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■黄金の流星(9)

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(C) Eriko Kawaguchi 2022-12-23
 
1908年5月18日(月).
 
ケイト(薬王みなみ)は判事の部屋の掃除を終えると玄関の掃除を始めた。その時、女性が1人、門の所まで来たことに気付く。ケイトは声を掛けた。
 
「こんにちは、アルケイディア・スタンフォートさん。中へどうぞ」
「いえ、連れが来るまでここで待っています」
とアルケイディア(アクア)は答えた。
 
「そうですか」
 
それでケイトは彼女のことは気にせずに掃除を続けていた。ところがそこに大量の群衆が押し寄せてくる。アルケイディアは口を手で覆い、困惑している。ケイトは門まで行き、彼女の手を引いた。
 
「危険です。こちらへ」
と言って、彼女を邸内の待合室に通した。
 
「コーヒーでもお持ちしますよ。しばらくお待ちください」
「ありがとう」
 
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押し寄せた群衆が、案内も乞わずに判事邸の庭に入り込んだ。騒いでいるのでケイトが注意する。
 
「静かにしてください!厳粛な法廷ですよ」
と叫んだが、全く鎮まらない。
 
ケイトは肩掛けしている可愛いバッグから大型の拳銃を取り出し、1発空に向けて撃った。
 
さすがに群衆が静かになる。
「皆様、紳士・淑女ですよね。礼儀正しく静かに待ちましょう」
とケイトは言った。
 
使用した拳銃は S&W "Triple Lock" (29.8cm .44 1907年発売)てある。ケイトは落ち着いて銃を“メリーさんの羊”が描かれたバッグ(夕波もえこ絵)にしまった。
 
空から鳩が1羽落ちてくる。どうも今ケイトが撃った銃の弾に当たったようである。
 
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「お昼御飯にしよう」
と言って、ケイトはその鳩を回収した。
 
そこに警官隊が駆けつけて来て場内の整理をしてくれた。
 
ケイトは群衆の中で、もみくちゃにされていた女性を発見したので彼女の傍まで行く。
 
「セシー・スタンフォートさん、こちらへ」
と言って、ケイトは彼女を連れて邸内に入ると、彼女も待合室に入れちゃった!
 
「プロス判事はひとつ裁判を片付けなければならないんです。大変申し訳ありませんが、3時間くらいお待ちください」
 
「分かりました」
とセシー・スタンフォート(七浜宇菜)は答えた。
 
「お昼でも取り寄せますね」
「すみません!」
 

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ケイトが部屋を出て行くと
 
「遅刻よ」
とアルケイディア(アクア)がセシーを責める。
 
「ごめーん。さっきそこで気球による天体観測しててね」
てセシー(七浜宇菜)は弁明する。
 
「気球を飛ばすのに助手が必要だとかて。ところが気球には2人しか乗れない。飛行士と助手だけ。観測の結果を見届けようと、フォーサイス派の人たちとハデルスン派の人たちが集まってて、どちらの派の人を乗せても不公平じゃん。ちょうどそこに私が通り掛かって。街で見かけない人ですが旅行者さんですか?と訊かれて。私が『はい』と答えたら『中立な人物として助手をお願い』と言われて。『女でもいいんですか?』と訊くと『記録を付けるだけだから字さえ書けたら女でもいい』というから、それで観測気球に乗って助手を務めてきた」
とセシーは説明した。
 
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「そんなことしてたんだ?」
「遅れてごめんね」
「ううん。そういうことなら許してあげるよ」
とアルケイディアも言った。
 
それで2人はキスし(撮影は寸止め)、セシーはアルケイディアの“隣”に身体が密着するように座った。
 
(映画公開時、アクアファン・宇菜ファン双方から「こらぁ離れろ!」「ソーシャルディスタンス取れ」という声多数)
 

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「でも中立ではない気がするけど」
「まあ熱狂してる人よりはマシかな」
 
「でも私たち合うと思ったんだけどなあ」
「お互い旅行好きだしね」
「でも私が東へ行きたいと言った時、あなたは西へ行きたいと言った」
「私が北へ行きたいと言った時、あなたは南へ行きたいと言った」
「それであなたはパタゴニアに行くの?」
「うん。それであなたは日本なのね」
「妥協できないね」
「仕方ないね」
「でも私たちの番が来るまでおしゃべりしようよ」
「うん。ふたりでおしゃべりするのは楽しいよね」
 
「でもさ、私たち男になったり女になったりしたけど、男と女とどちらのほうが気持ち良かった?」
「私は男がいい。また男になりたい」
「私は女でいい。もう男にはなりたくない」
「そういう性別で出会えたらいいね」
「その時はまた結婚しない?」
「考えとく」
 
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一方、庭では、警察が庭に2本のロープを張り、フォーサイス派の人とハデルスン派の人を左右に分け、間に通路を確保した。警官たちはそのまま庭の数ヶ所に立ち、警戒に当たった。
 
(警官に扮したのは♪♪ハウスの男性タレントさんたち。群衆はCG!)
 
判事邸の庭にはフォーサイスとハデルスン、本人たちも入ってきた。お互いに相手を見ようともしない。
 

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プロス判事が出てくる。
 
判事は提訴した両者に、アルファベット順に、各々の主張を述べるように言った。最初にFのフォーサイスが弁論し、次にHのハデルスンが弁論した。2人が充分に話した所で判事は
「裁定は1時間後」
と言って、いったん休廷する。
 
プロス判事は執務室に戻ると、ケイトが入れてくれたコーヒーとお菓子を頂いた。そして1時間してから“昨日の内に書いておいた”裁定文を持ち、庭に出ていった。
 
「法廷を再開します」
と判事は宣言し
「裁定を下します」
と言って、裁定文を読み上げる。
 
「天体は宇宙空間にあり、合衆国の領土内には無いので、合衆国の法律の適用外です。従って現時点ではどちらにも所有権を認定できまぜん。この提訴は無効です。裁判費用は双方で折半して支払うように」
 
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物凄い怒号があるが判事はポーカーフェイスである。
 
「もしその天体が合衆国の領土内に落下したら、その時はあらためて提訴をするように。でも天体は地球の4分の3を占める海に落ちるかも知れないね」
と判事は裁定文を封筒に戻してから言い、更に
 
「実際にどこかの領土に落ちた場合、未曾有の災害を引き起こすかも知れない。またその時は、克服できない困難に直面する可能性がありますね」
と判事は謎の言葉を残して退廷した。
 
語り手「この『克服できない困難に直面する可能性があり』という言葉を、ここに居た誰もが理解できませんでした。この時点で、流星落下後の展開を予想できていたのはプロス判事とルクール頭取の2人だけだったのです」
 
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判事公邸に集まった群衆は騒いでいたが、警察官の指示と誘導で渋々退散した。
 
判決に納得がいかないフォーサイスとハデルスンは各々
「私はフォーサイス天体の落下を見届けるため日本に行く」(*52) 「私はハデルスン天体の落下を見届けるためパタゴニアに行く」(*53)
と宣言し、多くの拍手と歓声を支持者たちからもらった。
 
それでフォーサイスはサンフランシスコ行きの列車が出るワストン西駅に向かった。一方、ハデルスンはブエノスアイレス航路のあるニューヨークに行くためワストン東駅に向かった。パタゴニアにはブエノスアイレスから更に船で行くことになる。一部の支持者も各々に同行するもようであった。
 
フランシスやフローラなどは2人の行動に呆れ返っているので、この裁判にも来なかったし、むろんサンフランシスコやニューヨークに行くつもりなど全く無かった。過激なルー(古屋あらた)は言った。
 
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「パダニアまでの往復って2ヶ月は掛かるよね。お父ちゃんが居ない間に、お姉ちゃんフランシスさんと結婚式挙げちゃいなよ」
 
すると姉(ビンゴアキ)は
「どうしよう?」
と悩んでいる。フローラも少し悩むようにしていたが
 
「強引に式を挙げるにしても、お父ちゃんが戻ってからにしようよ」
とルーをたしなめた。
 

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プロスはさすがに精神的に消耗したので、執務室の椅子に座ってぐったりした。ケイトがコーヒーとケーキを持って来た。
 
「お疲れ様でした。判決を聞いて私感心しました!てっきり双方で半々ずつの権利があるとか、おっしゃるかと思いました」
 
「実際、他の国に落ちたら合衆国の法律が及ばないでしょ」
「確かにそうですよね!」
「個人的には海に落ちてくれたらと思うよ」
「なんか物凄い量の金(きん)が手に入るからというので、自分の財産を使い果たした人があちこちで出てるらしいですよ」
「そんな人の面倒までは見てられないね」
「全くです」
 

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「一息ついたら、スタンフォート夫妻の件をお願いします」
「あの人たち、“もう”来たの!?」
「私もこんなに早いとは思わなかった」
「だってまだ半月くらいしか経ってないのに」
 
それで30分ほど休んでから判事はケイトに言って、2人を面談室に案内させた。ケイトは待合室に2人を呼びに行った時、2人が楽しそうに会話していたので、どうなってんだ?と思った。
 
ケイトは2人を面談室に案内した後、判事を呼んできた。
 
プロス判事(大林亮平)は席に着くと困惑した。
 
「アルケイディア・スタンフォートさん?」
「はい」
と女性の服装をしたアルケイディア(アクア)が答える。
 
「セシー・スタンフォートさん?」
「はい」
と女性の服装をしたセシー(七浜宇菜)が答える。
 
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「セシーさん、前回は男性だった気がしますが」
「赤い木の実を食べたら女になってしまったんです。ちんちん出来て喜んでいたのに、また無くなっちゃってがっかりです。立っておしっこできるのも凄く便利だったのに。コルセットからも解放されていいなあと思ってたのに、また着ける羽目になって辛いし。これは医師の性別鑑定書です」
 
と言って、セシーは診断書を提示した。確かに「この人物は女性である」と診断書には書かれている。
「それで法的な性別も変更しました」
と言って、性別が変更された市民登録証を提示した。確かに
「セシー・スタンフォート sex:F」
と書かれている。
 
「それで今日のご用件は?」
「私たち離婚しようと思って」
「性別が変わったからですか?」
 
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「いえ。性別は気にしないのですが」
「女同士って、凄く燃えるし」
「男女のセックスより燃えるよね」
 
やはり気にしないのか。
 
「それより、どうしても意見が合わないので」
とふたりは合唱するかのように声を揃えて言った。
 
仲良いじゃんとプロスは思う。ケイトも意見が合わないとは到底思えないけどなあと思った。
 
プロスは2人が提出した書類を確認した。必要な書類は全て揃っており問題無い。判事はタイプライターで離婚証明書を作成した。
 
「あとはここにお2人の署名を」
 

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「あら?私、ペンを忘れたみたい」
とアルケイディア。
「ぼくのを使うといいよ」
と言ってセシーは自分のペンを妻に渡す。
 
やはり仲いいじゃんと、ケイトも判事も思った。
 
それでアルケイディアが署名し、セシーも署名した。
 
「これで離婚は成立しました」
と判事は宣言する。
 
2人は各々500ドル紙幣(650万円×2)を出した。
「手数料を取った後は恵まれない人々のために」
「分かりました」
 
それで2人は仲良さそうに手をつないで判事公邸を出て行った。
 
ケイトは2人を見送って言った。
 
「プロスさん、あの2人また来ますよね」
「まあ来るだろうね」
と判事も笑って答えた。
 

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判事公邸を出たふたりは、そのまま一緒にワストン西駅まで行った。そしてセシー(七浜宇菜)はサンフランシスコ行きの切符を買って列車に乗り込む。アルケイディア(アクア)は彼女と握手して
「気をつけてね。お土産は忍者の手裏剣がいいなあ」
などと言って見送った。(*52)
 
結果的にセシーが乗ったのはフォーサイスと同じ列車である。
 
そしてセシーを見送ったアルケイディア自身はワストン東駅に移動して、アルゼンチン行きの船に乗るためニューヨークに向かった。(*53)
 

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(*52) 当時、ワストン(ワシントン)から日本の九州までは30日程度掛かったものと思われる。
 
(1) アメリカ大陸横断 4日
 
アメリカ横断鉄道は、1869年に開通した。それで『80日間世界一周』の旅が1872年である。あの物語ではトラブルが起きて7日掛かっているが、実際には1876年6月4日に運行された大陸横断超特急がニューヨークからサンフランシスコまで83時間39分(3.5日)で到達している。また別の所で「駅馬車で25日掛かっていた行程が4日で行けるようになった」という文書も見たので多分4日で行けた。ただしこういう特急列車が毎日運行されていたかどうかは不明!
 
(2)日米航路 5+19日
 
当時、日米航路には東洋汽船(TKK), Pacific Mail, Occidental and Oriental の3社が参入し9隻の船が運航されていたが、最速船を所有するO&O社の場合、太平洋横断14日15時間という記録を1876年に出している。どうも普段でも18-19日で運行していたようである。東洋汽船の船はそこまで速くない。3社は共同運行の形を取り、9日に1回の運航していた。
 
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9日に1回だから平均4.5日待つ必要がある。その後は運良くO&Oの船に乗れたとして19日である。「少年よ、大志を抱け」で知られるクラーク博士は30年前だが 1876.6.1 にサンフランシスコをPM社のGreat Republic で出港し同29日に横浜に到着している。つまり28日掛かっている。
 
(これらの情報は「北太平洋定期客船史」(三浦昭男1994)による)
 
(3) 横浜から九州 2日
 
1907年3月に、新橋−下関間の急行“5・6列車”が導入されている。ダイヤは新橋15:50-翌日20:24下関である。つまり2日あれば九州まで行けたことが分かる。
 
ヴェルヌ(1905.3.24没) が生きていた時代にはまだ“5・6列車”が走っていない。しかし夏目漱石が1903年1月に熊本から新橋まで2日で移動した記録が残っているので、上記よりは少し時間が掛かっても横浜から九州までは2日で行けたはずである。
 
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以上を合計すると30日であるが、航路は天候不順の場合の遅れを考えると3日くらいは余裕を見たい。また、6月28日に流星が落ちるなら遅くとも6月25日くらいまでには着いておきたい。6/25日の30+3=33日前は5/23である。
 
するとフォーサイスの出発は、わりとギリギリに近かったことになる。
 
この移動費用は凄い金額だったであろう。野口英世は1900年にアメリカに留学するとき、渡航費用として知人から300円(現在の約200万円)借りている。彼が乗船したのは“スティアリッジ (steerage)”と呼ばれる最下級船室(ほぼ荷物扱い)である。フォーサイスたちは1等船室に乗るつもりだったろう。
 

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(*53) 当時ニューヨークからブエノスアイレスまで何日かかったかは全く分からない。更にパタゴニアまで行くような船便があったのかは更に分からない。
 
しかしこちらはどっちみち出発前に旅行が中止されることになる。
 

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