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■黄金の流星(18)

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接眼レンズを頷きながら方角を調整する。そしてミレイユに
「見てごらん」
と言って、見せる。
 
「天体だ!金の塊だ!」
「ちゃんと地上に落ちたね」
「でも海岸に近すぎない?」
とミレイユは文句を言う。
 
落ちた天体は島の西岸からすぐの所にある。(*90)
 
「風に煽られて西にずれたんだと思う。それでも海岸から70mくらいあると思うけど」
「私には10m程度にしか見えない」
「中心点から測れば70mあるよ」
「10mと70mでは違う」
とミレイユはまだ文句を言っている。
 
「でも半径が大きい気がする」
「降下中に2つに分裂していた。だから衝撃音は2回続けて聞こえた。後から激突したものはその分風に煽られて、より西にずれて落ちた」
「ああ。あれは2つの塊なのか」
「一体化してるけどね。でも2つに別れたおかげで衝撃は半分になったはず。ただしそれが2度起きたけど」
「2回払いだな」
 
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(*90) このシーンは実際の隕石のセットを本当に海上2kmの所から撮影している。揺れる海の上でしっかり隕石に望遠鏡を向けるのに苦労し、わずか2秒の映像を撮影するのに30分掛かった。
 
今回の映画は基本的には春日部の屋内スタジオに様々なセットを組んで撮影しているが、この隕石の様子は、千里が所有!している北海道沿岸の小さな島の海岸に、実際に1km×2kmのスペースを確保して、実物大・直径50mの隕石の模型を設置して撮影している。3月の北海道なので、かなりの雪があり、本当にグリーンランドで撮影しているかのような映像になった。撮影場所の1km×2kmの範囲は全て除雪して撮影した。(この除雪作業の一部の映像を後述のシーンに転用している)
 
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隕石の模型は材木でおおまかな形を作り、その上にいったんビニールのシートを掛け、更に赤銅の薄い箔(はく)を乗せている。内部に3色のLEDがセットしてあり。様々な色に発光できる。しかし発光させなくても、赤銅が熱した金(きん)の雰囲気を出してくれた。使用した銅箔は約2000m2で、価格は1000万円ほどである。これがもし金箔を使ったら多分100億円掛かっている。しかし金属箔を使用したことで、かなり本物っぽくなった。
 

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「あれ、島の東岸とかには上陸できないよね?」
とミレイユは訊くが
「まだ無理です。そもそも島に近づけません」
とダカールが言う。
 
しかしセルジュが考えるようにして言った。
「直接は接近できないですけど、ハヤマ島の南側から回り込んで南東にある港に入れませんかね」
「やってみよう」
とダカールが言い、自ら操船してハヤマ島の南側から回り込んでみた。
 
(一般に船長が自ら操船するのは、概して危険な場所での運航)
 
「暑い」
「我慢してください。これは単に暑いのレベルです」、
 
語り手「ダカールはアトランティスをウペルニヴィクの南東の港に停泊させました。ここは島の中央に高い山があるため、北岸の熱気が直接は伝わってこないようです。それで雪が融けずに積もっていますが、気温はかなり高いようです」
 
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銀色の作業服を着た作業班が、アルジャンに資材を乗せ、“手漕ぎ”でボートを動かして岸まで運ぶ。
 
「あの服は?」
「表面がアルミでできている。高熱の環境に耐えられる特別な服なんだよ」
「なぜエンジン使わずに手で漕ぐの?」
「燃料が爆発するからね」
「高温対策なのか」
「ついでにボートが銀色なのも。実はそのため」
「耐熱ボートだったのか!」
 

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2時間ほど掛けて資材を降ろすと、最後はゼフィラン・ミレイユ・セルジュに3等航海士のセシル(津島啓太)が、作業班と同様の銀色の防護服を着てアルジャンに乗り込む。
 
「じゃ、エトワール、連絡よろしく」
と言って、ミレイユはダカールにキスする。
 
(観客の悲鳴)
 
語り手の元原マミが3秒だけ登場して
「フランスではキスは日本の握手程度の挨拶です」
と言った。
 

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「分かりました。お気を付けて」
とダカールが言う。
 
語り手「ゼフィランやミレイユの乗ったアルジャンが作業班の漕ぎ手により岸に到着するとアトランティスは発進します。船はハヤマ島の南側を通って、バフィン湾に向かいます。多数の見物客が来ているナヴィク島の北岸を回り、西岸を眺めながら南下。ここからは全速力でニューファンドランド島のセントジョンズ(*92)(*93) に向かいました」
 
「アトランティスが出発したのは、8月18日の10時頃で、ニューファンドランドまで最高速度で走り、8月20日16:00頃、現地時間で同日12時半頃にセントジョンズに到着しました。グリーンランドからカナダに向かう場合、グリーンランドの南端付近までは追い風にもなるので、本来の最高速度以上の速度が出ています。そしてダカールは電信局に飛び込み、本国のルクール銀行副頭取宛に『黒鷲は降りた』という電文を打電してもらいました」
 
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「アトランティスにとって運が良かったのは、18-19日は晴れていて、しかも夏なので高緯度地方では太陽は沈んでも薄明が残っています。月齢も21-22日で月が1日中出ていて沈まないので、比較的海が見やすかったこと、また風が強く波が高かったことでした。波があると氷山近くの波が白くなるので氷山に気付きやすいのです。この夜は氷山に備えるのに良い条件だったおかげで夜間でも結構な速度を出すことができました」
 
「タイタニックの事故は北緯41度なので太陽はしっかり沈む上に、当時は月齢26日で闇夜に近い夜に起きています。しかも鏡面のように波の無い凪(なぎ)の海でした」
 

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豪華な調度の部屋の椅子に座っている副頭取(演:脚本家の稲本亨!)が映る。電信文を見て呟く。
 
「やはりワシは降りたか」
 
それで副頭取は電話を取った。
 
ここの背景には常滑舞音が歌う『黒い鷲(l'aigle noir)』(*91)が流れる。歌詞は日本語に訳してある。舞音は歌詞に合わせて、ルビーの指輪とブルーダイヤ(本物!)の指輪を着けている。また“黄金の流星”にちなんで、全身金色の衣裳を着けていた。
 
語り手「この電文は「天体は地上に落ちた。売れ」という意味で、これを受取ったルクール銀行では、金鉱株を売れるだけ売りまくることになります。ちなみに天体が海に落ちてしまった場合は「白鴎は遊ぶ」という電文を打つことになっていました。その場合は金鉱株をひたすら買うことになっていました」
 
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(*91) 『黒い鷲(l'aigle noir レーグル・ノワール)』はバルバラが1970年に出した曲で世界的な大ヒットになった。彼女のお父さんのことを歌った歌では?と言われる。ミレド・ミファソソソレレ、ファ↓ラレ・ファミレ・ラミミ、といった感じの単純なパターンのメロディーが繰り返され、わりと中毒性のある曲。
 
バルバラ(Barbara, 1930-1997) はフランスのシャンソン歌手。類似名のロシアのエスノ・ポップス歌手バルバラ(Варвара 1973-)とは別人。
 
舞音は日本語版では日本語訳詞で歌ったが、フランス語版、英語版、ドイツ語版も自ら歌っており、特にフランス語版では原歌詞で歌った。千里が各言語版を模範歌唱したので、舞音はそれを音で覚えて歌唱した。このあたりは舞音の記憶力の良さが出ている。
 
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(*92) 原作では、単に「電信が打てる所まで」と書いてあるが、行ったのはアメリカのニューファンドランド(1500海里)だと思う。ヨーロッパのアイスランド(1700海里)・アイルランド(2200海里)はもっと遠い。遠回りに見えるアメリカ大陸の方が情報伝達時間としては早くなるのである。またアイスランドに行くには氷山が多いので全速力航行は難しいという問題もある。
 
大西洋横断海底ケーブルは幾度もの失敗の末、1866年に敷設に成功している。ドーバーの海底ケーブルは1850年にできていて、それを背景に1851年ロイター通信社が設立された。アイスランドは1906年にはヨーロッパ本土との間に通信ケーブルが敷設された(GN社)ことが確認できたが、グリーンランドにいつ海底ケーブルが来たかは分からなかった。1960年に1本通っているのは分かった(敷設会社不明)がそれ以前が分からない(これが最初だったりして?)。
 
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しかし海底ケーブルを待たなくても1910年代前半には世界的な通信網が“無線”により成立していたはずである。無線通信の父ともいうべきマルコーニの無線会社が1907年10月にアイルランドとニューファンドランドに基地局を作って営業開始している。この会社は初期の段階ではかなり苦労しているのだが、1912年のタイタニックの事故で、マルコーニ社の無線システムにより、SOS信号が打電され続け、これに応じて多数の船が救援に駆け付けて、710名もの救出を成し遂げている。これによって無線の有用性が広く認識され、無線普及のきっかけになった。
 
ヴェルヌ父は、この物語を執筆時期の10-20年後に想定していたふしもあるが、無線というものが広まったので、この物語は1912年以降に設定したら成り立たなかったのである。
 
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(*93) とても紛らわしいのだが、ニューファンドランドのラブラドール州都はセントジョンズ(St.John's) で、近くのニューブランズウィック州にある都市はセントジョン(St.John) である。フランス語ではどちらもサンジャン (Saint-Jean) となるのでニューファンドランドの方は Saint-Jean de Terre-Neuve という。Terre-Neuve (テール・ヌーヴ)はニューファンドランドのフランス語名である。
 
なお“ニューファンドランド”は Newfoundland と書くが読み方は“ニューファウンドランド”ではなく“ニューファンドランド”である。"ou"の所はアクセントが無いので“曖昧なア”(ə)の音になる。
 

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語り手「一方、島に上陸したゼフィランたちと作業班は、港に仮の小屋を建て、気温が下がるのを待ちました。周囲は雪だらけなのに空気は熱いのです。小屋は時間が無いので小さなものを建てており、中は超密集していますが、屋外にいるのは危険なのでやむを得ません。作業員たちが周囲にある雪を持って来て小屋の中央に積むと少しは涼しい気がしました。作業員たちは暇なのでバックギャモンやリバーシ(*94) にトランプゲームなどをしていました」
 
「グリーンランドは太陽が昇っていても沈んでいてもあまり変わらない感じなので、アトランティス船内同様、ここはグリニッジ時間で動いています(*95). 夕方?18時には夕食を取って寝ることにしました。諸事情?でミレイユ(アクア)、ゼフィラン(アクア)、セルジュ(七浜宇菜)は分離することにします。広さ5m2(3畳)ほどの簡易な中2階を作り、そこにその3人が寝て(*96)、残りの男性たちは床に寝ましたが、朝にはかなり混沌としたようです」
 
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「朝起きた時、セシルとヴァンサンが女の服を着ていたのは、ミレイユたちは気にしないことにしました」
 
カメラは女装のセシルは映すが、ヴァンサンは映さない。これは映すのは監督の美意識が許さないためである!(結局女装のさせられ損)宇菜まで顔をしかめていた。
 

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(*94) リバーシは1883年(明治16年)にイギリスのルイス・ウォーターマンが考案した。日本にも輸入されて“源平碁”の名前で販売されている。“オセロ”は第二次世界大戦後に、日本国内の玩具メーカーが、このゲームに新たな名前を付けて発売したものである。“オセロ”という名前は日本のみで通用する。
 

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(*95) 1908年8月18-19日のこの土地の日出・日没の時間は下記(太陽の沈み方がとても浅いので、10分程度ずれている可能性はある)。時刻はグリニッジ時刻(GMT).
 
8/18 6:05 25:24
8/19 6:13 25:17
 
月は多分8月16日に登った後、26日まで沈まなかったと思う。上手い具合にアトランティスの往復の間、ずっと出ていた。
 
シュナクたちが、落下地点を見に行こうとして島から3kmほどの地点で引き返したのは現地時間の10時= GMT:13時頃で、その時点での隕石本体の温度は3700℃程度、3km離れた地点の気温は100℃くらいである。
 
ミレイユたちが上陸した時(8/18 10:00 GMT)は、隕石温度はまだ4600℃ほどで5km地点の気温は120℃くらいになるが、山陰になる部分で、しかも風上になる。それで実際の気温はせいぜい40℃くらいなので上陸が可能だった。シュナクたちは“隕石を確認しようと”何も遮るものが無い海上を風下から近付いている。更にフロックコートや軍服など“黒い”服を着ていた。
 
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(*96) この3人を分けるのは当然、と日本の多くの観覧者の声。「貞操の危機を感じる」と言ったのは、きっとセシル役の津島啓太くん。宇菜が「津島君、こちらで寝る?」と声を掛けたが「いや、いい」と言っていた。さすがに女の子たちと寝るのはまずい、と彼は“この日は”思った。前門の虎・後門の狼?彼は『少年探偵団』でも数回女装させられているが、美形なので、これが撮影じゃなかったらきっとレイプされてる!
 
そういう事情で、小屋の移転後のシーンでは、彼は男性作業員たちとは離れてゼフィランやミレイユたちと一緒に過ごすようにシナリオが変更された。でないと彼の“安全”を保証できない!
 
ちなみに小屋のセットは前面の壁が簡単に取り外せるようになっていて、小屋の外での撮影、内部の撮影で使い分ける。
 
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なお“セシル”という名前は、Cecil と書くと男性名、Cecile と書くと女性名だが、たまに Cecil と書く女性も居る。
 

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黄金の流星(18)

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