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■春一(7)

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すぐにドアが開く。
 
「ひさしぶりー」
「これお土産」
「こんなのいいのに」
と言いながらも中に招き入れられた。
 
「急がないなら御飯食べてって」
「わっ、ありがとー」
 
それで邦生、パートナーの真珠(まこと)さん、妹の瑞穂さん、そして春貴の4人で楽しく会話しながら食事をした。
 
「へー。女子バスケット部の顧問してるんだ?」
「最初ルールも知らなかったから大変だった。実は3月に千里さんの知り合いのプロレベルの選手に3週間指導を受けた」
「おお、それは凄い」
「インターハイの予選では富山県3位になって、インターハイには行けなかったけど北信越大会に行って、1回戦は勝ったけど、準々決勝で負けた」
 
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「元々強い所?」
「いや、少なくともここ5年ほどは1度も勝ったことないと言ってた。地区リーグでも最下位争いしてたらしい」
 
「そのチームを数ヶ月で県3位にしたのは凄いと思う」
「ラッキーだった部分が大きいけどね。県予選で2度も不戦勝があったし」
「コロナで?」
「それもあった」
「だけどラッキーも実力の内だよ」
「そう選手たちには言ってる」
 
「来年が正念場かもね」
「それは千里さんとかにも言われた」
 

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30分くらいした所で、真珠さんと瑞穂さんが
「部屋に行ってるね」
と言って、真珠さんがドーナツ2個、瑞穂さんが4個持ち、リビングから出て行った。
 
それで本題になる。
 
「実は宝くじに当たったんだよ」
「ドリームジャンボ?」
「そうそう」
「5億円?」
「前後賞の1億円だけ」
「それにしても凄いボーナスだね。その件、誰々に話した」
「邦生ちゃんが最初のひとり」
 
邦生は目を瞑って腕を組んで考えていた。
 
「春貴ちゃん、恋人とかいるんだっけ?」
「全く。その候補になるような人もいない」
「親とかにも話してないの?」
「銀行の人が親には話さないほううがいいと言った」
「それ賛成。親に話すとだいたい悲惨な結果になる」
 
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「それで邦生ちゃんに話した。誰にも言わないのがいちばんいいかも知れないけど、それって人間の心理的に凄く難しい。だから誰か1人だけと秘密を共有したほうがいいと思ったんだよ」
 
邦生は頷いていた。
 
「“【その日】から読む本”もらった?」
「さすがだね。こんな本のこと全然知らなかったよ。もらって一通りは読んだ」
 

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「だったら基本的にその本に書いてある通りなんだよ」
と邦生は言った。彼女は仕事柄その本は読んでいたらしい。
 
「まず当たったことは誰にも言わないこと。仕事は辞めないこと。借金があったらまず最初にそれを全部返すこと」
 
「車のローンは夏のボーナスで全部返した」
「成人式の振袖ローンとかは?」
「それはもう完済してる」
「奨学金は?」
「忘れてたぁ!じゃ当選金もらったら最初にそれを返すよ」
「うん。それがいい」
「あとは結婚資金・子供の教育費」
「私結婚とかしてくれる人いるかなあ」
「大丈夫だよ。世の中には色々な人がいるんだから」
「そうかもね!」
 
かえってそんな言われ方したほうが、もしかしたら結婚できるかもと思った。
 
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「春貴ちゃんは、むしろ結婚詐欺には気をつけたほうがいい。宝くじとは関係無く。普通の女性でも容貌や教養が劣っている女子とか、水商売の女性とか詐欺に遭いやすい。甘い言葉を言われて、この人は自分を認めてくれる。結婚してくれるかもと思って多額貢いでしまう」
 
「ああ、それは肝に銘じたい」
 
「だから男性と交際する場合も、結婚するまでは、場合によっては結婚したあとも、資産を持っていることは言わない方がいい」
 
「結婚前に言うと、かえってそれで関係が壊れるよね?」
「残念だけど、とてもありがち」
 

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「借金返して結婚資金確保したら、ひとつだけ何か楽しむといい。普通なら買わないようなもの買っちゃうとか、海外旅行に行ってくるとか。基本的には換金性の低いものがいい。趣味の道具とか。楽器とかバイクみたいな。家を買うのはそれを担保にお金を借りるという道を残すから、特に親きょうだいから何か言われる危険がある」
 
「うん。それってわりと危険だよね」
と春貴は先日、花山星子さんと話したことを思い出していた。
 
「だから不動産買う場合は、ローンで買ったように装うのがお勧め。それでローンの返済が苦しくてとか言っておく」
「なるほどなるほど」
 
「そして楽しむのはひとつだけにして、あとは自分でも簡単に取り崩せない形にして、そのことは忘れる」
 
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「うん。忘れるって大事だよね!」
「お金があると思っていると、お金ってすぐ無くなっちゃうんだよ。気がついたらもうほとんどゼロになってるとかあるから」
「ありそう〜!」
 

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「まあ使い道はゆっくり半年くらい掛けて考えるといいよ。ぼくにはいつても相談して。電話くれてもいいし、取り敢えずメールでもいいし」
 
「うん助かる。誰にも話してはいけないけど、ひとりだけで抱えるには重くて」
「まあ1億円は重いよね」
 
春貴は相談に乗ってもらったお礼も兼ねてH銀行に定期を作ろうかなと言ったが、邦生は
「ぼくと春ちゃんとの間に利害関係は作らないほうがいい」
と言い、
「定期作るなら、みずほ銀行でもいいのでは。みずほ銀行は支店が金沢市・富山市にしかないから、より“手を付けにくい”」
と言った。
 
「普段使いの銀行と資産運用のための銀行は分けたほうがいい」
とも言う。
 
それでその方向で考えることにした。このあたりも、邦生ちゃんに相談して良かったと思った。
 
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彼女は投信を買う場合に買ってよい投信と絶対やめとくべき投信を“個人的見解”として教えてくれた。
 
「一般的に美味しそうに見える投信、信頼できそうに見える投信ほど危険」
「ああ、そんなものだろうね」
「特に****系は絶対やめた方がいい。いかにも信頼できそうに見えて実はタコ足投信が多いから」
「要するにババ抜きか」
「そうそう」
 
また株をやる場合の基本的な注意、FXをやる場合の基本的な注意、仮想通貨をやる場合の注意なども教えてくれた。特に“やめといたほうがいい”銘柄については、仕事上はあまり言えない話だと言っていた。話を聞いていると、彼女はかなり自分でも投資経験が豊かなようである。多分給料がいいから、それで投資しているのだろう。
 
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この日の話は4時間くらいに及んだ。彼女と話したことで、春貴は随分心が楽になったし、お金の管理方法について、だいたいの指針をかためることができた。やはり邦生に相談して良かったぁと思った。
 
彼女は最後にも
 
「絶対儲かるという話は絶対詐欺だから」
と言っていた。
 
春貴は結局この日はここに泊めてもらい、翌朝(8/2)、氷見に帰還した。
 

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8月2日(火).
 
S市にランチ専門店“琥珀”がオープンした。事前に大量にチラシも配ったし初日は人形美術館の建設(?) をしている人(?) たちが大量注文してくれたこともあり、100食も売れる好スタートとなった。
 
食材が足りなくなり、オーナーの桜坂は、最後レストラン・フレグランスから食材を少し分けてもらって何とか乗り切った。それと同時に輪島まで走って食材を大量に仕入れてきた。(近所では夕方にはお肉とかがあまり残ってない)
 

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8月2日(火).
 
H南高校女子バスケ部の公式練習があるが、土日に東京に行って来た日和が
「お土産〜」
と言って、“信濃町ガールズ人形焼き”を配っていた。
 
「おおこれは珍しいものを」
「24個入りだけどメンツは半年に1回変わるんだって」
「Best24に入るのも熾烈な競争なんだろうな」
「妹さんもこのメンツに入れたらいいね」
「はい!」
 
なんでも型は3Dプリンタで作るらしい。一応この商品ができてから歴代の型が保存されているので復刻版を作ることも可能らしい。
 

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「あ、それで部長、済みません。来週いっぱいと、もしかしたら再来週の火曜も休むかも知れません」
「いいけど何か用事あるの?」
「それが東京に行って妹の部屋に荷物運び込んでいたら、向こうの部長さんに声掛けられて」
「もしかしてスカウトされた?」
「そういう訳じゃないんですが、ドラマに出てくれと言われて来週その撮影があるんですよ」
 
「ほんとにスカウトされたんだ!」
 
「さすがに違うと思いますけど、今感染防止対策でエキストラって使わないらしいんですよ。それで身内の関係者を端役に使ってるらしくて」
「なるほどー」
 
「だからきっとセリフも無くて立ってるだけですよ」
「ふーん」
 
でもただ立ってるだけの人の役をわざわざ富山から呼ぶか?
と愛佳たちは疑問を感じた。
 
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「東京では一週間ホテル暮らし?」
と舞花は何気なく訊いた。
 
「いえ。寮の妹の部屋に同居します。布団は貸し出してくれるらしいです」
「ふーん」
 
そこって女子寮ではないのか?と舞花たちはツッコみたかったが、やめといた。
 

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8月6日(土).
 
この日ホーライTVの中日本地域限定放送(*15) で墓場劇団の公演が有料放送(*16) されたが、その放送の最後で座長の泣原死亡は先日、“願い石”のおかげで劇団が上昇気流に乗ったと言ったのは勘違いであったと謝罪。実は妻の泣原戦死が頂いていた、一言主神社の御札のおかげだったと訂正。その御札をカメラに映した。
 
(*15) プレミアム会員は他地域からも視聴できる。また、あけぼのテレビなど姉妹ネットのプレミアム会員(など)も視聴可能。
 
(*16) 中日本地域の一般会員は1000円。ホーライTVのスーパープレミアム会員は追加料金なし。プレミアム会員や他ネットの会員は各々設定された料金で視聴できる。
 
最初の5分は無料で見られ、そのあと料金が必要になるので、番組制作側は最初の5分で大いに笑わせたりするなどの工夫が必要である。
 
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死亡の謝罪は正確には番組放送が終わった直後の無料放送時間帯のCMとして放送された。それで死亡は規定の広告料を払っている。
 

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8月11日(木).
 
宝くじの当選金1億円が春貴の、みずほ銀行の口座に振り込まれた。
 
春貴は邦生のアドバイスに基づき、まずは大学時代・大学院時代に借りた奨学金を繰り上げ返済した。それから先日大型免許を取った時のローンも一括返済した。
 
また予め作っておいたSBI証券と楽天証券の口座から3000万円ずつ“吸い上げ”をネットで指示した。これで無料で資金移動できる。また500万円×4=2000万円はみずほ銀行の総合口座に設定されている定期預金口座に移動させ500万円ずつ4本の定期預金にした。
 
また、みずほ銀行金沢支店とH銀行金沢支店の間(約50m)を5回往復して、H銀行の口座に500万円移動した。一度にやらずに100万円ずつ5回に分けて移動したのは万一ひったくりにあった場合の用心である。(貧乏性なので振込手数料がもったいない)
 
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春一(7)

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