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■夏の日の想い出・ラブコール(1)

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(C) Eriko Kawaguchi 2021-08-21
 
2021年6月16日(水)の午後一番、桜野レイア(羽藤玲香 1996生)が私のマンションを訪問してきた。(政子は彼氏とデートに行っている)
 
「珍しいね。入って入って」
と言って、中に入れる。
 
「実はコスモス社長に言おうと思ったんですけど、捕まらないんですよ」
「コスモスちゃん、忙しいもんね!」
「それで水森ビーナこと柴田数紀の仕事量について申し入れしたいと思って」
「うん」
「これマネージャーの青野にコピーさせてもらった彼女のスケジュールなんですけど」
 
“彼女”と呼ばれていることは取り敢えず気にしない!
 
「どう思います?」
とレイアは言う。
 
「無茶苦茶忙しいね!」
「これ、実際問題として、アクア、常滑舞音、ラピスラズリに次ぐ忙しさですよ」
 
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「こんなに忙しくなっているとは」
「本人可愛いし、かなり引き合いが来つつあるみたいなんですよ。それでいて、彼女はお姉さんの松梨詩恩のスタンドインをかなり務めてるでしょ?詩恩ちゃんがアクアの仕事をかなり代わっていて無茶苦茶忙しくなっているからビーナも忙しくなっているんですよ」
 
「根本はアクアの忙しさか!」
 

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「ビーナちゃん、まだB契約なんですけど、これだけ仕事してるのにB契約はないと思いませんか?」
 
桜野レイアは§§ミュージックの契約アーティスト代表を務めている。労働法規の適用外であるため、労働環境が悪化しやすいアーティストの労務問題について目を光らせる立場にある。
 
「分かった。これはコスモスと話し合ってA契約に切り替える方向で」
「切り換えのタイミングは?」
「当初からA契約だったことにして報酬を再計算させよう。それ、経理の方に指示しておくよ」
 
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「うん。ありがとね。私も気付かなかったよ」
 

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「ところでこれは特に意見とかではないんですが」
「うん?」
「今舞音ちゃんが無茶苦茶忙しいでしょう?」
「うん」
「マネージャーの悠木恵美も村上麗子もフル稼働状態で」
 
「今、マネージャーの人手が絶対的に足りないんだよ。でも舞音ちゃんについてはもう1人くらい必要だよね。バイトさんでもいいから入れるようにしよう」
 
「でしたらぜひお願いします。これは本当は玉雪さんあたりから言うぺきことなんでしょうけど」
「あの人は、古い時代のマネージャーだからね。マネージャーなんて1日40時間くらい働くべきものと思ってるし」
 
「みたいな感じですね。ただそれでですね」
「うん」
「村上麗子が本来担当していた、大崎志乃舞とリセエンヌドオが完全に放置されてるんですけど」
 
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「ああ」
と私は嘆くなような声を出してから言った。
 
「あの子たちについてはちょっと保留で。とても余裕がない」
 
「まあそうだとは思いますけどね」
と桜野レイアも苦笑していた。
 

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水森ビーナ(柴田数紀)の報酬に関しては、経理の方でただちに再計算し、6月18日に銀行振込依頼を掛ける時点で再計算した報酬額との差額をまとめて振り込むようにした。本人とも話し合いを持ちたかったのだが、本当に本人が忙しいので、結局振込当日の21日にコスモスが数紀を事務所に呼び、A契約に切り替えることについて事後承諾をもらった。契約書に関しては数紀のお父さんと電話で話して、郵便で契約書を交換することにした。
 

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その日の深夜、天月聖子(今井葉月)は橘ハイツ(5階以下の大半が男子寮)の地下、ピアノ練習室で千里と密談をした。
 
「醍醐先生、ボクの性別問題について本当は3月1日までに決断しなければいけなかったのをずっと保留してもらっていたんですけど」
 
「うん。どちらの性別にするか決めた?」
と千里は訊く。
 
「はい。やっと決心が付きました」
 
「どうするの?やはり女の子として生きていく?」
「それなんですけど、男の子で確定させてもらえませんか」
「へー!」
 
「随分迷ったんですけど、よくよく考えてみたら、ボクそもそも女の子になりたい気持ちとか無かったよなと思って。戸籍は女の子になっちゃったけど、ボク自身は男でいいんじゃないかと思って。別に戸籍の性別にこだわる必要は無いし」
 
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「うん。そんな気はしてた。君はマジでふらふらしてるアクアとは違うよ。男の身体になればたぶんすぐ声変わりも来て、2〜3年以内には男らしい身体になると思うよ」
 
「いえ、その声変わりはしたくないし、睾丸は特に要らないから取って欲しいんです」
「睾丸無いとちんちん立たないよ。ワルツちゃんと結婚生活するのに困るでしょ?」
 
「和紗はボクのちんちんは別に立たなくてもいいと言ってくれてます。それよりボク、あまり男っぽい身体になりたくないんです」
 
「ふーん。女の子らしい身体になりたい?」
「別にそういう訳ではないんですけど、結局ボクはおじいちゃんみたいな路線かなと思って」
 
「蛍蝶さんって、あれ去勢してるよね?」
「分かりません。でもあの年齢であの雰囲気は何らかの操作はしてますよね」
「あの人、男役もするけど、今でも女物の服を着せればおばちゃんに見えるもん。男性ホルモンがほとんど効いてない感じだよね」
 
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「それにボク父からも20歳までには去勢しろって言われてたし」
「それはさすがにジョークだと思うけど(と信じたい)」
 
「だから睾丸の無い男というのが自分的にはいちばんしっくり来る気がして」
「いいよ。じゃそれで確定させよう」
 

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それで千里は聖子、いや西湖と呼ぶべきだろう。彼に**の法を掛けて、いったん完全な女性に変えた後、完全な男性に再度性転換した。そして性別にロックを掛けた。これを掛けると術者本人あるいはそれ以上に力のある人にしかこのロックは外せない。千里のロックを破れるのは、丸山アイ以外には居ない。(2度性転換させたのは千里1である。ロックを掛けたのは千里3である)
 
「これで完全な男になったけど、去勢する前に、男になった記念でオナニーとかする?それとも和紗ちゃんとセックスしてくる?」
 
「オナニーは別にしたくないんですけど、和紗とのセックスはしてもいいかなあ。あの子をずっとバージンのままにしてるし」
 
「じゃ今夜抱いてあげなよ。明日の朝去勢してあげるから」
「朝まで待ったら声変わりが恐いから、セックス終わったら即去勢してもらえません?実は過去に2度声変わりしてしまったのをアイ先生にキャンセルしてもらってるから、結構臨界に近いと思うんです」
 
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「いいよ。じゃ用事が済んだらこれ使って」
と言って千里は小さな機械を渡した。
 
「これは?」
「自動去勢機」
「あのぉ、これちんちんまでは切れませんよね?」
「大丈夫だよ。ここにタマタマの袋を入れてしっかり閉めてこのボタンを推したら一瞬で男性を廃業できる。ちんちんを入れなければ、入れないものまでは切断されない」
 
「あのぉ、こちらの穴は?」
「ちんちんまで切りたい人のためのものだけど、入れなければ問題無い」
「入れません!」
「ちんちんまで切りたいなら、いっそ女の子にしてあげるよ」
 
「ちんちんはまだあってもいいと思うので」
 
“まだ”あってもいい、ね〜。
 
「痛いですか?」
「痛くないと思うけど」
 
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「以前、アイ先生が作った無痛去勢機を使ったら、痛さで気絶したから」
「あの子は悪趣味だからわざと痛いように作ったりするからね。これは本当に無痛だよ。でも本当に男を辞めていいと決断できなかったら使ってはダメ」
 
「絶対に声変わり起こしたくないから、男性ホルモンを発生させる器官は用が済んだら即除去します」
 
「うん。それは君に任せる」
 

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「ところでサービスでおっぱい大きくしてあげようか」
「なんかボクの胸、結構膨らんでるんですけどー」
 
性転換させた千里1の“趣味”でわざとバストを元の大きさまで膨らませたのである。
 
「もっと大きく、どーんとGカップくらいにしてあげようか」
「Gって!?」
「Gravityを感じる大きさだよ」
「すみません。今のサイズでいいです」
「了解〜」
 

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その日の夜、西湖は和紗と“初めてのセックス”をした。和紗が泣いて感動していたが、西湖自身は疲れただけであまり気持ちよくなかった。射精の瞬間は頭痛がしたし。脳の血管が切れるかと思うくらいの痛みだった。
 
(アクアMは射精(睾丸が無いので精子を含まない精液が出る)でちゃんと気持ち良くなれているが、数紀や西湖は射精自体がダメなようである。たぶんどちらも“男”として未発達なせい。アクアは女として成熟してきたので恐らく男の快感も感じられる)
 
セックスを終えた後、西湖はひとりでトイレに入り、ためらいながらも自分で睾丸を自動去勢機に押し込む。ペニスは一瞬迷ったが入れなかった。正確には一度入れてみたがやはり恐いので取り出した。それで睾丸だけが中に入っている状態で思い切ってボタンを押し、自己去勢した。でもやはり気絶した!痛みは無かったのだが、痛いかもという自己暗示で気絶したのである。千里は彼の手から自動去勢機を回収し《きーちゃん》に西湖の睾丸の保存を命じた。
 
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それで西湖が将来やはり男になりたいと思った時はこの睾丸を戻してあげることもできる(昨年こうちゃんが回収した睾丸は、こうちゃん自身も気付いていないが、実は龍虎のものである:だから龍虎の睾丸が消失した。アイの巧妙な罠に掛かったのである−アイが言う通りMに睾丸が無いとMとFは決して統合されない。いったん統合されても数時間でまた分離してしまう)。
 
なお、西湖は一応中学1年の時にも精液の保存はしている。
 

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ところで§§ミュージックの女子寮が来年の夏には満杯になってしまうのが確実である問題、また寮母の天羽亜矢子(高崎ひろかの母)から言われていた調理スタッフの増員と厨房スペースの拡大問題について、私とコスモスは次のような対策を進めた。
 
・調理スタッフは取り敢えず2名増員して5人にする(6月中旬から入ってもらった。8月に更に1人増やした)
 
・取り敢えず臨時厨房を作る(仕様を花ちゃんと播磨工務店で詰めてもらう)
 
・各部屋への配送を今、海浜ひまわりと秋本亜蘭(*1)の2人だけでやっているのが大変なので、各フロアまで自動で配送されるシステムを導入する。ひまわり・亜蘭は各フロアのステーションから各部屋へ持っていく。
 
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配送システムは即発注して6月末までには導入され、ひまわりからも助かると言われた。
 
(*1) ひまわりの従妹(母の妹の娘)。歌手志望らしいが、ひまわりからまで「あんたにゃ無理」と言われていた。かなり音痴である!私は取り敢えず毎日発声練習することと楽譜が読めるようになりなさいと言っておいた。
 

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女子寮自体の増設問題については、現在の女子寮の近くで土地を探していたのだが、すぐ裏手に建っているマンションに建て替え計画があることを知り、所有している不動産業者と交渉した所、土地ごと売ってもらえることになった。
 
昭和20年代!に建てたもので、あまりにも老朽化していて危険性を区役所から指摘されていたらしい。あまり酷いので住民もほとんど逃げ出して!いて3戸だけ残っていたが、比較的近くの他のマンションに移ってもらうことになった。
 
それで7月には買取交渉がまとまり、ムーラン建設に新女子寮の建設を発注したのである。
 
土地の買い取り価格は3億円、ムーラン建設に払った建築費は12億円である。新しい寮の間取りは1DKではあるが現在の女子寮より少しだけ広くなる予定である。新しい寮に最初に入るのはたぶん、↓のメンツになる。
 
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・品川ありさ
・ラピスラズリ
・常滑真音
・白鳥リズム
・姫路スピカ
 
高崎ひろかは、新女子寮完成後、本棟を建て替えるので、その時点で本棟に移動して、母・妹と一緒に暮らす意向である(現在の本棟2階の寮母室は狭くて3人で住むのは困難である)
 
「ビーナちゃんも一緒に住む?」
「高校の通学の都合があるから」
「あ、そうか」
「まあこちらの近くのC学園とかに転校させる手もありますけどね」
「女子校に入れるの?」
「あの子を見たら入れてくれると思うけとなあ」
「そうかもね」
「何なら眠り薬飲ませて、病院に連れ込んで手術しちゃう手もありますし」
「ああ」
 
数紀は男の子のまま成人式を迎えることは無いなと私は思った。
 
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