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■春一(9)

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8月16日(火).
 
東京で妹の萌花と一緒に『竹取物語』の制作に参加していた吉川日和(はるかず/ひな/ひより (*19) )は、この日の夕方、熊谷の郷愁飛行場から能登空港へHonda-Jetblackで送ってもらった。
 
「何か往復ともぼくひとりって申し訳無いですー」
と日和は言ったが、外人女性のパイロットさんは
 
「でもこの飛行機を飛ばす燃料費は、東京から富山まで自動車で走る場合の燃料費より安いんですよ」(*18).
と言う。
 
「うっそー!?」
「なにせホンダの製品ですからね」
「日本のメーカーって凄いですねー」
 

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(*18) 燃費はもちろん自動車のほうが良いが、関東−富山間はアルプスを迂回して走る必要があるので飛行機の倍の道のりを走るため、こういう逆転現象が起きる。むろん飛行機にしては燃費が無茶苦茶良いホンダジェットのみの話。
 

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(*19) “日和”は、みんなが色々な読み方をするので本人もどうでもいいと思っている。学校ではバスケ部を震源に“ひより”という読み方が広がり、よく“ひよちゃん”と言われる。行きつけの美容室の先生は“ひな”と読む。かかりつけの病院でも「よしかわひなさん」と呼ばれる。両親まで“ひーちゃん”などと言うので、今や“はるかず”と読む人は居ない!
 
兄は“はるな”と呼んでいた。多分“日和”を“はるな”と読むのは兄だけ。
 
妹の萌花は“お兄ちゃん”と呼ぶが
『お小遣いくれたら“お姉ちゃん”と呼んでもいいよ』
などと言っていた。
 
「別にぼく女の子になりたいわけじゃないよ」
「そんな見え透いた嘘を」
 
日和は小学生時代から、妹に“お下がりのスカート”をよくもらっていた。日和のほうが身体が小さいから、吉川家では萌花のお下がりを日和がもらう。
 
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『竹取物語』は登場人物が100人を越える、映画並みの大作(制作予算20億円と聞いた)で、それを8月20日に放送するというのに、主演のアクアは8月8日からしか参加できないという、あり得ない日程で制作されていた。
 
一応今日で日和を含む大半の役者さんは解放されたものの、明日ラストシーンの撮影があるらしい。このドラマは大量のCGも使用されるが、それは撮影前から作業が進んでいたと聞いた。
 
このドラマは夏休み中に放送しなければならない→8月20日に放送する必要がある/それなのにアクアの日程が鬼畜すぎる
 
というので、こんなギリギリのスケジュールで制作せざるを得なくなったらしい。
 
だからアクアが絡まない部分は実は7月頭から撮影・録音が行われていたという。
 
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「なんかこの半年くらい『アクアの日程の都合がつかないので、このCMは代理の松梨詩恩(羽鳥セシル・水森ビーナ・白鳥リズム・町田朱美(*20) )がお送りしております』なんてのが多かったもんなあ」
 
などと日和は思っていた。
 
アクアの忙しさが限界を越えてCMにも出られなくなり、同じ事務所の他のタレントさんが臨時代理を務めていたようである。テレビ番組への出演も少なくなっていたし、と日和は思った。
 
(アクアのテレビ出演がこの春以降減っていたのは、コロナ対策でテレビ局と事務所の話し合いが決裂してアクアを初めとする∞∞プロ系列のタレントが降板したものも半分くらいはあった。しかしアクアは多数の番組から降板したおかげで、何とか日程の都合が付いた)
 
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(*20) 東雲はるこの演技力にあまりにも問題があるので、最近はCMとかには町田朱美のみで出ることが多い。それでもギャラは、朱美の希望により、2人で山分けしている。
 
朱美の弁
「歌ではラピスラズリはほとんどはるこの力だけで売れてるのにギャラを山分けしてるから、こういうのでは私が頑張らなきゃ」
 

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※アクアの日程
 
2.26-3.04 『陽気なフィドル』制作
3.05-06 震災イベント
11月−3月中旬『少年探偵団』制作
3月下旬−5月上旬『黄金の流星』制作
5月上旬−6月下旬『お気に召すまま』制作
6.08 『黄金の流星』サントラ(舞音)発売
6.14 『黄金の流星』公開
7月いっぱい:アルバム制作
8/1-8/7 アルバムのMV制作
8/8-8/17 『竹取物語』制作
8.10 『お気に召すまま』公開
8.10 『お気に召すまま』サントラ発売
8.17 アルバム発売
8.20 『竹取物語』放送
 
結局様々な事情により映画を2本続けて制作せざるを得なくなり、営業上の問題から8.17にアルバムを発売せざるを得ず、一方で“昔話シリーズ”では夏休みの目玉として『竹取物語』をアクア主演で撮りたかったので、こういう無茶な日程で進行した。
 
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8.20をすぎると、北海道・東北、また関東や北陸の一部では夏休みが終わって学校が再開されてしまうので、このドラマ(実質映画)は8月20日放送という日程が動かせなかった、
 

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アクアも大変だったが、『竹取物語』も含めて映画を立て続けに3本、厳しい日程で撮った河村監督のチームも全くお疲れさんである。チームは実は『お気に召すまま』の撮影が終わった所で、編集作業をする河村・美高の2人以外の(矢本かえでを中心とする)スタッフにより、『竹取物語』のアクアが絡まないシーンの撮影がスタートしていたのである。
 
他のチームで撮影できたら良かったのだが、物語進行と撮影日程をバラして予定調和的に撮影を進めていくし、出演者がダブらないシーンは同時に別の場所で撮影し、またボディダブルを積極的に使って出演者のダブりを解消するという手法は、ハリウッド仕込みの河村監督のチームにしかできないことでもあった。
 
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しかしこのシステムのおかげで、役者さんは自分が絡まないシーンまで立ち会わなくても済み、体力消費が少ないし、スケジュールがあまりずれないので予定時刻まで休んでいることが出来て、演技の品質もよくなりNGも減る、という好循環ができている。しかも週休2日である(但し今回はさすがに休み無しでお願いした)。
 
元々はクラウス・ユンケル監督がハリウッド時代に開発した手法で河村はユンケルの助手をしていた。撮影のスケジューリング・ソフト(Perl)も元々はユンケルが書いたものである。但し現在このソフトのユンケル版と河村版はスプリットしており、仕様が微妙に異なっている。
 

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日和が能登空港に到着し、パイロットのエリッサさんにお礼を言って降機すると、母が車で迎えに来ていてくれた。
 
「お母ちゃんありがとう」
「楽しかった?」
「うん。楽しかった。奈良時代の物語だから、まだ十二単(じゅうにひとえ)とかは無いんだって。遣唐使が行われていた時代だから天皇やお役人の服も民間人の服も唐風なんだって言ってた」
 
「へー。それで何の役をしたの?」
「萌花と一緒にかぐや姫のお付きの役。かぐや姫が舞を舞うシーンではその介添え役とかもしたよ」
「ふーん」
 
それってやはり女性のお付きだよね?と母は思った。
 

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「そうだ、日和。先週担任の寺下先生が来たんだよ」
と母は運転しながら言った。
 
「あ、何か用事だった?」
 
「あんた、6−7月はブラウスとズボンで通学してたでしょ」
「うん。ぼくがワイシャツ買いに行っても、ブラウス渡されるんだよねー」
 
(↑女子がワイシャツ下さいと言ったら普通ブラウスのことだと思う)
 
「それはいいんだけど、ブラウス着るのなら学校指定のブラウス着て欲しいと言われて。私とりあえず3枚買ってきたから」
「あ、ありがとう」
 
でもそれって結果的には女子制服なのでは?と日和は思う。
 
「新学期始まったらそれ着て行きなさいね」
「うん。そうしようかな」
 
「先生が『スカート穿いてないのは、何か健康上の問題ですか?いかにも身体弱そうですもんね』と言ってたけど。『確かに中学までは毎月1回休んでいたんですよね。高校に入ってからは4月に1度休んだだけですけど。でもスカートの件は本人と少し話し合ってみます』と言っておいた。念のためパンティストッキングとかタイツも買ってきたけど、あんたスカートとタイツとかで登校する?先生は『吉川さんなら、夏にタイツ履いててもいいですよ』と言われたけど」
 
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「えー?どうしよう」
 
でも・・・寺下先生、ぼくの性別誤解してるってことないよね?と日和は思った。
 
(↑いやきっと“正しく”理解しているのだと思うぞ:学籍簿上の性別も既に修正済みだったりして!)
 

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家に帰ると父が
 
「萌花、寂しそうにしてなかったか?」
と訊いたが
 
「元気そうだったよ」
と日和は答えておいた。寂しくしてたのはむしろ父だろうなと思う。
 
「お前も東京に行くのなら、いっそ一家で東京に引っ越そうか」
などとも言っているが、日和は言っておいた。
 
「タレントを全部寮に入れてるのは、感染防止対策もあるんだよ。だから東京に実家がある人でも寮に入っている。面会も制限されている」
「そうなんだ?」
 
「アクアとかラピスラズリは独立して別の所に住んでいるけど、買物係を雇って、自分では直接お店には行かないようにコントロールしてるんだよ。ウィルスフリーの状態を作るのに凄いお金掛けてるんだよね」
 
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「大変そうだな」
 
「所属タレントは外食禁止、一般のコンビニも5分以上滞在禁止で、お昼などの混む時間帯はそもそも利用禁止。タクシーを含めて公共交通機関使用禁止。毎朝体温測定とか厳しく健康管理されている。ハイヤー会社をまるごと買って私用でもそこの車で移動するようにして、飛行機を10機くらい買って専用の飛行場まで作ったのも、感染防止のため。何百億というお金を掛けてタレントをウィルスから守っているから、家族と会うのにも制限があるんだよね」
 
「凄いことしてるな」
 

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「寮は凄く強い換気が掛かってたね」
と母が言う。
 
(引越の時、父は車の中で寝ていたので寮内には入っていない)
 
「うん。30分で空気が完全に入れ替わるようになってるらしい。ウィルスは空気より重たいから、基本的に天井から給気して床から排気する(*21)。フロアとフロアの間に換気のための層が作られている。それから寮内に銀行のATMを設置してるから銀行やコンビニにお金下ろしに行く必要がないし、寮自体にコンビニまで併設している。そこで振込とかの手続きもできる。門の中にあるから一般の人は利用できない」
 
「徹底してるなあ」
 
「きちんと健康管理されてない家族と頻繁に会ってて、それでタレント本人が感染したら、そこから感染が広がって、アクアとか舞音ちゃんとかにも移す危険がある。そしたら被害は測り知れない。せっかく何百億もかけて感染対策しているのが無駄になっちゃう」
 
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「とても補償しきれないな」
「だから全員を厳しく健康管理する必要がある」
「コロナが終わるまではどうにもならんなぁ」
というので父も面会が制限されていることを理解してくれたようである。
 
「でもみんなが我慢しているおかげで、タレントやマネージャー・バックバンドの人にはまだ1人も感染者出してないからね」
「さすがだな」
 
(*21) 新館は最初からこの層を作り込んでいるが旧館でも全部屋に配線用スペースを兼ねてOAフロアを敷いてそこから排気するように工事した。また給気用の二重天井も作ったので5cm×2=10cm 天井が低くなった計算になるが、元々天井の高さは270cmで作られていたので充分な余裕があった。
 

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