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■夏の日の想い出・日日是好日(12)
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2023年1月7日(土)18:30.
ΛΛテレビで羽田小牧主演、昔話シリーズ第19弾『オズの不思議な国』が放送された。
この番組に関しては事前に告知されていたのは“羽田小牧主演”と“2時間半スペシャル”いうことだけであって、タイトルその他の告知が一切無かった。またインターネットへの情報流出も無く、何をやるのか全く分からなかった。しかし多くの視聴者が
「羽田小牧ちゃんの主演なら見たい」
と思って見てくれたのである。たからこの作品には彼のような高いネームバリューのある人の主演が必要だった。これは羽田小牧あっての企画だったのである。
語り手(立山みるく)「これは『オズの魔法使い』のお話でドロシーがカンザスに帰って少し経った頃のお話です。あの後、オズの都はカカシが治めており、ライオンは森の王様に、木こりは西の国の王様になっていました」(*15)
(*15) 視聴者の中にはこのナレーションで「ああこれは『オズの虹の国』か」と気付いた人もいたが、テロップで「良い子はネットでこの話のネタバレをしないでね」というのが流れたので、それを守ってくれて、ネットへの書き込みは特に目立ったものは無かった。そもそもオズ・シリーズの2巻以降を読んでいる人が少ない。
しかし原作を読んでいた人にはなぜこの物語が羽田小牧主演なのか“分かっちゃって”多くの人が「うん彼以外にこの役をできる人は居ない」と思った。7年前ならアクアが(やはり欺されて)やらされている役である。
オズ・シリーズ14冊の全訳を収録したハヤカワ文庫が「オズの虹の国」という邦題を付けており、他の出版社でもこれを踏襲しているものがある。原題は "The Marvelous Land of Oz" なので素直に訳せば“オズの不思議な国” または“オズの素敵な国”である。
語り手:オズの国の北方ギリキンの国(Gillikin Country)にティップ(Tip)という少年(羽田小牧)が住んでいました。彼は自分の両親や小さい頃の記憶がありません。でもずっと長いこと、魔女のモンビ(Mombi)(沢村キック(*17))と一緒に暮らしていました」
「ティップは畑仕事をしたり木を切ったり、また料理を作ったりして働いていました。モンビは悪い魔女で色々よくないこともしていましたが、ティップはそのことはあまり深く考えないことにし、またできるだけ悪事には関わらないようにしていました」
「モンビはティップに読み書き・算数から物理学や化学、地理や歴史まで教えてくれました。更には絵を描かせたり、歌を歌わせたり、横笛を吹かせたりピアノを教えたりもしていました」
羽田小牧演じるティップが、斧で木を切るところ、鍬を持って畑を耕しているところ、トウモロコシを収穫しているところ、収穫したトウモロコシを鍋で茹でているところ、などが映る。また数学の問題に頭を悩ませている所、銀のフルートを吹いている所(*16)、ピアノを弾きながら歌っている所なども映る。
「ある日、モンビは友人の魔術師のところに出掛けました。留守番をしていたティップは悪戯心を起こします。畑から大きな南瓜(かぼちゃ)を取ってくると、目と鼻と口を開けジャック・オ・ランタン(Jack-o'-Lantern) を作りました。そしてこれに木で胴体・手足を付け、服を着せて南瓜男(かぼちゃおとこ Jack Pumpkinhead)のできあがりです」
ティップがかぼちゃをくりぬいたり、木を切ったり釘でつないだりして南瓜男を作っていく様が映る(*18)
(*16) 小牧はあまり上手くはないが一応フルートが吹ける。それで実際に本人に吹いてもらった。指使いや息を吹き込むところがちゃんと映っている。実際に放送で使用した音は安原祥子が同型のフルートを使って吹き替えしたもの。なお、小牧はピアノは弾けるので実際の演奏を放送でも流した。
(*17) モンビ役には最初意地悪な魔女などの役をよくしている峰沢義紀(46)さんを想定していた。しかしモンビは結構コミカルな要素が必要であり、峰沢さんのキャラとは違うということになる。それで中堅コメディアン・カウントールの沢村キック(43)の起用となった。
モンビというキャラは存在そのものがお笑いでなければならないのである。モンビとティップの絡みは基本的にジョークとジョークのぶつけ合いである。でないとモンビとティップの関係は陰惨になり、物語の最後でティップが「モンビの面倒は私がずっと見る」と言うセリフに繋がらない。
(*18) 小牧はとても非力でこれらの工作をする自信が無いと言ったので実際の作業をしたのは、信濃町ガールズの夢島きらら(167cm)である。小牧は164cm。三国舜などの方が得意だが、彼には女装は無理である。
ん??羽田小牧が演じてるのは女の子では無かったんだっけ??
ティップはこの南瓜男を家の前の道に置いておき、木の陰に隠れて様子を見ています。やがて夕方薄暗くなった頃モンビが帰宅しますが、道に立っている人物?を見て
「こんばんは」
と挨拶します。しかし相手の顔をよく見て
「ぎゃー!」
と腰を抜かしました。ティップは声を立てないまま大笑いします。
「こんなことをするのはティップの奴か?しかしこれはちょうどいい。ニキディクからもらった薬を試してみよう」
と言うと、荷物の中から“命の粉”(いのちのこな Powder of Life)と書かれた胡椒入れのような瓶を取り出します。そして振り掛けると呪文を唱えます。
左手を上げて小指を立て「ウォー (Weaugh)」
右手を上げて親指を立て「トー (Teaugh)」
両手を挙げて全ての指を広げるように伸ばし「ポー (Peaugh)」
すると南瓜男(揚浜フラフラ(*19))は一歩後ろに下がり
「そんなに近くで大きな声出さないでよ」
と言いました。
ティップは南瓜男が動いてしゃべったのでびっくりです。
(*19) 揚浜フラフラは前作『オズの魔法使い』ではライオンを演じたが今回の物語ではライオンは出てこない。そして南瓜男の俳優は素顔が映らない!
ティップがあまりにも驚いて、つい声をあげてしまうと
「そこに居たのか!悪戯小僧め」
と言ってモンビはティップを捕まえます。
「私がびっくりするのを見て笑ってたな」
「違うよぉ。昔のことを思い出し笑いしただけだよ」
「まあよい。取り敢えず帰ろう。ティップこの南瓜男を助けてやれ」
「大丈夫だよ。僕はひとりで歩けるよ。僕のお父さんは関節も作ってくれたし」
と言って南瓜男はひとりで歩いてモンビ・ティップと一緒に家に行きます。
モンビは南瓜男を牛小屋に入れ、カンヌキを掛けました。それからティップと一緒に家の中に入ります。モンビはティップに、暖炉に火を点け、お湯を沸かすように言いました。
モンビはテーブルに座ってパンとチーズを食べています。
「ぼくにもちょうだい」
とティップが言うと
「やらん」
と言いました。
「お腹空いたよぉ」
とティップが言うと
「もうお腹が空くことも無いようになる」
とモンビは言います。そして暖炉に掛かった夜間に何やら薬を入れました。
ティップはぞーっとしました。
「ぼくに何するの?」
「今日もらってきた薬を試してみる。これがもし効くならお前は大理石になる」
「大理石になったら動けないじゃん」
「だからもう悪戯することもなくなるな」
「ねえ、モンビちょっと考え直さない?僕が大理石になっちゃったら畑を耕したり、料理を作ったりもできなくなるよ」
「そうだなあ、畑の真ん中にお前を置いておくか。かかし代わりにはなるかもしれん」
ティップはモンビの言葉が冗談なのかマジなのか分かりませんでしたが、マジだったらやばいぞと思いました。
人間を大理石にする薬は一定時間煮た後、冷まさなければならないのだそうです。モンビはある程度煮てから暖炉の火を消し
「さて明日の朝にはお前を大理石に出来る.楽しみだ」
などと言い、自分のベッドで眠ってしまいました。
ティップはしばらく考えていましたが、やがて
「逃げよう!」
と思いました。モンビの言ってたのが冗談ならいいのですが、ほんとに大理石にされちゃうのは嫌です。
それで逃げるなら食べ物を持ってかなきゃと思い、戸棚を探ります。パンの耳がありました、またチーズの塊を見付けました、更に胡椒入れのようなものを見付けます。
「あ、これ命の粉だ。これも持ってこう」
それでティップは静かに家を出ます。そして少し家を離れましたが、ふと思い付いて戻ります。そして牛小屋のカンヌキを開けて南瓜男(かぼちゃおとこ)に声を掛けました。
「ジャック、ぼくここを逃げ出すけど、君も来る?」
「はい、連れてってください、お父さん」
それでティップは南瓜男のジャックと一種にモンビの家から逃げ出したのです。
モンビは窓を開けて、月明かりの中ティップとジャックが逃げて行く後姿を見送りました。
「何だつまらん。これを飲んだら大理石になるぞーと脅かして、泣いて謝るのを見たかったのに。まああの子には強力な守護を付けてるから、危険なことはあるまい。さ、寝直すか」
と言ってモンビは大きくアクビをするとベッドに戻りました。
ふたりはずっと夜中の道を歩いていましたが、さすがに疲れます。太陽が昇った頃、2人は休みました。ティップは誰かが作ったまま放置しているっぽい馬の形をしたベンチに座りました。南瓜男(かぼちゃおとこ)の方は、どうも座るというのが難しいようなので立ったままです。
ティップは御飯をたべることにし、パンの耳を少しジャックに分けてあげました。しかしジャックは
「要りません」
と言いました。
「どうして?お腹空くよ」
「ぼくは物を食べる機構が無いようです」
「そっかー。ごめんね」
「この後どこに行きます?」
「ずっと南へ行こうと思う。そしたらオズの国の首都・エメラルドシティがあるはずなんだ。偉大なる魔法使いオズが作った町。そこは全ての物が緑色なんだよ。ギリキンの国では何でも紫色だけどさ」
「ここは紫なんですか」
「うん。木も草も家も土も紫」
「私は色が分からないかも」
「ああ。ごめんね。この北のギリキンでは全てが紫。東のマンチキンの国では全てが青、南のクアドリングスでは全てが赤、錫(すず)の木こりが統治する西の国ウィンキーズでは全てが黄色」(*20)
(*20) この色の組合せであれば北の国は紫ではなくヴァイオレットになるべきだが、ここは原文に従う。たぶん作者は理科が苦手。第一巻でも錆びない筈の錫の木こりが錆び付いていたことにしたり、後に出てくる17問題など、どうも作者は理系の感覚が無さすぎるもよう。
「錫の木こりが西の国を支配してるの?」
「うん。彼はドロシーを助けてウィンキーズを支配していた西の悪い魔女を倒した。それでウィンキーズの人々は感謝して彼に統治者になってもらった。同様にエメラルドシティでは、かかしに統治者になってもらった」
「かかしって?」
「彼もドロシーと一緒に行動していた」
「そのドロシーって誰?」
「カンザスという所から竜巻に飛ばされてオズの国にやってきた女の子だよ。その子が東の悪い魔女と西の悪い魔女を倒した」
「その子はどこに?」
「今はカンザスに戻っている」
「ごめん。分からなくなって来た」
「カンザスから飛ばれてきたドロシーは成り行きで東の魔女を倒すことになった。その後、カンザスに帰る方法が分からなかったので、エメラルドシティに行ってオズの魔法使いに頼んだ。その途中でかかしと木こりに会って同行した。オズは西の悪い魔女を倒してきたらカンザスに帰してやると行った。それでドロシーはかかし・木こりと一緒に西の魔女を倒した」
「東の魔女・西の魔女を倒すとは、ドロシーというのは相当凄い魔女だな」
「僕もそう思う。ところがオズはドロシーをカンザスに帰すことができないと言う。それでドロシーたちは怒った。そしてオズは大きな風船を作り、その風船に乗ってどこかに行ってしまった。それ以来彼を見た者は居ない」
「結局南の魔女グリンダかドロシーをカンザスに帰してあげた。そしてオズが居なくなったエメラルドの都は住民の要請でかかしが治めることになり、西の国は錫の木こりに委ねられた」
「だったらエメラルドの都に行って、かかしの王と会うの?」
「会ってみたい気がする。大魔女ドロシーの助手だった人だから」
「ああそれは良いかも知れないですね。私も付いていきますから」
「しかしずっと歩いて行くのもきついね」
「私は関節が摩耗してしまいそうです」
ティップは南瓜男の足をもっとしっかり作ってあげるべきだったなと後悔しました。
その時ティップは突然思いつきました。
「今ぼくが座ってる木馬ってなんかすごくよく出来てる。これに“命の粉”を振り掛けてみる。これがもし本物の馬になってくれたらそれに僕たち乗って行ける」
それでティップは“命の粉”を木馬に掛けると
左手を上げて小指を立て「ウォー (Weaugh)」
右手を上げて親指を立て「トー (Teaugh)」
両手を挙げて全ての指を広げるように伸ばし「ポー (Peaugh)」
と叫びました。すると木馬は動き出しました。馬に耳が無いことに気づき、ティップは森で木を切ってきて作ってあげました。それでジャックとティップはその馬に乗り、エメラルドの都への道を歩んでいきました。
「エメラルド・シティまで9マイル(14km)」
という標識を見たところで休み1晩明かします。
「このままだとお昼くらいにはエメラルドシティに着けるかも」
それで2人が馬に乗って進んでいくと、木や草の色が変化していきます。紫色が薄れ、鈍いラベンダー色に変わり、やがて緑がかった色合いに。そして徐々に明るくなっていきます。
「エメラルドシティまで2マイル(3km)」の標識を見て少し行ったところで彼らが通っている煉瓦の道が途切れてて目の前に広く流れの速い川がありました。どうやって渡ろうと悩んでいたら渡し船が向こう岸から寄ってきます。
「お兄さん、ぼくたちを向こう岸に連れてってくれる?」
とティップは訊きます。
「もちろん。渡し賃を払ってくれたら」
と渡し守(仁川浩光 41)は言います。
「どうしよう?ぼくお金持ってない」
「少しも持ってないの?」
「うん。全く」
「じゃ君たちを渡してあげることはできないね」
ティップは悩んだ。
「ぼくたちどうしてもエメラルド・シティに行かないといけないんだ。ね、どこかに橋とか架かってる所とかは無いかな」
「この川に橋は架かってないと思うなあ。それより君が連れてる木馬は水に浮くと思うね」
「あ」
「それと南瓜男君は浮くかどうか微妙だけど泳げば何とかなるかもね」
「やってみる!」
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