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■春一(15)
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8月26日(金).
日和はまたお股から出血していたが、そろそろかなと思い一昨日からナプキンを着けていたので、パンティーを汚さずに済んだ。また日和は学校で女子トイレを使うようになっていたので、交換したナプキンの捨て場所に困ることもなかった。
日和は東京に行った時以外はずっとマジメに部活に出てきていたので、6月に入部した頃は100m走るのに1分以上掛かっていたのが、40秒で走れるようになり
「頑張ってるね」
と奥村先生から褒められた。
美奈子や五月は、
「ひよちゃん、たくさん運動して手足の筋肉も付いてきたから、胸の筋肉も付いてきてAAカップからAカップに進化したのでは?」
などと思っていた。
彼女は夏休みが終わる前にブラジャーを全部買い直してもらったと言っていた。
部活では、4月の段階ではゴール前で立っているだけだった晃が少しバスケットを覚えて積極的に守備するようになったので、ゴールの難易度があがり、結果的に全員ランニングシュートのゴール率が落ちることになるが
「このルミちゃんの守備をかいくぐってゴール決められないとウィンターカップには行けないよ」
と春貴がハッパを掛け、みんな練習に熱が入っていた。
また晃は基本的にゴール妨害役しかしていなかったのだが、春貴は彼にランニングシュートとミドルシュートの練習もさせた。
「でもぼく公式戦には出ませんよ」
と晃は先生に言っておく。
「分かってる、分かってる。でも練習するの楽しいじゃん」
春貴は晃を紅白戦では河世と反対側のチームに入れ、河世vs晃でマッチングして対決させるようにした。これでお互いにかなり鍛えられた。
8月26日(金).
歩夢は母と一緒に中学に行き、校長先生・教頭先生・担任の先生・保健室の先生と面談し、昨日裁判所から来た通知を提出した。
「分かりました。では来週から歩夢さんは女子生徒ということで」
と校長先生は笑顔で言った。
「これ作っておきましたから」
と教頭先生が言って、新しい生徒手帳を渡してくれた。最後のぺージを見ると女子制服を着た自分の写真がプリントされており、性別も“女”と記されている。
この新しい写真は、裁判所に性別の訂正を申告したことを学校側に連絡した時点で、女子制服を着て印刷屋さんに行って撮影してもらったものである。写真屋さんは転校生だろうと思った雰囲気であった。
男子制服で写っていて、性別が男になっている、古い生徒手帳は最後のページの所に“無効”というスタンプを押された。そこに“無効”のスタンプを押された瞬間、歩夢は
「ああ、ぼくとうとう男の子ではなくなったんだ」
と思った。
これからは性別:女、という生徒手帳でやっていくことになる。
先生たちとの話し合いが終わった後、男女のクラス委員がきてくれていたので、学校生活のことを色々話し合ったが
「特に何も変わりは無いよね」
と言われた!
「トイレはこれまで通り女子トイレでいいし」
「更衣室はこれまで通り女子更衣室でいいし」
「身体測定もこれまで通り女子と一緒だし」
「つまり何も変わらない!」
母が
「あんた身体測定も女子と一緒に受けてたんだ!?」
と少し呆れていた。
8月26日(金).
新学期を前に、梨原可能(槇原歌音(カノン))は妹?の有明(槇原安里愛(アリア))と一緒に美容室を訪れ、カットをお願いした。
直前だと混みそうなので今日予約しておいた。
「こんにちは〜。予約していた梨原です」
「はい、いらっしゃーい」
と言われ、
「お姉ちゃんはこちらの椅子、妹さんはこちらの椅子で」
と指示され、そこに座ると2人の美容師さんが髪を切ってくれた。
「可能(かの)ちゃんは中学3年だよね。行く高校決めた?」
「S高校とか」(*31)
「おっすごい」
「でもそれ言ったら担任に鼻で笑われたからH高校かなあ」
「S高校とH高校の間は無いの〜?」
「でも笑うのは酷い」
と隣で有明の髪を切ってる美容師さん。
「ですよねー」
と可能。
「密かにC高校も狙ってるんですけど、C高校受けるならどこか私立の滑り止め受けとけって言われてるし。でも滑り止めでP高校とか行くくらいならいっそH高校あたりにしてもいい気がするんですよねー。H高校からでも富大(とみだい:富山大学のこと)とか福大(ふくだい:福井大学のこと。福岡大学ではない!)に行く子は居るし」
「なるほどねー」
(*31) 金沢S高校は金沢市内の公立高校の中ではトップクラスの進学校。今年の春、 福井貴京(福井新一の娘)がそこに入った。彼女は東大理3狙いである。また琥珀のオーナー桜坂康秋の長女・奈那も、この高校を狙っている。彼女は東大を狙うほどではないが、金大か新大(しんだい:新潟大学)を狙っている。
H高校はまあまあの高校で、トップレベルの子は富大・福大に行く子もいるがさすがにそこから金大(きんだい:金沢大学。“きんだい”といっても近畿大学ではない!)に行く子はほぼ居ない(10年前に入った子が1人いたらしいが、もはや伝説化している)。
C高校はS高校とH高校のちょうど中間くらいのレベルの高校である。ここからなら、毎年金大に数人入っている。
可能と有明はTシャツに膝下スカートという格好で出てきたが、出掛けに母が
「あんたたちその格好で行くの〜?」
などと言っていた。
でも可能はこういう服で出歩くのが普通になってしまって、ズボンなんて特に夏は暑くるしいと思う。有明は元々スカート穿くのが好きである。ちなみに幸助は普通にズボンを穿いて床屋さんに行った!
可能は小学6年生だった2019年秋までは男の子の格好で床屋さんで髪を切ってもらっていた。でも12月の終業式が終わった後、唐突に
「2月の公演で女の子役をしてくれ」
と父から言われ、母と一緒に美容室に行って、凄く女の子らしい髪型にされちゃった。そして「練習、練習」と言われて、お正月は女の子用の小振袖を着せられ、それで初詣に行った。当時はむっちゃ恥ずかしかった。
その後、更に役作りのためといわれて家の中ではスカートを穿いているように言われる。またトイレは必ず座ってするように言われる。更には女の子パンティをたくさん買ってきて
「家の中ではこれを穿いてなさい」
と言われ、更にブラジャーまで着けさせられた。
「あんたのことは公演まで“よしこ”と呼ぶね」
「まあいいけど」
(家庭内強制性転換)
うちの両親って極端だよなと思う。ついでにジョークとマジの境界がよく分からない。
そして外出練習と言われて女の子の服を着たまま、母と一緒に外出して、武蔵・近江町市場・香林坊・片町・竪町と連れ回される。母と一緒に女子トイレに入る。
「一緒にスーパー銭湯とか行く?」
「無理〜!」
でもプールに行って、母と一緒に女子更衣室に入り女子水着に着替えて2時間ほど泳いだ。この時は最初から水着の上に服を着ていき、プールで泳いだ後は着替え用バスタオルで水着から普通の下着(ブラとパンティ)に交換した。
冬で人が少なかったからまだ何とかなった気もした。
一方で、女の子らしい話し方の練習をさせられた。母は
「人が声を聞いて男と思うか女と思うかの境界は、声のピッチより話し方」
と言って、女優さんが話している録音をたくさん聴かせて女性の話し方を可能に身に付けさせた。
また「女の子の感覚になるように」と言われて少女漫画をたくさん読まされたが、これは面白いじゃんと思った。可能が読んだ漫画は、そのまま有明も読んでいるようだった。
(精神的女性化教育)
こうして、学校が再開されるまで3週間の完全性転換ライフを送ったら、学校に男子制服を着て出て行くのに違和感を覚えた。
「梨原君、なんか女の子っぽい髪型だね」
「お父ちゃんの劇団の2月公演で女の子役をしてと言われてその役作り」
下着も学校に行く時初日は男の子下着をつけていたが、自分で違和感を覚えたので翌日から女の子下着に戻しちゃった!
体育の時間とかに女の子下着を着けているのが他の子に分かると思うが、誰も何も言わなかった。トイレでは小便器を使うのをやめ、いつも個室を使うようにした。
女子の友人たちは可能のことを“かのちゃん”と呼ぶようになった。
「“かのう”ちゃんだと男の子みたいだけど、“かの”ちゃんだと女の子らしい」
と彼女たちは言っていた。
ここで“可能”は本来“よしたか”と読むことは全く認識されていない。
可能が「学校で“かのちゃん”にされちゃった」と言ったら、両親までこれまでの“よしこ”から“かの”に変えちゃった!
(有明の場合は“ありあけ”から最後の“け”を取って“ありあ”または略して“りあ”と呼ばれている)
身体測定は保健委員が先生と話し合ったみたいでひとりだけ個別測定にされた。体育の時の着替えも1月下旬には個室を指定されて男子更衣室立入禁止と言われた!
「女子で話し合ったけど、梨原さんんなら女子更衣室に来てもいい」
「それはパスで」
↑女子たちが女子更衣室に来た可能を“解剖して性別確認”するつもりでいたことに可能は気付いていない。
そして可能は公演の前日
「今から性転換手術を受けてもらう」
と言われて、実際にはタックされちゃった!
「まるで本当に女の子になっちゃったみたい」
「あんたいっそ本当に病院で性転換手術受ける?」
などと、この頃は母もジョーク(と信じたい)で言っていた。
でも1ヶ月間の女の子ライフのおかげで、2月公演では女の子の役を無難にこなすことができた。
「君うまいねー。演技力あるよ」
と他の劇団員さんたちにかなり褒められた。
「でも座長のところ、こんな大きなお嬢さんいたんですね」
「あ、これうちの息子」
「うっそー!女の子にしか見えない」
可能は「女の子にしか見えない」と言われて凄く嬉しい気持ちがした。
2020年2月には5回の公演があったが、その中の2回目、2月8日の公演を偶然観た東京の俳優・村里泰蔵さんがブログに書いてくれた。
すると興味を持った人が来てくれて、それまでは観客が20-30人だったのが、2月15日の公演では100人くらい、22日の公演では500人くらい、そして2月29日の公演では墓場劇団始まって以来初めての満員札止め、約1500人の観客があって、出演者ひとりあたり10万円の特別ボーナスを配った。
そして可能は父から言われた。
「お前、毎回女の子役で出てくれ」
「いいよ」
可能としても約2ヶ月間の女の子ライフで、女の子の服を着る快適さに味をしめてしまったし、女の子の格好で出歩く快感が完全にやみつきになってしまったのである。可能はタックの仕方を覚えて結局いつもタックしておくようになった。だからトイレの時もおしっこが後ろの方から出るのが普通の感覚になった。
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