広告:放浪息子(8)-BEAM-COMIX-志村貴子
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■春一(23)

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ところが真白の家のひとつ手前の家からひとつ後ろの家までの間が“非武装地帯”になっていた。
 
「これは凄い」
と4人とも言った。
 
「いらっしゃーい」
と真白と奧さん?夫?の女性が出て来て青葉たちを歓迎してくれた。
 

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「ここはお客様なんて普段無いから」
などと2人は言っている。
 
「たまに近所の人が来て『この家に来るとホッとする』とか言うんですよ」
「ああ、この近くの家も辛いでしょうね」
「お母さんはお仕事ですか?」
「そうです。看護師ってほんと激務みたいですね。ここ2年ほどはとにかく感染しないように感染しないようにと凄く神経使ってるから精神的に疲れると言ってました」
「大変だぁ」
 
「でもこの家の防御は凄いね。7年前に見た時から遙かにグレードアップしてる」
「押し寄せてくる軍勢は相変わらずです。450年経ってもひたすら同じ事の繰り返しなんですね」
「よく続いてるよね」
「でも前衛・後衛を作ったからだいぶ守りやすくなりましたよ」
「うん。人が少なくなったからできることかな」
 
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青葉と千里は“神社からの受信機”となっている神棚にお伊勢さんの金杯を置いた。
 
「凄い。パワーがあがった」
と真白が驚くが、真白の後ろに居る“子”があまり面白く無さそうな顔をした。神社からパワーが供給されれば彼自身のパワーも上がるはずだが、神様の監督が厳しくなるから、勝手なこともできないので不愉快なのだろう。
 
「これ前衛・後衛も強化できます?」
「強化しよう」
と言って、青葉と千里は前衛・後衛の家の神棚には銀杯を置いた。
 

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「でもここって根本的な解決は難しいんでしょぅね」
「どうも薔薇が結界として効果あるみたいだから。このあたり一帯薔薇園にしちゃうとか」
「それ町内会で提案してみようかな」
「いいかも知れないね」
「取り敢えず今残っている住人さんたちにも薔薇の生け垣を作るの勧めるのは価値ありますよね?」
「それは間違い無く効果ある」
 
帰り際、千里は「御守り」と言って、真白・美里、真白のお母さん、そして真白の“後ろの子”にもひとつずつ鈴をあげた。
「これ財布とかに付けといたら守ってくれるはず」
「ありがとうございます」
 
真白の後ろの子もこれは喜んでいた。
 

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それでこの日はこの地区を後にしたが、青葉は里まで下りてから千里に訊いた。
 
「ちー姉、最後に何したのさ?」
「真白ちゃんが見落としていた穴を“通した”だけだよ」
「へー」
 
「バイパスを作ったように見えました」
と真珠が言う。
「私もトンネルか何かを作ったように見えました」
と明恵。
「きみたちよく見てるね〜」
と千里は言った。
 
「真白ちゃんはあの凄まじい霊集団を堰き止めようとしていた。でも堰き止めるだけではいつか決壊する。私がしたのは、そのパワーの通り道を作ってやっただけ」
 
「通るとどうなるの?」
「里から来る上杉軍と山から来る長(ちょう)軍が戦うだろうね」
「なるほどー」
「それでお互い消耗してくれればいい」
「毒を持って毒を制す、みたいな」
「ま、それに近いかもね」
 
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真白は町内会で、
「このあたり寂しいから薔薇を植えませんか」
と提案。それが受け入れられて、この集落の入口一帯に薔薇が植えられた。
 
また真白は今残っている家にも薔薇の生け垣を作ることを勧めた。それを作った住民が、凄く過ごしやすくなったと喜んでいたので、結局今残っている全戸が薔薇の生け垣を作った。年寄りだけの家は、真白と美里が手伝ってあげた。
 
そういう経緯でこの地区は“薔薇の集落”としてテレビなどでも紹介されることになる。わざわざ見に来る人もあったが、昼間なら霊感の弱い人には特に異常は感じられない。昼間なら、薔薇の写真を撮っても変な物は写らない。
 

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真珠が言った。
「真白ちゃんに聞いたんですけど、今あの地区に残っている住人って全員女性なんですって」
「へー」
 
「やはり女のほうが男より耐性あるのかな。コロナも男の死亡率高いし」
と明恵は言うが、青葉はあることを思い出した。
 
「あの子が初めてあの式神と会話した時、式神が言ったらしい。男の子はみんな戦争に行って死んでしまったって」
 
「うーん・・・・」
「あの後ろの子、女装してましたよね?」
と明恵。
「君たち“視力”がいいねぇ」
 

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「青葉さん言ってましたでしょ?真白ちゃんの大伯母さんが“間違って”真白ちゃんに女の子用の部屋、妹さんに男の子用の部屋を指定したって」
 
「あっ」
 
「大伯母さんは間違ってなかったんだ」
「真白ちゃんは男の子として生きられなかったのかも。女の子になっちゃったから生き延びられたのかも」
 
「奧さんの美里さんの家は全部女ばかりの姉妹だと言ってた。第1子は男の子だったけど3歳で亡くなったんだとか」
 
「男が生きられない土地か・・・」
 
「こないだ話してた時、美里さんのお父さんも実は女装好きなんだって言ってた。特に下着は女物しか着ないし、ブラジャーして会社にも行ってるって。お化粧とかお母さんより上手いから、美里さんはお化粧をお父さんから習ったらしい。女装してるお父さんを見慣れてたから彼氏の女装も気にならなかったって」
 
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「なるほどー」
 
「じゃ真白ちゃんも守護霊とかの働きで女性化したのかな」
「いや、女の子になっちゃったのは本人の性格だと思う」
「確かに確かに」
 
「女の子しやすい環境があったからそれを本人も利用しただけだよね」
 

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9月中旬、七尾警察署は、石川県内に住む40代の男性2人を呼び、まずは任意で取り調べをおこなった。
 
被疑者のひとりが所有していた車は4月25日に廃車にされており既にスクラップになっていたので、車自体からは証拠を収集できなかった。ただ廃車手続きをした中古車屋さんは、車の前部に何かに激しくぷつかった跡があったことを証言した。被疑者は「電柱にぶつかった」と言っていたらしい。
 
9月16日、七尾警察署はこの2人を死体遺棄容疑で逮捕したことを発表した。2人が、被害者が行方不明になった4月23日15時に七尾市内のホームセンターでスコップを2つ買っていたことがクレジットカードの記録とお店の記録から判明したこと、被疑者の自宅に残っていたスコップに付着していた土が遺体発見現場の土と同じ物であるという鑑定が出たこと、被疑者2人のGoogleMapの情報から2人がともに当日七尾城に行っていたことが判明したこと。
 
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そして、遺体を埋めた穴の中から回収されていた毛髪が、被疑者のものとDNA鑑定で一致した。
 
決定的な証拠を突きつけられた被疑者2人も犯行を認めた。警察の発表を受けてマスコミは被疑者を実名報道した。
 
この2人に警察が到達した経緯は、匿名の電話があったからと説明された。マスコミは被疑者周辺の人物からの情報提供を推察していたようだが、被害者の父親は、金沢ドイルさんが実は霊視に成功していたのではと思った。
 
でもきっと騒がれたくないから匿名の密告という形で警察に情報提供したのではと考え、その想像は誰にも言わなかった。そして伏木に向かって深く頭を下げた。
 
逮捕の発表があってから、2人の友人たちの複数が、彼らが
「女を撥ねてしまった」
と言っていたというのを証言した。
 
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この友人たちは犯人隠匿罪の疑いで事情聴取されたが、いづれも書類送検のみで不起訴となった。それらの友人たちは「捕まる前に警察に自首した方がいい」と本人たちに勧めたらしい。警察はこの友人たちの誰かが情報提供者ではと考えたようだが、全員が通報を否定した。警察は恐らく他にもこの話を聞いた人物がいて、その人が通報したのだろうと考えたようである。
 

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9月17日(土・8/22大安たつ).
 
S市の人形美術館がリニューアル・オープンした。式典には、市長、N県議、なども列席して、コロナの折短時間ではあったものの、華やかな式典が行われた。
 
〒〒テレビはもちろん、他の民放局にNHK、地元のケーブルテレビなども取材に来ていた。ラジオηηの真白も取材に来ていて、真珠と目が合い手を振っていた。
 
しかし多くのテレビ局は
「お堀に囲まれた素敵な美術館です」
と言っていた。まさかこの建物自体が池に浮かんだ船であるとは思いも寄らなかったようである。
 
膨大な数のビスクドールたちが、春・夏・秋・冬の4つのゾーンに分けて展示されている様子、スイスイ1号にナビゲートされたウォーキングドールのマリアンが人形たちの間を巡回している様子、とても広くなった喫茶室などがテレビ映像では紹介される。この日は遙佳がピアノを弾き、歩夢がフルートを吹いたが、その様子もテレビ画面には流れていた。
 
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ちなみに人形のレイアウトは最初遙佳1人でやっていたのだが
「とても間に合わない!」
と言って、歩夢や広詩も動員され、高田舞花・晃の姉妹も応援に駆け付け、最後は遙佳・歩夢のクラスメイトたち、更に真珠・初海などTIFのメンバーも泊まり込みで手伝いに行って、何とかリニューアルオープンに間に合わせた。
 
並びには若干不満はあるものの、少しずつ調整していくと遙佳は言っていた。
 
「人形が勝手に動くんじゃなくて、遙佳ちゃんが動かすのね」
「そうそう。勝手な移動は禁止」
 
「でもきっと仲のいい子同士夜中は勝手に近くに寄っておしゃべりしてるよね」
「そういうの想像するのはやめよう」
 

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9月17-19日(土日祝).
 
青葉は伏木の自宅でミュージシャンアルバムの取材をした。
 
9月16日夕方、Gulfstream G450 に、下記の人々が乗って、熊谷の郷愁飛行場から能登空港に飛来する。
 
ラピスラズリ、ケイ、赤いトマトとマネージャー、倉田ミチコと付き人、白浜イズミと付き人、羽鳥セシル
 
以上13名の他にパイロットが2名乗って定員いっぱいである。今月からパイロット複数制で運用するようになったのでG450は13人しか乗らない。それで羽鳥セシルについては『ケイが乗っているからマネージャーさんいいよね』ということにした!
 
(これ以外にベビーベッドがあるが、ベビーベッドに乗れそうな人は居ない)
 

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飛行中に羽鳥セシルの性別が話題になる。
 
「羽鳥セシルちゃんって、元男の子だったけど性転換して女の子になりましたって言ってるけど、なんかキャロル前田ちゃんとかローズクォーツのタカコさんみたいな普通の性転換した元男性とは雰囲気違う気がする」
と倉田ミチコちゃんが言った。
 
(↑キャロルはいいとしてタカまで性転換した元男性と思われている)
 
「それ私自身もよく分からないんですよねー」
などとセシルは言っている。
 
「私、2年前の夏までは確かに男の子だったんですけどね〜。町でスカウトされて(*39) 『君、女の子みたいに可愛いから、女の子の服着て写真集撮らない?』って言われて。私、小さい頃から『男の子にするのもったいない、女の子になっちゃいなよ』とか言われてたから、女装も少し興味あって時々スカート穿いたりはしてたんですよ。それで写真集とか恥ずかしいけど若い内しか女装写真なんて撮れないしと思って応じたんですよ」
 
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(時々ではなくいつもだと思う)
 
「それがファースト写真集だよね。だからあれを撮った時はまだ男の子だったハズ」
とケイが補足する。
 

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「ちょうどスカウトされたのが夏休み入ってすぐで、夏休みいっぱいかけて写真集の撮影したんですけど、結果的に夏休み中、ずっと女の子の服を着てたら、もう男の子の服を着たくない気分になったんですよ。それで夏休みが終わったら、女子制服で学校に行けないかと母に相談したら、性同一性障害の診断書もらおうと言われて病院に行って」
 
「セシルちゃんの話はそのあたりからがどうもよく分からない」
とケイは言う。
 
「それで診断書もらってから学校に女子制服で出ていったけど、実際には女子制服で登校しても何も言われなかったから診断書も提出しなかったんだよね。そのうち、あんたは法的な性別を変更したほうがいいと母から言われたから、裁判所に申請して法的には女性になって。それでしばらく学校に通ってたけど、法律上女になったのに身体がまだ男の子なのは後ろめたい気がして。それで性転換手術受けて、身体も女の子に変えたんだよね」(*40)
と羽鳥セシルは言う。
 
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「その話は矛盾している」
と赤いトマトの岸森由美代が言う。
 
「みんなからそう言われますー」
とセシル。
 
「性転換手術を受ける前に性別が変更できるわけがない」
と倉田ミチコ。
 
「その辺り私も法律のこと詳しくなくて。でも性別変更を申請したのが9月で11月に認可がおりて、でも性転換手術を受けたのは12月なんですよねー」(*40)
 
「そういう訳でセシルちゃんの話はさっぱりわからないんだけどね」
とケイは言う。
 

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