広告:ボクの初体験 1 (集英社文庫―コミック版)
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■夏の日の想い出・日日是好日(16)

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モンビは尋ねました。
「私があんたの知りたがっていることを話したら、あんたは私に何をする?」
 
グリンダは答えました。
「あなたがこれまで色々良くないことを魔法を使ってして来たことの罪は問いません。全て免責にしましょう。しかしあなたが知っている全ての魔法を忘れてもらいます。その上で解放します」
 
「魔法を全部忘れたら、私はただのみすぼらしい婆さんになってしまう!」
「でも生きていられますよ」
 
するとティップが言いました。
「モンビ、君の面倒は僕が一生見るよ。北の国のあの家に帰って一緒に暮らそう。僕が頑張って畑耕して、木も伐ってきたりするからさ」
 
モンビはしばらく考えていました。
「ティップ、お前は真実が明らかになることを望むか?」
「もちろんだよ」
「それがどんなにショッキングなことでも受け入れるか?」
「僕は割と物事に動じないたちだよ」
 
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モンビは言った。
「グリンダ、あんたの質問に答えよう」
 
「あなたはそうすると思いましたよ。あなたは基本は悪い人ではありません」
とグリンダは答える。
 
「なぜオズは3回あなたの許を訪れたのですか」
「1回目は何でも無い訪問だった。紅茶クッキーの作り方の話をしただけだ。多分それで私の性格を見たのだと思う。彼は他にも数人の魔女に同様のことをしたかも知れない」
 
「なるほど」
 
「2度目の訪問でオズは驚くべき計画を打ち明けた。私が同意すると彼は自分の知る全ての魔法を私に伝えてくれた。まあ同意しなかったら殺されていたと思うけど」
 
「ああ、それであなたは物凄い魔法を使うようになったのか」
 
「そして多分これがいちばんあんたの知りたいことだろう。3回目の訪問の時、オズは生まれて間もない女の子を連れて来た。きっとオズは赤ん坊を殺すのは忍びなかったのだと思う。彼はこの子を誰にも見付からないように隠して欲しいと言った」
 
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「その子の行方は?」
 
モンビはちらっとティップを見ました。その場に居る全員がモンビの答えに注目しています。
 
「私はその子に魔法をかけた」
「どんな魔法を?」
「私はその子を変身させた」
「何に?」
 
ここでモンビは少しためらいました。もう一度ティップを見ます。そして小さな声で言いました。
 
「男の子に」
 

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この瞬間、全員がティップを見ました。
 
「え?」
と当のティップ(羽田小牧)は戸惑っています。
 
みんなティップが幼い頃からモンビに育てられてきたことを知っています。
 
「だからパストリア王から王位を奪った初代オズの魔法使いが私の所に連れてきた赤ん坊のオズマ王女、エメラルド・シティの正当な統治者というのが君だ」
 
とモンビ(沢村キック)は言ってまっすぐティップを指差します。
 
「僕?僕がオズマ姫だとか、だって僕は女の子じゃないよ」
とティップは混乱しています。
 
グリンダ(仁田友里)はティップの小さな手を優しく包んで言いました。
 
「あなたは確かに今は女の子ではない。モンビがあなたを男の子に変えたから。でもあなたは本来は女の子なのよ。そしてあなたがオズマ姫。あなたは本来の姿に戻ってエメラルドシティの女王にならなくちゃ」
 
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「いやだ!女王の座はジンジャーにあげるよ。僕はこのまま男の子で居たい。女の子になんてなりたくないよー」(*31)
 

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木こりが言いました。
「心配しなくていいよ、君が女の子になっても、みんな友だちのままだよ。僕は女の子のほうが素敵だと思ってたよ(*32)」
 
「女の子も男の子と同じように素敵なものだよ」
とかかしはティップの頭を撫でながらいいます。
 
ただ南瓜男は嘆きます。
「あなたが女になってしまったら僕のお父さんがいなくなっちゃう」
 
「お父さんがお母さんになるんじゃない?」
「あ、そうか!お母さんというのもいいなあ」
 
ティップはみんなの反応を見ながら言いました。
「ごめん。1時間くらいひとりにして。少し考えさせて」
「うん。いいよ」
と言ってグリンダはティップに個室を用意してあげました。
 

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ティップは実際には30分でその個室から出てきました。そしてトイレに行ってきました!それから言いました。
 
「分かりました。僕を女の子にしてみてください。でもどうしても女の子は嫌だと思ったら、グリンダさん僕を男の子に戻してもらえませんか?」
 
「それはできない。性別を変えるというのは私の力では不可能なこと。ここはモンビに13年前に掛けた魔法を解いてもらう以外に無い。そしてそれがモンビが魔法を使う最後になるでしょう」
 
ティップは「少し考えさせて」と言ってその場で目を瞑って考えました。
 
「分かりました。仕方ありません。みんながオズマ姫を必要としています。もう男の子に戻れなくてもいいです。僕を女の子に変えてください」
 
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(*31) 原文 I want to stay a boy,(中略) I don't want to be a girl!
 
(*32) 原文 I've always considered girls nicer than boys.
 

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ティップは自分が女になっても、モンビの面倒は一生見ると再度約束しました。
 
「ティップありがとう。済まないね。これまで結構こき使ってたのに」
「ううん。モンビからは色々なことを教えてもらったもん」
 
モンビはティップの両手を握り、涙を流しながら感謝しました。この時モンビから波のようなものが流れ込んでくるのは何だろうとティップは思いました。
 
それで魔法は実行されることになりました。
 
モンビはグリンダに魔法壇を作るために特別なトネリコの木と幾つかのハーブ、それに炭を用意してくれるよう頼みました。グリンダは羽猿(銀色アルゼンチン・銀色ナイゼンチン)に命じて取って来させました。
 
待っている間にもモンビはティップの手を握っていました。そしてずっとモンビからティップに何かが流れ込んでくる感覚がありました。ティップは女の子になるために必要な準備かなと思いました。僕の体液を女の子のものに変えているとか?男と女では体液の性質も違いそうだもんね。
 
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羽猿たちが戻って来ます。
 
他の人の目に触れないようにカーテンが引かれます。中にはモンビとティップ、グリンダだけが入りました(*33).
 
モンビは調達してもらった木を壇に組み、その上に磁器の皿を置いてハーブを入れます。ハーブを入れる皿にはグリンダが調達してくれた物の他に自分の持つ肩掛けカバンから取り出したスパイスも入れました。モンビはティップが自宅から逃亡していった時、おそらく近い内にこの魔法を使うことになると思って用意していたのです。
 
壇の中に炭を入れます。壇の反対側にはティップを座らせました。グリンダは横で見守ります。
 
「女の子になるのって痛い?」
「さあ自分がなってみたことはないから分からんなあ」
「不安だなあ。まあ少しくらいの痛みは我慢するけど」
「よしよし」
 
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モンビは炭に火を点けました。熱せられたハーブとスパイスはすみれ色の煙を生み、それがカーテンの内部に満ちていきます。
 
「モンビ、ぼくだけじゃなくてモンビやグリンダまで性別変わったりしないよね?」
「私はもうこの年だし、女でも男でも大差無いぞ」
「まあ男魔女になるのもいいかな」
 
モンビは呪文を唱え始めます。それはグリンダにも理解できない言葉でした。それを繰り返し唱え、モンビは火に向かって身体を7回前後させました。そして最後に「ヨーワ(Yeowa)!」と叫びました
 

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(*33) 原作ではみんなが見ている前で変身させている。それはあまりにも女性に対して配慮の無さすぎである。このドラマではモンビ・グリンダだけにした。
 

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「終わったぞ」
とモンビは言った。
 
「え?ぼく女の子になったの?」
「自分の身体を確かめてみるといい」
 
ティップは恐る恐る自分の身体を触ってみます。
 
「なんか胸がある」
「お前は13歳だ。13歳の娘にはおっばいくらいあるもんだ」
 
ティップは恐る恐るお股に触ってみます。
 
「やだー!ちんちん無くなってる」
「女にはちんちんは無いからな」
 
「これを着なさい」
と言ってモンビはさっきガンプの中で渡そうとしたドレスを渡しました。
 
「ジョークじゃなくてマジでこれを着るのか」
「女の普通の服だ」
「やだなー」
「慣れるしかないです」
 

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それでティップは男の服を脱ぎました。鏡があります。その中には美しい娘の裸体が映っていました(この部分ナレーションのみ。小牧の身体は映さない)。「きれーい!」と思いました。女の子の身体ってこんなにきれいだったのか。
 
ティップは姉妹とかが居なかったので女の子の身体を見たことがありませんでした。こんな美しい身体が自分のものだなんて夢じゃなかろうかと思います。彼いや彼女はすっかりこの身体が気に入りました。
 
モンビから渡されたドレスを身に付けます。
 
モンビは髪を整えてくれました。
「近くこうなりそうな気がしてたから、お前の髪はここ1年くらい切ってない。髪型次第ではなんとか女に見える」
 
「オズマ姫、お化粧をしましょう」
「え〜〜〜?ぼくお化粧とかしていいの?」
「だって女の子になったし」
「そうだよね。女の子はお化粧してもいいよね」
 
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グリンダはオズマの顔を化粧水で拭くと、きれいにメイクアップしてくれました。
 
「なんか自分の顔じゃないみたい。美しーい」
「お化粧いいでしょ?」
「うん」
 

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それでモンビが手を引いて、素敵なドレスのオズマはみんなの前に姿を現しました。
 
「おお、美しい!」
「正当な君主、オズマ女王様だ!」
「なんて美人なんだ」
「みんな何言ってるの?顔は何も変わってないよ」
「そういえばティップの顔だ」
「でも女性になった分美しくなった気がする」
「ティップと何も変わらないのに。ちょっと性別が変わっただけだよ」
とオズマは言いました。
 
「確かに性別が変わった以外は何も変わらないかもね」
「でも性別が変わるのはかなり大したことのような気がする」
 

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オズマ姫はグリンダと一緒に王宮に入り、ジンジャーに会います。
 
「ティップ?なんて格好してるの?まるで女の子みたいなドレス着て、お化粧までして」
「ジンジャー、モンビが告白したんだ。ぼくがオズマ姫だったんだって」
とオズマは言います。
「そんな馬鹿な。オズマ姫が男のわけがない」
「魔法で男の子に変えられていたんだよ。モンビが魔法を解いたから、ぼく女の子になっちゃった」
 
「ちょっと身体に触らせろ」
と言ってジンジャーはオズマの身体を触ります。
 
「胸がある。男の印が無くなって女の印が出来てる」
「うん。ぼくもびっくりしたけど完全に女の子になっちゃった」
「この人がオズマであるという証拠はありますか?」
とジンジャーはグリンダに訊きました。
「モンビがそれを証言しています。そして左の二の腕にあるドラゴンの形のあざ。同じようなあざが今は亡きパストリア王にもありました。遺伝だと思います」
と言ってオズマの左の袖をめくり、あざを見せます。
 
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「これ不思議なんだよ。男の子だった頃はこんなの無かったのに女の子になったらこんなのが現れた」
 

「ティップが嘘を言うとは思えない。君がオズマだと認める。正当な“人間”の後継者が出てきたのであれば、私たちの目的は達せられた。革命軍も解散しよう。君がこの国の女王だ」
とジンジャーは言いました。
 
「僕、女王なの〜?」
とオズマは不安そうに言いました。
 
「女だから」
 
「それにしても言葉遣いとかが男っぽい」
とジンジャーは指摘します。
 
「なんかこの子に女の子としての教育が必要ですね」
とグリンダも笑って言いました。
 
「やはりお姫様ならそれなりの教養も必要だし、楽器などもできてほしい」
「ぼく小さい頃から読み書き算数、地理と歴史、物理学・化学、それに絵を描いたり、歌やフルート、ピアノとかも習ってた」
 
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「それはかなり凄い教養だぞ」
とジンジャーが言う。
 
「モンビはいづれこの子が女王になると思って、女王にふさわしい教育を施していたんでしょうね」
とグリンダは言いました。
 

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グリンダとジンジャー・かかしの3人によりオズマ姫が市民にお披露目されるとその美しい姿に大きな拍手が沸き起こりました、オズマは
 
「挨拶代わりに」
 
と言って銀のフルートを演奏しました。グリンダ(仁田友里)がピアノ伴奏します。このオズマのフルート演奏に再度大きな拍手があり、オズマは市民たちに受け入れられました。
 
それでオズマはこの国の新しい女王に就任したのです。
 
放送上はオズマが吹くフルートのメロディーに歌が入る。羽田小牧(オズマ:アルト(*34))・白鳥リズム(ジンジャー:ソプラノ)・森原准太(木こり:バリトン)が歌う『5色の旗』である。
 
(この音源は実際には三田雪代(シナモン少佐)のピアノに月城たみよ(ナツメグ中尉)がフルートを入れ、小牧・リズム・森原准太で歌ったもの。仁田さんもピアノは弾くがあまりうまくはない)
 
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(*34) 羽田小牧の声域は“公称”テノールだが実際には F3-E5 くらいであり、どう見てもアルト。本人は声変わりしたと主張しているが、甚だ疑問というのが多くの意見である。実はファルセットを使うと C6まで出るので、ソプラノの曲がほとんど歌える。バラエティでうまく乗せられて歌ってみせたこともある。
 
 
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夏の日の想い出・日日是好日(16)

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