広告:まりあ†ほりっく 第6巻 [DVD]
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■黄金の流星(25)

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(C) Eriko Kawaguchi 2023-01-01
 
ゼフィランは車が停まる音で目を覚ました。
 
「ここどこ?」
 
何やら大きな館が建っている。見回すとかなり広い庭もある。
 
「ゼフィラン様のお館です」
とセルジュは答える。
 
「は!?」
 
ゼフィランが戸惑っていると、
「お帰りなさい」
という可愛い声がある。見るとシルヴィア(木下宏紀)である!
 
「ダカール様から電話がありましたので、お食事なども用意しておりました」
 
「どういうこと!?」
とゼフィランは状況が把握出来ない。
 
「取り敢えず中に入って下さい」
と言われ、ジルヴィアに案内されて館の中に入る。
 

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長い廊下を歩いて通された部屋は、20m2(12畳)ほどの広さである。周囲に本棚がずらっと並んでおり、その中の半分くらいが埋まっている。
 
「本をきちんと本棚に収納しなさい、とミレイユ様から命じられましたので、私も分からないことばだらけだったのですが、頑張って勉強してジャンル別に分類したつもりですが、どうでしょうか」
 
ゼフィランの心の声「待て。なぜミルの指示で動いてる?雇い主はぼくなのに。不在中に給料渡すのだけミルを通してルクール銀行に頼んでいただけなのに!」
 
語り手「ゼフィランは本棚の並びを眺めてみましたが、自分でも捜し出しきれなくなっていた本が見付けやすい位置にあります。天文学、暦、物理学、電気、化学、薬学、医学、生物学、地質学、鉱物学、植物学、歴史学、音楽、辞書、と大別され、各ジャンルは著者の苗字順に並べられているようです」
 
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「きれいに並んでる。よく勉強したね」
 
「機械類はよく分からないので、元の順序をできるだけ崩さないように、こちらに並べたのですが」
と言ってシルヴィアは隣の部屋に案内した。
 
「これはぼくも分からなくなってたから、これでいいと思う」
「良かった」
 

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「こちらには電話(*108) が設置されています。これでミレイユ様といつでも連絡が取れますよ」
 
「電話か!」
 
「実は先ほどもダカール様から電話で連絡を受けて、待機していました」
 
「可愛い格好してる」
「ありがとうございます。ゼフィラン様も可愛いですよ。やはり、そういうの、お好きだったんですね」
 
「違うよ。ぼくの服が隕石の爆発で全部無くなっちゃったからミレイユから借りただけだよ。ズボンに着替えなきゃ」
「恥ずかしがらなくてもいいのに。でもお洋服が無くなったのなら、少し買ってきましょうか?」
「助かる。頼む」
 
それでシルヴィアに洋服を少し買って来てもらうことにした。
 

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(*108) フランスの電話サービスは1880年に3つの民間会社が統合されてSGT (Societe Generale du Telephones 電話総合会社) が設立されて実質的にスタートしている。グラハム・ベルが電話を発明して4年後である。
 
この会社が1889年に国有化され、1900年には郵便事業・電信事業と統合され PTT (Postes, Telegraphes et Telephones 郵便電信電話公社) (*109) となっている。PTTは1990年に民営化されてフランス・テレコムとなり、1991年には郵便事業を La Poste に分離。2013年にブランド名のオランジュ(Orange) に社名を合わせた。
 
19世紀末から20世紀初頭のフランスは電話導入のハードルが高く、当時のヨーロッパの中では電話普及率が異様に低い電話後進国であったらしい。
 
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(*109) フランスの古い小話。
 
「あれ?テレフォンのfって1個だったっけ?2個だったっけ?」
「(遠慮がちに)phだと思いますけど(Telephone)」
「あ、そうか。テレグラフと勘違いしてたよ」
「・・・・・」
 
むろんテレグラフも Telegraphe.
 

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「でもそもそもこの家は?」
「安いアパルトマンとかに住んでるから、機械を勝手に動かされたりするとミレイユ様がおっしゃって。それでアパルトマンからここに引っ越してきたんですよ」
「引っ越しちゃったのか」
「重たいものは男の人に持ってもらったけど、本とか食器とかは私が頑張って運びました」
「それはご苦労様」
 
「車の運転も練習しましたから、車でだいぶ運んだんですよ」
「へ。それは凄いね。でもここどこだっけ?」
 
「ここはミレイユ様の御自宅の隣です。ここに住んでいた人は、黄金の隕石が落ちてきて、みんなお金持ちになるからと言って、財産を使い果たして」
 
「ああ、そういう人結構いるらしいね」
 
「それでミレイユ様が買い取ったんですよ。お隣ですから、歩いて行けますよ」
 
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ゼフィランの心の声『なんかあれこれ、ミルにこき使われそう』
 
シルヴィアは説明を続ける。
「御飯はミレイユ様のお館の方からこちらに配送してもらえます。私、料理とかあまり得意じゃないし助かります。洗濯も向こうで一緒にしてくださるそうです。エンジン式の自動洗濯機があるんですよ」
「それは凄い」
 
「ゼフィラン様、何か機械を失くされたんでしょ?ぜひもう一度作ってとおっしゃっていました」
 
「あれはモチベーションが無いとなあ」
 

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「あと、夜のお供も命じられているのですが」
「それはいい!」
「気持ち良くしてあげるのに」
「遠慮しとく」
 
「私、しっかり助手ができるように、九九(*110) も覚えたんですよ。3×0=0, 3×1=3, 3×2=6, 3×3=9, 3×4=10, 3×5=16, ...」
 
「待て。3×4=12 だし、3×5=15 だぞ」
「あれ〜〜!?」
 

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(*110) フランスでは0×0=0 から 10×10=100 まで“教える”ので、九九というより十十。12×12まで教えていた時代もあったらしい。
 
ただ問題は実際には覚えている人が少ない!ことである。フランスでは引き算ができたら“計算の得意な人”に分類される。割り算ができるミレイユは行員たちにとても尊敬されている!
 

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語り手「ゼフィランはミレイユと話し合い、今回の事件で迷惑を掛けたナヴィク町に4万フラン、現代の日本円にして1億円、を共同で寄付することにしました。デンマークの銀行振出の小切手で送り届けました。これで『たまりすぎてるから何とかしろ』と言われていた、ゼフィランの預金残高が少しだけ減りました」
 
「ナヴィク町長は感謝し、津波で壊れた港湾施設や漁船の修理や再作成の費用に当てるということでした。丁寧な感謝状を頂きましたし、ゼフィランとミレイユをナヴィク町の名誉町民に認定するといって、メダル(銀製)を送って来てくれました」
 
メダルを手に取る、ゼフィランとミレイユが映る。
 
語り手「ナヴィク町ではもらったお金で病院と学校を建てました。また隕石落下地点近くに“Guld Park”(黄金公園)という公園を作ることも考えました。しかしウペルニヴィクへの交通に難があるので、結局、ナヴィク島内に隕石のレプリカ!を設置した公園を作ることにしました。観光客が来るといいですね」
 
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映像はその公園ができて人が集まり記念パーティーをしている様子。
 
そこに映っている“燃える隕石”は実はウペルニヴィク島の場面で撮影に使用した本物(北海道の島に作ったセット)であるが、まだ銅箔を乗せる前の状態で撮影している。そのため造り物っぽさが出ている。
 
集まっている人たちは千里の会社・朱雀林業とその友好会社であるH新鮮産業の社員さんたちである。
 
語り手「グリーンランド政府は今回の事件ではひたすら振り回されただけで、シュナク大臣の寿命が縮んだのでは?と心配になります。でも実は大量に押し寄せた観光船や軍艦に水・食料・石炭を補給してあげたことで、その売上が60万フラン(15億円)ほどに達しています。それでここから仕入れ価格を引く必要はありますが、結構美味しい利益があったようです」
 
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「ゼフィラン様、お洋服買ってきましたよ」
とシルヴィアが言うので、ゼフィランはドキュメント作成の手を休めて
「ありがとう」
と言い、そちらを見た。
 
「・・・・・・」
 
「ほら可愛いでしょ?これとかレース使いですよ。このスカートはちょっとポワレっぽくないですか?本物のポワレはとても高くて買えないけど、これわりとモダンでいいと思います。この服はコルセット無しで着れるんですよ。ゼフィラン様、細いからコルセット使わなくても大丈夫ですよね?」
 
(当時 ポール・ポワレがデザインした服は平均的な給与労働者の賃金2ヶ月分くらいの値段がしたらしい)
 
「・・・あのさ」
「はい?」
「なんで女物ばかりなの〜?」
「え、だって、ゼフィラン様、これからは女物を着るんでしょ?」
「男物を着たいから、男物を買ってきて」
とスカート姿のゼフィランは言った。
 
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「え〜?せっかく買ってきたのにぃ」
 

字幕:9月18日(金).
 
「え?ミレイユ婚約したの!?」
とゼフィランはびっくりして訊き直した。
 
「今日市役所に公示(*111) してきた。9月30日・水曜日に結婚式を挙げるから、ゼフ、証人になってよ。唯一の親族だしさ」
とミレイユ。
 
「いいけど相手は?」
「エトワール・ダカール」
「何〜〜〜!?」
 
ゼフィランの心の声「そうか。ミルが日曜日ごとにアトランティスでクルーズしていたのは、実はデートだったのか!そして船長がデートするから、あの船にはそれ以外に航海士が3人乗っているんだ!」
 
語り手「ミレイユはどこかの企業経営者の息子や貴族などど結婚すると結果的にそこの企業や貴族の家系に銀行を支配されるのが目に見えているので、絶対に経済界や名家以外の人と結婚するつもりでした。エトワールは実は小学校の同窓生です」
 
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(*111) フランスでは、日本のように婚姻届を提出するだけで結婚することはできない。結婚契約書を公証人のところで作成した上で、結婚式を挙げる10日以上前に市役所等に提出して「この2人が結婚する」という公示をする必要がある(例えば9月2日に婚約公示したら12日に結婚できる)。堂々と市庁舎に貼り出される。その上で市役所で法的な結婚式をおこなう。
 
結婚式の様子は後述。
 
教会で結婚式を挙げる場合は、それ以前に法的な結婚式が終了していなければならない。つまりフランスでは市役所での結婚式(Mariage civil) は結婚するための必要条件であり、省略できない。
 
今日のフランスでは多くのカップルが市役所結婚式のみで済ませており、更に教会でも結婚式を挙げるカップルは3割程度にすぎない。教会に法的な結婚式をさせないのは厳格な政教分離の考え方から来ている。
 
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結婚の手続きがあまりにも面倒なので、フランスでは昔から事実婚が多いし、結婚しないまま子供を産んでも手厚い保護がなされる。近年フランスではこの法的なシングルマザーの保護政策を充実させたことで、出生率が上昇している。今日のフランスでは同棲しているという証明書も発行してくれる。また最近ではPACS(パートナーシップ)を選択するカップルも多い。
 
PACSは元々は同性婚をする人たちのために1999年に導入された制度だが、正式な結婚よりも手続きが簡単なので、異性のカップルでも多く利用されるようになった。またフランスでは2013年から同性でもPACSではなく正式の婚姻もできるようになった。
 
なお結婚は市役所で申請するが、PACSは小審裁判所に申請する。
 
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「こんにちは〜、掃除しに来たよ」
と言って、ナタリー(立花紀子)が部屋に入って来たので、ゼフィランは目をパチクリさせた。
 
「ナタリー?ここを掃除するの?」
「もちろん。私はムッシュー・ジルダルの部屋の掃除と洗濯に食事作りをするという契約をしてるから、引っ越したら引越先にちゃんと仕事に来るよ」
とナタリーは言っている。
 
「ムッシュー・ジルダルが2ヶ月ほどおられなかった間はマダム・ジルダルの指示で掃除してましたから」
 
「マダム・ジルダル!?」
と言って、シルヴィア(木下宏紀)を見ると、口に手の甲を当てて、おかしそうにしている。
 
「でも洗濯と料理は隣の家に住んでいるお姉さんのところでしてもらうんだってね?私は掃除とかキッチンの片付けとか買物で頑張るね」
と言っている。シルヴィアが買物メモを渡すと
「ダコー(OK)」
と答えて、メモをポケットにしまった。
 
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ゼフィランの心の声『ナタリーが掃除に来るのでは“安いアパルトマンに住んでるから勝手に機械を動かされるのよ。引っ越しなさい”とミルが言って引っ越した意味が無い気がする。まあこの人も面白いけど』
 
ナタリーが掃除をしている内に、窓際に置いている天体望遠鏡に触ろうとするので、
「駄目。それに触ったらいけない」
とシルヴィアが停めている。
 
どうもシルヴィアとナタリーの攻防も継続中のようであった。
 
天体望遠鏡は戻って来てから新たに買ったものである。彼は6兆フラン儲けるどころか、かなりの余分な出費になったようであった。
 

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