[携帯Top] [文字サイズ]
■夏の日の想い出・星導きし恋人(5)
[*
前p 0
目次 8
時間索引 #
次p]
(C) Eriko Kawaguchi 2021-05-29
その日は遅いので、東京のほうでは、全員2時頃には帰宅した。
小浜のほうでは、桜井さんは翌11日(火)の朝、千里および“アクア”(取り残されたアクアM)・葉月・和紗・和城理紗と一緒にG650に乗って熊谷に移動した。千里はアクアMや葉月たちをアテンザに乗せて代々木のマンションまで送った。マンションの18階ではアクアFが写真撮影の疲れが出て熟睡していた。
千里たちの到着で起き出すが、そこにコスモスがやってくる。
あらためてコスモスが状況を千里やアクアM・葉月たちにも説明した。
「まあそういう訳で、シンデレラ役をせざるを得ない」
とアクアFが言う。
「アクアもそろそろ女の子になりましたという記者会見する?」
と千里。
「私はもうそれでもいいよー」
とFは言うが
「断固拒否」
とMは言っている。
「ま、それで今日の午後から『シンデレラ』の撮影に行ってもらうけど」
とコスモスが言う。
撮影は今日の朝から始まっているが、アクアは写真集の撮影から戻ったばかりで体力がもたないと主張して、アクアの参加は午後からにしてもらっている。
「はい」
「片方が撮影に行って、片方はライブに向けて歌の練習をしていればいいと思う」
とコスモス。
「結局2人分仕事するのか」
「ごめんねー」
「どっちが撮影に行く?」
とFとMは顔を見合わせて話している。
「このシンデレラはほとんどの場面が男装だよね」
「そうなんですよ。女の子の格好するのは最初の少しとパーティーの場面、そしてラストだけ」
「だったらFちゃんが男装で撮影されたらいいと思う」
と千里。
「それがいいかも。じゃMは歌の練習しててよ」
「分かった」
「立小便シーンとかあるけど、Fちゃんできるよね?」
とコスモスが確認する。
「はい、それ得意です」
とFは言った。
むしろ今Mは立小便ができないよな、と千里は思った。Fは面白がってFUDを使っての立小便を練習しており、その応用で『とりかへばや物語』では尿筒での排尿をやってみせているが、Mはその手の練習をしたことがない(こないだまではちんちんが付いてたから、そんなこと練習する必要が無かった)。
それでアクアはこの1週間は2人ともフル稼働になることになった。
エレメントガードには、ライブ版のスコアを完成させ伴奏を録音して、アクアの所に葉月が持っていくようにさせる。夜間にその音源を聴いて練習するから、という建前である。葉月はお使い役でもあるが、アクアの代役として歌いながらライブ版を完成させる。
「だけどこの物語、シンドルが王子妃になっちゃったら、貿易の仕事はどうするんだろう?」
「王子妃がインドに行く船に乗るわけにもいかないから、誰かに譲るしかないのでは」
「風を見れる人が乗ってないと事故ったりして」
「そこは何とか慎重に航海してもらうということで」
「多分、王子妃がオーナーになってシンデレラ商会とか改名して、社長には、例のお父さんの船で唯一生き残った人あたりを据えて、別途風読みできる人を募集してスカウトするんだと思う」
とコスモスが予測する。
「まあ王子妃の名前で募集したら見つかるかもね」
なお、アクアがシンデレラ役になったので配役はこのようになった。
シンデレラ アクア
姉 花咲ロンド
母 木平智美
実母 沢田峰子
父 谷川亨
サンドラ 榊森メミカ
魔女 沢田峰子(二役)
王子 黒山明
国王 金井諒作
王妃 篠原志乃子
家来 横居昇平
アクアは『時のどこかで』(『時をかける少女』の映画化)で、黒山君に抱きかかえられたよなあ、と少し懐かしい気分になった。
「このサンドラというのは、シンデレラのイマジナリー・フレンドですよね?」
とアクアたちはコスモスに尋ねた。
「物語では明示されてないけど、そうだと思うよ。そもそもサンドラという名前はシンドルの母音変化でしょ?」
とコスモスもアクアたちの見方に同意した。
「だから実はシンデレラは自力でパーティーに出ていたんですね」
「そうだと思う。アクアはお金に余裕があるから女の子の服くらい調達できるし豪華な馬車くらい用意できる」
「あのぉ、アクアではなくてシンドルですね」
「あ、そうだった。でもアクアも女の子になって王子様と結婚したいでしょ?」
「男と結婚とか嫌です!」
アクアFは11日の午後から撮影現場に出て行き、集中的な撮影に参加した。
パーティーの場面は『ロミオとジュリエット』で使用したオープンセットの大広間を使用する。コロナ下でエキストラを使いたくないので、○○プロの練習生の人たち、○○ミュージックスクールの生徒さんたちを動員している。
シンデレラの家は、ジュリエットの部屋のセットの内装を変えて使用した。
船に乗るシーンはオープンセットの裏手にある池に実際に150トンという中型のガレオン船をハリボテ復元している。これは宮城県石巻市に係留されている17世紀のガレオン船サン・ファン・バウティスタ号(復元船)を1/2スケールでコピーしたものである。本物のサン・ファン・バウティスタ号は1993年に復元した時に17億円かかっているが、今回は1/2スケールだしハリボテなので5000万円で済んでいる。ラピス主演なら充分な視聴率が取れるのでペイできる予定だった。しかし万一番組が制作中止になり、これが使えないことになっていたら、鳥山さんの首が飛ぶ所だった。
立小便シーンは、
「アクアちゃん、ちんちん無いからできないよね。上半身だけ映すから」
と言われたが
「できますよ」
と言ってアクアFは父親役の谷川亨さんと連れションをやってみせた。
「よくちんちん無いのにできるね〜」
と鳥山プロデューサーが感心していたので
「ちんちんくらい無くても立ちションはできますよ」
とアクアFは答えていた。
(ちんちんが無いことを認めている!ことにFは気付かなかった。でもみんなアクアは女の子だと思っているから、誰も突っ込まなかった!!)
2016年の『時のどこかで』以来、5年ぶりの共演になった黒山明くんは
「アクアちゃん久しぶり。懐かしいね」
と言っていた。王子とのダンスシーンでも、何を話してもいいと言われたので結構昔話をしていた。
「あの映画の時もアクアちゃん抱えてみたら、女の子の感触だったから、びっくりしたけど、もうちゃんと女の子だったことを公表したんだね。これからは普通の女優さんとして活躍していけばいいよ」
などと彼は言っていた。
そんな「女の子だったことを公表」とかしてません!
このダンスシーンはアクアの踊りが上手すぎることから、脚本家とプロデューサーが話し合い、シンデレラは元々ダンスを習っていて、踊りは上手かったということに、設定変更が行われた。
この部分は元々ダンスが必ずしもうまくない東雲はるこを想定して書かれていたシナリオだった。
なおアクアは女性用楽屋で着替えてと言われた。Fはどっちみち男性と一緒には着替えられないので、そちらの楽屋を使用していた。メミカ(この子も女性用楽屋を使っている)など
「アクアちゃん、だいぶおっぱい成長したね」
と言って、アクアの胸に触っていた! メミカとしては“男の娘同士”という気安さがあるようである。
「私なかなかバストが成長しなくて。アクアちゃんはどの製薬使ってる?エストロモン?プレモン?」
「うーん。何だろう。でもこういうのは個人差があるみたいね」
とアクアは適当に話を合わせて?おいた。
さて、あけぼのテレビは基本的には自主制作番組でほとんどの放送時間をカバーしており、たまに地上波のテレビ局で制作された番組の再放送や映画放送(有料)をやっているのだが、自分たちで作る番組をあけぼのテレビで放送してくれないかという話が持ち込まれてきた。
以前ローズ+リリーのPVにも出演してもらったことのある赤迫理奈さんがプリマを務めている島原バレエ団である。そこも聖子のお父さんたちの劇団同様、コロナ流行後、劇場での公演がまともにできず、開催しても観客をあまり入れられないので、存亡の危機に立っていると、赤迫さんと一緒に訪問した、劇団の主宰者・島原須美子さんは言った。
実は聖子の父の劇団・黒部座が今準備を進めているような有料配信の道も考えたのだが、バレエのファン層を考えると、有料配信はむしろハードルが高く、スポンサー付きの無料放送を考えたいということだった。しかし在来局での放送はまたハードルが高いので、あけぼのテレビに話を持ち込んできたということだった。テレビの所持率低下、スマホの普及率を考えると、かえって普通のテレビより、スマホで気軽に見られるネットテレビの方が、採算が取れる見込みがあると考えているという。
私たちは、スポンサーの斡旋まではできないので、自主的にスポンサーを見つけてもらえるなら、放送枠は取ってよいと回答した。ただし、ガラ公演(バレエの様々なシーンのダンスだけを見せ、物語性の無い公演:実はバレエの公演にはこれがとても多い)ではなく、きちんと物語のあるステージにして欲しいと要望した。
それで島原さんは“再放送時もあらためてスポンサー料を払ってよい”という飲料メーカーの人を連れてきたのである。それで毎月2回の放送をすることになった(タイムシフトでも見られる)。
「ただうちは正団員があまり多くなくて、劇場公演の時はコール・ド(群舞)にはバレエ教室の生徒とかを出したりしていたのですが、テレビ放送となると、もう少しレベルの高い子が必要だと思うのですよ。いくつか他の劇団にも声を掛けているんですが、確かそちらのタレントさんの中にもバレエなさる方がありますよね。美少女アイドルのアクアちゃんとか、黒鳥の32回転ができるとか凄いわあ」
「すみません。アクアは(性別の件は置いといて)多忙でとても対応はできません。でも確かにバレエの経験者は何人かいますよ。よかったらそちらでテストして頂けませんか?遠慮無く落としてもいいですから」
それでバレエ経験者に声を掛けたところ、下記のメンツがこのバレエ番組に参加することになった。
高島瑞絵(リセエンヌ・ドオ)、大崎志乃舞、三陸セレン、山本コリン、水谷康恵、水谷雪花、鈴鹿あまめ、栗原リア(ColdFly5)。
全員テスト合格だが、この子たちは実は研修所内でのバレエのレッスンにもよく出席しているので、腕が落ちているはずはなかった(研修所のレッスンはバレエ・ジャズダンス・ヒップホップダンスから選択:歌手のバックで踊るのは基本はジャズダンスだが、普段どれを習っていてもジャズダンスは踊れることが多い。今回は多忙なので不参加だが、木下宏紀のようにどれも上手い子もいる。木下君はそれに加えてサンバも上手いし、日本舞踊も名取である)。
三陸セレンの性別はちゃんと申告したのだが「またご冗談を。こんな可愛い子が男の子のはずがないじゃないですか」と島原さんは言い、彼の性別に気付いたようであった赤迫さんも「ケイちゃん、いいことにしとこうよ」と言ったので、そのまま“バレリーナ”として参加させることにした。
なお、これ以外に他の劇団から10人ほどお願いして参加してもらえることになった。
[*
前p 0
目次 8
時間索引 #
次p]
夏の日の想い出・星導きし恋人(5)