広告:オトコの娘コミックアンソロジー~天真爛漫編~ (おと★娘シリーズ8)
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■黄金の流星(6)

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(*29) 公開時
「これ本当にキスしてるよね?」
という声多数。
 
実際にキスしたかどうかについて訊かれた2人は
「卵は完食しました」
「全部食べたよ」
と公式チャンネルでコメントしたので多数の悲鳴があがる!
 
しかし今井葉月がアクアと宇菜のコメントのわずか3秒後!に
 
「あれは最初に口に咥えて食べ始めた所だけを撮影し、そのあと卵は真ん中からナイフで2つに切って、各々の口を付けた側を完食したんです」
 
とコメントしたので多くのファンが胸をなで下ろした。
 
葉月のコメントが3秒後だったことでも分かるように3人示し合わせての“犯行”である。
 
実際、本当にふたりが卵を咥えたまま完食したのなら、その映像を残したはずである。映さなかったということは何かの作為があったと考えるのが自然である。
 
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実は監督は卵は口を付ける所まで撮ったら廃棄するつもりだったが、2人が「もったいない」と言うので、葉月が言ったようにナイフで分割して渡した。
 
「でもアクアと宇菜ちゃんならキスしても許せる」
という声も多かった。
 
「だって女の子同士だから結婚できないし」
というコメントが続いた!
 

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映画に戻る。
 
2人が卵を凄い食べ方をして最後はキスで終わったのを見てケイトは
 
「幸せな食べ方ですね」
と笑顔で言った。
 
(しばらく新婚カップルなどで、この食べ方が流行ったらしい)
 
「フォーサイス・ハデルスン天体に関しても、私はあれはきっと双曲線軌道か放物線軌道で2度と地球には接近しないと言ったのに対してセスは長円軌道で50年後くらいに地球に戻ってくると言ったのですが、離心率の小さな、円に近い楕円軌道ということが判明しましたし」
 
「天体の組成についても、僕はあれはきっと氷の塊だよと言ったのに対して、アルカは岩石だよと言ったのですが、金(きん)の玉だということが分かりましたし」
 
「ふたりとも外れたから、おあいこです」
とアルケイディア(アクア)は言った。
 
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「では結婚しますか?」
と判事は確認する。
 
「はい」
と2人は仲良く答える。
 
「では結婚式をしましょう。取り敢えず車から降りてください」
「それは必要なのでしょうか」
「いえ、結婚するための要件ではありません」
「ではこのままで」
「分かりました」
 

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それで判事はまず、車に乗ったままの男性(宇菜)に向かって言った。
 
「セス・スタンフォートさん、あなたは、このアルケイディア・ウォーカーさんを妻として結婚しますか?」
「はい」
 
続いて判事は車に乗ったままの女性(アクア)に言った。
 
「アルケイディア・ウォーカーさん、あなたは、このセス・スタンフォートさんを夫として結婚しますか?」
「はい」
 
判事は言った。
 
「法の名において、セス・スタンフォートさんとアルケイディア・ウォーカーさんは結婚してひとつになったことを宣言します」
 
それで2人は各々の車に乗ったまま握手した。そして各々が自分の札入れから500ドル紙幣を出して判事に差し出した。
 
「手数料分を取って残りは貧しい人たちのために使ってください」
と2人は言った。
 
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「分かりました」
 
「ありがとうございました。さようなら」
「さようなら。お気を付けて」
 

それで2人は車を並行してバックさせ、そのあと、アルケイディアの車の後ろにセスの車が続く形で走り去った。
 
2人の姿が消えるとケイトは言った。
 
「妻が夫になり、夫が妻になって、また結婚するって素敵。ロマンティックですね」
 
プロスも言った。
「これで落ち着くといいね」
 
プロスは、そう言ってから「ん?」と思った。
 
ケイトと顔を見合わせる。
 
「まさかね」
 

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(*30) N型フォードは有名なT型フォードのひとつ前の型で、現代では極めて稀少なモデルである。国内にこれを1台所有しているコレクターさんがいたので、その方からお借りした。屋根(幌)はあるがT型のようなドアは無いので、2人は座席から乗り出す形でキスすることができた。
 
お借りしたのは1台なので、アクアが走らせているシーンも、宇菜が走らせているシーンもこの借りた同じ車体である。操作についてはオーナーさんに指導してもらった。車検は到底通らない車だが、スタジオ内は公道ではないので、走らせることが可能である。
 
ナンバープレートはアルケイディアが運転する時は“AW”、セスが運転する時は“SS”が取付けられている。アメリカでの初期のナンバープレートは所有者のイニシャルを表示していた。
 
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アクアのマネージャー・山村が知り合いの自動車マニアに頼み、このN型フォードのレプリカを作成した。ただしエンジンは積んでないので走らせることはできない。本人は走れるようにしたかったようだが、コスモスが禁止した。だからレプリカは自力走行でききない(はずである)。
 
この車体は見てくれだけだが、ふたりが庭に並んでいるシーンの撮影に使用した。タイヤはロックされていないので、牽引することで移動可能である。庭を前進してドアまで行く所と、バックして門に戻る場面は実は細いワイヤーで牽引している。結婚式の撮影中は車止めで固定しておいた。また、2台並んで走っているシーンは先行する本物に、後続のレプリカを牽引させた。停車する時は声を掛けて同時にブレーキを踏む。
 
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なおT型フォードが発売されたのは、この物語の時代のすぐ後、1908年10月1日である。きっと2人はすぐ買ってる。
 

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字幕:1908年5月10日(日)パリ。
 
唐突に登場した人物を最初アクアだとは認識できなかった人も多かった(*46).
 
字幕で“ゼフィラン・ジルダル”(Zephyrin Xirdal) と紹介される。
 
髪はボサボサで無精ヒゲを生やしており(*31)、油汚れや食品の染みがついたシャツに、同様に油汚れがあったり穴が空いていたりするズボン。部屋の中には大量の本が天井近くまで積み上げられており、よく分からない機械も多数転がっている。かろうじてカーペットの上に置かれた小さなテーブルの上にも何冊もの本やノートが積み重ねられている。彼は新聞を読んでは何か思いついたようにノートを取り出してペンを走らせていた。
 
(*31) アクアにはヒゲは生えないので、この無精ヒゲは付けヒゲである。特殊メイク?
 
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やがてお腹が空いたのか、台所に行き、シンク内に大量に積み重ねられた食器や鍋などの中からフライパンを取り出すと、軽く水道の道で洗ってから調理用ストーブの上に載せてマッチで火を点けた。そしてバゲットをスライスし、その上にコンフィのお肉(*32) も載せて焼いた。一方で、シンクから発掘した小型の鍋に、陶器の壺に入ったスープを少し取り、それも暖めた。
 
パンの皿とスープの皿を部屋に持って来て食べるが、食べながらも何か一心に書いている。うっかりスープの皿を落とし、スープが服に掛かるが気付かない??食べ終わると皿を片付ける。この時、初めてズボンにスープがこぼれているのに気付き、ズボンを穿き換えた(アクアのお着替えシーン!)。
 
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彼は丸一日何かの計算をしていた。それから部屋の中のあちこちから発掘した材料を使って何かの機械を組み立てた。パラボナアンテナが付いている。彼は窓のそばにその機械を置き、度数を計測してアンテナを正確な方向に向け、作動させた。
 
そして本の山に埋もれて眠った。
 
彼が寝ている間に、彼の機械のアンテナはゆっくりとした速度で勝手に動いていた。
 

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翌日、彼は目覚めると懐中時計を見た。望遠鏡を計算した方角に向ける。
 
「うん。うまく行った」
と呟くと昨日窓の傍に置いた機械の向きを少し調整した。
 
彼は数日このような生活を続けた。
 
訪問家政婦のナタリー・チボー(演:立花紀子)(*33) がやってきて台所を片付けてスープストックやコンフィ(*32) を作ったり、洗濯をしたりしてくれる。彼女は部屋の中の、ジルダルのテープル近くに散乱している食器や衣類を回収した。
 
「ジルダルさん、部屋を片付けましょう」
と彼女は言うが、
 
「本とか機械には触らないでね」
と言っては、ひたすら何かの計算をしていた。
 
部屋中に本や機械が転がっているので、それに触らずに掃除することは不可能と思われた。
 
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(*32) コンフィはフランスの伝統的な保存食。肉や魚をたっぷりの油の中で加熱し、その加熱に使った油ごと保存する。油により空気と遮断されているので、長期間の保存が可能である。
 
なお当時冷蔵庫は存在したがゼフィランは使用していない。1人暮らしのアパルトマンでは不要だと思う。当時の冷蔵庫は電気を使わずアンモニアで冷やす方式。電気冷蔵庫は1911年にアメリカのゼネラル・エレクトリックが発売したのが多分最初。
 

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(*33) 原作では Vve Thibaut と書かれている。Vve は veuve (ヴァーヴ:女やもめ)(*35) の、今は使用されていない古い時代の略称で、既婚女性の敬称 Mme (マダム) (*34) の代わりに使用されることもあった。恐らく、夫を失った女性が、この手の雑用を請け負って生活の糧としていたものと思われる。原作ではチボーの亡き夫は肉屋さんだったと書かれている。原作でのチボー夫人の年齢は恐らく40-50代か。しかし前述のように制作上の都合で若い女性に改変され、ナタリーというファーストネームも付けられた。
 
原作ではチボーが請け負っているのは掃除だけだが、ジルダルが時間を掛けて料理や洗濯をしたりマーケットで食材を買ったり、あるいは彼が外食している姿が想像できない。彼はきっとその時間を惜しんで何かの研究をしている。それでチボーは料理も作ってくれ、洗濯もしてくれることにした。
 
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もっとも、ジルダルは掃除されたくないと思うのて、そもそも単純な掃除人を雇う意義を感じない。料理と洗濯をしてくれる人を雇ったらサービスで掃除もしようとするのにジルダルが抵抗しているという状況が想像できる。
 
(*34) フランスでは現在では女性の敬称はMme(マダム)に統一されており、、既婚・未婚を問わず Mme が使用される。未婚女性のみに使用されていた Mlle (マドモアゼル)の使用は2012年に禁止された。
 
(*35) カトリックでは、離婚は原則として認めないので法的に離婚しても他の人と再婚するのは許されない。少なくともカトリック教会では結婚式は挙げられない。しかし死別した場合は問題無く再婚できる。教会結婚式でも司祭や牧師は「死が2人を分かつまで」と言う。
 
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どうしても離婚したい場合、実際にはバチカンまで行き、ローマ教皇に許しを乞えば離婚が認められる。藤圭子(宇多田ヒカルの母)と前川きよしは、離婚するためにわざわざバチカンまで行って許可をもらった。しかし庶民にはそんな遠くまで行くこと自体が難しい。
 

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ゼフィランはその日、また機械の向きを変えてから出掛けた、
 
かなり酷い格好でパリの町並みを歩いて行くが(*36)、本人は自分の格好など全く気にしていない。やがてルクール銀行に至る。中に入ろうとするので、守衛(演:タイガー沢村)が一瞬停めようとするが、彼を認識して笑顔で通してくれた。ゼフィランはロビーに居る副店長(友情出演:高牧寛晴(*37))に声を掛けた。
「ミルちゃん居る?」
「おはようございます。ジルダル様。お呼びして参りますので、こちらでお待ち下さい」
と言って、副店長は彼を特別応接室に通した。すぐ女性銀行員(演:夕波もえこ)(*38)がカフェとお菓子を持ってきてくれたので、それを頂きながら待った。
 
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(*36)ゼフィランがパリの通りを歩くシーンは(アクア以外)全てCGである。町並みは1908年頃のものを再現する必要があったし、道行く人々の服装も当時のものを使う必要があるので、リアルでの撮影は事実上不可能であった。
 
(*37) 今井葉月の父である。黒部(クロブ)座の副社長。クロブ座はシェイクスピアが属していたグローブ座のもじり。いつも舞台ばかりなので、映画の撮影は緊張したと言っていた。更に彼は基本的に女形で、いつも女役ばかりで男役をしたのは久しぶりなので男物の衣裳で演技するのに違和感を感じたと言っていた。更にトイレに入るのに女子トイレに入りそうになって葉月から停められて焦ったらしい。
 
(*38) 当時のパリは“ベルエポック”の時代である。アールヌーボーの中心地であり、女性の社会進出も始まっていた。フランスでは1880年にカミーユ・セー法が作られて女性の中等教育が制度化されている。ルクール銀行は特に女性頭取の銀行なので、女性銀行員の採用も早かったと思われる。
 
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黄金の流星(6)

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