被害の処理で島民も船員・船客たちも忙殺されました」
 

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語り手「8月19日(水)、住民や見物客たちも少し落ち着いてきたので、シュナク大臣は“天体が落下した?”場所を調査してこようとしたのですが・・・」
 
「無理です。これ以上近づけません」
と兵士1(横川光照@信濃町ガールズ関東)の声。
 
語り手「あまりにも熱くて近くに寄れないのです。この日、シュナクたちは恐らく天体が落下したと思われるウペルニヴィク島から3kmほどの地点で引き返さざるを得ませんでした」
 
「こんなに熱いということは。天体はやはり島に落下したかね」
とシュナク(揚浜フラフラ)が期待を持って訊くが、ワーフ研究員(計山卓)は
 
「分かりません。大半が海に落ちたものの、天体に熱せられた岩などが熱を持っている可能性もあります」
と冷静に答えた。
 
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語り手「この日の観察では、近くの島の氷雪が全て融けて地面が露出しているのが観察されました。あたりには氷山なども見当たりません。全て天体衝突の熱で融けてしまったようです。フィヨルドがかなり増水していました。島々には山火事がおきたような跡も見られました、地衣類などが燃えたのでしょう。観光船の乗客たちの関心は、天体が地面に落ちたのか、海に落ちたのかでしたが、この時点では、政府にも判断が付きませんでした。地面か海か賭けをしている客も多くありました」
 

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語り手「天体落下の調査は20日も行われました。海上からの目視で、どうも天体は島の北岸付近に落下したようだというのが分かりますが、あまり近寄れないので詳しくは分かりません」
 
「島の北岸にあった山が無くなってる」
と町長。
 
「衝突の衝撃で吹き飛んだのでしょうね」
とワーフ。
 
語り手「島の南側の港には上陸できるようでしたので、シュナク、ワーフたち、および兵士が上陸します。しかし熱さのため北岸までは到達できず、途中で引き返すことになりました」
 
「でもこの分だと明日には確認できるかな」
とシュナク。
「断定はできませんが、明日なら、もう少し冷めて、落下地点を少し離れた所から確認できる可能性はありますね」
とワーフも答えた。
 
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語り手「8月21日(金)、シュナク大臣やワーフたちの他に、天体の様子がどうなっているか知りたくて待ちきれない見物客の一部も見に行くことにしました。12隻の観光船の各船から5名ずつ合計60名が参加します。ただし見物客の中に居る、フォーサイス氏(ケンネル)とハデルスン博士(チャンネル)は、特に一緒に行くことを許されました」
 
「見に行く人たちは、原則30歳以下で体力があり、道なき道を歩ける人という条件でした。フォーサイスやハデルスンは条件から外れますが、付き添いとしてフランシス(鈴本信彦)とジェニー(ビンゴアキ)も同行することで許可されました」
 
「フォーサイス氏とハデルスン博士は、天体を見に行くというと、フロックコートに着替えました。天体落下のせいで気温が上がっているので、実際防寒着を着なくても結構行ける感じでした。フランシスとジェニーは、普通の服の上に念のため防寒着を着ました。ただしジェニーは下はズボンですし、靴もプリムソールです。これはスニーカーの原形のような靴です。いくら気温が上がっていても、さすがにスカートで外に出るのは無理でしたし、ヒールのある靴では歩けないような所を通る可能性がありました」
 
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「各船から選ばれた乗客の中にはモジークに乗ってきたセス・スタンフォートと、オレゴンに乗ってきたアルケイディア・ウォーカーも居ました。ふたりは互いを見付けると手を振って近寄り、手を繋ぎました」
 
映像はセス(七浜宇菜)とアルケイディア(アクア)が手をつなぐ様子。
 
「調査用のグリーンランド海軍の船がウペルニヴィク島に近づくとみんなその暑さに驚きます。防寒着を着ていた人たちはそれを脱ぎました。船は島の南東にある港に入り、そこから数回に分けてボートに乗り、上陸しました」
 
「島の西岸は山が海岸近くまで迫っているので、東岸の古い猟師道を歩いて落下地点と思われる北岸まで行くことにします。フォーサイスとハデルスンは、いよいよ“自分の天体”が見られるというので、とても嬉しい顔をしていました。ふたりは前後して歩いているのですが、お互いのには全く気付いていないようです」
 
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フランシスに手を引かれたフォーサイス、ジェニーに手を引かれたハデルスンの映像。そのすぐ後ろに、手をつないだセスとアルケイディアが歩いている。
 
(この見物客は実は、§§ミュージックのスタッフ!参加者は5000円の商品券と撮影弁当をもらって喜んでいた)
 

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道のような道でないような所を一行は歩いて行く。
 
シュナクはワーフに語っていた。
 
「この天体が我が国に落ちたのは大きな天の恵みです。この金(きん)で、グリーンランドは他国から借りている債務を返済して、首都に多数の人が住める住宅を作り、製鉄所とかも建築して・・・・」
 
歩いて行くと、結構崖崩れして道が途切れている所もある。そういう箇所は少し内側の高い所に回避するが、これが結構な体力を使う。
 
「私プリムソール履いてきて良かった」
などとジェニーが言っている。
 
それでもひとりで歩くのがやっとである。とても父親まで引き上げきれずに困っていたら、後ろを歩いていたセスとアルケイディアが助けてくれた。
 
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「ありがとうございます」
「私たち、あちこち旅をして回っているから」
「結構な山道とかも歩きますよ」
「凄いですね」
「おふたりはご夫婦?」
とアルケイディアがフランシスとジェニーを見て言う。
 

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「それが・・・」
と言って、フランシスは自分たちのことをセスたちに話した。
 
「フォーサイスさんとハデルスンさんが対立しているのは知ってたけど、子供たちの結婚にまで文句付けなくてもいいのに」
とアルケイディアが怒って言う。
 
「親と子供は関係無いよ。親は放っといて結婚しちゃえばいいよ」
とセスも言う。
 
「この旅が終わってワストンに戻ったら、たとえ反対されても結婚しちゃおうと言っているんですよ。教会だとあれこれ言われるかも知れないけど、無宗教で判事さんのところで結婚する手もあるし」
とフランシスが言うが、ジェニーは悩むような顔をしている。
 
「私たちもプロス判事さんの所で結婚したんですよ」
とアルケイディアが言う。
 
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「そうだったんですか!」
「合衆国の法律には、結婚式は教会で挙げなければならないなんて書いてないですから」
とセスも言う。
 
「それもいいかなあ」
とジェニーもやっと言った。
 

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角を曲がった所で、猛烈な暑さを感じる。しかしそれよりもみんなの目に“それ”は映った。
 
「天体だ!」
「やはり地面に落ちたんだ」
「でも物凄く熱くなってるみたい」
「あれ熔けてるよ」
「もう少し近づいてみよう。暑いけど」
 
と言って、みんな近寄る・・・が唐突に、あり得ないものを見た。
 

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そこには、左右にずっと続くフェンスがあり、紙が貼られていて、下記のような文章が、英語・フランス語・デンマーク語で書かれていた。
 
《私有地に付き立入禁止》
 

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シュナクは戸惑うように立ち止まった。
 
「こんな所に私有地があるって凄いですね」
とワーフ。
「いや、そんな馬鹿な。南国のリゾートなら私有地があるのも分かるけど、こんな何も無い場所になぜ私有地とかあるんだ?」
とシュナク。
 
落下した天体は目に見える場所にある。ここから2kmくらいだろうか。しかしここに私有地がある。私有地に勝手に入ることはできない。
 
シュナクが連れてきた警備兵たちは無言で立っている。しかし見物客たちの間には、戸惑いの空気があり、やがて小さな囁き声が生まれ、次第に大きくなってやがて彼らは勝手な行動に出た!
 
フェンスを乗り越えだしたのである。見物客たちの7割くらいがオーバーフェンスして“私有地”内に入ってしまうと、大臣と町長、それにワーフは顔を見合わせた。
 
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「どうしますか?」
と町長が訊く。
 
「入ろう。国として“被害の調査”をして、必要なら、所有者に国が“支援する”必要があるかも知れない」
とシュナクは言った。
 
それでシュナクもフェンスを越えて私有地に入っちゃった。シュナク大臣が入ると、町長、ワーフ、兵士たち、そして様子を伺っていた20人ほどの見物客もそれに続いた。大臣の後で中に入った見物客の中に、フォーサイス、ハデルスン、付き添いの2人、そしてセスとアルケイディアもいた。
 

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しかし私有地に無断侵入した群衆はまたいったん停止する羽目になった。
 
敷地内に立っている小屋から、ひとりの男性が出て来て、言ったからである。
 
「君たち、何してるんだ?ここは私の私有地だぞ」
 
 
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