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■夏の日の想い出・日日是好日(24)
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目次 8
時間索引 #
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翌日の朝、海幸彦は昨夜見た夢の内容を村人たちに語りました。
「なるほど。低い所に誘い込んで、高い所から弓矢で攻撃する手はあると思う」
「弓矢隊が鍵かもな」
「奴ら接近戦では無茶苦茶強いみたいだ」
「こちらの剣は全部曲がってしまうらしい」
「それなんだが弟は奴らの剣や鎧は鉄でできていると言ってた」
「鉄・・・」
みんな静まります。鉄の強さは知っていても、鉄の武器は簡単に調達できるものではありません
「我々の青銅の剣では勝ち目ないな」
「矢なら勢いがあるから何とか倒せるかもしれん」
「うちの弟が熊を倒すときに使ってた鉄の矢尻が30個くらいあるんだ。それを使ってくれ」
「よし、それは頼もしい」
「熊が倒せるのなら、鉄の鎧でも突き破れるかも」
“白い軍団”は翌日昼頃、村に近づいてきました。
挿入歌:大岩新吾『白い恐怖』
村側は見張りからの狼煙(のろし)で男たちが臨戦態勢になります、女子供は山に登らせ隠します。彼女たちには自分たちがやられたらちりぢりに逃げろと言っています。11-12歳の男の子たちと、腕力が無く戦力にならない男にはヒゲや体毛を剃らせ、女の服を着せて女たちの最後の防御役としました。
男たち:リョウ(大林亮平)、ヤダイ(鈴本信彦)、海幸彦(岩本卓也)、コダイ(斎藤良実)、ツネオ(獄楽)、田船智史、仁川浩光、春野清志、山崎和泰、間取聡太、平林明季(バインディング・スクリュー)、怪傑ゾローズ
女たち:小泉伊代、山口治美、横田香奈恵、野中晴代、西丸優花、道花瞳美(青い傘)、怪傑ゾローズ
11-12歳の男の子:劇団桃色鉛筆
腕力の無い男:イエローボーイズ
まず“おとり”を務める10人ほどが村はずれで待ち受けています。白い鎧兜の軍団が近づいてきます。敵は200-300人いると見ました。こちらは村総出でせいぜい50人くらいで、人数的にも全くかないません。
おとり部隊は弓矢で攻撃します。使用しているのは石の矢尻を使った矢です。
白い鎧に当たってカンカンと甲高い音はするものの、全くダメージを与えてないようです。
連絡係の若いコダイ(斎藤良実)を残して突撃し、敵の前線と剣を交えます。ところが1回剣を交えただけでこらの青銅の剣は折れ曲がったり折れたりします。
「あわわ」
それでリーダー(仁川浩光)が
「引け」
という声を掛けるので全員逃げ出します。
村の者が逃げ出したのを見て“白い軍団”の副官(大岩新吾)(*65)が大将(左座浪源太郎)に訊きました。
「これ俺たちをどこかに誘い出そうとする罠では?」
「罠でも結構.俺たちの装備がやられる訳無い」
「そうですね」
それで軍団はそのまま進行したのです。
挿入歌:大岩新吾『白い恐怖』
(*65) 大岩新吾は歌手。元カレーブレッドのボーカル。彼は体格がいいし歌が上手いので、白い軍団の副官を演じてもらい又白い軍団のテーマ曲を歌ってもらった。
“おとり”たちはムナの浜まで逃げて行きます。周囲には人影は見当たりません。きっと敵兵は隠れているだろうと思いつつも白い軍団は進みます。そして“おとり”たちがムナ坂を登り切ったころ、白い軍団の全体がムナ浜に入りました。
忽然と5人の弓隊が姿を現します。彼らは浜の岩陰などに隠れていて50mほどの至近距離から“鉄の矢尻”を付けた強矢で白い軍団を射ました。
すると最初に射られた兵は矢尻が鎧を貫いたようで「うっ」という声をあげて倒れます。
「鉄の矢尻だ!しかも強弓を使っている。叩き落とせ!当たるとやばいぞ」
と大将が声をあげます。
それで応戦すると半分くらいの矢が叩き落とされ、結局軍団側は3人倒れただけです。そして村側も鉄の矢尻の矢は30本しか無かったのでそれを撃ち尽くしたら、さっと退散します。全員ムナ坂を駆け上がっていきます。
白い軍団の大将は被害を確認します。鎧を破られたのは3人(村下康太、風上良次、山根雄一)ですが、当たり所が良くて致命傷には至ってません。大将はその3人に後退して治療するように命じました。それ以外は進軍しようとします。結果的にはこの3人だけが命拾いしたのです。
「この村は他の村よりは手強いようだぞ。心して掛かれ」
と大将が号令を掛けます。
「おぉ!」
と鬨の声(ときのこえ)があがります。
その時、突然海から高い波が押し寄せます。
「わぁ」
という声が上がります。
波は一時的に来たのではなく、そのまま浜を水で満たしました。水は引きません。
「何なんだ!?この水は」
と白い軍団の兵士たちが声をあげます。
坂の上にいた村人側もこの水には驚きました。
「泳げ!これは泳ぐしか無いぞ」
と大将が大声で言います。
それで泳ぐのですが、みんな鉄の鎧兜(よろい・かぶと)を着けているので、重くて身体が沈んで行きます。ひとりの兵士(田阪越郎)が
「せめて兜(かぶと)を」
と言って兜を外しました。
そしたらすかさず坂の上から矢が飛んできて頭を射貫かれました。鍛冶屋のツネオが昨日の内に作った青銅の矢尻を強弓で射たものです。青銅では鉄の鎧・兜を貫通できないのは分かっているものの、兜が無ければ殺傷力は高いものです。
「これは鎧兜を着けたまま泳ぐしかない」
「ひぃー」
兵士たちはどんどん力尽きて沈んで行きます。大将はこれはとんでもない村を事前調査無しで攻めてしまったと後悔しました。きっと村は堤防を操作したのではないかと考えたのです。
隊列の比較的前のほうに居た精鋭5人が何とか岸に泳ぎ着きました。
するとそこに物凄い速度の矢が飛んできて、先頭に立っていた大将(左座浪源太郎)の身体を射貫いたのです。
大将が倒れます。副官(大岩新吾)が駆け寄りますが、どうも心臓を射貫かれているようです。
「大将!」
と叫んだ彼も次の矢で胸を射貫かれて絶命しました。
「敵はどこだ?」
と残る3人がキョロキョロします。
またひとり(タイガー沢村)射貫かれて倒れます。
「あ!あそこだ」
と残っている2人の兵士のうちのひとり(デカダン田川)が言います。
そこにはイルカに乗った山幸彦の姿がありました。
挿入歌:アクア『イルカに乗った少年』
「山幸彦だ」
「狩りの名人だ!」
と村人から声があがりました。
山幸彦は弓を横にして棒に取り付けたような道具を手にしていますが、そのイルカの上、山幸彦の後ろにもうひとり乗っていてどうも次の弓の準備をしているようです。
そして山幸彦を見付けた兵士も胸を射貫かれて倒れます。山幸彦の射撃は正確です。
最後に残った兵士(マーズ江藤)は腰が抜けてしまいますが、彼も山幸彦に胸を射貫かれて絶命しました。
こうしてユソ国の強襲隊は最初にやられて怪我し、後退して治療していた3人を除き全滅したのです。3人は鎧兜を脱ぎ捨て、慌てて逃げて行きました。
「山幸彦!」
村人たちから声があがります。イルカが岸に寄ります。イルカから山幸彦が降ります。イルカの後ろに乗っていた人物(月城たみよ)は
「私はいったん戻ります」
と言いました。
「うん。ありがとう」
イルカが遠ざかると潮は引き、浜辺が再び姿を現しました。
「この潮を満ちさせたり、引かせたりしたのは、お前がやったのか」
と海幸彦が訊きます。
「あまり人に聞かれたくないからちょっとこっちに来て」
と言って山幸彦は海幸彦を岩陰に連れて行きました。
「説明の前にこれ」
と言って山幸彦は鹿の角で作った釣り針を海幸彦に返しました。
「凄い。マジカだ」
「無くして御免ね。捜し出してきた」
「これをまさか海の中から見付けたのか?」
「うん」
山幸彦は本当にこれは自分の弟なのか判断に悩みました。しかしもし弟ではなく何かの神か精霊が変化(へんげ)した姿だとしても今は自分たちの味方をしてくれているのだから、それでいいと考えました。
山幸彦は語ります。
「実は海の中を探している内に海の神様に出会った。そして実際に捜し出してくれたのは神の神様だよ」
「そうだったのか」
「すぐ帰ろうと思ったんだけど、海神の娘さんと結婚しちゃって」
「へ?」
「それでそのまま3年くらい海の宮殿で暮らしていた」
「へー」
「でも村が危ないと報せてくれた人があって、戻って来た」
「なんか凄い武器使ってたな」
「うん。これ」
と言って山幸彦はその武器を見せます。
「弩(いしゆみ)って言うんだよ、物凄く速い矢を射れるけど弓を張るのに時間が掛かるから連射が出来ない」
「確かにこれは時間が掛かりそうだ」
「だから戦いでは使えないと海神は言ってたんだけど、ぼくは弩を3本くらい用意していればいいと思った。それで弓を張ってくれる人が一緒にいれば次から次へと射ることができる」
「なるほどー」
「それで鉄の矢尻の矢をたくさん持って戻って来たんだよ」
「凄いな。鉄の鎧を貫いていた」
「鉄どうしでこの弩の速度なら貫通できると思った」
「海を高くしたり低くしたりしたのは?」
「それは妻のお父さんがしてくれた。必要な時にぼくが心の中でお願いすれば海を高くしたり低くしたり、してくれる」
山幸彦は本当のことは教えないほうがいいだろうと思い、そう答えておきました。本当は海神から預かった“潮満珠”“潮乾珠”のおかげなのです。
山幸彦が懐(ふところ)の中に持つ潮満珠に手を掛けて「潮満ちよ」と命じれば潮は満ち、潮乾珠のほうに手を掛けて「潮引け」と命じれば潮が引きます(*66).
海幸彦は、そんな海神の加護を受けている相手であればとにかく仲良くしておいたほうがいいと思います。
「いや俺もたかが釣り針無くしたくらいで酷く怒ってしまってごめんな」
「ううん。海神からも聞いたけどこれは本当に凄く特別な釣り針だったんだね、ぼく漁の道具のこと全然分からなくて。でもお陰で妻に出会えたし。ぼくがいったん陸に戻ったから妻も追ってこちらに来る予定」
「そうなんだ?」
「白い軍団を擁する国・ユソ国はまた攻めて来るかもしれない。そしたらぼくはしばらくこちらに居た方が良い。それで妻がこちらに来てくれる」
「へー」
さて浜辺には敵兵の遺体が200ほど並んでいました。村人は鉄剣を鹵獲(ろかく)し、また遺体から鉄の鎧・兜を剥ぎ取りました。また(こちらが使った)鉄の矢尻を多数回収しました。
敵兵たちの遺体を沖まで運んで遺棄してからコダイを使いにやり女たちを村に戻しました。女たちに悲惨な遺体を見せないためです。
それから鍛冶屋のツネオは青銅の矢尻も多数作りました。とにかく普通の石の矢尻では全くかなわない相手ということがよく分かりました。
少し落ち着いたころ、村長のリョウ(大林亮平)は言いました。
「山幸彦、君が村長になってくれ」
「え〜〜〜!?」
「いや、君は村を救った英雄だ」
ということで山幸彦は村長になってしまいます。
ユソ国は1ヶ月後に新たな軍団を送り込んで来ました。今度は鉄剣だけでなく鉄の矢尻の弓矢も持っていましたが、またもや潮満珠にやられてしまいます。村人はまた多数の武器を鹵獲(ろかく)しました。
(*66) 原文は“鹽盈珠”“鹽乾珠”。“鹽”は“塩”の旧字体。盈は皿が一杯になるという意味。盈月(えいげつ)は満月の同義語。
原作では兄の海幸彦が攻めてきたので潮満珠で溺れさせ「助けて」と乞われたら潮乾珠で助けてあげる、というのを数回繰り返す内に海幸彦は山幸彦に従うようになったとある。しかしたかが兄を屈服させるのにこんな大げさなものを使うのも情けないし、力で屈服させても面従腹背するだけで真の味方にはならない。兄弟なら話し合いで協力させるべきである。だいたい珠を奪われたら終わりである。
このドラマでは「海神の加護がある」とだけ言って潮満珠・潮乾珠のことは秘密にしておくことにした。
なお現在「これが潮満珠・潮乾珠」と言って山幸彦ゆかりの鵜戸神宮には2つの珠が伝えられている。潮満珠は丸い形、潮涸珠は円柱を4つ重ねたバベルの塔型である。ほぼ同様のものが出雲大社にも伝わっている。
(筆者は出雲大社のほうの実物を見ている。神迎祭の儀式で使用された)
語り手「ウド村が2度に渡ってユソ国の精鋭部隊を全滅させたことから、ユソ国は当面この村には手を出さないことを決めました」
「そしてユソ国の攻撃を2度も退けたという噂を聞いて、ウド村と協同する村や国が現れ始め、5年後には反ユソ連合が成立。10年後には連合側がツマの戦いでユソ国を破り、南九州の覇者になるのですが、それはまだ先の物語です」
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