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■夏の日の想い出・星導きし恋人(16)
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目次 8
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そういう訳で今回のドラマで女性用控室を使うのは
アクア(太郎)、坂出モナ(志乃)、侍(七浜宇菜)、小野寺イルザ
(男の子の母親)の4人である。
イルザが悩んでいるのでモナが
「どうしたんですか?」
と声を掛ける。
「いや、ここは女性用控室で良かったんだよなと思って」
とイルザが言うので、宇菜が
「あ、ボク、男性用控室の鍵を渡されちゃって、申告して女性用控室の鍵に交換してもらいました。交換してもらったボクの鍵がちゃんと入ったから、ここは間違い無く女性用控室ですよ」
などと言っていた。
宇菜は人前では「私」と言っているが、親しい人の前では結構「ボク」も使う。
「まあ、アクアは“設定男子”で、中身は女の子ですから。ほーら、こんなにおっぱいが大きい」
などと言って、モナがアクアのDカップのバストをつかむ!ので
「念のため触らせて」
と言って、イルザまでアクアの胸に触っていた。
「8月20日の誕生日に、性別についてはきちんと本当は女の子であったことを発表するんでしょ?」
「そんなの、しないよー。ボクの性別はありのままということで」
さすがに女子更衣室の中で男を主張するわけにもいかない。といって女の子だと言ってしまうのも(Mに悪いので)できない。しかし
「ありのままなら間違い無く女の子だ」
と宇菜から言われる。
「宇菜ちゃんは、ありのままなら男の子だったりして」
「男の子になりたーい!アクアにちんちんがあったら譲って欲しいくらいだけど、さすがに付いてなさそうだしなあ」
「でも8月20日に何かアクアの個人的な問題で発表するらしいというもっぱらの噂になってるよ」
とモナが言う。
「うちの社長(白河夜船)はどうもその件を先行して聞いたみたいだけど、発表までは言えないって言ってた」
「このメンツには言ってもいいかな。今日の分の撮影が終わってから、聞きたい人あったら、ボクの部屋に来たら話すよ」
「よし、行こう行こう」
ということで、アクアはこの3人には自分の両親のことを話すことにした。
ちなみに、アクアの部屋は(奉行所物語でもそうだったが)ホテルのレディスフロアに取られている!レディスフロアのエレベータ前にはホテルの女性スタッフがいて、男性が入らないようにチェックしている。出前などもそのエレベータ前で受け取る方式である(配達員が女性の場合は部屋の前まで行ってもよい)。
一方男性用控室には
鞍持健治(志乃の父)、在杢(志乃の従者)、中井宏良(男の子)の3人が入っていた。
中井君が周囲を探すようにしながら
「アクアさんはこちらじゃないんですね」
と言うと
「あの子は女性用控室だと思うけど」
と在杢が答える。
「やはりアクアさんって女の子なんですか?」
「ときめき病院物語の時からずっとあの子見てるけど、間違い無く女の子だよ。男の子というのは、単なる“設定”だと思うね」
と鞍持健治も言っていた。彼は『ときめき病院物語』ではアクアの父親役を演じた。
さて、物語であるが、このように進行する。
太郎(アクア)はあまりにも貧乏な暮らしに疲れ、観音堂に行って
「観音様、私をもっとお金持ちにして下さい」
とお祈りした。
すると観音様は
「京に向かって旅をしてみなさい。その時、このお堂を出てから最初に触ったものを大事にしなさい」
と言った。
太郎は観音堂を出たところでいきなり転んでしまう。しかし起き上がった時に手にわらしべを1本持っていた。
「これが観音様から言われたものかなあ。でも、こんなわらしべでどうやってお金持ちになれるんだ?」
太郎は疑問を感じながらもそのわらしべを大事に持って歩いていた。
太郎が歩いていると、虫が寄ってきて太郎の周りを飛び回った。うるさいなあと思った太郎はその虫を捕まえ、わらしべの先に結んでしまった。それで虫はわらしべの先でぐるぐると飛び回るようになった。
しばらく行った所で、男の子(中井宏良)が泣いていて、母親(小野寺イルザ)が困っているようだった。ところが男の子は、太郎が持っている、虫をつないだわらしべを見ると、泣き止んで
「あれが欲しい」
と言った。
太郎は
「これは観音様から頂いた大事なものだからやれん」
と言う。
しかし母親は
「大事なもので申し訳ありません。このミカンと交換してはいただけないでょうか?」
と言って、ミカンを2個差し出すので
「まあいいか」
と言って、太郎は虫を結んだわらしべをミカン2個と交換した。
太郎はミカンは観音様からの授かり物と思っていたので、それには手をつけず、野に生えている草の実などを食べながらその日は歩いて行き、夕方になったので野宿をした。翌日は山越えの道になる。水分が必要だなと思い、竹筒に水を汲んでから山越えの道を行く。
すると峠付近の道端で娘(坂出モナ)が座り込んで、連れの男性(在杢)が介抱している所に行き合う。
「どうしたんです?」
「それが長旅で疲れて、今日は暑いのでお嬢様が熱中症になられたようで。水分が欲しいのですが、持っていた水は全部使ってしまいましたし、この付近には川とか湧き水とかも全然見当たらなくて」
「それは気の毒に。取り敢えず私の持っている水を」
と言って竹筒を渡す。
「ありがとうございます」
と言って娘に飲ませるが、娘はまだ辛そうである。
「そうだ。このミカンでも食べなさい」
と太郎は言った。
観音様のお告げの大事なミカンではあるが、太郎はこの娘が気の毒に思ったのである。
それでミカンを頂くと、ミカン果汁の水分と糖分で、娘はだいぶ落ち着いた感じであった。あらためて見ると随分可愛い子である。
「ありがとうございます。私は山下宿の弘田志乃と申します。お名前をお聞かせ頂けますか?」
「おらは、岩山村の太郎だ。苗字とかも無い」
「太郎様ですか。でも助かりました。何か御礼をしなければ。この西陣織の反物でもお持ち頂けますか?」
と言って、娘は太郎に上等な西陣織の反物を2反(たん)風呂敷に包んで渡してくれた。
昔は反物は“通貨”としての役割があった。それで路銀として娘も持っていたのであろうと太郎は思った。
太郎が更に旅を続けていたら、向こうから馬に乗った侍(七浜宇菜)がやってきた。ところが太郎の目の前でその馬が倒れてしまう。
侍も落馬したので
「大丈夫ですか?」
と介抱する。
「かたじけない。拙者は無事じゃが。馬はどうなった?」
と言って侍は馬の様子を見ている。
「息をしていない。死んでしまったようだ」
「ありゃあ」
「困ったな」
「どこかにいらっしゃるところだったんですか?」
「主(あるじ)の命令で京まで行き、西陣織の反物を買ってくるように言われていたのだが、馬がこれでは京まで行けない。馬を調達にどこかの町まで行くにも徒歩(かち)では時間がかかるし」
「西陣織ですか!?私は偶然にも西陣織の反物を2反持っているのですが、使えませんかね」
「見せてくれ」
「はい。こちらです」
「これは美しい西陣織だ。これならきっと主(あるじ)も気に入ってくれる。これを売ってくれないか?1反2両、2反で4両ではどうだ?」
「はい、お売りします」
「だったら、ついでにこの馬の処分を頼めないか。あと1両出すから」
「分かりました。処分しておきます」
それで侍は太郎に小判を5枚渡し、反物の風呂敷を持つと、去って行った。
太郎は5両は懐に入れた上で、馬はどうすっかなあと思ったのだが、死んでいるように見えた馬がよくよく見ると胸の付近が微かに動いているように思えた。太郎は近くの川から水を汲んできて馬の口に含ませてみた。すると馬は意識を回復する。太郎が更に水を飲ませていると、やがて馬は立ち上がったのである。
「お前、暑さでいかれてたのか?水ならたくさん飲ませてやるよ」
と言って、太郎は馬をそのまま川に連れて行き、たくさん水を飲ませた。
「お侍さん、急いでいたみたいだから、お前にちゃんと水も飲ませずに走らせていたのかも知れんなあ」
馬が元気になったようなので、太郎は馬に草も充分食べさせてからその馬を連れて旅を続けた。
大きな宿場町があったのでそこで太郎は小判を1枚細かいお金に両替してから、旅籠(はたご)で少し休んだ。ここまで野宿を続けていたので、久しぶりに屋根のある所で休んだし、湯を使うこともできてスッキリした。
(アクアの入浴シーン!! この場面は湯船にアクア1人だけが入っている状態で撮影している。なぜ他の客が居ないのかは特に説明しない。またアクアはひとりで服を脱いで湯船につかり、そこで撮影スタッフを呼んだので、撮影スタッフは誰もアクアのヌードを目にしていない)
旅籠の主人が太郎に
「あんたその服は傷みすぎだよ。古着でも良かったら売ってあげようか」
と言うので、60文(約1500円)出して、一応しっかりした長着と帯を買った、
旅籠の主人としては太郎の服があまりに酷いので、その服で、うちの布団には寝て欲しくないというのが本音である!
しかし太郎は結構清潔な服を着られたし、ここまでずっと木の実・草の実などを食べていたので、御飯を食べるのも久しぶりだった。
それで太郎は旅籠(はたご)の部屋でぐっすり寝ていた。
夜中突然
「あっ!」
という大きな声がするので、目を覚ます。
声を出したのは同じ部屋に泊まっていた中年の男性(鞍持健治)である。
「どうなさった?」
「いや、実は路銀の入った袋を落としてしまったようだ」
「そりゃ大変だ」
「どうしよう。取引に行きたいの行く路銀が無い。いったん家に戻るにしてもその路銀が無い」
「あんた商人(あきんど)か何か?」
「呉服屋をしている。取引自体は信用で出来るから、後で送金すればいいんだけど、とにかく路銀が無いことにはどうにもならない」
「路銀は幾ら入っていたんです?」
「10両入れていた。取引先の京まで行くのに、馬とかも使いたいし、せめて3両でもあればいいんだけど」
「3両貸そうか?」
「3両お持ちですか?」
太郎が一応きちんとした身なりなので、商人は太郎をひとかどの人物と思ったようである(服装ってわりと大事)。これがボロ着だったら、盗んだのではと疑われかねなかった。
「あるよ。あんたしっかりした人みたいだし、後で返してくれるなら貸すよ」
「助かります。だったら、証文を書きますから、もしよかったら私の住んでいる山下宿まで行って、お金を受け取ってもらえませんか?」
「いいよ」
と言いながら太郎は“山下宿”ってどこかで聞いた気がするなあと思った。
「馬も使いたいなら、私が乗って来た馬も貸しましょうか?」
「それも助かります。じゃ貸してください。あとで借り賃も払いますから」
「了解了解」
それでその商人は「この人に色々助けてもらった。お金と馬を借りたので、お金を3両と利子1両、馬の借り賃に2両、それと山下宿までの旅費を渡してあげて欲しい」という内容の証文を書いた。太郎は字が読めないものの、旅籠の主人が証文を読み「確かにそう書いてある」と確認してくれたので、太郎は小判3枚を渡し、馬も貸してあげた。
それで太郎の手元にはその商人が書いた証文、現金1両2分(*5)が残り、商人は太郎が貸してあげた路銀を持ち、太郎が連れて来た馬に乗って、京に向かって旅立ったのであった。
(*5)小判1枚が1両。1両=4分、1分=4朱、1朱=250文。1両を10万円とすると1文は4000分の1で25円になる。“にっぱちそば”が 2×8=16文で、1文25円とすると400円ということになる。
それで太郎は山下宿に行くことにした。これには半月ほどかかり、川越えなどもあったので、路銀も1両以上使ってしまい、山下宿に辿り着いた時にはお金も1分しか残っていなかった。
人に尋ねて、商人の家まで行く。
「ごめんください」
と言って中に入る。
「いらっしゃいませ」
と明るい娘の声がする。
「あれ?あなたは?」
「ありゃ、あんたは?」
それは太郎がミカンをあげて、代わりに反物をくれた娘だったのである。
太郎が事情を話し、商人から渡された証文を見せると、
「それは大変ありがとうございました。お金はすぐ返しますが、取り敢えずこちらでお休み下さい」
と言う。
それで取り敢えず休ませてもらった。
太郎が一応ちゃんとした身なりなので、店の者もみんな太郎を客人として大事に扱ってくれた。峠で志乃を助けた時に付き添っていた手代(在杢)も「あの時はお世話になりました」と挨拶していた。
志乃が小判の束を持ってくる。
「父がお借りした3両と利子の1両、馬の借り賃2両で合計6両。この他に路銀をお支払いしますね。ここまでどのくらい掛かりました?」
「御主人と会った場所からここまでは半月かかって使った路銀は1両1分くらいかな」
「太郎様の住んでおられる村までの旅費は?」
「うーん。よく分からないなあ」
「太郎様はお百姓様ですか?」
「耕す田んぼとかでもあればいいんだけど、何も無いから、田畑を持っている人に雇ってもらって日銭を稼いでいた。家も無いからお寺の小屋で寝泊まりしてたし」
「ご家族は?」
「両親は20年くらい前の飢饉で死んじまった。姉貴がいたけど、5年くらい前いなくなってしまった。生きているのか死んでいるのかも分からねえ。おらはお寺の和尚さんから、坊主にならんかとも言われたけど、坊主はあまりしょうに合わない気がして」
「太郎さん、頭良さそうだから、お坊さんにもなれそうなのに」
「おら、字も読めねえよ」
「でも帰るお家とかも無いのでしたら、良かったら、ここにしばらく滞在なさいませんか?字くらい教えますよ」
「それもいいかなあ」
それで結局太郎は、この商家に留まることにした。客人だから何も仕事はしなくていいと志乃は言ったのだが、それでは申し訳無いと言って太郎は、荷運びや掃除などの仕事をした。そして毎日志乃自身が太郎に字と算盤(そろばん)を教えてあげた。
やがて主人が京から戻るが
「いや、あなたは命の恩人です。立ち往生するところを助けてもらいましたし、おかげで良い取引もできました。しかしそうですか。娘もあなたに助けて頂いたのでしたか。本当にありがとうございました」
と言って、太郎にぜひしばらくここに滞在してくれるよう言った。
その後、太郎はこの商家でたくさん働き、字の読み書きや算盤(そろばん)も覚えて1年後には手代(てだい)になる。彼は商才があり、特に売れ筋の商品を見分ける力があった。それで大いに店を盛り立てる。3年後には若番頭に取り立ててもらい、店を益々大きくした。太郎は小さい頃から散々苦労して生きてきていたので、よく気配りをし、人に優しかったのでみんなから愛された。
そして5年後には、志乃の婿にと望まれ、太郎はこの店の若旦那となった。彼はその後もたくさん働いてお店は他の宿場町に支店を出すまでになり、彼はとってもお金持ちになったのであった。
「あの時、私が苦しんでいた時にあなたと出会って、あれがきっかけで結局あなたには父も助けてもらったし、私たち、きっとお星様が導いてくれたのよ」
と志乃は明るく太郎に語るのであった。
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