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■春一(12)

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ところでこの美術館なのだが、S市はまだ数年群発地震が続くことが予想される。それで地震に強い“建物”を造ることにした。
 
播磨工務店がしたのは、巨大な“船”を作ることだった。
 
まずは敷地の奥側に直径30m, 深さ7mの穴を掘った。そこに船体を作るのと同じ要領でFRP製の外壁・床(船腹・船底)を作った。風による横揺れ防止でビルジ・キール、更には台風対策でフィン・スタビライザーまで取り付けてある。
 
この“船体”の中に地下一階、地上一階(一部2階)の建物を客船の内部を作るような要領で作り上げたのである。
 

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それで全部できたところで8月13日(土・みつ)に。池に水を入れて(進水式!)、19日(金・なる)に壁屋根付きの渡線橋を渡して竣工とした。
 
通常は風で揺れたり位置がずれないように周囲の地面と位置固定軸で固定しているが、地震の初期微動(P波)を感じたら即、軸は外れるようになっている。
 
地震の揺れは主に、初期微動を起こす縦波(P波)と、主要動を起こす横波(S波)から成る(この他に表面波などもある)。この内、縦波のP波はどこでも伝わるが、横波のS波は固体中のみで伝わるので、空気や水などの流体中は伝わらない。
 
だから池の上に浮いている船にS波は来ないのである。
 
これは例えば、水を入れた深皿に銀紙の船などを浮かべて、手で皿を横に揺すってみるといい。すると皿は揺れているのに、浮かんでいる船は慣性の法則で同じ位置に留まっている。
 
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それと同様のことをしようという作戦なのである。似たようなことをするのに、マンションの下にゴムの層(ダンパー)を入れる手法などがあるが、それをもっと徹底的にしたものである。
 

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地震が頻発している場所で地震に強い家を建てる手法として、究極の免震建築“船”というのを選択したのである。
 
実際既に水を入れて浮かべた翌日8月14日に中規模の地震(震度2-3)が2つ連続であったが美術館内部は全く揺れなかったし、震度3の初期微動で位置固定軸が外れるのも確認することができた。
 
なお、美術館の1階の高さを周囲の地面と合わせるために、池の水を適宜地下にある調整池との間でやりとりする。敷地内に降った雨水は基本的に調整池に集め、余った分は池から川に流す(水質を毎日検査して報告する条件で放水許可は得ている)。なおこの美術館の電気は太陽光パネルで作り出している。ガスは使用していない、上下水道は、揺れが伝わらないジャバラ型のパイプで接続している。また位置固定軸が外れる仕組みは機械的な機構で動作するようになっており電気を必要としない(戻すのは電気でモーターで戻す)。ウォーキングドールを誘導するスイスイ1号はバッテリー作動である。
 
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S市もこういう挑戦的な試みには興味を示していた。
 

「9月の放送ネタどうする?」
と人形の開封作業をした帰り、真珠が運転するエスティマの中で幸花は訊いた。この車に乗ったのは、真珠と明恵、幸花・初海・瑞穂、邦生・月見里姉妹である。
 
3列目は邦生が真ん中に座ったので両側の月見里姉妹から
 
「すっかり女の子らしくなったね。もう性転換手術は全部終わったんでしょ?」
などと言われて随分触られていた。
 
「ネタ考えてみたんですが、今こんな感じですね」
と明恵はGoogle Keepのメモを見ながら言った。
 
5分 青山さん妊娠レポート
5分 青葉さん妊娠レポート
5分 願い石
5分 きつねうどん
5分 人形救出大作戦
5分 人形再搬入大作戦
 
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「今の所30分程度の長さにしかならないんですよね。あと2つくらいネタがほしいです。できたらマジで心霊っぽいもの」
 
「人形美術館ネタはまとめて15分くらいにできるよね?」
「はい。他に青葉さんの妊娠レポートを長めにしたり。それにしても後ひとつくらいはネタが欲しいです」
 

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8月19日(金).
 
夏休み最後の部活が終わった後、舞花は晃に声を掛けた。
 
「来週から学校始まるからさ、日曜日、髪を切りに行こうよ」
「そうだね。夏休み中全然切ってなかったもんなあ」
「私##さんに予約入れるから、その時“妹の分”もお願いしますって頼むから」
「え?でもぼくは**さんでいつも切ってもらってるから」
「女の子が床屋さんで髪を切ることはできない。女の子は美容室で髪を切ることになっている」
「あ、そうか!」
「女の子が床屋さんで髪を切ることは法律で禁止されてるんだよ(*27)」
「そんなの法律で決まってるの〜〜?」
 
「ということで予約入れるね」
「うん。まあ」
 
性別が変わると髪を切る所まで変わるなんて!
 
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男と女って、一緒の世界で生きているようで、実は全然違うところで生きているんだったりして!?
 
晃は蚊取り線香が2つ組み合わさっている状態を連想した。まるでひとつの平面を作っているようで、実はきれいに2つに分かれている。それが男と女なのかも。
 

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(*27) かつては美容師が男性の髪を(パーマを掛けること無しに)カットだけしたり、理容師が女性の髪を切ったりするのは禁止されていた。但し高知県など一部の都道府県以外では事実上黙認されていた。
 
また1980年代以降、都会を中心に、おしゃれな男性が美容室でカットだけしてもらうというのが増え、理容室側も事実上美容室に近いコースを揃えた所が出てくるなどお互いに領域侵入が進んだ。またその頃から増えた1000円カットの店は、男性客が多いものの、たいてい設置基準がより緩い美容室として開設された。
 
法律もそういった状況を追認する形で少しずつ規制緩和が進み、2022年現在は性別制限は存在しない。
 

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8月20日(土).
 
3年生の舞花と愛佳はこの日わざわ金沢市まで行って、準大手の予備校が実施する模試を受けた。この模試は受ける人が少なく、北陸では金沢のみで実施されたのである。
 
2人とも先日受けた時に比べてかなりスムースに解けるので自分でもびっくりした。
 
結果は9月中旬に返される予定である。
 

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8月20日、日和(ひより/はるかず)の母は電話を切ってから
「しまった!2人分予約しちゃった」
と言った。
 
「ああ、つい人数、間違うよね。ぼくが訂正の電話入れようか?」
「ううん。私が入れる」
と言って母は再度美容院に電話して
「すみません。娘2人分予約しちゃったんですけど、1人でお願いします」
「ありゃ日和(ひな)ちゃん風邪でも引いた?」
「いえ。萌花が東京のほうに行っているんで日和(ひな)のみでお願いします」
「あ。そうなんだ。了解了解」
 
ぼくって身体弱いとみんなから思われるよなー、と日和は思っていた。
 
(実際毎月1回学校を休んでいた。6月にバスケ部に入ってから休まなくなった)
 
ちなみに日和は多分今まで床屋さんで髪を切ってもらったことは無い!(*28)
 
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(*28) 小さい頃、父親が連れて理髪店に行き、
「この子の髪もお願いします」
と言ったら
「済みません。理容師が女の子の髪を切るのは禁止されているので、美容院に連れて行ってあげてください」
と言われてそのまま帰ってきた。
 
「なんでこの子は男の子ですと言わないのよ」
「いや何となく」
 
ということで母親が美容院に連れて行くと何の問題もなく切ってくれた。とても女の子らしい可愛い髪型にしてもらった。
 
「可愛すぎる気がする」
「まあいいんじゃない?小さい内は」
などと言っていたが、“小さい内”だったはずが10年ほど続いている。
 

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8月20日(土) 18:30-21:30.
 
ΛΛテレビで昔話シリーズの夏休み3時間スペシャル、アクア主演『竹取物語』が放送された。18:30からという設定は、このドラマは子供も見るだろうから、子供が最後まで見せてもらえるギリギリの時間帯という選択である。18:00から始めると最初のあたりを見逃す人が相次ぐと思われた。
 
アクアがちゃんと、かぐや姫を演じているのでホッとしたと言われる。
「車持皇子(くらもちのみこ)あたりだったら見るのやめてた」
などという声もあった。
 
基本的に男役のアクアにはあまり需要がない。
 
その車持皇子(くらもちのみこ)はキャロル前田が演じていたが、
 
「いかにも嘘つきっぽくて適任」
「でもこの車持皇子のデタラメ話だけで、映画が1本作れる」
という評価であった。
 
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(昔からこの話は劇中話に留めるのはもったいないと言われている)
 

物凄く多数の人物が出て来て、しかも大物が続々出てくるので
「このドラマどんだけ予算掛けてるのよ?」
などという声もある。
 
主役級の役者・タレントのカメオ出演が物凄く多い。
 
「でもみんなアクア主演だから出てくれたんだろうなあ」
という声もあった。
 
クライマックスの月の使者を帝の軍隊が待ち受けるところは多数の兵士が並んでいて、
「凄い大規模な撮影したんだな」
と言われたが、実はこの場面はCGである!
 
『黄金の流星』で多数の国の軍隊がグリーンランドに集結した様子をCGで生成したのと同様の、まほろばグラフィックスの力作である。現在はコロナのせいで人間のエキストラを使うと感染防止対策で1人あたり10万円以上掛かる。2000人のエキストラを使うと2億円以上掛かり、それよりはCGにした方が、まだコストが抑えられるし、他の出演者に感染させる心配も無い。そもそも制作側の意図通りに動いてくれる。このCGは6月頃から制作していた。
 
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単純コピーではなく、ひとりひとりの動作タイミングが微妙にずれているし、ひとりひとりの体型、着けている装備の色あせ具合も全員違うので、あまりCGっぼく見えないのがこの会社の技術の高さである。
 

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結末に関しては
「まあこういうのもありかもね」
という意見が大半だった。
 
結構「最後泣いた」と言っていた人も多かった。
 
「松田理史とくっつくかと思ったのに」
という声もあった!
 
「これ劇場の大画面で見たい」
という声もあり、放送局では劇場での公開も検討することにした。
 

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この『竹取物語』が放送された8月20日、アクア本人は特別休暇をもらい、彩佳たち3人と松田理史、今井葉月と桜木ワルツ+比奈、も八王子の家に集まり、8+1人で、
 
“龍虎たちと西湖の誕生を祝う会”
を開いた。
 
3つのケーキを並べ、2つには21本、1つには20本のロウソクを差して火を点けふたりのアクアと葉月が各々“団扇で扇いで”消した。
 
(ケーキのロウソクを息で吹き消すのは§§ミュージック内部で禁止されている)
 
この日は田代夫妻がたくさんお料理を作って差し入れしてくれた。
 
ワルツは最初の乾杯に参加しただけで、比奈と一緒に客室に移動。後は7人だけでパーティーをした。ワルツの部屋には竜崎由結が食事を適当に取って持って来てくれた。
 
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パーティーでは、どうしてもアクアたちが中心になる所を宏恵が葉月に振ってくれて、葉月も充分楽しむことができた。でも葉月も21時にはワルツと同じ部屋に引っ込み、ゆっくりと過ごした。
 

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アクアたち6人は夜遅くまでおしゃべりしている。
 
「このままずっと話していて疲れて龍たちが眠ってしまい今夜はセックス出来ないようにしよう」
などと桐絵が言っている。
 
「だけど最近新たにアクア“双子姉妹説”というのが出て来ているみたいね」
「“双子姉弟説”は昔からあるじゃん」
 
「いや“姉弟”じゃなくて、ひょっとして“姉妹”なのではという話なのよ」
「ほう」
 
「姉弟説の弱点は、ふたりがたとえ双子でも姉弟ならホルモンの作用でどうしても体型に差が出るはずだという問題なんだよね」
「うんうん」
「ところがふたりが姉妹であればどちらも女性ホルモンの影響を受けるから、同じ体型になることもありえる」
 
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「ふむふむ」
 
「元々アクアは『男の子みたいな声は声色です』と言っていた。それが事実なのではないかと。つまりアクア姉妹は2人とも女の子の声で声質もよく似ているけど、声色で男の子の声も出せる」
「へー」
 
「だから2人は男役・女役を固定しているわけではなく、体力に余裕があるほうが出演している。だからこんなハードスケジュールをこなすことができるし、撮影の時は1時間交替とかで出演している。2人並ぶ場面は実際に2人が並んで撮影されている」
 
「事実じゃん」
「もうそれが正解ですと認めていいのでは?」
 
「ぼくは男だよー」
とM(みちお)。
 
「彩佳さんの見解は?」
「そうだなぁ。龍はちんちんもたまたまも無いし、おしっこは女の子の位置から出るし、ヴァギナもあるけど、自分は男だと主張しているみたいですねー」
「ちょっとぉ」
 
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「婚約者の証言により、“双子姉妹説”は正しいことが証明されました」
と桐絵は言った。
 
F(ふじえ)が拍手していた。
 
 
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