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■夏の日の想い出・星導きし恋人(14)
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常滑真音のファンクラブも発足することになった。
ここで会員証として、海浜ひまわり・白鳥リズムなどでも過去に作られた“スペシャル会員証”が設定されることになる。
海浜ひまわりは「ひまわり女子高校生徒手帳」(3900個限定:おじさんでも女子高生になれる!というので話題になった)、白鳥リズムは「白鳥鉄道定期券」(1年間限定)を制作したが、今回の常滑真音では「開運招猫之証」を作ることになった。発行は取り敢えず1年限定とする(むろん2年目以降も更新していけばずっと有効)。
会員証の形自体が招き猫で、表面は左手をあげた白猫、裏面は右手をあげた黒猫になっている。全体に金色の縁取りをしている。内側に本人証明欄で会員番号(「あなたは○○匹目の猫です」と書かれている)・氏名・本人写真などが印刷されている。更に常滑市・洞雲寺の“猫の御朱印”のコピーがラミネート加工して挟み込まれている(コピーの作業上、1日に1枚は実物も混じる)。また常滑焼きの招き猫の写真が多数入っており(福助やアマビエまで入っている)、年間予定表と12ページのメモ帳部分(*3)は招き猫の透かし模様入りである。招き猫模様のミニボールペン付き。これ自体5000円くらいで売れる感じのアイテムである。
「こんな豪華な会員証作ったら§§ミュージックさん、利益出ないのでは?」
と心配する声まであった。
ICチップも埋め込まれているのでライブの際そのまま入場できる(*4).
既存の他のアーティストのファンクラブ会員証(スマホ会員証を含む)からアーティスト切り換えまたは追加で発行してもらうことも可能である。
他のアーティストの会員証(特にスペシャル会員証)と2枚(以上)持つ場合、それらはエイリアス扱いになる。つまりどちらも有効だが、たとえば両方使ってチケットを二重に取るとか、二重に入場するようなことはできない。要するに電子的に両者は同じものとみなされるのである。
(*3)年間予定表には、七夕・クリスマス・バレンタイン・ホワイトデーに加えて舞音の誕生日(4.12)も記載されている。年間予定表とメモ帳の部分は交換可能になっていて、そのリフィルおよびミニボールペン(および替え芯)は別途販売もする。実際、FC入会者の10倍以上このリフィルや招き猫ミニボールペンが売れた。リフィルの表紙は白招き猫、裏表紙は黒招き猫と、FC会員証本体と合わせてある。
(*4)∞∞プロ系列の共通仕様なので、∞∞プロ系列の全ての事務所のタレントのライブ入場で、“顔認証”により入場できる。顔認証なので、他人に貸したりすることはできない。顔認証が通らなかった場合は、運転免許証や生徒手帳など追加の顔写真付き本人確認書類が必要になる。なお戸籍名と通称(会員証印字名)が別に登録できるので、戸籍名が山田太郎で通称が山田花子という人はちゃんと山田太郎名義の運転免許証で本人確認できる。
その日、朝御飯を地下の隠し部屋に持って来てくれた千里に、アクアFは言った。
「ボク、一昨年に6500万円、去年は2億円出して、マンション2個買ったのに彩佳が来ている日はボクはどちらのマンションでも寝られないのって、何か凄く割に合わない気がするんですけど」
千里は笑っていた。
「まさに、廂(ひさし)を貸して母屋(おもや)を取られるだね。だいたい、あの子たち3人を自分のマンションに泊める筋合いが無い。どこか適当なマンションに引っ越してもらいなよ。最初は彼女たちのマンションが崩壊して、一時的な避難だったろうけどさ」
「でも都心は家賃高いんですよ。コロナのこと考えると、通学に電車使わせたくもないし」
とアクアFは言う。
「うーん。だったら、マンションもう1個買っちゃう?」
「え〜〜〜!?」
島原バレエ団バレエ公演のあけぼのテレビによる中継は、4月18日(日)に初回公演『白鳥の湖』が放送され、日曜の午後という時間帯にもかかわらず結構な接続回線数となった。やはりバレエで有料放送にしてしまうと、わざわざお金を払ってまで見る人は限られてしまうが、無料放送なので見てくれたようで、結果的にはスポンサーも「このくらい視聴率があればずっと支援していける」と言ってくれた。
なおこの公演中継は臨場感を大切にするため生中継である。歌手のコンサートのようにモニターやスピーカーまでは並べていないものの、600人程度の小ホール並みの広さがある、あけぼのテレビ第12スタジオで、300人分の観客の書き割りを前にして演技している。(拍手の効果音付き)
公演は、その後、ゴールデンウィークをはさんで、5月16,30日に行われた。16日は『くるみ割り人形』、30日は『コッペリア』と人気演目を上演した。次は6月13日(日)の予定である。初回の『白鳥の湖』を見逃したという声が多数あったので、再度『白鳥の湖』を上演する予定である。
ところで昔話シリーズの『人魚姫』が制作されることになった経緯はこのようであった。
鳥山渚プロデューサーは、大規模な舞踏会が撮影できる大広間を安価に(最終的には無料になった)使えると聞いて『シンデレラ』の企画を立てた。
それでシンデレラのお父さんが亡くなるシーンは、船のセットを作り、そこで人工的に雨風を起こして嵐のシーンを撮影しようと思った。ここでどうせなら船の全景を撮りたいという要望があり、どこかに撮影に使えるような17世紀の帆船が無いか調べて、石巻市のサン・ファン・バウティスタ号に気付いた。それで現地に照会したら、船は傷みが激しいので解体予定で、危険なので撮影などには対応できないと言われた。
しかしこの船の形が美しいので、ハリボテのレプリカを作ることを考えた。
石巻市まで行き、スタッフに実物を見せ、船の設計図なども石巻市側からコピーさせてもらった。
「どのくらいの費用で作れると思う?」
「1/2スケールで材料も合板とかでよければ、1000万円くらいで行けるかも」
「主演がラピスラズリだから、そのくらいは予算取れるよ。作ろう」
それでレプリカを作らせることにした。その数日後、鳥山は木造船の建造を手がけている会社からメールを受け取った。
「お見積りさせて頂きましたが、ハリボテでも\4000万程掛かると思います,肋骨にカーブを付けるのが難しいのです」
という連絡だった。
鳥山はこの“\4000万” を“\400万”と誤読してしまった!
実は鳥山が使っていたメーラーには、ワードラップ機能が無く、メールが↓のように表示されていたのである。
お見積りさせて頂きまし
たが、ハリボテでも\400
0万程掛かると思います,
それで鳥山は改行された後の 0 を見落とし、結構安かったなと思って
「そのくらいの費用なら大丈夫ですよ。作って下さい」
と返事してしまったのである!
(後で鳥嶋部長から言われて別のメーラーに変えた)
そして出来上がった後で請求書を見て仰天する。あらためて見積もりの時のメールを確認すると、確かに4000万円と書かれている。
放送局が空手形を出すわけにはいかない。鳥山は素直に鳥嶋制作部長の所に行き、謝罪して進退伺いを出すとともに、今回は何とか制作会社に4000万円払ってあげて欲しいと言った。
鳥嶋和夫制作部長は激怒したものの、確かに放送局がセットを作らせておいて代金を払わないというのは許されない。それで
「分かった。4000万円は払う」
と言う。
「ありがとうございます」
「しかしほんのワンシーンしか使わないものを、こんなに予算掛けて作ってどうする?」
「この番組が完成したら私は身を引かせて頂きます。足りないとは思いますが、私の退職金で少しでも補填していただけませんか」
「分かった」
ラピスラズリ主演で『シンデレラ』が制作された後、鳥山渚プロデューサーが退職ということになっていた場合、鳥山渚だけの問題ではなく、鳥嶋制作部長、更には鳥山渚プロデューサーの叔父である鳥山光太郎編成局長の責任にもなっていた可能性がある。(なんだか鳥が多い。ついでに社長は香鳥さんである!)
ところが、ここで“鳥山渚にとって”(結果的に鳥嶋和夫や鳥山光太郎にとっても)超ラッキーになることが起きたのである。
主演予定だったラピスラズリがコロナ発症者との濃厚接触者として隔離されてしまった。撮影に間に合わないので当然降板となる。この時、鳥山渚は物凄い解決策を思いついた。§§ミュージックに乗り込み、コスモス社長と直談判して、ラピスラズリの代わりにアクアをシンデレラ役で起用したいとお願いした。事態が事態だけに、コスモスも渋々同意してくれた。
ラピスラズリでも充分な視聴率が取れる見込みだったが、アクア主演で、しかもアクアが女の子役をするとあらば、物凄い視聴率になるのは確実である。それで、4000万円のセットが無駄にならない可能性が出て来た。鳥山はシナリオを大幅に書き換えて、このガレオン船でのシーンをたくさん増やし“充分セットを利用した”という既成事実を作った。
制作が進んでいるのを見に来た制作部長も、船のシーンで演技するアクアを見て
「これはいいね。やはり“彼女”は演技力があるね」
と、かなり機嫌を直してくれる。
そして制作部長は言った。
「でもせっかく4000万円掛けて船のセットを作ったから、このセットを使って何か他の物語のドラマも作ろうよ。何かこういう大型帆船が出てくるような物語って無かったっけ?」
“作ろうよ”というのは、自分が制作していいのかなぁ〜?もしかして自分は辞めなくてもいいのかな〜?と思いながら、鳥山は必死に古い帆船が出てくる物語を考えた。
「そうですね。宝島とかはどうでしょう?」
「それいいね。誰かかっこいい若い高校生くらいの男性俳優とシルバー役の渋い中年俳優使って撮ろうよ」
「じゃそれシナリオを手配させます」
「うん。他には無いかね」
必死で考える。
「ピーターパンとかは?」
「ああ。それもいい。誰か可愛い子にウェンディーさせて。あっアクアちゃん、ウェンディーしてくれないかなあ。後は少し馬鹿っぽい雰囲気の男の子アイドルにピーターパンさせて。ピーターパンは顔さえよければ演技力無くてもいいから。ティンカーベルは少しセクシーな雰囲気のある10代の女優さんで。タイガーリリーは20代後半の落ち着いた女優さん。フック船長は演技力のある中年のアクション系俳優かなあ。他には?」
更に自分の記憶から該当しそうな話を絞り出す。
「十五少年漂流記とかはどうでしょう?」
「あれは使えるね。でもあの物語では船は解体されちゃうよね」
「そ、そうですね。でしたら、この土地は今年いっぱいの借地契約らしいので期限切れで撤去しないといけない時に十五少年漂流記を撮影するとか」
「ああ、それはいいね。ちょっとその件、君が大和映像さんと話し合ってくれない?」
「分かりました!」
と言いながら、自分に交渉を命じるということはどうも自分の首はつながったようだと思う。
「他には?」
「あ、人魚姫とかもありますよ」
「おお、それいい!ね、ね、それを隔離明けのラピスラズリにさせない?」
「なるほどー!」
「東雲はるこのシンデレラは、まあ人気アイドルだしと思ったんだけど、よく考えたら、東雲はるこはシンデレラより、人魚姫とかマッチ売りの少女とか向きだよ」
「確かにあの子、いつも消えてしまいそうな顔してますもんね」
と鳥山も、やはり自分は助かったようだと思いながら答えた。
しかしそれでラピスラズリで『人魚姫』を撮ることになり、人魚姫は東雲はるこというのも確定したのであった。この企画にはコスモスもすぐ同意してくれた。でもピーターパンの話はまだしていない!
鳥山は
「アクアにウェンディー役なんて、絶対コスモスちゃんが拒否するぞ。どうするかな?」
と不安を感じていたのであった。
なお、この帆船(ハリボテ)の“使用順序”だが、船の傷みを考えてこのような順序になることも決まった。
人魚姫→宝島(結構傷む)→ピーターパン(傷んでいて良い)→十五少年漂流記(解体)
人魚姫は沈没船設定だが、そもそもこの船は沈没している気もする!(後述)これは船の痛み問題より、隔離明けのラピスラズリをすぐ使いたいということから先頭に入れられることになった。
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