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■夏の日の想い出・星導きし恋人(11)
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撮影は、九十九里浜の海岸と、深川アリーナのプール、大会シーンは郷愁村の50mプールを使用しておこなった。出演者は(星原琥珀以外)みんな深さ3mの50mプールでちゃんと泳げる人たちである。
放送はアクア主演『シンデレラ』が6月5日(土)、『夏の飛び魚』の初回が6月6日(日)と2日続けての放送となり、どちらも物凄い視聴率となった。
『シンデレラ』には
「建前は男だろうけど、中身は女じゃん」
「ごめんね。私本当は女の子だったの」
など。まるでアクアが性別をカムアウトするかのようなセリフがあり「とうとうアクアが女の子であったことを認めた」と凄い騒ぎになった。しかし翌日放送されたドラマではアクアが胸を曝した男子水着で登場してまた騒然となった。
あらためて記者から取材を受けたアクアは
「ぼくは男の子ですよ。女の子の格好で撮った水着写真とかはフェイクです、と、おことわりしているはずです」
とポーカーフェイスで語った。
さて、ラピスラズリであるが、5月22日にようやく隔離生活から解放された。その間3回のPCR検査を受け、いづれも陰性であった。
一緒に隔離されていた倉橋マネージャーともども事務所に来てコスモス社長に謝罪する。
「アクアさんにもご迷惑おかけしてしまって。謝りたいんですけど」
「そもそも君たちのせいではないけどね。それにお互い忙しいから、わざわざ時間を取るのももったいないし、君たちの気持ちは伝えておくよ」
「はい。すみません」
「そうだ。取り敢えずワクチン打って」
「ワクチンあるんですか?」
「他の事務所や放送局とかには内緒にしててね」
と言ってコスモスがどこかに電話をすると、白衣を着た女性が来て、東雲はるこ、町田朱美、それに倉橋マネージャーにも注射をした。
「ここで1時間待機して下さい。何かあったらすぐ呼んで下さい」
「はい」
「3週間後に再度接種します」
「分かりました」
白衣の女性が出ていったあとコスモスは言った。
「それで君たちの次の仕事だけど“昔話シリーズ”第三弾の撮影予定が入っているから、1時間の待機時間が終わったら、ここに向かって」
と言って、コスモスは撮影場所を記した紙を倉橋マネージャーに渡した。
「これ『シンデレラ』の撮影場所ですよね?」
「同じ場所で、今度は君たち主演で『人魚姫』を撮るから」
「わっ」
昔話シリーズの第二弾『シンデレラ』に出演するはずが、出られなくなり、急遽アクアがポリシーに反して女役だけの出演をしてくれたが、ラピスラズリのほうは第三弾の企画『人魚姫』にスライドさせることになったのである。この企画には裏事情もあったのだが、それは後述する。
配役はこのようになっていた。
マリナ:人魚姫 東雲はるこ
ヘンリー:王子 松田理史
マリア:王子の結婚相手 町田朱美
アリナ:王子の侍女 内野音子
ベルタ:人魚姫の姉 宮村尚子
魔女 滝野英造
風の精霊 松元蘭
松元蘭は白鳥リズムや羽鳥セシルの同級生のアイドル歌手で、はるこ・朱美の高校の1年先輩である。歌手が本業だが、演技も結構評価されている。
内野音子(うちのねこ)は最近では『夜はネルネル』のアシスタントとして名が通っており、司会者のネルネルたちを始め、揚浜フラフラ・健康バッドなど、放送倫理を突き抜けたメチャクチャな芸人たちを何とか放送可能なレベルに抑え込んでいることから“猛獣使い”の二つ名を付けられている。
「配役聞いたよ。両手に花でいいね」
とアクアが言うと
「お芝居なんだから嫉妬するなよ」
と“彼”は言う。
「そうだね。ボクもお芝居の中では色々な女の子と恋人役もするし」
「龍の場合は、むしろ色々な男の子と恋人役している気がする」
「なんだ妬いてるんだ?」
「龍こそ妬いてるじゃん」
「今日は決裂かな。帰ろかな」
「朝御飯を食べてから再度話そうよ」
「ふーん」
「だから朝御飯の時間まではうちに居ろよ」
「結局“したい”のか」
と言って、アクアは“彼”にキスした。
アクアは最近しばしば深夜のデートをしているが、彼のマンションへの交通手段はバイク(Yamaha YZF-R25)を使っていることにしている。
でも本当はバイクごと《こうちゃんさん》に頼んで転送してもらっているだけで、実際の走行はほとんどしていない。《こうちゃんさん》はバイクで走っていて事故でも起こされては困るとアクアに言った。それで彼は、確実に避妊することを条件にこのデートに協力してくれている。
「取り敢えず彼氏の睾丸を除去しとくかな」
「それじゃ立たなくなるよぉ」
《こうちゃんさん》としては、Fだけが残ってしまった(と思い込んでいる)アクアに女としての自覚が育つようにするには、男の子と付き合うのも悪くはないと思っている。彼としてはできたら今年中にも「身体が自然に変化して女の子になっちゃいました」という記者会見をさせるつもりでいる。アクアFの身体を医者に見せたら、半陰陽だったという診断書を取るのは容易だろうとも考えている。
アクアは身体が揺れるような感触で目が覚めた。
「彩佳!?」
「あ、目が覚めた?寝てていいよ。仕事で疲れてるでしょ?全部私がしてあげるから」
「何か入れられてる気がするんですけど」
「大丈夫。本でだいぶ勉強したから、Gスポットに当たって気持ち良くなるように刺激してあげるね」
「ひゃー」
「ところで中出ししてもいい?」
「ぼくまだ妊娠したくないんだけど」
彩佳は最近、夕食を運んできた後、そのまま18階の方にいることがよくあり、Fが「使っていいよ」と言ったので、Nの部屋を使っている(彩佳の衣装ケースまで置かれている)。しかし彩佳がいる日はFはこのマンションで寝られず、浦和の千里の家の地下で夜を過ごすことも多い。
「マンション2個、2億6500万出して買ったのに、どちらにもいられなくて千里さんの家の隠れ部屋で夜を過ごすしかないって、何だかすごーく割に合わない気がする」
などとアクアFは文句を言っていた。
ラピスラズリの2人は川崎市のオープンセットに行って、そこで『人魚姫』の撮影に臨んだ。最初、人魚姫と姉(宮村尚子)がふたりとも人魚の衣装をつけ海底という設定の岩に座って歓談しているシーンを室内(ブルーバック)で撮影する。
翌日は、外に出て、王子の船が沈没し、人魚姫が王子を助けるシーンの撮影をすることになる。船が揺れて船員や乗客が右往左往する場面を撮影した後、救助シーンの撮影に行く。ところがここで困った問題が発覚する。
「はるこちゃん、泳げないの〜?」
「ごめんなさい」
「どうする?」
とディレクターが脚本家と顔を見合わせる。
「朱美ちゃんは泳げる?」
「泳げますが」
「2人の配役入れ替えちゃう?」
という意見も出るが
「人魚姫は東雲はるこ。これは制作部長の指示だから動かしてはいけない」
と鳥山プロデューサーは言う。
対策として、潜水夫に支えさせるとか、水中に平均台みたいな構造物を置き、歩いて演技できるようにするとか、陸上で演技させて水をCGで書き込むとか、検討していた時、山村勾美マネージャーがやってくる。
「撮影進んでますか?はるこちゃんあまり体力無いからって社長が心配してたから代わりに様子見に来ました」
「ああ、山村さん、ちょっとご相談があるのですが」
と鳥山プロデューサーが山村と少し話をする。
「ああ、はること、わりと顔が似てる女の子がいるんですよ。実は昨年も何度かビデオ撮影で代役に使ったんですが。その子を呼びます。あの子は泳げたはずです」
それで山村が急遽呼んだ、蕪島順子ちゃん(バイク Kawasaki Z400 で走って来た)という子を見て、ディレクターが
「よく似てるねぇ」
と驚いている。
「君、どのくらい泳げる?」
「10kmくらいは遠泳で泳いだことありますけど」
「おお、オープンウォーターの経験があるなら助かる。ちなみに人魚姫の衣装つけて泳げたりしないよね」
「大丈夫だと思いますよ。ドルフィンキックすればいいし」
それで蕪島順子がロングヘアのウィッグをつけ、下半身が魚仕様になっている人魚姫の衣装を付けて(海に見立てた)池の中に入り、気絶しているふりをしている松田理史くん(彼も本当は泳げる)を助けるシーンを撮影した。撮影に使ったのは、船のセットから4-5m離れた場所で、水深は3mくらいである。ここは船を制作設置する時に池底の泥を取り除いており、水草なども無いので足を取られたりする恐れはないし、水自体もきれいである(後述)。
撮影は、潜水夫が持った水中カメラ、水上に浮かべた小舟から撮る水上カメラ、船のセットの上から俯瞰するように撮るカメラで、三方向から同時撮影する。船の上から人工的にシャワーを掛けて雨の中を模している。念のため看護師がスタンバイしている。
蕪島順子は
「ボク、はるこちゃんほど、おっぱい無いけどね」
などと言っていた。確かに貝殻ブラジャーで胸の膨らみが完全に隠れている。
でも、はるこも
「私もおっぱい小っちゃいもん」
と言っていた。
ともかくも山村が偶然(本当は千里の指示で)来てくれたおかげで、蕪島順子の代役により、この王子救助のシーンを無事撮影することができたのであった。
今回のドラマはかなり原作通りに近い。但し流れの不自然な所を現代的解釈にあらためている。
沈没した船から人魚姫(東雲はるこ)が王子(松田理史)を助けるが、浜辺まで連れて行った後、散歩に来た修道女(町田朱美)が王子を介抱する。それで王子は自分を助けてくれたのは彼女だと思い込む。
船のセットを作った池の東岸に砂浜が形成されているので、この場面はそこで撮影された。その砂浜に行く道は無いので、出演者と撮影隊は数台の本格的なSUV(ランドクルーザーやアウトランダー)に分乗してそこまで行った。
ここでは
・人魚姫が気絶している王子を何とか砂浜まで連れてくる
・修道女の衣装を着けた町田朱美が近寄ってくるので、人魚姫が逃げる
・修道女が王子を介抱する
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・王子が裸で倒れている人魚姫を介抱するシーン
・人魚姫の姉が人魚姫に短剣を渡すシーン
を撮影した。王子を連れてくるシーンは水深が浅いので東雲はるこ自身で演技しているが、腕力が無い!ので実際はかなり王子役の松田が自分で歩いている。
自分が助けた王子のことが忘れられない人魚姫は魔女のところに行き、美しい声と引き換えに人間の姿に変身できる薬をもらう。しかし王子と結婚できなければ泡となって消えると言われた。
薬を飲んで浜辺に倒れていた人魚姫を今度は王子が見つけて介抱する(上述のシーン)。
でも、このシーンで東雲はるこの“裸”を映すことは許されない!(そもそも高校生だし)ので、裸で本当に倒れていたのは、蕪島順子である。ただし王子に抱きかかえられ、声を掛けられるシーンは“着衣の”東雲はるこで撮影した。上半身は念のためチューブトップだが、胸の膨らみの上端より下は絶対に映さないでという山村からの“強い要請”がなされた。
「ちなみに順子ちゃん何歳?」
「173歳だったかな?」
「は?」
「冗談冗談。19歳ですよ」
「だったら裸が映ってもいいね。乳房や陰部さえ放送映像に残らなきゃ」
「その辺も映してもいいよ」
「いや、映ると放送できなくなるから」
「テレビ局さんも大変ネ」
でもこのシーンは最終的にほぼカットされ、王子の「女の子が倒れてる」というセリフに続き、王子が走り寄るシーン(王子の背後からの映像)に続いて王子が東雲はるこを抱いて介抱しているシーン(はるこの顔だけが映る)に移った。かぶちゃんは、裸になり損である。このシーンでは、かぶちゃんはほとんどが王子の陰になり、髪と足しか映っていない(足を映すのはわりと重要)。
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