広告:ここはグリーン・ウッド (第2巻) (白泉社文庫)
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■夏の日の想い出・ラブコール(14)

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8月20日(金).
 
この日はアクアの20歳の誕生日であった。この日、アクアはΛΛテレビから記者会見を行った。この記者会見には下記のメンツが顔を揃えた。
 
アクア本人、醍醐春海(千里)、田代涼太、長野支香、志水照絵、秋風コスモス、雨宮三森、上島雷太。
 
私はここに出なかったが、何かあったら顔を出せるよう、近くの部屋で待機していた。
 
アクアが誕生日に何か本人自身のことについて何か発表するらしいというのは春頃から噂に流れていて、多くの人が性別問題についての発表、つまりアクアは本当は女であった、あるいは何かの原因で女になってしまったという発表ではと思っていた。
 
しかしアクアは言った。
 
「実は発表するのは私の両親に関することです」
 
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それから1時間ほどにわたり、この8人がリレー方式で説明した内容は極めて驚くべきことであって、反響は物凄かった。
 
・自分の両親はワンティスの高岡猛獅と長野夕香であること。
・最初に志水夫妻に預けられた経緯
・両親の事故死の後のこと
・アクアの病気のこと
・長野支香・上島雷太がアクアの存在を知った経緯
・アクアの戸籍が作られるまでの話
・ついに病気の原因が分かり手術を受けたこと
・退院後のアクアを誰が面倒見るかという問題
・田代夫妻の申し出
・その後の病気療養のこと
・成長の遅れと治療薬の副作用
・オーディションを受けた経緯
・両親のことを20歳になるまで公表しないことにしたこと
・その後のこと
 
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(今回は龍虎の戸籍の父親欄の問題は公開しなかった。また手術前夜の“龍に乗って飛んだ夢”の話も省略した)
 
ただ、みんなアクアの性別問題について何らかの説明があるものと思っていたので今回の記者会見は、その“期待”を肩透かしにした形になった。それで結果的には翌日の新聞ではこの記者会見の記事はあまり大きな扱いにはなっていなかった。
 

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この日は、龍虎Mは、彩佳たち3人、西湖と和紗、の合計6人で代々木のマンションでお誕生会をした(西湖も同じ誕生日。ちょうど1つ下)。
 
ただし、ケーキのろうそくは息ではなくうちわで消す、お誕生会の間は飲食無し(各自ペットボトルから直接飲むのだけOK)、食事は誕生会終了後各自の部屋で。というルールにした。また未成年が3人いるのでアルコール無しである。
 
部屋割については、
 
M部屋:龍虎Mと彩佳
F部屋:西湖と和紗
N部屋(鏡部屋):桐絵と宏恵
 
という形で2人ずつ泊まった。
 
龍虎Mは彩佳から誕生祝い・成人祝いにパーカーの金色のボールペンをもらった。先月龍虎があげた“ファッションリング”のお返しである。龍虎は「高そう」と思ったが「千里さんのお陰で住居費がかかってないから少しゆとりがあった」と彩佳は言っていた。
 
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なお龍虎Fは八王子の家で松田君とのんびりした夜を過ごした。松田君から何かもらったらしいが、Mにも秘密らしい。
 
(まさか子種じゃないよね?とMは心配した。Fは“自分が存在している間に”子供を産みたいと時々言っている。でもMは本当にどちらが消えるかは分からない気がしているし、自分が消えた場合は彩佳のことを頼むとFには言っている)
 
和紗は西湖にホワイトハウスコックスのバッグを誕生祝いにあげた。モノセックスなデザインで、西湖が女装で使用しても問題無い感じのものである。そして和紗は言った。
 
「せいちゃんが20歳になったら、私、せいちゃんの赤ちゃん産んでもいい?」
「ボクの赤ちゃん!?」
 
葉月は想定外の話に真っ赤になっていた。
 
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仙台の織姫で、8月21日にはラピスラズリ、8月22日には常滑舞音のネットライブが行われ、どちらも物凄く練り上がった。
 
特に常滑舞音は、回線接続者数の見積もりを誤り、回線ダウン寸前になったのを何とか持ちこたえた。結果的に舞音の現在の集客力は、アクアに次ぐレベルであることが明らかになった。
 
今回のバックダンサーは中国四国地区(+東北地区)の子たちが務めた。実は震災イベントでも中国地区の子たちを使ったので、今回は関西地区の子たちを使おうかとも考えていた。しかし、大阪周辺のコロナの状況が深刻になっているので、その地区からの移動を回避したのである。同じ理由で関東地区の子も避けた結果、消去法で中国四国になった。北陸東海の子はゴールデンウィークに使っている。東北地区の子は当然集められているので両者で交替しながら踊ることになった(先週は九州地区/東北地区でおこなった)。
 
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今回特に常滑舞音のライブでは、フラワーサンシャインの歌を歌うのにバックダンサーから5人が前面に出て来てフラワーサンシャインっぽいユニフォームで踊ったり、アンコールでは、全員マネキン人形のふりをしてみたり、通常のバックダンサーの域を越えるパフォーマンスがあって、ガールズたちもかなり楽しんだようである。
 

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「え?アクア、今年は紅組から出るの?」
 
私はコスモスからの電話で、アクアは今年は紅白歌合戦では紅組から出ることに本人が同意したと聞いて驚いた。
 
「あの子、もう自分は女の子ということでもいいと思い始めているのかなあ」
「周囲はほとんど女の子だと思ってるけどね」
「まあ確かにそうだ」
 
何でもNHKの部長さんがわざわざ事務所に来訪して、アクアを説得したらしい。
 
「いっそ、もう性転換手術受けちゃう?と言ったら嫌だと言った」
「まあMちゃんは女にはなりたくないだろうね」
 
Mは・・・女の子になってもいいと思った瞬間消滅するだろうなと私は思った。
 
「可愛いドレス発注したし、Fが出たらと彼には提案した」
「Fちゃんは紅組から出るの喜ぶだろうね」
「まあ2人で役割分担していけばいいと思うんだけどね」
 
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「ところでFが万一妊娠した場合だけどさ」
と私は言った。
 
「うん」
「千里が自分の家の地下で妊娠中と出産後半年くらいは過ごさせると言ってたよ。産科医・助産師も間違い無い人に来てもらって」
 
「そうしてもらえると助かる」
「その間はM1人で頑張ってもらわないといけないけどね」
 
千里家の地下を知っているのは、千里2・千里3・アクアF・アクアM、私とコスモス、青葉、千里の親友の佐藤玲央美くらいという話だった。他に恐らく皆山さんは知っている(そこで練習してるというのを伝えているはず)。しかし貴司さんや桃香さえ知らないし、入ることもてきない。厳しいセキュリティが掛かっている。
 

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「私、松田君と1度話したんだよ」
とコスモスが言うので
「話したんだ!」
と私は驚いた。コスモスは本当に行動が速い。先手先手と打っていく。
 
「少なくとも彼女が25歳になるまでは絶対に妊娠させないよう確実に避妊すると誓ってくれた」
「彼はしっかりした人だよ。アクアもいい男の子を捉まえたと思うよ」
「うん。ほんといい子だね」
とコスモスも言っていた。
 
2人の関係もアクアが25歳になるまでは公表しないということで松田君とは合意したらしい。
 

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8月21日(土).
 
原町カペラは自ら車(自己所有の赤いパッソ)を運転して、仕出し屋さんで予約していたお弁当3個を受け取ると、川井陽生のアパートまで行った。
 
「顔色いいじゃん」
「ごめんねー。色々迷惑掛けて」
「お互い様、お互い様。でもお母さんも大変でしたね」
「明日帰るつもりですけど、家の惨状が心配です」
「ああ、それはたぶん掃除が大変だ」
と言ってから、カペラは
 
「こちらも掃除しよう」
と言う。
 
「それしなきゃと思ってた。お母さんがだいぶ片付けてはくれたんだけど」
 
それで3人で手分けして、布団を干したり、掃除機を掛けたり、古い雑誌をまとめたり、窓をマイペットで拭いたりしたのである。
 
ガス台のマットも交換したが、換気扇は見なかったことにした!
 
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しかしお昼くらいまで掛けて、かなりきれいになった。
 
「結構いい汗を掻いたね」
と言いながら休む。みんな汗を掻いた服を着替え、シャワーも浴びた。
 
そして3人でお弁当を食べた(お互いに充分距離を空け、“同じ方向”を向いて座る)。
 
「だけどホテル療養とか暇じゃなかった?」
「だいぶネット小説読んだ」
「ああ、そういうの進むよね」
「ヒナちゃんは自己隔離中、暇じゃなかった?」
「社長から、あんた暇でしょ?と言われてアルバム1枚作った。来週発売」
「それは凄い!」
「隔離されてる部屋の隣に簡易スタジオが作られて」
「へー!でもそれは§§ミュージックさんならではだよ!コスモス社長ってほんとに行動力あるもん」
「私もスタジオできちゃったのにはびっくりした」
 
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カペラは彼女に発売予定のアルバムを謹呈したが、それを聴いた陽生は言った。
 
「これ絶対売れると思う」
「そうかな?」
 

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『All of You』の制作は8月23日で終了したが、“アルバムの制作は”この後一週間ほどのお休みに入った。
 

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8月25日(水).
 
原町カペラが自己隔離期間中に制作したアルバムが発売された。カペラとしては3枚目、そして約2年ぶりのアルバムである。カペラは先月21日にシングルを出しているのだが、その時、隔離されている部屋から発売に向けてのメッセージを発信している。その時に「隔離されていて他に仕事ができないのでアルバムを作っている」と発言していた。
 
今回は濃厚接触者として隔離されていたことに同情が集まったこと、シングルでの予告で予約がたくさん入っていたことから、初日に2万枚も売れて本人がびっくりした。過去にカペラのアルバムで1万枚以上売れたものは無かった。しかし予約の入り具合が凄いというので事前にたくさんプレスしておいたおかげで何とか在庫切れを起こさずに済んだ。
 
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このアルバムは「カペラちゃん、上手くなってる」とも言われて(花咲ロンドがしっかり指導したおかげだと思う:過去の制作ではあまりまともに指導されていない)、FMなどでも掛けてもらい、1ヶ月後には8万枚に到達した。
 
「こんなに売れるなんて信じられない。ファンの皆様、本当にありがとうございます」
とカペラは感謝していた。ファンクラブの登録者もこれまでの倍になった。
 
今回は彼女の年齢(今年の春高校を卒業した)も考えて、これまでのようなアイドル歌謡のような曲は少なく、おとなのポップスがほとんどを占めていたので「路線変更の成功」と音楽雑誌には書かれた。
 
カペラの“4年目のブレイク”を見て、私は§§ミュージックはいよいよ群雄割拠になってきたなと思った。
 
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和紗は和城理紗に送ってもらって帰宅した西湖に、もじもじしながら言った。
 
「おのね、あのね」
「どうしたの?」
 
なんか可愛いじゃんと思いながら西湖は尋ねた。
 
「私、できちゃったみたいなの」
「できたって何が?」
「赤ちゃん」
「へ?」
 
「6月にさ、せいちゃんのちんちんが奇跡的に立ったことが1度あったじゃん。それで生でしちゃったでしょ?」
 
「あ、うん」
「あれが当たっちゃったみたい」
「え〜〜〜!?」
「私も妊娠というの想定してなかったから、最近随分体調悪いなと思ってたんだけど、玉雪さんが『あんたもしかして妊娠してない?』というからさ。まさかと思って妊娠検査薬使ってみたら陽性で」
 
「うっ」
 
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「玉雪さんに付いていってもらって病院行ったら、今12週くらいらしいから、あの時の子供だと思う」
 
「じゃボクの子供ができるの〜?」
「うん。順調に育ったらね」
 
「お仕事は予定日の3ヶ月前くらいまでは続けるけど、コスモス社長から早朝と夕方以降の作業を禁止されたから、夜間の送迎は志穂ちゃんか理紗ちゃんに頼むと玉雪さんが言ってた」
 
「うん」
と西湖は何とか答えたものの、自分が父親になるなどというのは、想像の範囲を越えていたので、頭の中が真っ白になった。
 

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