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画面は2枚の手紙を写し、各々、その手紙を書いた人が読み上げる声が流れる。
フォーサイス(ケンネル)の手紙
ペンシルヴェイニア州ピッツヴァーグ天文台長様。
ワストン 3月24日
下記の事実について注意を求めます。これは天文学の研究において興味深いことです。今月、3月16日の敦、北の空でかなりの速度の明るい天体を観測しました。当方の観測機器では軌道は北から南に向かい、子午線と3°31′の角度を成していました。天体は7:37:27に現れ、7:37:29に雲の向こうに姿を消しました。それ以降も観測を続けておりますが、再発見には成功しておりません。この情報を記憶し、その方面に注意を払って頂けるよう切にお願い致します。敬具。
エリザベス通り。ディーン・フォーサイス。
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ハデルスン(チャンネル)の手紙
オハイオ州シンシナティ天文台長様。
ワストン 3月24日
3月16日朝、7時37分27秒から7時37分29秒の間、私は幸運にも、北方の空を北から南に向けて移動する明るい天体を発見しました。子午線と3°31′の角度を成していました。それ以降はこの天体の観測には成功しておりません。しかし再度この天体が現れた場合は私を第一発見者として天文年報に記載して頂きたいと思います。敬具。
モリス通り17番地 シドニー・ハデルスン博士
振袖姿の元原マミが登場してアメリカ東部の略図を示し、地名の位置関係を示す。
↓州の位置関係(ワストンは多分ワシントン)
(マミが示したのはきっともっと精密な地図)(*14)
「この地図で見るとワストンからはピッツヴァーグに連絡してもシンシナティに連絡しても、そう不自然ではないことが分かります」
と元原マミは述べた。
(*14)ヴァージニア州はデルマーヴァ半島に飛び地を持っている。このデルマーヴァ半島という名前は、この半島が、デラウェア州、メリーランド州、ヴァージニア州でシェアされていることから来たカバン語。この半島西側の細長い湾はチェサピーク湾。
ほぼ長方形の形をしたペンシルヴェイニア州の西端近くにピッツヴァーグ、東端近くにフィラデルフィアがある。千里が住んでいるフィラデルバーグというのは、ペンシルヴェイニア州のどこかにあるらしい不思議な町
(↑自分で突っ込んでどうする?)。
振袖姿の元原マミがその先しばらくの経過を語る。
「フローラとジェニーはフランシスに案内されて新婚夫婦のための家に行きました。ジェニーもフローラもそこを気に入り、フランシスは、この家の購入を進めることにしました。あわせて家具の購入・搬入の作業も進めることにしました。ワストンではあれ以来ずっと天気の悪い日が続き、どうしても天体を観測することはできません。またその後天文台からは何の連絡もありませんでした。ハデルスンがずっと観測所に籠もっているのでルー(古屋あらた)は、ある日父親の所に行き言いました」
「お父様、お姉様の結婚式の時には、さすがに観測所から降りてきてくれるわよね?」
「はいはい」
と父親は返事はするものの、ほとんど上の空(うわのそら)の空返事(からへんじ)です。
「セント・アンドリュー教会で、自分の娘の手を取ってバージンロードを進むわよね?」
「はいはい」
「オガース牧師の感動的なお話を聞くわよね?」
「はいはい」
「きちんと、黒いストッキングと白いパンプス、黒いドレスと白いリボンを着けるわよね?」
「はいはい」
この返事で父親が何も聞いてないことが確定する。ルーはほんとにお父ちゃんにドレス着せたろかと思った。お父ちゃんの身体に合うドレスがこの世に存在するなら!コルセットで締め上げたら気絶するかも!?
字幕:1908年4月19日(日).
新聞の記事が表示され、記事を朗読者1(西宮ネオン)が読み上げる。
「ボストン天文台(天文台長J.B.K.ローウェンサル)によりますと、一昨日4月17日(金)夜21:19:09、驚異的なサイズの天体が西の空を物凄い速度で通過して行きました。この天体は、3月24日に、ディーン・フォーサイス氏とシドニー・ハデルスン博士により、ピッツヴァーグ天文台およびシンシナティ天文台に報告されたものと同じ物と思われる。2人は同日の同時刻にこの天体を発見しており(*15), この2人のワストン市民の名誉を称えるものである」
(この日のボストンの日没は18:28で、ボストン天文台は日没後に発見している)
(*15) この天体が3月12日から4月17日まで1ヶ月以上誰にも確認されなかったというのは、どう考えても不自然。普通の小さな天体ではなく、太陽が出ていても見えるくらいの目立つ天体である。
作者はその間ずっと天気が悪かったことを言い訳にしている。しかしワストンは天気が悪かったかも知れないが、地球上のどこかには必ず晴れている地域があったはずである。そして世界中には多数の天文台があり、多数の天体観測者もいるのに。
それなのに観測されなかったというのはおかしいのである。
語り手「フォーサイスとハデルスンが天体を発見したという新聞報道がありますと、ふたりを祝福しようと、各々の館の前に集まってくる市民が多く出ました」
映像は、フォーサイスの家、ハデルスンの上に集まって来た多くの人々の図(*16).フォーサイス、ハデルスンが玄関前に出て、市民たちに手を振り、歓声が上がる様子も流れる。
語り手「しかしフォーサイスもハデルスンも、この栄誉が自分ひとりではなく、もうひとりと一緒になっていることに不満を持っていました。そして2人の間に心理的な対立が生まれてくるのです。“フォーサイス・ハデルスン天体”という呼び名に満足せず、フォーサイスは“フォーサイス天体”、ハデルスンは“ハデルスン天体”と呼びました。そして、ふたりの態度は市民の間にも分裂を生み、フォーサイス派の市民と、ハデルスン派の市民のグループが形成されていきました。またマスコミもフォーサイス派とハデルスン派に分かれました」
(*16) このシーンで集まっている市民はCGである。これをリアルで撮影するには、その人たちに1908年当時の服を着せる必要があり、その衣装代は化繊の生地を使っても1500万円は掛かる。更にそんな服を作れる人はひじょうに少ないので服の制作だけで1年掛かるだろう。また今のご時世での撮影にはソーシャルディスタンスを空ける必要があり「集まって来た」感じが出ない。またエキストラを動員すると、その陰性確認をする必要があるし、数日前から泊めておくならホテル代もかかる。外出禁止を課すと、その管理にも物凄い費用が掛かる。結局3000万円くらいの費用が簡単に飛んでしまうので、リアルでの撮影は現実的ではないのである。
以下の群衆シーン、また軍隊・軍艦などもCGである。この映画はリアル撮影は1ヶ月ほどで終わっているが、CGの制作に2月から5月まで3ヶ月を要した。
軍隊シーンなど、16ヶ国(日本を含む)20人ずつの兵士が必要で、そのほかにグリーンランド軍50人も必要だったので、リアルで撮影するには(日本人以外でも)16の国籍で350人もの体格の良い20-30代男性外人タレントさんの動員が必要だった。そういう募集自体が全く以て困難だった。更にこの時期、ロシア人の俳優の使用は社会情勢上も難しかった。
CGの制作をしたのは、大和映像とあけぼのテレビが12月に共同で設立して営業準備をしていた会社・まほろばグラフィックスである。今回は100人ほどの学生バイトさんを動員している。バイト先の少ない時勢なので集めることができた。このスタッフが“次の作品”でもフル稼働した。3月で大学を卒業した人たちの中には、正社員やパートになった人もある。
語り手「フランシスとジェニーの結婚式の日程は近づいてきます。しかしフォーサイスとハデルスンの対立は激化していきます。両者は自分に味方する新聞にお互いを非難する記事を投稿しました。それでもフランシスとジャニーの絆は更に強くなっていきました。2人は毎日のようにデートを重ねました」
映像は、ドリーに付き添われたジェーンが様々な場所てフランシスと楽しくおしゃべりしている所が流れる。
語り手「今の所、フォーサイスもハデルスンも結婚自体に反対する意見は述べていませんでした。しかし結婚のこと自体にも全く触れませんでした!」
字幕:4月21日(火).
プロス判事(大林亮平)が執務室でケイト(薬王みなみ)のいれてくれたコーヒーを飲んでいたら、窓の所に立って表を眺めていたケイトが言った。
「あら、先月結婚式を挙げたアルケイド・ウォーカーさんが今そこを通りかかりましたよ」
「通り掛かるくらい普通にあるんじゃないの?」
「でも彼は確かニュージャージーだったかに住んでいるんじゃなかったでしょうか?」
「よく覚えてるね!結婚式なんて毎月たくさん挙げてるのに」
「だって凄く特異でしたもん」
「確かに少し変わってたかもね」
ケイトは表の方を見に行った。どうもアルケイド(アクア)は門の所で待っているようだった。ケイトは出て行った。
「こんにちは、ウォーカーさん。御用事ですか」
「連れが来てからお邪魔します。判事さんはいらっしゃいます?」
「あと1時間くらいは大丈夫だと思いますよ」
それでケイトは邸内に戻り、やはりウォーカーさんが判事に用事であるらしいと伝えた。
「でも何の用だろう」
「また結婚するとか」
「それは無理だよ。合衆国の法律では1人の男性が複数の妻を持つことは認めていない」
「モルモン教で揉めましたね」
モルモン教が、一夫多妻制度を否定したのはこの物語のほんの少し前、1890年である。但し一部の原理主義者が離脱し、彼らは21世紀に入っても一夫多妻制を堅持している。。
ケイトはその後も表の様子を伺っていたが、そこにもうひとり男性がやってきて、2人は手を繋いで!?判事公邸に入ってきた。
ケイトがドアを開けて
「どうぞ」
と言って招き入れる。ケイトは男性の顔が、アルケイド・ウォーカーと結婚したセシーと似ていることから、奧さんのお兄さんだろうかと思った。
2人を面談室に通して、判事を呼んでくる。
「こんにちは、アルケイド・ウォーカーさん。そちらは奥様のご兄弟ですか」
「いえ、アルケイドの妻本人です」
と男性(七浜宇菜)は言った。
「本人?」
「青いキノコを食べたら性別が変わってしまったんです」
と言って、男性は
「医師の性別鑑定書ももらいました」
と言って、診断書を提示する。確かに「この人物は男性である」と書かれている。
「それで法的な性別も変更しました」
と言って、性別男性になった市民登録証を提示した。名前はセス・ウォーカーになっている。性別も sex:M と書かれている。
「それで今日のご用件は?」
「ぼくたち離婚しようと思って」
とアルケイド(アクア)は言う。
「性別が変わったから?」
「いえ。性別は別に気にしないのですが」
気にしなくていいのか??
「どうしても意見が合わないので」
とふたりは合唱するかのように声を揃えて言った。
仲良いじゃんとプロスもケイトも思った。
「ぼくが、ゆで卵は細い方から食べたいと言ったら、セスはゆで卵は太い方から食べるもんだと言って意見が合わないんです」(*17)
「離婚するほどの問題ですか」
とプロスは思わず言った。
「例の天体のことでも意見が合わなくて」
とセスは言う。
「ぼくは、あの天体は一時的に地球の引力に捉えられただけだから、またどこかに行ってしまうと言うのですが、セスはあれはきっと長周期の彗星だから50年くらい先にまた戻って来ると言って」
「天体の組成についても意見が合わないんです。ぼくはあれはきっと氷の塊だというのですが、アルカはあれはきっと岩石の塊だと言って」
プロス判事は、しばらく2人の話を聞いていたが、この2人を和解させようとすると、よけいこじれる気がした。
「分かりました。離婚のための書類は揃っていますか」
「はい」
と2人は仲良く言って、各々の書類を提出した。判事はそれを確認した。
「書類は揃っています。離婚証明書を作成します」
と言って、判事はタイプライターで証明書を作成した。
「あとはここにお2人の署名を」
それでまずアルケイド(アクア)が署名した。そしてセス(七浜宇菜)が署名しようとするのだが
「あれ?ペンが無いや」
と言う。
「ぼくのを使いなよ」
と言って、アルケイドがセスにペンを貸した。
「サンクス」
と言ってセスはそのペンを借りて署名した。