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■夏の日の想い出・星導きし恋人(3)
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それでシンデレラはその日から男の格好をし、名前もシンドルと改めて、父と一緒に貿易の仕事をするようになった。
Cinderellaという名前は元々Cinder-ellaという構造で、Cinder(シンドル)という名前に女性を表す ella という語尾が付いたものである。それでその語尾を外して男名前にしたのである(*2).
(*2)“シンデレラ”という名前の語源説として実際こういう説が存在する。
シンドルが父と一緒に仕事に出ていくと
『こんな立派な息子さんがいたんですか?』
と仕事仲間から言われる。
『まだ小さいから外に出してなかったんだよ。でもこいつも10歳になったからそろそろ商売のことも覚えさせようと思って』
『へー。でも女の子にしてしまいたいくらい、可愛い息子さんですね』
『まだ男らしくなくて困ったもんだけどな』
そんなことを言われながらも、シンデレラ改めシンドルは一所懸命働き、商売の仕方も覚えた。また毎年1度インドまで父と一緒に航海もしたが、シンドルは船の上でも大活躍であった。彼は特に風を読むのがうまく、彼が乗船するようになってから、船はめったに嵐に遭うことがなくなった。
それでシンドルは“風のシンドル”=Cinder baad “シンドルバッド”と呼ばれるようになった。
「どうして唐突にアラビアンナイトなんです?」
「まあまあ」
『だけどお前よく立って小便できるな』
『だってボク男の子だから』
『・・・・まさかお前、ちんこあるの?』
『秘密』
シンドル・バッドが15歳になった時、父は友人の勧めで再婚した。シンドルとしては新たな母を迎えるのには多少の抵抗があったものの、父も5年我慢したんだし、まあいいかと思った。
それでシンドルは新しい母、そしてその母の連れ子の娘(17歳)とできるだけ仲良くするようにした。
『へー。優しい顔の息子さんなのね』
『なんかドレス着せたら女の子で通りそう。私より美人になるかも』
『ごめーん。全然男らしくないと言われる』
とシンドルは母と姉に笑顔で答えた。どうも父は自分のことは息子で通すつもりのようだなと思い、シンドルも息子としてふるまった。
2年後、シンドルが17歳の年、父は商売のため新たな航海に出るが、この年、シンドルは留守番を命じられた。実は国王の宮殿の改築があり、その宮殿に使用する装飾品を見繕う仕事を任せられたのである。
『航海、ボクがいなくても大丈夫』
『心配するな。俺も20年海の男をしていたんだから』
ところが、“風読み”のシンドルが乗っていなかった船は嵐に逢い、沈んでしまった。1人だけ、何とか他の船に救助されて帰還した父の部下からその報告を受け、シンドルも母も泣き崩れた。
『お母さん泣かないで。ボクたちで助け合って生きていこう。仕事はボクが後を継いで頑張るから』
シンドルは自分も涙が止まらないのに、悲嘆にくれる母を慰めた。
シンドルは今回の航海で亡くなった部下たちの遺族の家を訪れ、死なせてしまったことを詫びて、各々に充分な補償金も渡した。遺族の中で後を継ぎたいと言った息子たちがいたので、彼らを新たに雇い、シンドルは商売を再建した。翌年には新しい船を作って自らインドまで航海し、たくさんの輸入品を積んで戻った。
シンドルが19歳になった年、国王が「王子の結婚相手を決めるパーティーを開く」と発表した。
そのパーティーには未婚でさえあれば、国中の娘が参加できるということだった。
『王子様の相手なんて、どこかの有力なお姫様かお嬢様に既に決まっているんじゃないの?』
とシンドルは疑問を呈すが、母は
『相手は決まっていると思うよ。でもきっと、全国民の中から選んだという建前を取りたいのよ。ひょっとしたら、貴族身分ではなく、軍人か何かの娘で、平民の身分の女なので、こういう形を取るのかもね』
と言う。
『ああ、それはあり得るよね』
とシンドルも答えた。
パーティーは3日間開催され、その最終日にお相手が発表されるらしい。姉は自分が指名されることはないだろうけど、華やかなパーティーに出たいというので、シンドルが用意してあげた豪華なドレスを着せ、可愛くお化粧もして、付き添いの母と一緒にパーティーへ出かけていった。
それを見送ってシンドルは呟いた。
『王子の相手を決めるパーティーか。さぞ賑やかなパーティーなんだろうなあ』
そんなことを言いながらもシンドルは商売の帳簿を付けていたが唐突に涙が出て来た。
『もしボクが女の子なら、ボクだってパーティーに行けるのに』
シンドルは10歳の時からもう9年間も男として生きてきたので、男の意識でいるつもりだったが、唐突に眠っていた女の意識が動いてしまったようである。
『でもボク、パーティーに行くような女物のドレスなんて持ってないし』
9年間の男としての生活で、シンドルは女の服など1枚も無くなっていた。
『女の子に戻りたくなったのかい?』
という声がするので見ると、それは小さい頃からの友人で、シンドルが女の子の“シンデレラ”として暮らしていた頃から仲の良かった、サンドラだった。
『サンドラはパーティーに行かないの?』
『私と一緒に行かない?洋服も貸してあげるよ』
『でも王子様のお妃選びなんて・・・』
『別にいいじゃん。パーティーに出席する人で、マジで王子様に見初められようって子は居ないって。みんな国王主催の豪華なパーティーに興味があるだけだよ』
『そうかもね』
『女でさえあれば自由に宮殿内に入れるんだから、行ってみるに限るって』
『でもボク男だし』
『建前は男だろうけど、中身は女じゃん。“シンデレラ”はちゃんと女物の服を着れば女に見えるよ』
「あのぉ。このセリフ凄くひっかかるんですが」
とアクアは文句を言う。
「気にしない、気にしない」
と鳥山さん。
それでシンドルはサンドラから青いドレスを貸してもらい、お化粧もしてもらった。長い髪のウィッグもつけさせられる。そしてサファイアの首飾りをつけた。
『高そうな首飾り』
『これあんたのお母さんの形見』
『え?』
シンデレラは母の形見と聞いて涙が出て来た。
『あぁん、泣き虫だね。お化粧のやり直し』
『ごめん』
しかし一度泣いたことから、シンドルは女の子らしい気分になってしまった。鏡に全身を映してみると、そこにはまだ16-17歳でも通りそうな美少女の姿がある。
『シンデレラの復活だね』
『なんか女装の変態男になった気分』
『女に戻ったの9年ぶりだしね』
とサンドラは笑っていた。
『でもだいぶ遅くなったよ』
『馬車で行けば平気』
サンドラから渡された銀の靴を履き、一緒に表に出ると、2頭立ての立派な馬車が停まっている。シンデレラはサンドラと一緒に馬車に乗り込んだ。馬車は軽快に走り、あっという間に王宮に到着した。
宮殿の門を入った所に馬車駐めがあるので、そこに駐めて降りる。そして宮殿の建物の中に入った。パーティーはまだ始まって間もない感じだった。
招待されたのは女だけと思ったら男性もわりとたくさんいる。
『どうも王子様のお妃選びに合わせて、貴族の息子たちも自分のお相手を見つけようということみたいね』
『へー。じゃ王子様じゃなくても、貴族の息子に見初められる可能性もあるんだ?』
『シンデレラ、やはりあんた誰かのお嫁さんになりたくなったね』
『そんなこと無いよ!ボクは男だよ。それにボクはお母ちゃんとお姉ちゃんを養っていかないといけないし』
『ふふふ』
とサンドラは笑ったが、彼女がなぜ笑ったのか、シンデレラは分からなかった。
豪華な料理も出ているので、適当に摘まんで食べる。お酒も出ている。シンデレラは実はまだお酒を飲んだことが無かったが、サンドラに唆されて口を付けてみた。
『凄い変な気分』
『あはは。酔ったね』
本当にシンデレラは1口飲んだだけで酔ってしまったようで、足下がふらふらする。それでうっかり身体のバランスを崩して倒れそうになるが、それを誰かが支えてくれた。
『すみません』
『大丈夫?』
と背の高い男性がシンデレラに言った。
『はい。ありがとうございます』
『君可愛いね。ボクと踊らない?』
『あ、はい』
それでシンデレラはその男性と踊り始めた。踊りなんて習ったことがないので、どうすればいいのかさっぱり分からなかったが、彼がうまくリードしてくれるので何とかなった。
しばらく踊っている内に時計がもう11時半になっているのに気付く。あまり遅くなると、母と姉が帰ってきてしまう。自分の女装を母たちに見られる訳にはいかない。
『済みません。そろそろ帰らないと』
『そう?明日も来るよね』
『どうしよう?』
とシンデレラはためらうが、サンドラが傍から言った。
『フレデリック殿下(Votre Altesse Frederic)。大丈夫ですよ。明日もこの子連れて参りますから』
『うん。頼む。じゃ明日(A demain)』
それで彼はシンデレラを解放してくれたので、シンデレラはサンドラと一緒に宮殿を出て馬車に乗った。馬車がシンデレラの自宅に向かう。
『サンドラ、あの人にフレデリックとか言ってたね。知ってる人?』
シンデレラはサンドラが“フレデリック”の前に殿下(votre atlesse)と言ったのを聞き漏らしていた。
『まあ彼を知ってる人は多いね』
『どこかの貴族の息子さん?』
『あ、シンデレラ、あの人を好きになったね』
『そういう訳じゃ無いけど』
シンデレラはもう馬車の中でドレスを脱ぎ男の服を着て、ウィッグも外し、お化粧も落とした。
『ずっと女の格好してればいいのに』
『そういう訳にはいかないよ。ボクが女の子になったら、みんなびっくりする』
『そうかなあ。みんな、やはり君は女だったのかと言うと思うよ』
「あのぉ、このセリフも凄く引っかかるんですけど」
とアクア。
「気のせい、気のせい」
と鳥山。
家に着くと、シンドルは部屋の暖炉を焚き、母や姉が飲むかもと思って、インドで買ってきたアッサムのお茶も入れた。
やがて母と姉が帰ってくる。
『お帰り。お疲れ様。どうだった?』
『素敵なパーティーだったわあ』
『王子様は色々なお嬢さんと踊ってたけど、最後にひときわ可愛い女の子と30分くらい踊っていたよ』
『その人が本命?』
『かもねー。その子が帰った後はずっと席に座っていたし』
『ふーん』
『でもお料理も素敵だったわあ』
『へー』
『シンドルも女の子だったら連れて行きたかったよ』
『あはは。ドレス着てみようかな』
『マジで女の格好してみる?』
『女装罪で逮捕されたら困るからやめとく』
と言いながら、よくボク今日は逮捕されなかったなと思った。
シンドルが用意したインド紅茶を「美味しい美味しい」と言って飲んで、母と姉は寝た。シンドルはつい微笑んだ。
翌日、また母と姉は出かけて行った。そして母たちが出かけてすぐ、サンドラがやってきて、ウィッグをかぶせ、女の服を着せて、“男の子シンドル”を“女の子シンデレラ”に変身させる。今日は赤いドレスにルビーの首飾りをつける。そして今日は金の靴を履いた。
『この首飾りもあんたのお母さんの形見だよ』
『そんなのが残ってたなんて』
今日はシンデレラは泣かなかったが、やはり実母のことを思い出すと女の子らしい気分になった。
今日も馬車で出かける。昨日の馬車は2頭立てだったが今日のは4頭立てで昨日のより立派である。
馬車は昨日より少し奥の大きな馬車がたくさん駐めてある所に駐める。
「ここ貴族様専用じゃないの?」
「大丈夫、大丈夫」
馬車から降りて宮殿の中に入る。フレデリックがすぐにこちらを見つけてやってきた。
『踊ろう』
『はい、フレデリック』
『君の名前を聞き忘れていた』
『シンデレラです』
『可愛い名前だ』
その日、シンデレラは時々休みながらもひたすらフレデリックと踊っていた。
やがて11時半になる。帰らなければ母たちが帰宅する。
『済みません。今日はこのあたりで』
『明日も来るよね?』
シンデレラがサンドラを見ると彼女は頷いている。
『参ります』
『待っているよ』
それでシンデレラは宮殿を退出し、馬車に乗って帰宅した。
シンドルはまた暖炉を入れて、今日は中国の祁門(キーマン)茶を入れておいた。やがて母と姉が戻って来る。
『お疲れ様』
『今日は王子様はずっとひとりのお嬢さんと踊っていたよ』
『へー!』
『昨日最後に踊った人。可愛い子だったわあ』
『ずっとその人と踊っていたということはその人と結婚するのかな』
『そうだと思うよ。それで明日発表するんだと思う』
ボクも今日はずっとフレデリックと踊っていたけど、彼から結婚してと言われたらどうしよう?とシンドルは悩んだ。ボクが女の子になっちゃったら、商売も困るし、お母さんたちも困るしと考えると、女に戻る訳にはいかないと思った。
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