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■夏の日の想い出・星導きし恋人(10)
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若葉は7月くらいに予定しているアクア写真集の発売と、それに合わせて“鏡の迷宮”を公開するのに合わせ、交通がネックであったミューズリゾートについて、ロープーウェイの導入を決めた。
ミューズパークより下方の県道沿いに大きな駐車場を作り、そこからミューズ空港までの間にケーブルを張ってロープーウェイを設置したのである。
ゴンドラは6人乗りの小さなもので、これを当面は原則3人で運用する。相席は家族や友人、同性の同僚に限る。子供の場合は(親が抱く乳児を除いて)全部で6人以内であれば親と一緒に乗せる。
ミューズパークの駐車場(100台程度は駐められる)があふれる可能性を考え、県道そばに、小浜市と共同で5000台収容できる駐車場“ミューズ駐車場”を作ったので(元々あった空き地を整地してアスファルト舗装し駐車枠の白線を引いただけ)、そこから、ミューズパーク、ミューズタウン、ミューズヒル、そしてミューズ飛行場までを結ぶ。索道の総延長は3kmほどである。
ゴンドラは各々隣接する駅までを往復するが、降りずに次の区間へ直行させることも可能である。このような方式にしたのは、区間ごとに輸送密度が大きく違うことが予想されたためである。
各々の“駅”では、ゴンドラはいったんケーブルから外れて停止(放索)するので、そこでゆっくり乗り降りできる。乗り降りが完了したらゴンドラはまたケーブルに留めて(握索)移動していく。スキー場のゴンドラなどでよく見られる方式である。直行させる場合は下から昇ってきたゴンドラをそのまま上に向かうケーブルに留めてしまうが、この作業はゴンドラに設定されていて自動で行われる。料金は全線200円均一なので駐車場から飛行場まで行っても200円である。(飛行場に用事がある人は直接飛行場の駐車場に乗り入れた方が良いと思う)
ゴンドラは乗ろうとしている人の数を見て適宜追加・削減する。取り敢えず50個発注したので、大型バス2台分程度の輸送能力である。座席は消毒清掃がしやすいプラスチックシートである。座席と手摺りは乗客が降りる度にアルコールを含む布で拭かれる(自動掃除)。乗客にも乗り降りの際に手をアルコール消毒してもらう。また非接触式の体温計で体温チェックをしていで体温の高い客は警備員が排除する。
コロナ状況下では大型の輸送器具があまり好ましくないので、こういうものを考えたということだった。コロナが落ち着いたら大型のゴンドラに交換して大型輸送機関として運用することも可能だと若葉は言っていた。そのためケーブルは最初から大型のゴンドラを支えられる仕様のもので作成する。
「要するに索道式エレベータだよね」
などと若葉は言っていたが、確かにエレベータの感覚にとても近いと思う。唐津城の“斜行エレベータ”(むしろ登山エレベータ?)などに近い気もする。
自動消毒システムはほぼ実験のレベルなので、随時改良していくと言っていた。
ミューズタウン上空を循環する支線も作ったので、このロープーウェイに乗って、ミューズタウンの“碁盤公園”を空中から観覧するのもよい。つまり、単なる移動手段としてだけでなく、遊覧のための設備としても使える。
また碁盤公園は周囲約800mを循環する“電動SL”と屋根付きトロッコ列車を導入することも決めた。SL(蒸気機関車)の形をした充電式の電気機関車(イギリスなどで非電化区間に従来のディーゼル車の代わりに導入が進んでいるもの。日立製)で駆動音が静かである。ちゃんと連結棒も動くし、蒸気(ただの水蒸気)も出る。トロッコ列車にしたのは、客車を密にしないためである。外気に曝されていれば比較的安全だ。
他に、市側はこれを最も広報してくれたようだが、鏡の迷宮に隣接して30m×30mの“マウンテンプール”、ミューズパークの一角に40m×40mの“ビレッジプール”を作り、両者の間をスライダーと歩くプールでつないだ。
このプールは感染拡大防止の観点から、当面の間、小浜市・舞鶴市・敦賀市および間に挟まれた美浜町・若狭町・高浜町・あおい町の住民のみが利用可能で、運転免許証などで住所を確認できないと入場できない。また未就学児は親または中学生以上の兄姉が抱いて滑り降りる必要がある。80歳以上は申し訳無いが使用禁止である。年齢は係員が見た目で判断して声を掛けるので、90歳でも60歳に見える人はスルーになる。でも見た目の若い人はそもそも肉体も若いことが多いので、多分その運用で問題無い。
スライダーは斜面部分のみなので、碁盤公園の部分では、SLの隣を歩いて行くことになる。ビレッジ側からマウンテン側に行くには並行した“昇るイルカさん”に座っていけば良い。イルカさんは循環しているので降りて行くイルカさんもあるが、危険なのでこれには人を乗せない。
なお、夏季以外はこのスライダー部分にロング滑り台を設置する予定である。
「冬はどうすんの?」
「スキー場にしようかなあ」
「そこまで雪はつもらないと思うけど」
そして、藍小浜と碁盤公園の間の空きスペースに屋台村(夏季のみ営業)を作ることにした。小浜市内の飲食店からテイクアウト用の料理を買い取り、ムーランのスタッフで販売するのを基本とするが、お店が自分でそこに商品を持って来て販売してもよい(但しムーランの“感染防止基準”を守ってもらう)。
そこで食べ物を買って、碁盤公園内のベンチに座って食べてもらえばいいという趣旨である。。各ベンチにはゴミ箱を完備してポイ捨てを防ぐ。また、清掃スタッフ(防護服着用)も巡回してクリーンな状態を保つ。
また、ミューズ飛行場を拠点として、ヘリコプターによる若狭湾遊覧飛行なども実施することを決め、ヘリコプターを4機も購入した。これでかなりリゾートっぽくなってきた。藍小浜は昨年大浴場を増設したが、今年春には旅館棟も増築した(以前ヘリポートのあった場所に建物を建てた)。とにかく当面は客の密度を下げるためにお金を使う。
「冬、ヘリコプター“4個”買うからさ、冬も“1個”買わない?そしたら5個まとめて発注するから。5個だと少し安くなるのよ」
と、若葉は私に電話して来て言った。
「でもヘリコプターとか使うかなあ」
「最近、郷愁飛行場と東京ヘリポートの間で結構ヘリ飛ばしてるみたいじゃん。1個買っといたら?そしたら気兼ね無く使えるし」
「ああ、それは使うかも知れない」
ということで§§ミュージックでもヘリを1機買うことにした。基本的には若葉の言う通り、郷愁飛行場と東京ヘリポートの移動用である。これを主として使うのは、コスモスとアクアになりそうである。コスモスは本当によくあちこち飛び回っている。新木場の東京ヘリポートを使うことで節約できる時間は30分程度にすぎないが、その30分が惜しいのが、コスモスとアクアだ。
機種はエアバス・ヘリコプターズ社のAS355“Twin Star”エキュレイユ2(Ecureuil-2 6人乗り) である。エキュレイユは(動物の)リスの意味である。私もこの機種には過去に何度も乗っているが、ヘリにしては高速(200km/h)である。航続距離が700kmほどもあって使い手がある(Do228は400kmしかない)。双発機で安全性も高い。熊谷と小浜の距離は330kmなので余裕でその間の移動にも使える。むしろ“移動”に役立つヘリであり、“遊覧”用途には微妙な気もするが、まあいいのだろう。
千里が個人で所有していて以前ミューズタウンのヘリポートに置きっぱなしにしていたもの(多くの人がただの展示で、飛ばないのだろうと思っていた。現在はミューズ飛行場にずっと駐機していることが多い)、また若葉が個人用に実際使用して、それであちこち飛び回っているものとも同型機であり、パイロットの融通が利くのも利点だと私は考えた。価格は9000万円ということだった。5機まとめて買うので“少し”安くなったと言っていたが“かなり”安い気がする。パイロットはムーランエアーで募集を掛け、1人をこちらに出向扱い(関東勤務)にして専任パイロットになってもらう予定である。
アクアを女役だけをするドラマに出したことに怒りを露わにした人物が居た。
アクアプロジェクトの事実上のリーダー絹川和泉である。
和泉はコスモスの所に来て厳重に抗議するとともに
「揺り戻すよ」
と言って、アクアが間違い無く男子であることを見せるドラマの話をまとめてしまった。
放送局は昨年夏、放送回数4回の短編ドラマ『サーファーたちの夏』を放送したЯRテレビである。ネット局の数は少ないものの、アクアが主演するドラマであれば、遅れネットでも放送してくれる地方局が出ることを期待できる。取り敢えず首都圏や関西圏の視聴者は見てくれる。
タイトルは『夏の飛び魚』という、オリンピックを目指す若者たちを描いた群像劇で、とてもタイムリーな企画である。今回も放送回数は4回である。アクアを男子水着姿にするので、確かに胸が無いことを視聴者にアピールできる。
「でもそもそもオリンピック、本当に開催されるの?」
と疑問の声があがるが
「開催されると信じて動かなきゃ、何もできない」
と和泉は言う。
出演者として、日本水連!に乗り込んで交渉し、今回のオリンピックには出ない中堅の男子選手・女子選手10人ずつに出演してもらう話を付けてしまった。水連も広報になるというので喜んで協力してくれた。加えて、代表選手の過去の大会での映像も一部提供してくれた。今回はそういう訳で水連の全面的な協力の下に制作できた。
俳優・女優さんとしては、“100mを4分程度以内に泳げる人”というのを条件に人選を進めた結果、8人の男性俳優、10人の女性俳優を、和泉自ら審査するオーディション(演技テストの後、深川アリーナで実際に100m泳いでもらった)で選んだほか、最近一部で人気が高まりつつあった男子大学生バンド“クロード・プッシー”の4人を丸ごと採用。また大人気ガールズユニット UFOの3人も丸ごと採用した。UFOのメンツはYe-Yoなども出演している『3×3大作戦』で様々なスポーツをやらされて鍛えられているので、水泳も平気で2000m程度は泳ぐことができる。スピードはやや遅めだが、いいことにした。
でも出演者の多くがアクアは“オリンピックを目指す女子水泳選手”の役だと思っていたので“男子水泳選手”の役と聞いて驚いた。
「おっぱい曝すの、まずくないですか?」
「アクアにはおっぱいとか無いから大丈夫」
「そんな馬鹿な」
「彼女Dカップくらいありますよ」
「ちなみにアクアちゃんの水泳の実力は?」
「日本水連の資格級で女子10級の認定証をもらっている(*1)」
(*1)100mを59.26秒で泳げば女子の10級である。男子だと6-7級相当。
(日本水連の資格級は“数字が大きいほど優秀”。一般的な級とは逆である)
「それ結構速い気がする。小さな大会なら入賞できそう」
「あれ?でも女子なの?」
「送られてきた認定証を見たら女子と書かれていた」
「やはりアクアちゃん女子なのでは?」
しかし実際にアクアが男子水着姿で登場すると
「なんでアクアちゃん、胸が無いの〜?」
と共演者たちの声。
「だって、ぼく男だし」
「君、本当にアクアちゃん?」
「吹き替えで誤魔化していないことを証明するために、彼女にも参加してもらった」
と和泉が言って連れて来たのはアクアの高校時代の同級生・星原琥珀(##プロ)である。但し彼女は選手の役ではなく、選手の友人役である。昨年放送した『サーファーの夏』では、アクアが間違い無く本人であることを確認するのに、わざわざ松梨詩恩が出演していた番組にアクアをゲスト出演させたのだが、松梨詩恩は§§ミュージックの系列プロダクション♪♪プロの所属である。そのため松梨詩恩は所属事務所との関係上嘘をついたのではと疑う声もあった。そこで今回は§§ミュージックと全く関係のないプロダクションである##プロに所属している星原琥珀を連れてきた。##プロは、この業界では老舗プロダクションのひとつで§§ミュージックにも∞∞プロにも影響を受けない。
和泉が男子水着姿のアクアと、女子水着姿の星原琥珀にしばらく会話させる。琥珀がふざけて?アクアの身体にあちこち触ってる!
「間違い無くアクアちゃん本人だと思います」
と星原琥珀は証言した。
ということでやっと撮影は始まったのであった。
「だけどアクアちゃん、乳首が大きいね」
とクロード・プッシーの坂月が言う。
「子供の頃からの病気の治療薬の影響で大きくなったまま戻らないんですよ。治療薬の投与はもう中学時代に終わっているんですけどね」
とアクアは言っていた。
「ああ、高校1年の頃はアクアちゃん、胸が微かに膨らんでいて、やはりおっぱいの出来かけなのでは?と思ったけど、3年生の頃は膨らみはほぼ消えていたね」
などとアクアを水泳の授業でも見ていた星原琥珀は証言した。ただし琥珀は高校時代のアクアが“いつも女子水着を着ていた”ことや女子更衣室で着替えていたことは言わなかった。実は同じ更衣室で着替えていたからアクアの実胸を見ていたのである!
しかし乳首が大きいことは昨年のドラマでも指摘されていた。
逆にそういう乳首を持つことがアクア本人である証明にもなるというのが和泉の意図でもあった。
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