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■夏の日の想い出・星導きし恋人(1)
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(C) Eriko Kawaguchi 2021-05-28
その日、上田雅水はいつものように男子寮の自分の部屋で目を覚ますと、取り敢えずトイレに行った。いつものようにパジャマのズボンとショーツを降ろしながら便座に座る。そしておしっこをするが、何か違和感を覚えた。
何だろう?と思ったが、まだ起きたばかりでボーっとしているので深くは考えない。終わった所でいつものようにペーパーで拭くが、この時も変な感じがした。でもあまり深く考えず、そのままショーツとパジャマのズボンをあげた。
雅水はほぼ“女の子”的な生活をしている。下着は女物しか持っていないし、学校の制服と信濃町ガールズの制服以外では(外で穿ける)ズボンは1本も持っていない。寮内ではだいたいスカートを穿いている。でも男子寮はスカートで出歩いている子が多いので、気楽だ。
母からは「中学卒業するまでには性転換手術を受けようね」などと言われているし、自分でもそのつもりである。
「お姉ちゃん(上田信希)が今年手術して、ボクは来年かなあ」
などと漠然と考えている。
声変わりが来ないように、小学5年生の時以来ずっと女性ホルモンを飲んでいた。去年の夏に去勢手術を受けた後は、ホルモンの効きがよくなったみたいで、胸も膨らんで来たし、精神的に“女の子の気分”になることが多くなってきた。一応お股はいつもタックして女の子っぽい外見にしてはいるものの「夏は蒸れるしなあ」などと思う。ボクも早くちんちん切ってもらいたい、と雅水は考えていた。
ユキさん(ツキさんかも)が朝ごはんをドアの前に置いてくれるので、それを中に入れてスマホで芸能ニュースなど見ながら食べる。食べた後の食器は丁寧に洗ってから、ドア外の回収ボックスに入れておく。出かける前にシャワーを浴びようと思い、服を全部脱いでからシャワールームに行く。身体全体に熱いシャワーを当てると細胞が活性化されていく気分である。
髪を洗い、顔を洗い、耳の後ろ・首筋を洗って“豊かな”おっぱいを洗う。この時少し変な感じがしたが何だろう?と思った。腕を洗い、脇の下、お腹、そしてお股をきれいに洗う。きちんと“割れ目ちゃん”の中まで丁寧に洗う。この時も何か変な気もしたのだが、まだ頭が完全には働き始めていないので深く考えない。足を洗い、バスマットの上に座って足の指の間もきれいに洗った。
浴室から出てバスタオルできれいに身体を拭く。髪はすぐには乾かないからタオルを髪に付けたまま脱衣室を出る。1人暮らしなので誰にも気にせず裸のまま歩いて衣装ケースの所まで行き、「今日はこれにしよう」と言って、キティちゃんのパンティを穿いた。
パンティを穿いた時に、きれいに前面がフィットするのが、タックしているメリットだよなあと思う。余分なものがついてると盛り上がりができて変なんだもん。
いつものようにAカップのブラジャーを着けようとしたのだが、なぜかきつくて入らない。
あれ〜?なんでと思ったが、姉(信希)の下着が残してあるのに気づき、姉の衣装ケースからBカップのブラジャーを取りだし「お姉ちゃん貸してね」と一人言のように言って、自分の胸に着けた。
ブラウスを着ようとするがいつも着てるブラウスが入らない。
今日はどうしたんだろう?最近胸が成長してきている気はしていたけど、入らなくなったのかなあと思う。それでブラウスも姉が使っていたものを借りることにして身につけた。
ここまでは女の子仕様だけど、雅水は男子中学生として学校に通っているので、セーラー服を着るわけにはいかない。実は所有しているセーラー服が壁に掛かっているのをチラッと見てから、ちょっと抵抗感はあるものの、学生ズボン(雅水のウェストに合うように姉が改造してくれた)を穿き、学生服(これは女子のコスプレ用品で胸が大きい)を着た。
髪もだいぶ乾いてきたので、タオルを外し、ブラシを入れてから、長い髪をボンボン付きの髪ゴムで左右にまとめた。芸能活動のためということで長髪の許可を取っているが、三つ編みかゴムで束ねてと言われている。雅水はツインテールにするのが好きなので左右に分けている。この髪型は女子のクラスメイトたちも「可愛いよ」と言ってくれる。
そして雅水は唇にリップクリームを塗ってから、“赤い”学生カバンを持ち、22cmサイズの赤いローファーを履くと
「行ってきまーす」
と言って、部屋を出た。
雅水にとっては“いつもの通り”“何も変わらない”朝だった。
小浜市ミューズ・ヒル“鏡の迷宮”でのアクアの写真集撮影に付き添っていた秋風コスモス社長は、川崎ゆりこ副社長からの緊急連絡を受け、予定を早めて5月9日(日)夕方、撮影に参加していた信濃町ガールズの子たちと一緒に帰京した。
事態は急ぐので、熊谷の郷愁飛行場にG450が到着すると、用意してもらっていたヘリコプターで新木場の東京ヘリポートに移動する。何かお役に立てたらと花咲ロンドが言うので彼女も連れて行く。正直コスモスは今、猫でもいいから誰かそばに居て欲しい気分だったので、ロンドの心配りはありがたかった。
東京ヘリポートには高村友香マネージャーが迎えにきてくれていたので、彼女の運転するコスモス専用車 BMW 225xe iPower White に乗って、信濃町の事務所に向かった。
(感染拡大防止の観点から、車両の“使い回し”を基本的には避け、車と乗る人はできるだけ固定している)
事務所に入り、ロンドには待っているように言って、ゆりこと2人だけで会議室に入る。
「状況を説明して」
「はい」
と言って、ゆりこは緊張した面持ちで、説明を始めた。
5月5日(水祝)に、ラピスラズリは大阪の放送局でバラエティ番組の撮影に参加した。2人は倉橋光枝マネージャーと一緒にHonda-Jet
Blueで伊丹に飛び、撮影に参加している。その後、本来なら6-7日(木金)は高校生の2人は東京に戻して学校に行かせるべきだが、9日(日)から2時間ドラマ『シンデレラ』の撮影に入ることになっていたので、6-7日は本来8-9日に撮影する予定だったCMの撮影を京都市郊外でおこなった。2人はずっと伊丹空港から近い豊中市内のホテルに泊まっている。
2人が2日間の結構ハードな撮影で疲れているようだったので8日午前中はホテルで休ませた。そして9日からのドラマの撮影に備えて、昨日8日(土)夕方 Honda-Jet
Blueで熊谷に戻した。そして熊谷に到着した所で緊急連絡が入った。
5日に撮影したバラエティの出演者から2名コロナ感染者が出たというのである。ラピスは倉橋マネージャーともども、ただちに郷愁空港内の空き部屋に隔離した。そしてすぐにPCR検査を受けさせた。Hona-JetのパイロットもPCR検査を受けさせた。
幸いにも4人とも陰性であった。しかし特にラピスとマネージャーの3人は濃厚接触者なので、2週間の自己隔離を要請された。パイロットさんも念のため自主的に隔離してもらうことにした(Homda-Jetの機内では操縦席から後方に空気が流れるので、パイロットは比較的安全なはず)。またCM撮影に立ち会った人にもPCR検査をお願いし、3人が泊まったホテルの部屋の消毒も要請した。
ここまでは、ゆりこが小浜にいるコスモスと電話やメールで連絡を取りながら、指示し、また報告を受けていたものである。
「陰性で良かった」
「ラピスはまだワクチン打ってなかったんですよねー」
「ラピスが主力の中ではいちばん後回しになってしまっていたね。アクアも舞音ちゃんもワクチン打ってるのに」
アクアはMとFで時期をずらして、Fは山村に、Mは千里に頼んで打ってもらっている。舞音はミューズの子たちに山村が打っていたら「私にも打って下さい」と言ったので、山村は「まいっか」と思って打ったと言っていた。葉月は治験期間中に山村に欺されて!打たれている。
(山村に欺されたのは他に、佐藤ゆか・竹中花絵・三陸セレン・山鹿クロム・羽鳥セシルなど。坂出モナは山村がセシルに打っているのを見て自主的に打って欲しいと言って打ってもらった。他に千里に欺されたのが、青葉・大崎志乃舞・その弟(妹)、恋珠ルビー、水谷姉妹、また光帆・音羽、など。青葉は“人間での”記念すべき第1号治験者である!)
(§§ミュージックへのワクチン接種は、千里・山村・若葉の3人が別ルート!でワクチンを入手して打っている。全員ドイツのBioNTech社が開発したもので、日本政府がPhizerから入手しているものと同等製品である:BioNTechが開発元でPhizerは協力会社。他に丸山アイが入手して数十人に打っているものもあるが、これは多分Moderna製と思われる。BioNTechと同じmRNA型である)
姫路スピカは実は小浜でのローズ+リリーのライブに参加した時に打っている。リズムは『ロミオとジュリエット』の撮影前に接種した。西宮ネオンは結婚式の前に花嫁ともども打った。コスモス自身は早い時期に千里に頼んで打ってもらった。川崎ゆりこは若葉に欺されて!打たれている。
主要タレントでまだ打っていなかったのは、ラピスラズリのほか、品川ありさ・高崎ひろか・七尾ロマン・Ye-Yo といった面々である。
「ちょっとまだ打ってないA契約の子たちに、優先順を付けて全員接種させるようにしよう。ちょっと計画を作って」
「分かりました」
「ラピスラズリは大阪遠征中に感染者と接触していたので、結局寮に戻ってきてないんですよね。だから寮は安全圏でした」
「それも運が良かった」
「ということで、問題は『シンデレラ』の撮影なんですよ」
ゆりこはかなり疲れた表情をしている。コスモス不在中に緊急事態が発生し、この24時間、あまりまともに寝てないのではないかとコスモスは思った。
「テレビ局には状況を説明して、取り敢えず今日の撮影は延期になりました」
「うん。でもあまり延ばせないんでしょ?」
「放送日程が既に決まっているので、大幅な延期、具体的にはラピスの自主隔離が終わる2週間後までの延期は困難です」
ラピスは今週は『シンデレラ』の撮影に専念する予定で、他の仕事は入れてなかった。それで調整の手間はかからなかったものの、問題はその『シンデレラ』である。
「謝って、誰かに代わってもらうしかないだろうね。迷惑料も向こうの言い値で払うよ。私が鳥山さんに連絡して向こうがよければ今から謝りに行ってくる」
「すみません」
「まあ人に謝るのが社長の仕事だし」
「ああ、私はそういう仕事やりたくない」
と、ゆりこは言っている。
それでコスモスがΛΛテレビの鳥山さんに電話した。すると鳥山さんも
「ああ。コスモスちゃん、戻って来た?だったら、ちょっとそちらに行っていい?」
というので、鳥山さんが来るのを待つことにする。
待っている間にロンドにも簡単に状況を説明した。
「とうとううちの近辺まで来ましたか。でも陰性で良かった」
「うん、ほんとに良かった」
鳥山プロデューサーが来社したのは、もう0時すぎであった。会社に残っているのは、コスモス、ゆりこ、ロンド、それに「帰りなさい」と言ったものの、何かのためにと言って残ってくれている美咲瞳サブデスクの4人だけである。
応接室に通し、美咲が全員に上等のブルーマウンテンコーヒーを煎れ、ケーキも出した。
「このコーヒー美味しいね!」
と鳥山さんはご機嫌であるが、疲れたような表情は隠せない。かなり調整に飛び回っていたのだろう。
「ご迷惑掛けて申し訳ありません」
とコスモスは謝るが
「いや、こちらこそ謝らなければ。感染者の出た番組はうちの系列放送局だし」
と鳥山さんは言う。その件では、大阪の当該テレビ局の社長から直接事務所に謝罪の電話があり、ゆりこが受けている。
「単刀直入に」
「はい」
「東雲はるこちゃん、町田朱美ちゃんの今回の出演はキャンセルということに」
「はい。申し訳ありません。必要でしたら、迷惑料もお支払いしますので」
「キャンセルになった原因が元々うちの系列のテレビ局の番組だから、今回は責任相殺でキャンセル料も迷惑料も無しということにしない?」
「はい、それでいいです」
その時、鳥山は臨席しているロンドに気が付いたようである。
「君、花村ロンドンちゃんだったっけ?」
「すみません。花咲ロンドです」
「ごめん!」
「いえ。あまり売れてないし」
「いや割と知名度あると思うよ」
名前を言い間違っておいて“知名度ある”と言われても困るのだが。
「君、シンデレラの姉役をしてくれない?」
ロンドがスケジュールを管理している美咲瞳を見る。
「ロンドちゃんの予定は動かせるよ」
「でしたらやります」
「助かる」
それでシンデレラの姉(町田朱美にアサインしていた)の代役は花咲ロンドが務めることになった。すると残る問題はシンデレラ本人の代役である。
「それで『シンデレラ』の撮影日程なんだけど」
「はい」
「予定では9日(日)から16日(日)までの8日間を予定していた」
「ええ」
「これをキャスティング変更に伴うシナリオの書き直し、一部の衣装や小道具・セットの作り直しを明日、というか今日10日の内にやってしまって、11日・火曜日から撮影を開始し、18日・火曜日までに終わらせたい。実は18日というのが、技術部とも話したんですが、放送に間に合うギリギリの日程なんですよ」
『シンデレラ』は、カボチャの馬車のシーン、シンデレラの衣装が変化するシーンなどをCGで処理する必要がある。撮影が終わった翌日に放送などということはできない。
撮影日数自体の短縮は無しということのようだ。元々“8日”というのがかなり厳しい日程だったと思われるので、それ以上の短縮は無理なのだろう。
「衣装などの調整作業は朝1番から始めないといけないから、朝までに代役を決めたい」
今は5月10日(月)午前0:30くらいである。つまりあと5時間程度以内に決める必要がある。深夜ではあるが芸能関係者は午前2時くらいまでは連絡が付くことも多い(逆に午前中は寝ていて連絡が取れない人が多い)。
「今回は人気絶頂のラピスラズリが主演するというので、制作前から前評判が高かった。代役を考える場合、人気がそれ未満の女優さんでは、視聴率も取れないし、スポンサーにも降りられて、物凄い損害が出る可能性がある」
「その代役の女優さんのギャラ相当分をうちが出してもいいですよ。ロンドのギャラも今回はタダでいいですし」
とコスモスは言ったのだが、鳥山さんはとんでもないことを言った。
「それでさ、物は相談。こちらこそ割増しでギャラ払っていいからさ、アクア君を1週間貸してくんない?」
「え〜〜〜〜〜〜!?」
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