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■夏の日の想い出・星導きし恋人(20)

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第2幕。王宮の広間。王妃を選ぶ舞踏会の場面。
 
ホリゾント幕の王宮の室内装飾。実は『ロミオとジュリエット』のセットの大広間の映像を撮影したものを映している。
 
最初に6人の王妃候補者が登場して踊りを披露する。
 
その後、舞踏会は宴会と化し、多数の踊り手が登場する。
 
スペインの踊り(男女のペア2組)。
 
ナポリの踊り(男女ペア)。
 
ハンガリーの踊り(男3人・女3人)。
 
マズルカ(男4人・女4人)。
 
第1幕第2場はほとんど女子のみの踊りだが、この第2幕の踊りは男性踊り手の見せ場である。島原バレエ団は男性団員が少ないので、実はここに出演した男性はほとんどが他のバレエ団からの助っ人であった。
 
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そして最後に黒鳥の衣装のアクア(オディール)が登場する。ジークフリートは彼女をオデットと誤認し、一緒に踊る(パドドゥ)。この踊りが10分もあるのでバレエ関係者以外は、たいていの人が飽きる!
 
ジークフリートとオディールが踊っている間、背景の窓にオデットの姿が現れ抗議するように窓を叩き「その人は違う」と伝えようとするが、ジークフリートは気付かない。
 
この映像は実は第1幕第1場を上演している間に、小スタジオでアクア本人を使って撮影したものである。第1幕第1場にはオデットは登場しないのである。
 
そしてこの踊りの最後にオディールによる32回転グラン・フェッテがある。
 
これを美事に踊りきると、またステージ外に待機している劇団員たちから大きな拍手が贈られた。
 
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オディールに魅せられたジークフリートは彼女に求婚してしまう。それで王妃が決まったと告げられた後、オディールは正体を現し、ロットバルトと一緒に立ち去る。ジークフリートはショックを覚える。
 

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「凄く美しいグラン・フェッテだった」
と島原さんが本当に笑顔で拍手しながらアクアに言った。
 
「よく回れるなあぁ」
「あれはもう気合ですね」
「あれって回数が分からなくなったりしないの?」
とコスモスが訊く。
「万一分からなくなったら少し多めに回ります」
とアクア。
 
実は中学時代に踊った時は、回数が分からなくなり、後でビデオを見ながら数えると33回回っていた。
 
「私、35回転した人見たことある」
と島原さん。
「少ないよりいいですもんねー」
 

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第3幕。湖。
 
ホリゾント幕の映像は再び夜の湖。
 
再び30人の白鳥たちの群舞から始まる。
 
そこにオデット(アクア)が到着し、嘆き悲しむのを他の白鳥たちが慰める。
 
ロットバルトが現れてオデットに自分の妻になれと要求する。オデットは拒否する。そこにジークフリートが現れ、ロットバルトに決闘を申し込む。
 
2人が戦う。
 
一時はジークフリートが負けそうになるが、オデットがロットバルトの顔に飛び付いて視界を遮り、その隙にジークフリートの剣がロットバルトの身体を貫く。
 
ここは振付上はオデット役のアクアがジャンプして一瞬岩の陰に隠れた所でロットバルト役の藤岡さんが白鳥の人形を自分で顔に当てる。
 
ロットバルトが湖に転落し、オデットは魔法が解けて人間に戻る。
 
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ここはプロローグとは逆に、アクアは岩陰に隠れたまま、ロマンティック・チュチュの緑川さんが湖の中から登場して、ジークフリートと抱擁する。
 
それでラストはロマンティックチュチュの緑川さんと、ジークフリートのパドドゥである。クラシックチュチュを着けた白鳥たちが退場し、最初8人のロマンティックチュチュの侍女たちの祝福の踊り、そして最後はクラシックチュチュを急いでロマンティックチュチュに着替えた30人の踊り手も復帰して大規模な群舞となり、明るく華やかな大団円となる。
 

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「凄いね。ひとつもミスらなかった」
と島原さんは言った。
 
「ほんとですか?」
とアクア。
 
「第3幕なんて完全にうち独自の展開なのに」
「事前に説明してもらいましたし、1度見ていますから」
 
「1回見ただけでよくあんなに覚えられるね」
 
「流れのようなもので覚えますから。だからひょっとして流れに私自身が解釈しきれなかった所があったらそこは勝手に解釈して踊っちゃうかも」
 
「それは逆にアクアちゃんに一度踊ってもらってチェックしたいくらいだ」
 

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アクアFはさすがにこの2時間のバレエ出演の後でテレビ番組の収録には行きたくなかったので、Mに連絡してテレビ局に向かってもらい、自分はこの後マンションに帰宅してぐっすり眠った。
 
しかし実はMもこの公演中はずっと稼働していた。前回公演のビデオを早回しで見て、普通の『白鳥の湖』と違う所をチェックしておいたのである。Mが意識すればそれはFも認識するので、そこを気をつけてFは踊ることができた。
 
特に第3幕はアクアが記憶していたパターンとは全く異なる筋書きで踊りも全然違うので、さすがのアクアも1度見ただけで踊るのは困難だった。しかしビデオでMがチェックして第2幕の黒鳥登場前の時間を使って、自分でビデオを見ながら真似して踊っておいた。それでFはMが踊った記憶をたどって、ちゃんとこのバレエ団のストーリーに従って踊れたのである。記憶が連動する2人でなければできないことである。
 
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今回のバレエ公演は実は2人3脚のミッションだった。
 

この番組は最初は接続回線数は数万回線にすぎなかった。しかし
 
「アクアが白鳥の湖を踊っている」
 
というのがネットの書き込みで広まると、うなぎ登りに接続回線数が増える。第2幕の黒鳥が出て来た所で400万回線を突破。あけぼのテレビ史上初のフレイムレート落としが行われた。通常 30fps(29.97fps) で配信しているのを 24fps(23.976fps) に落とした。この品質なら500万回線まで接続できるのだが、第3幕のジークフリートとロットバルトの決闘場面で500万回線を突破する。
 
アクアがバレエ公演に生出演するなんて全く聞いていなかった則竹部長は
 
「何でアクアが無料放送に主演してるんだぁ!聞いてないぞ!!」
 
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と叫びながら、万一これ以上上がったら更に20fpsまで落とすべくマウスを握りしめていた。幸いにも530万回線くらいがピークだったので、それ以上フレイムレートを落とす事態には至らなかった。遅い端末から接続する人がかなりあるので理論的に500万回線maxでも実際は550万回線程度までは行ける。しかし則竹は後で事情を聞いて、アルト社長に
 
「いきなりこういうのは困ります」
 
と抗議。アルト社長も
 
「ごめーん」
 
と謝っていた。
 
この番組はタイムシフトで見た人を含めると1500万回線に達した。地上波に換算すると視聴率30%に相当する数値である。日曜の14:00-16:00などという通常は視聴率がゼロに近い時間帯でこんな数字が出たのは異例である。
 
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あけぼのテレビのスポンサー料は地上波と違って固定料金制なのだが、このバレエ公演のスポンサーである飲料メーカーは、それでは申し訳無いと言ってアクアに特別ギャラを払ってくれた。
 
ちなみに島原さんは最後までアクアが男の子だとは思いも寄らなかったようである。それどころか黒鳥の衣装は胸の膨らみもお股の形もよく見えるので、アクアが完璧に女性のボディラインであることが再度全国の視聴者に印象づけられた放送であった。
 

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この日の夕方からは『夏の飛び魚』の第2回放送があったが、『白鳥の湖』の後では、かすんでしまう。
 
「やはり男の格好してるのがどう考えてもフェイクだよなあ」
と言われた。
 
「でもどうやってDカップの胸を隠して男子水着姿とかになれるんだろう」
「吹き替え説は星原琥珀ちゃんが否定していたからね」
「実際『夏の飛び魚』のアクアは演技が上手い。それが本人である一番の証拠だと思う。そっくりさんにあそこまでの演技力があるとは思えない」
 
「多分バストをぎゅっと体内に押し込んで隠して、その上に男性体型のホディスキンを着けてるとか」
「ホディスキンというのはあり得るけど、ほんとにそんな大きなバストが隠せるものなのだろうか」
 
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「だけどアクアの緊急対応能力は凄いよ」
とアルト社長は言っていた。
 
「実際あの時、アクアがいなかったら、4月分を再放送する以外の選択肢は無かったと思う」
とあけぼのテレビ専務の坂口。
 
「でもいきなり言われて、全国放送する公演の主役を踊ってしまうなんて、普通、そうそうできることではない」
と松浦常務は言った。
 
「それができるのがアクアだから、私もコスモス副社長(*3)も、やらせたのさ」
とアルトは楽しそうに言った。
 
(*3)コスモスはあけぼのテレビ副社長。
 
実際この事件はアクアが人気だけでなく高い能力を持っていることを、あらためて多くの人に認識させることにもなったのである。
 
なお赤迫さんは軽い捻挫でもあったし、応急処置でしっかり固定してあったのも幸いして翌日には歩けるようになり、1週間で練習再開して、2週間後の公演6/27の『ジゼル』では元気にプリマを務めた。
 
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ローズ+リリーの次のアルバム『ラブコール(仮題)』は『ホームワーク』をリリースした直後の1月から準備を始めていたのだが、4月までに収録予定の曲が10曲まで揃い、そろそろ本格的な制作に移行しようと思っていた。
 
マリは大林亮平と別れてしまった後、しばらくフリーでいたのだが、この春から新たな彼氏・百道大輔と付き合い始めていた。彼は離婚歴があり、子供も1人いるが、こちらも結婚こそしていないものの、子供を既に2人も産んでいるのでそれは特に問題無い。ただ私は彼に関して懸念する問題があったので、マリには言わずに彼と直接会い、
 
「マリを辞めるか**を辞めるか」
と迫った。彼は**を絶対やめると誓ったので、私はふたりの交際にはその後は注文をつけないようにしていた。
 
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「でも彼ってタバコ吸うのよね。喫煙者はコロナの重症化リスクが高いらしいから、タバコやめない?と言ったけど、タバコ吸わないと楽曲の発想が浮かばないって言うのよ」
 
「まあタバコくらいいいんじゃない?」
「でも彼、タバコ吸うイメージとか全然無かったのに」
「アーティストはみんな多かれ少なかれ演出した自分を見せているからね」
 
「あ、それはあるよね。アクアもいいかげん女の子になりたいって認めればいいのに」
 
「アクアは置いといて、実際問題として今更急にタバコやめたって、これまでずっと吸っていたら、重症化確率はそう変化しないと思うよ」
 
「重症化しやすい因子っていくつかあるよね」
「うん。喫煙者、高齢者、糖尿病などの生活習慣病を抱えている人、ぜんそくなどの肺疾患を抱えている人、男性」
 
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「男性?」
「今回のコロナは男女であまりにも明確な死亡率の差が出てる」
 
(日本国内の1月の統計では男性の死亡者が2068人に対して女性の死亡者は1326人である。ニューヨークの4月の統計では男性の死者が4095人、女性は2530人。いづれも男性が女性の倍、死亡している、患者数にはそこまで大きな性差は見られない)
 
「なんで?」
「原因は不明だけど、元々女性の方が免疫能力が高いからという意見もある」
「大輔にはタバコやめないなら性転換して女の子にならない?と言ってみよう」
「まあ好きにして」
 
 
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