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■春一(10)
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日和は東京から帰った翌日、津幡で§§ミュージック音楽教室のレッスンがあるというので行ってみた。母の車で津幡の火牛スポーツセンターまで送ってもらう。教室はここのアクアゾーン2階にある。母は金沢で買物しているということだった。
日和は川内峰花(←多分花ちゃんの本名)音楽部長名のインビテーションをもらっていたので、それを提出して登録してもらった。
参加者は10人ほどである。意外と少ないんだなと思ったら、先月までは北陸三県から集まって来ていて50人くらい居たのが、各県内に数ヶ所ずつ教室ができて分割され、津幡教室はこの人数になったらしい。
でも歌・ダンスなどのレッスンはネットでつないで合同でやりますということだった。
最初に歌のレッスンがあるが、みんな凄い上手いのでびっくりした。高い音などもD#6くらい出る子がザラで、中にはF6まで出る子もいる。
「こんなハイレベルの所に自分みたいなのは場違いでは?」
と思ったが、日和もその子たちに混じって歌っていたら今まで出たこともないD6が出ちゃった。そしてみんなから言われる。
「吉川さん、上手いね」
「さすが萌花ちゃんの妹さん」
萌花はこの春の昇格オーディションで北陸トップで推薦されてリモート審査に出たが、同じ北陸の観音倭文に逆転されて昇格はならなかった。でもその後のビデオガールコンテストで入賞した。
「妹さんもビデオガールコンテスト出てたら絶対上位に入ってたよ」
「中学1年生?まだおっぱい小さいし。来年出なよ」
「いや年末の昇格試験の強力なライバルだ」
などとみんなから褒められた。
あ、でもぼく萌花の“妹”に見えるかな?
(↑うん見える。絶対こちらが下だとみんな思う)
音楽部長さんも。ぼくを中学1年と思った感じもあったし。高校の生徒手帳見せたのに!などと思っている。だけど女子の年齢っておっぱいのサイズで見分けるんだっけ??
(↑自分を“女子”に分類してる)
「いや吉川さんの場合、姉妹特別推薦で、そのまま本部生になる道もある」
「へー。そんなのあるんだ?」
と日和は言う。
「姉妹タレントってセット売りすると売れるから、現在の本部生の妹は、ある程度の実力があったら、無試験で本部生になれる特例がある」
「そんな制度があるんだ?」
「そして概して、それで入った方がお姉さんより売れる」
「ありがちありがち」
「水谷妹も、甲斐妹も、お姉さんより売れてる」
「コスモス社長自身、すごく歌のうまかったお姉さんのついででデビューした」
「へー。社長にお姉さんがいたんだ?」
というかコスモス社長が歌手してたなんて知らなかったなあ。一度聴いてみたいな。
(↑いや聴かないほうがいいと思うぞ。姉のメロディーの歌ならいいけど)
「吉川さん、萌花ちゃんに妹がいると知れたらきっと勧誘されるよ」
「なんか誘われて先週ドラマに出て来たけど」
「もう勧誘されたんだ!」
これでみんなからは“強力なライバル”ではなく本部生予定者で、むしろ仲良くしてた方がいい子、とみなされて、みんなが優しくしてくれるようになったのだが、空気が読めない日和はそのあたりの変化が分からない。
歌のレッスンが終わった後、なんとなくみんなで連れ合ってトイレに行く。
バスケ部でもそうだけど、なんで女子って一緒にトイレに行きたがるのかなあなどと思う。トシレの前まで来て、日和が男子トイレの方に行こうとしたら
「ひよりちゃん、そっち違ーう」
と言われて女子トイレに強制連行される。
「ひよりちゃん近眼?」
などと言われた。
まあいいか。女子トイレに入るのは慣れてるし!と思う。東京のスタジオ(*22)でも女子トイレに連行されてたし。
(*22) 『竹取物語』の撮影をしたのは“千葉市”のララランド・スタジオである。でも関東外の人はわりと、千葉も埼玉も神奈川も“東京”の範疇であったりする。
しかしこれで日和はここの教室に来る時は女子トイレを使うことになった。津幡の生徒には1人男子もいるが、彼はもちろん男子トイレを使う!
歌のレッスンはなぜか見学してた子で、ダンスのレッスンに参加した子がすごく身体の動きが良かった。
「君、凄くダンス上手いね」
と声を掛けられている。彼女もどうも今回が初参加だったようである。
「あ、あなたアクアちゃん映画『お気に召すまま』に出てた子でしょ?」
などと言われてる。
へー。映画に出たんだ?でもそんな子がなんで今更こんな田舎でレッスン受けてるんだろう?
(↑なんでドラマに出た日和が今更こんな田舎でレッスン受けてるんだろ?)
「この子、男の子?女の子?とよく分からなかったけど女の子だったのね」
と言っている子がいる。
「ごめんなさい。私男の子ですー」
「うっそー!?」
日和も「うっそー!?」と思った。だって女の子にしか見えないのに。
(↑日和も女の子にしか見えないけどね)
彼?彼女?を知っている子がいたようで
「墓場劇団のカノンちゃんだよね?」
と声を掛けていた。
「はい、そうです」
へー。何か劇団に入っているんだ?やはりみんな色んな活動してるんだなあ。
「でも実質ほぼ女の子だよね。写真集も出てるよ」
「へー。見てみたい」
と言っていたら、本人が持っていた。これまでの活動内容とか訊かれた時のために持って来ていたらしい。
みんなで閲覧したが、全部女の子の服を着て金沢の名所で写っている。兼六園、金沢別院、長町、老舗記念館、尾山神社、東茶屋街。
すっごく可愛い。
これで男の子なんて絶対嘘だと思った。男の子であっても絶対生理くらい来てそう。
(↑日和も生理きてるもんね)
「でもなんで歌のレッスンは見学してたの?」
「私ひどい音痴だから」
「へー。これだけダンスうまいのにもったいないね」
ダンスのレッスンの後は、汗を掻いたので全員着替える。日和は他の子と一緒に、もちろん女子更衣室を使った!でも女の子たちと一緒に着替えるのはバスケ部でもやってるし、先週の“東京のスタジオ”でもやってたしと思った。
唯一の男子・塩谷君はもちろん男子更衣室に行く。カノンちゃんも男子更衣室に行こうとしたが、女子たちから
「カノンちゃんはこっち」
と言われて女子更衣室に連行された。
「女子更衣室とかまずいよー」
と本人は言っているが
「いや多分問題ない」
とみんなに言われている。
「女の子が男子更衣室で着替えたら、塩谷君が困っちゃうよ」
うん。この子は絶対男子更衣室では着替えられない、と日和も思った。
実際彼女のレオタード姿を見ると、おっぱいは一応Aカップくらいあるし、お股の所に膨らみは無いので、どう見ても男の子の身体ではない。多分何年も女性ホルモン飲んでて、既に性転換手術も終えてるんだろうなと日和は思った。多分18歳になったら性別も女性に変更するのだろう。
(↑君のレオタード姿も女の子にしか見えないのだが)
だけど女子更衣室では、みんな歌音の着替えに注目していたので、日和を見る子はいない。それで日和は手早くブラとパンティも交換してしまった。後ろを向いて着替えたが、たぶん恥ずかしがって後ろを向いているのだろうと思ってもらえたろう。
歌音はみんなから見詰められている。
「そんなに見ないでよ」
「気にしない気にしない」
それで彼女はレオタードを脱くが、下着は交換せずにTシャツを着ちゃう。
「ブラジャー交換しなくていいの?」
「パンティ交換しなくていいの?」
「私あまり汗掻いてないから」
でもブラジャーの外側からも胸の膨らみは確認できたし、パンティには膨らみが無いので、やはり男性器があるとは思えない(←日和もしっかり見ている)。
「でも男子更衣室で着替えられない身体であることは間違い無い」
うん、そうだと思うと日和も思った。
「次回からも女子更衣室で着替えなよ」
「みんながそれで構わないなら、私は構わないけど」
「うん。全く構わない」
と全員が言った。
歌音は朗読のレッスンでもとても上手かった。さすが劇団に参加しているだけのことがあるなと思った。とても聞き取りやすいし、本当に人が話しているような読み方をする。
トークのレッスンとかもある。これはパソコンが並んでいる教室で行なった。写真を見せられて、それを描写する文章を5分以内に書きなさいと言われる。日和は3分ほどで書いて提出。90点をもらった。
おやつが出て来て、それを食べてから褒める文章を作りなさいと言われる。かなり悩んで何とか作文したが、60点だった!これ難しいよ。
先生のボケに対して、うまく受けてくださいと言われる。
「夏はやはりストーブ焚くのがいいよね」というのに対して日和は1分くらい考えてから「冷暖房費節約で南の地域に移動しましょう。南極とか」と回答したが、70点と採点された。少しひねりが足りなかった?(←たぶん時間がかかりすぎたのが問題)でもこういうやりとりを瞬間的にできるようにならないとテレビとかに出られないと言われた。
模範演技といわれて、浜菜ちゃんという子が指名されて前に出て行く。ここはネットでつないで北陸の全教室に披露された。
さっきとは違う写真を見せられて説明するが、よくこんなにしゃべるネタを見付けられるなと思った。さっきとは違うおやつが出て来て、それを褒めるが、それを聞いただけで食べてみたくなるような上手い解説だった。
「こういうの普段から、おやつ食べた時とかにグルメ番組に出ていたら自分ならどう感想を言うかって考えるんですよね」
と本人は言っていた。
「グルメ番組の場合、前に言った人と同じことばは使えないから難易度が高いです」
と先生がコメントする。
だったら5〜6人いたら、最初の人がいちばん楽で、後の人ほど大変?
最後は先生と漫才?をする!はじめは普通のやりとりをしていたが、いきなり
「なんで北陸があって南陸が無い?」
と言われる。すると瞬間的に反応して
「南海はあったけど、博多に引っ越したね」
と答えて、日和は「すごー」と思った。自分なら20-30秒考えないと答えきれない気がした。
(↑日和は南海ホークスを知らないので実は意味が分かってない)
「この模範演技、6月までは萌花ちゃんがしてたんだよ」
と隣に座っている知代ちゃんが小声で言った。
へー!あの子そんなに頭の回転よくない気がするのにと日和は思った。
「萌花ちゃんは『“おとこのこ”にあって“おんなのこ”にない物は?』と聞かれて歴史に残る迷回答をした」
え?ちんちん?と日和は一瞬思った。
「模範解答は『“と”の字』だけどさ」
日和は4〜5秒考えて意味が分かった。すごー!
「萌花ちゃんは『素敵な物いっぱい』と答えて『それ女の子だけのものやろ?』と言われてドつかれた」
↑日和は意味が分からず知代ちゃんに5分くらい掛けて説明してもらった!(*23)
(*23) 解説するのも野暮だが、元々マザーグースの一節から来ている。
What are little girls made of?
Sugar, spice, and everything nice;
That's what little girls are made of.
小さな女の子は何でできてるの?
砂糖、スパイス、そして素敵な全てのもの。
それで小さな女の子はできてるの。
What are little boys made of?
Snips, snails, and puppy dog tails;
That's what little boys are made of.
小さな男の子は何でできてるの?
切れ端、カタツムリ、小犬のしっぽ。
それで小さな男の子はできてるの。
これを使用してアニメ『Powerpuff Girls』ではガールズたちが次のようにして生成されたと説明された。
Professor Utonium in an attempt to create the "perfect little girl" using a mixture of "sugar, spice, and everything nice". However, he accidentally spilled a mysterious substance called "Chemical X" into the mixture.
この部分が日本語版では「お砂糖、スパイス、素敵な物いっぱい」と翻訳された。
最後はピアノのレッスンがあった。タッチの弱い子はエレクトーンでもよいと言われたので、指の力が無い日和はエレクトーンの所に座った。
日和はピアノやエレクトーンを習ったことはないと言ったので、最初は『中高生のバイエル』という本を渡されたが、
「なんだ弾けてるしゃん」
と言われて、『ピアノで唱歌』(きっとダジャレ)という本に交換された。伴奏はギターコードのみが表示されているが、それで左手と左足の弾き方は分かる。
「君、家にピアノかエレクトーンある?」
「はい」
「それで弾いてたのね。だったらこの本あげるからたくさん弾くといいよ」
と言われた。
萌花が生まれてから買ってもらったエレクトーンだが、結構日和も弾いていた。それで日和はちゃんと“ピアノの指”になっていた。本当の初心者だと、まずそこから指導される。
でも「君、指潜り・指替えが苦手みたいだね」と言われて、そこは教えてもらった。こんな画期的な方法があったのか!と感動した。これまで結構“指が足りなくなって”苦労していたのである。
でも丸一日、レッスン漬けでとても充実していた。これなら毎週来ようかなと日和は思った。
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