広告:乙女心?の自由形 (おと★娘シリーズ5)
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■春一(14)

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8月23日(火).
 
H南高校はこの日から授業が再開された。高田晃は姉に宣言したようにズボンで登校した。クラスメイトから言われる。
 
「晃ちゃんスカートじゃないの?」
「だってスカート穿くの恥ずかしくて」
「ああ、まだ慣れてないのね」
 
晃はトイレも女子トイレには入らず、わざわざ本棟1階の職員室近くにある多目的トイレを使用した。また体育の時の着替えも女子更衣室を使わずに面談室で着替えた。
 
「やはり急に女の子になっても、15年間男の子の振りしてたら最初は怖いのかもね」
と言ってクラスメイトの女子たちも理解してくれた。
 
晃はこのまま卒業までこの方式で押し通すつもりである。
 

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もっとも部活の時は他の女子と一緒に着替えているし、更衣室付属のトイレを使っているので
「意味なーい」
とクラスメイトでもあり同じバスケ部の美奈子に言われた。
 
男子部から“留学”してきていた青木君と湖中君が男子部に戻ったので日和が唯一の男子(?) になるが
 
「ひよちゃん、恥ずかしがらずに前向いて着替えなよ」
などと言われて前を向かされる。日和も§§ミュージック音楽教室では毎週女子たちと一緒に着替えていることもあり、素直に前を向いた。
 
それでAカップサイズの胸が確認できるブラジャー姿、何も膨らみが無い股間が確認できるショーツ姿を見られて恥ずかしそうにしていた。
 
「ひよちゃん、少し胸が膨らんできたね」
「そうですか?」
「きっと生理が来たせいだよ。これからきっと急成長するよ」
などと言われていた。
 
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晃は「やはりこの子女性ホルモン飲んでるんだろうなぁ」と思って見ていた。
 

ところで日和は、夏休み前は無地のブラウスとズボンという格好で登校していたのだが、夏休み明けからは学校指定の校章が入ったブラウスにズボンという格好で登校してきた。襟元に女子と同様のボウタイも結んでいる。
 
それで2時間目が終わって女子が数人トイレに行こうとした時、ちょぅど日和が男子トイレに入ろうとした。
 
そこを五月にキャッチされる。
 
「ひよちゃんは、こちらに入らなきゃ」
「え〜?女子トイレに入ったら叱られますよ」
「いや君はむしろ男子トイレに入ると叱られる」
と言って強引に女子トイレに連れ込んだ。
 
それで列に並ぶが、むろん誰も変な顔とかはしない。むしろ
 
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「ひよちゃん、『竹取物語』に出てたね」
と他のクラスの子に言われる。
 
「あ、ひよちゃんだ!と思った」
「凄く可愛かった」
「はずかしーですー」
などという会話をみんなとした。
 
「どこかの事務所と契約したの?」
「妹がオーディションに合格して契約したんです。それで引越の手伝いに行ったら音楽部長さんに声掛けられて、とりあえずドラマに妹と一緒に出ただけですー」
 
「ああ、それで姉妹タレントとして売り出すのね」
「そんなことないと思いますー」
「でもひよちゃん歌も上手いもん。きっと売れるよ」
「あのドラマでもいい動きしてたもん。きっとファンメールとか来るよ」
「でも殆どセリフらしきセリフも無かったし」
「いやセリフはちゃんとあった」
 
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などという感じで、土曜日に放送された『竹取物語』のことをたくさん話した。
 

そういう訳で、日和はこれ以降、学校“でも”女子トイレを使うことになった。
 
日和が女子トイレ“慣れ”している感じなので、たぶん学校外ではいつも女子トイレを使っていたのだろうなと、みんな思った。
 

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音楽の時間には
「ひよちゃん凄くうまくなってない?」
と言われる。
 
ピアノ係の子が
「ちょっと音域確認しようよ」
と言ってドレミファソファミレドで半音ずつ上げながら歌わせて音域確認するとD#6まで出ていた。
 
「凄い高い声まで出てる。コーラス部でもここまで出る子は居ない」
と言われる。
 
「音楽教室に3回行っただけで、出るようになったぁ」
「どこの音楽教室?」
「§§ミュージック音楽教室というんだけど」
「ああ、音楽系高校に通るレベル歌えないと入学試験にパスしないという噂の所」
「ひよちゃんなら試験通るかもね」
「試験受けてない。招待されてレッスン代もタダにするからと言われたから行ってみた」
「特待生!?凄い優秀なんだ!」
 
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グラナダに来ている青葉Rはここでは誰にも邪魔されずにたっぷり泳ぐことができて満足だった。世界水泳まではたくさん泳いでいたものの、その後、編曲の仕事あり、妊娠して行動に制限がかかったりで、7月は全く泳げなかったのでかなりストレスが溜まっていた。
 
“ここにいる”千里は、どうも地元の新聞社の仕事をしているようである。
 
「世界各地のスポーツ関係の報道を翻訳する仕事をしている。もう6年くらいになるかなあ」
「へー。そんなことしてたんだ?」
 
「だからずっとスペインの就労ビザを維持している。来年にはスペインの永住権が取れる」
「へー!」
 

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一方伏木にいる青葉Lは、とても不満だった!
 
妊娠が発覚してから水泳が禁止されるし、活動時間も制限されて21時には寝るように言われるし。それでも7月27日まではアクアのアルバム編曲作業をしていたので張り合いがあった。しかしそれが終わると、暇で暇でたまらない!
 
「何かお仕事したいよぉ」
と、ワーカホリックの青葉は、暇な状態に耐えられない気分だった。
 

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真珠が青葉の所に来て言った。
 
「わざわざ青葉さんに頼むほどのことでもないのですが、『霊界探訪』の9月放送分のネタが足りないんですよ。詰まらない案件で申し訳無いのですが、お願いできませんか?」
 
「やるやる!」
と言って青葉は喜んで真珠と一緒に出掛けた。
 
朋子が
「どこ出掛けるの?」
と尋ねる。
 
「多分夕方までには戻れます」
と真珠が言う。
「まこちゃんなら大丈夫と思うけど、あまり体力使うことしないでね」
「はい」
 
真珠は妊婦って大変そう〜。やはり赤ちゃんは、くーにんに産んでもらおう、などと考えていた。
 

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「どこまで行くの?」
と真珠が運転するスバル・BRZの後部座席に座り、青葉はワクワクした顔で訊いた。
 
「七尾城です」
「昔一度処理したことあるなあ」
「へー。だったら好都合です」
「もう7年くらい前だよ」
と青葉は言う。
 
「凄く古い封印に関わる事件だった。あまりにも複雑すぎて私も取り敢えず被害を受けている家を一時的に守ることしかできなかった。深入りすると、こちらが命を落とすと思った」
 
「ああ、この世界にはその手のものがありますよね。関わってはいけないもの」
「うん、まこちゃんには真剣に言っておくけど、自分の力量と目の前の事件とを勘案して、手に負えないものには手を出さないこと。それが“長生き”するためには必要」
 
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「肝に銘じます」
 

真珠は高岡北ICから能越道に乗ったが妊娠している青葉に配慮してゆっくり走った。後ろからどんどん車が追いついてくるので、真珠は非常駐車帯を使って道を譲り(本当はこういう目的で使ってはいけない)、後方の車を先に行かせた。
 
やがて七尾城山ICで降りる。そのまま七尾城に登って行く。
 
「実はですね。この途中に1ヶ所お地蔵様があるのですが」
 
「ああ、あったね」
と青葉は7年前に来た時のことを思い出して言った。
 
「城山に登って行く時はいいのですが、降りる時に、そのお地蔵さんを2-3回見るという噂があるんですよ」
 
「ありがちな話だね〜」
と青葉は苦笑する。
 
「その手の話って全国的にありますよね」
「全く全く」
 
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七尾城は、七尾市街地から少し離れた場所にある山城である。それは現在市の中心部にある小丸山城とは別の物である。
 
山の7つの尾根(松尾・竹尾・梅尾・竜尾・虎尾・菊尾・亀尾)に曲輪(くるわ)を築いたので“七尾城”と呼ばれた。ここを舞台に、日本海交易の拠点である能登国の支配権を巡り、上杉謙信と織田信長が熾烈な戦いをした。信長も結局謙信が生きている間はここを落とせなかった。
 
謙信が亡くなって上杉家で後継者争い(御館の乱(おたてのらん))が起きている間に奪い取り、前田利家がここを任された。利家は、七尾城は防御には強いが国の支配には不便と考えた。港近くの平地に小丸山城を築き、そこで能登国を支配した。現在の七尾市街地はその小丸山城の周囲に発展したものである。
 
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青葉が7年前に関わった事件はその450年ほど前の戦乱に関わるものだった。数十年前に誰か物凄い行者さんが封印をしていたのが壊れかけていたので、青葉と千里が協力して補修したのである。
 

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真珠の車が山道を登って行っている最中、その道を歩いて登っている女性の姿があった。
 
「あ、停めて」
と青葉が言うので真珠は車を停める。
 
窓を開けて青葉は女性に声を掛けた。
「真白ちゃーん!」
 
向こうも笑顔になる。駆け寄ってきて言った。
「川上先生、お久しぶりです」
 
「ウォーキングか何か?」
「実は“お地蔵さんの謎”を調べてみようと思って歩いてました」
 
青葉と真珠は顔を見合わせた。
 
「実はこちらもそれを調べに来た。真白ちゃんはどうしてそれに関わってるの?」
「実は私、今年の春から七尾のローカルFM局のレポーターをしてるんてすよ。もしかして、川上先生は『霊界探訪』ですか?伊勢さんもおられるし。こんにちは」
「こんにちは」
と真珠も笑顔で挨拶を交わす。
 
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「そうそう。こちら、遊佐真白さんね」
「伊勢真珠です。よろしく」
「こちらもよろしく」
 

「でもだったら目的は一緒かな?」
「実は車で何度か走ってみたのですが全然現象に遭遇しないので歩いてみてたんですよ」
 
「それは遊佐さんが強すぎて、現象が出ないのかもね」
と真珠は彼女の後ろに付いている“者”を意識しながら決して目を合わせないようにして言った。
 
「そうだとすると、この3人では現象に遭遇する確率は低いかもね」
と青葉。
 
青葉も彼女のバックの“者”を意識しながら言う。青葉はその“者”が真白に完全に服従しているのを感じ取り満足した。でも青葉のバックで雪娘や海坊主が警戒している。向こうは雪娘は完全黙殺、海坊主でさえ全く意に介していない。桁外れに強い。
 
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「でも車より徒歩の方が少しでもヒントが得られるかも」
と真珠は言った。
 
ということで、3人はお地蔵さんの近くまで一緒に車で行き、その後歩いてお地蔵さんまで行ってみた。
 
まずはお参りする。青葉が
「3人分」
と言って、五百円玉を3枚備えた。それで全員合掌した。
 
「あ、分かった」
と真白が言った。
 
「私も分かった」
と真珠も言った。
 
「当然青葉さんも分かりましたよね?」
「もちろん」
 
「警察を呼びましょう」
「現場を確認してから」
 

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それで3人は探るようにして、お地蔵さんより少し上まで歩いた。
 
「ここですね」
 
真白が七尾警察署に連絡した。七尾警察署は放送局のレポーターと真白が名乗ったので、すぐ来てくれた。
 
「そこ、何かを埋めたように見えますよね」
「掘り返してみましょう」
と言って警官は現場写真を撮ってから掘ってみて、すぐにそこに人間の遺体が埋まっていることを認識した。多数のパトカーが来て、捜査が始まる。
 

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真白がラジオ局の名刺を出したし、真珠が〒〒テレビの名刺を出したし、青葉も僧侶の名刺を出したので、3人は警察に、とっても信用された。
 
「先日からここの道を降りて行く時に1ヶ所しか無いはずのお地蔵さんを2回・3回見るという噂が立っていたんです。それって、お地蔵さんが何かを知らせようとしているのではとも思って調べに来たんですよ」
と真白は警官に説明した。
 
それで3人はこの日はこれだけで解放してもらった。真白と真珠!はメールアドレスと電話番号を交換していた。
 

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後は警察のお仕事になったので、真珠と青葉はこの日は名刺を警察に渡しただけで伏木に戻ったが、その後の続報は真白から真珠にもたらされた。
 
遺体は30代の女性で4月に捜索願いが出ていた。よくウォーキングをしていたので、どこかで遭難でもしたのではと家族は心配していた。遺体の骨が酷く折れていたので、猛スピードの車にはねられたことが推測された。
 
はねた車の手がかりがなかなか見付からないようだったので、青葉Lは動きやすい青葉Rに“水見式”をしてくれないかと頼んだ。
 

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「毎日水の中で泳いでいるのに」
と文句を言いながら青葉Rは3週間ぶりに日本に戻ってきた。
 
天野貴子さんに頼んで車を用意してもらい、彼女の運転で★★院に乗り付けた。
 
「瞬葉ちゃん!妊娠しているのに車とかに乗って大丈夫?」
「マラソンとか走らない限り大丈夫です。水見式させてください」
 
それで奥の部屋に行き、水盤に水を入れる。ロウソクを所定の配置に置く。被害者の持っていた水筒の蓋を置いた。これは真白が遺族に頼んで、被害者が亡くなった時に身に付けていたものを借りて来たものである。千里経由で天野さんが持ってきてくれたので、青葉Rはそれを借りた。
 
青葉Rはここに来る前にグラナダで3時間泳いでいる。この儀式は自分が朦朧とした状態でないとできない。しかしその状態で車は運転できないので、天野さんに運転をお願いしたのである。
 
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「*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*」
 
青葉は数字を7つ言った。それを天野さんが記録してくれた。
青葉はそのまま眠ってしまった。
 
天野さんは眠ってしまった青葉にタオルケットを掛けてくれていた。
 
目が覚めたところで瞬醒さんにお礼を言って退出した。
 

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青葉Rは天野さんにメモしてもらった数字を青葉Lに伝えた。それで青葉は眷属の玉鬘に命じて、公衆電話からそのナンバープレートを警察に密告させた。
 
その結果9月中旬に犯人が逮捕されたのである。
 
『霊界探訪』は、放送(9/30)直前ギリギリにこの逮捕のニュースまで番組に取り込むことができた。
 

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「今回結局私何もしなかった気がする」
と青葉(L)は言ったが
「真白ちゃんととても仲よくなりました」
と真珠は楽しそうに言っていた。
 
「元気そうにしてたからホッとしたよ」
と青葉は言った。
 

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