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■夏の日の想い出・星導きし恋人(13)
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(C) Eriko Kawaguchi 2021-06-05
「人魚姫は東雲はるこちゃんで動かしてはいけないというのがよく分かりましたよ。はるこちゃんって、いつも儚げな表情してるから、人魚姫のイメージにぴったりだ」
とディレクターさんが言った。
「もう少し楽しそうな顔しろとよく言われます」
とはるこ。
『人魚姫』の撮影が全て終わってから、東雲はるこが、ひとつ疑問を出した。
「でも登場人物の名前が似てましたね〜。マリナ、マリア、アリナ。何度か言い間違っちゃった」
「私もだいぶ言い間違った」
と内野音子(侍女アリナ役)。
「まあ個々事情があったんだけどね。人魚姫は海の人だからマリンからマリナ。修道女は聖なる人でマリア、アリナは実は元々この役には浜坂アリナさんがアサインされていたから、ご本人の名前を流用した。コロナで出演できなくなって、内野音子さんに代わってもらったけど」
と鳥山プロデューサーが言う。
「ああ」
「コロナが落ち着くまでは急遽代役さんでのプレイになるケースを想定しておく必要がありますねー」
「それを代替できなくて中止に追い込まれた公演も多いですね」
「予算が無い所では起きがちだね」
「でも中止になると凄い損害が出る」
「落ち着くまでは仕方ないね。スペイン風邪は2〜3年で落ち着いた。今回も似たような期間で落ち着いてくれることを祈るしかない」
「だけど登場人物が似た名前ってのは、別の解釈もあるよね」
とディレクターさんは言ってから、こちらを見ている町田朱美を指名した。
「はい、町田君」
「心理学的な解釈としては、実はその3人、特に人魚姫と修道女は実は同一人物という考え方もあると思います」
と朱美は答える。
「へー!」
と東雲はるこが感心しているので、思いもよらなかったようだ。
「私もそれちょっと感じた」
と言っているのが宮村尚子(人魚姫の姉役)である。
「要するに人魚姫は海の宮の姫君とは名乗れないから、記憶喪失の身元不明の娘ということになっている。でもそれでは王子妃になるのは難しい。だから商人の娘という確かな出自の人物に生まれ変わって王子と結婚したのかもって」
「だったら、全然悲劇的結末ではないじゃないですか!」
「いや原作では、人魚姫と修道女は顔がそっくりという設定になっている。それは両者が実は同一人物であることを示唆していると思う」
「やはり風の精霊になった人魚姫が王子妃にキスして終わるというのが、この物語の性格を表しているんだよ」
「この物語は作者アンデルセン自身の失恋体験を契機に書かれたらしいね」
と内野音子が言う。
「だったら、アンデルセンは自分の心に決着をつけるために、最後を美しくまとめたのかも知れないですね」
「自分を捨てた人と、自分から恋人を奪った人の幸福を願う。物凄く深い愛だね」
“彼”はまたマクラ(アクアF)から責められていた。
「裸の女の子を抱いた感想はどうだった?」
「・・・・」
「どうしたの?」
「いや、あのボディダブルの子、男の子だったからびっくりした」
「へー。ちんちん付いてた?」
「付いてないように見えたけど、タックかも知れない。僕には区別がつかない。あまりじろじろ見る訳にもいかないし」
「女の子のお股をじろじろ見るなんて、即逮捕・去勢刑でいいね」
「だからあまり見ないけどさ。でも身体を触った感触が男の子だったんだよ。胸は微かにあった。中学1年生くらいの女の子の感じ」
「ふーん。中学1年生の女の子を抱いたことあるんだ?」
「いちいち突っかかるなよ!」
「まあ今日はいたわってあげるよ。お疲れさん」
「ほんと疲れた。なんか普通のドラマ撮影の倍の密度で撮影した。7日で撮っちゃうようなボリュームじゃなかったよ」
「ラピスラズリは忙しいからね〜。それに隔離でかなりスケジュールくるったし」
「だけど龍はあの子たちの倍以上忙しいんだろ?」
「まあ4倍くらいかな。ラピスの10倍忙しい所を、葉月がかなり代役してくれるし、私も半分の仕事を負担してるから、2人とも4倍程度で済む」
「ほんと大変だな」
「あ、優しい言葉掛けてくれてる」
「そりゃ好きなんだから優しくするさ」
アクアはその『好き』という言葉にピクッとして、彼をじっと見詰めた。
「ところで魔女役の人、女の人と思ったら男の声だったからびっくりした」
と、東雲はるこは撮影の後、川崎市内のホテルで同じ部屋で休む町田朱美に言った。
「滝野英造さんは時代劇とか刑事物とかで、よく悪役をしてる俳優さんだよ。怪しい魔女の役だから、男の声で話すのが効果的というので今回起用されたと聞いた。でも女装するとちゃんと女に見えるのが凄いよね。声さえ出さなきゃ女で通る。あの程度のおばちゃんは普通にいるもん」
「うん。見ただけでは全然気付かなくて、声聞いてぎょっとした」
「そのぎょっとする表情が良かったから、そのまま残したみたいね」
「きゃー、恥ずかし−」
と東雲はるこは本当に真っ赤になった。
この子は歌はうまいけど、やはり演技はダメだなあと町田朱美は思うのであった。
「でもこの物語って、元ネタでは、人間の女と人魚の男の悲恋物語だったらしいね」
「へー」
と言ってからしばらくはるこは考えていた。
「ねね、男の人魚って、ちんちん付いてるの?」
「さあ。お魚さんのオスにはちんちん無いけどね。メスが産卵したところにオスが精液を振りまく。本当に人魚姫が王子と結婚したら、人魚姫が卵を産んだ所に王子が精液をふりかけないといけなかったりしてね」
「何か嫌だ」
「でも蕪島さんのお陰で助かった。あんな私にそっくりの女の子がいたなんて」
「あの子、男の子だったね」
「嘘!?」
「だから胸が全然無かったんだよ。監督は気付いたみたいだったけど、性別なんて些細なことだから何も言わなかったんだと思う」
「でも声は女の子だったよ」
(むろん実際の声はアフレコで東雲はるこの声に差し替えている)
「きっと去勢してんじゃないの?」
「最近は去勢する男の子多いのね」
「たまたまそういう人の多い領域に私たちがいるだけだとは思うけど」
(カブちゃんは元々アクアの代役なので《こうちゃん》(山村)に言いくるめられて“アクアに声変わりが来るまで”睾丸を《こうちゃん》が預かっている。更に女性ホルモンまで飲まされている(それで少しだけ胸がある)が、アクアにいつ声変わりが来るかは不明である!)
「でも信濃町ガールズの男子メンバーは全員去勢してるんでしょ?」
「してない。してない。中世の聖歌隊じゃあるまいし。ガールズの男子で去勢しているのは、上田姉妹と**君・**君だけだと思う」
「木下君もだよね?」
「彼は去勢してない」
「だって声変わりしてないじゃん」
「睾丸機能不全だと思うよ。時々あるんだよ。クラインフェルター症候群には見えないから単にゴナドトロピン(*1)が低いんだと思う。アクアと同じ。普通は医師が男性ホルモンの補充を勧めて男性の二次性徴発現を促すけど、彼は拒否したんだと思う。声変わりしないのが好都合だから」
(*1)性腺刺激ホルモン。男性の場合は男性器の発達、女性の場合は女性器の発達を促す。胎児の段階でこれが極端に低い場合は出生時に性別を誤認される場合もある。
「アクアは性転換手術済みだよね?」
「そんなのしてない。おっぱいの見える衣装つけてる時はバスト偽装してるだけ。物凄く精巧なオーダーメイドのブレストフォームつけてる。醍醐春海先生の従姉さん(*2)だかの務めている会社の製品。たぶん200-300万する。更に女の子みたいな香りのする香水つけてる」
「うっそー!?」
(*2)これはMに関しては事実。正確には桃香の従甥・芳彦の妻・舞耶が務めている岐阜県の会社の製品である。本来、乳癌で乳房を切除した女性のためのもの。ケイナも使用しているし、上田信希も“使用していた”が、どちらも廉価版で、龍虎が使用しているものほど精巧ではない。それでも信希はその廉価版で心電図や内科医の診察をパスしている。
香水(ラクトンC10/C11を含む香り製品)に関しては、Mは『夏の飛び魚』撮影の時は付けずに行ったものの、いつもつけているのでその微かな残り香があり、琥珀は『あ、龍ちゃんのいつもの香りだ』と思った。
3月末にCDのセールスが10万枚を突破して4人目の「デビュー歌手」となったYe-Yoであるが、5月上旬に長野県の安曇野(あずみの)に行き、その美しい風景を背景に、写真集の撮影をした。
国営アルプスあづみの公園、穂高神社、八面大王足湯、大王わさび農場、安曇野ちひろ美術館、おそばやさん!、焼肉屋さん!、ソーセージ屋さん、“おやき”屋さん、などを訪れて、写真を撮っている。数枚、姉の甲斐波津子も一緒に写っている写真(足湯・おそば屋さん・焼肉屋さんなど)もあり、姉妹の仲の良さを示していて、微笑ましい。
「しかし結構よく食ってるな」
「Ye-Yoは細いから、たくさん食べた方がいい」
この写真集は6月上旬に発売され、ファンを中心に10万冊も売れるヒットとなった。
6月上旬、Ye-Yoと似たような時期に、羽鳥セシルも2冊目の写真集を発売した。最初の写真集は、東京周辺の様々なスポットで撮りためた写真で構成したものだったが、今回は5月上旬にまだ寒い北海道で撮ったものである。前回は彼女のプロデューサーである雨宮三森が自ら撮影したものだったが、今回は女性の写真家に撮ってもらっている。セシルと撮影班は実はワゴン車で車中泊で北海道を移動しながら、いい場所があったらそこで即撮影をしている。
写真家さんと助手さん、セシル、雑用係の酒本和香マネージャーの4人の旅である。女性だけのクルーなので気兼ねのない楽しい旅になりました、とセシルはコメントしていた。Ye-Yoの写真集もだが、こちらの写真集も色々なものを食べている絵が多い。
イカ焼き、トウモロコシ、ジャガバター、牛肉の串焼き、アイスクリーム、札幌ラーメン、旭川ラーメン、エスカロップ、ザンギ、ジンギスカン、蟹・蟹・蟹。
「これだけ食べてたら楽しかったろうな」
「ハードな仕事してるみたいだから、このくらい食べても太らないだろな」
などと写真集を買った人のコメントには見られた。
こちらの写真集も10万冊を突破し、デビュー写真集ほどではないものの、充分なヒットとなった。
常滑舞音も写真集の撮影中だったが、これについては後で述べる。
常滑真音が歌うシンデレラ主題歌を含むCD『プレルージュ/ガラスのエンブレム/風読みシンドバッド』は5月26日(水)に発売された。注目株・舞音のCDだけに最初の1週間で30万枚売れてランキングの堂々トップだった。しかし『シンデレラ』のドラマが放送されると、その話題性からこの曲のセールスも急上昇。6月中旬には100万枚を突破してしまった。
常滑舞音4枚目のミリオンであり、これでミリオンの数だけで言うと、舞音はデビュー後わずか3ヶ月で、1年前にデビューしたラピスラズリを追い越してしまったことになる。
3.03 『とことこ・なめなめ・招き猫/マネがマネのマネをした』
3.24 『とことこ・なめなめ・招き猫(kuroneko mix)/マネ・イズ・マネー』
(両者あわせてミリオン)
4.21 『タイカジキ、カニエビ、イカタコ、サケマグロ/舞音の招きマネキン』
5.12 『風のいざない/マイルドな夜明け』
5.26 『プレルージュ/ガラスのエンブレム/風読みシンドバッド』
また『とことこ・なめなめ・招き猫』は、海外でもかなり話題になっているらしく、海外版をFMIが発売することになった。それで舞音は英語・フランス語・ドイツ語・スペイン語・ロシア語・中国語の歌詞での歌唱を吹き込んだ。またこれに先立ち、舞音はFMIともアーティスト契約を結んだ。§§ミュージックの歌手でFMIとの契約を結んだのはアクアに続いて2人目である。
FMI版は少し楽曲の組合せが異なる。
『とことこ・なめなめ・招き猫(oversea mix)/マネがマネのマネをした』
『舞音の招きマネキン/マネ・イズ・マネー』
『風のいざない/マイルドな夜明け』
『ガラスのエンブレム/風読みシンドバッド』
PVについては一部海外の倫理規定にそって若干の編集を行っている。
"oversea mix" はアルバムに収録した "Tokoname mix" とは読み込んでいる縁起物・名産品が少し異なっている(主として倫理上の問題)。これは後に(国内向け)統合版が出ることになる。
取り敢えず6月に↑の1-2枚目を販売し、3-4枚目は8月に発売することになった。
多数の外国語でたくさん歌った舞音は「頭の中がもうフライン語になりました!」
などと言っていた。
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