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■春一(16)
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可能は髪を切ってもらいながら2年前のことを思い起こしていたが、思えばあれから2年、当初70%くらい、今や95%くらい女の子生活をしてきて、自分はもう男の子には戻れないポイントまで来てしまっている気がした。
ぼくやはりその内、性転換手術とか(自主的に)受けちゃうのかなあ。
本当の女の子になりたい気持ちとか全く無かったし、今でも無いつもりだけど、寝ている間に性転換手術されちゃっても、女の子として生きていける気がする。
目が覚めたら女の子の身体になってて
「性転換手術してあげたよ」
と事後に言われるとか、うちの親だと充分ありそう!
昨年、2年生になってから何度か(体育の無い日に)女子制服で学校に出て行ったけど、先生たちからもクラスメイトたちからも何も言われなかった!
でもその日は
「この服着てる時は女子トイレ使っていいからね」
とクラス委員から言われた。女子トイレ使うのに今更緊張しないけど、学校で女子トイレ使うのは、その時が(公式見解としては)初めてとなった。
そしてそれ以降、可能は男子トイレ使用禁止!と言われた。だから女子制服を着てない日は職員玄関近くの多目的トイレを使っている。
「いつも女子制服で出てくればいいのに」
「その内そうするかもー」
でも3年生になってからは半分くらい女子制服で登校している気がする。特に6月以降は、下がズボンの時もスカートの時も上はブラウスを着ていたので(実は冬服の間も制服の下にはブラウスを着ていた:ワイシャツは1年以上着てない)
「これは女子制服とみなす」
とクラス委員から言われて、いつもトイレは女子トイレを使うように言われた。
9月は夏服だけど゛10月からは冬服に戻る。可能はその時自分はもう学ランは着られない気がしている。
「10月以降はセーラー服着て、完全女子中学生生活かなあ」
などと思ってしまう。
学校の友人たちは、可能が性転換手術を受けたい、あるいは既に受けていると思っているみたいだし。多分7-8割の子が手術済みと思っている。
(↑きっと生徒も先生も全員そう思っている)
だから女子の友人たちは可能をほぼ同性として扱ってくれる。女子の友人たちと一緒にバレンタイン・チョコとか買いに行くのはとても楽しかった。
映画『お気に召すまま』でハイメンの役をしたけど
「女神様の役をしたのね」
「可愛い女神様だったね」
と言われた。まあ花柄のドレス着てたら、ハイメンという神様のこと知らないと女神と思うかもね。
だけど、有明こそマジで既に女の子の身体になっちゃってない?と、可能は隣の席で髪を切られている有明にチラッと視線をやりながら考えていた。
(↑可能も既に女の子の身体になってたりして)
可能が進学先高校としてH高校を考えているのは、実はH高校は性別に関して許容的らしいという情報があったからである。以前からH高校には、戸籍上は男だけど女子制服で通っている子が各学年に数人いるという情報があった。更に今年18歳から性転換手術が受けられるようになって、早速H高校3年の生徒が7月に性転換手術を受けたらしいという情報をある筋から聞いていた。
そういう高校なら、自分も曖昧な性別のまま通えるかもというのを期待しているのである。
(↑多分“曖昧な”性別ではなく“明確”な性別で通学することになりそうな気がするなあ)
8月27日(土).
お昼過ぎ、有明がトイレに行って来てから恥ずかしそうに言った。
「私、生理来ちゃったかも」
へ?と可能は思ったが、母は平然としている。
「あら、それはめでたい。カノ、今日はお赤飯炊いてあげなよ」
「いいけど」
と可能は答える。
「でも、アリア、パンティ汚さなかった?」
「2〜3日前からお腹が痛かったから、もしかしたら初潮かもと思ってナプキンつけてたから大丈夫だった」
「それは良かった」
それで可能は“お赤飯のもと”と餅米を買ってきてお赤飯を作り始めたが、生理が来るとかどうなってんだ?と思った。母はジョークと思っているみたいだけど、アリア、本当に生理来たということは?
ぼくもその内、生理来たらどうしよう?
(↑中学3年生なんだから、生理来てないほうがおかしいよ)
8月28日(日).
墓場劇団と死国巡礼は今週も火牛アリーナでモニター練習を2回行った。2回で20万円という出費は痛いが、万が一にも本番であがってしまいまともに演技できないなどという恥ずかしい所は見せられないので、万全を期した。
先週もやったので今度はだいぶちゃんとできた。特に2度目には全員普段の軽妙なノリが出て、アドリブも出ていた。夜野棺桶のムチャ振りを成仏霊子がきれいに返す場面もあった。すかさず地獄提督がシステムを操作して爆笑を入れる。
「今のやり取りよかった。本番でもやろう」
「OKOK」
「でも今のは観客がいたからできた」
「うんうん。観客が居ないとノリにくいんだよね。これいいね」
とみんな少し精神的な余裕も出てきたようである。
8月29日(月).
真珠は朝から石川県免許センターにバイクで行き、自動車学校の卒業証書を提示。筆記試験を受け合格して、四輪の大型免許を取得した。
これまでも中型免許で運転できる範囲のトラックやバスは運転していたので一発試験を受けても通る気はしたのだが、邦生から「ちゃんと教習所で鍛えられたほうがいい」と言われて半月ほど自動車学校に通って卒業した。教習所の先生には「あんた二種でも通るよ」と言われたが、まずは一種である。
これで真珠は大特以外の全ての車両を運転できるようになった。
8月31日(水).
この日、桃香・朋子・由美・緩菜、朋子の妹の典子夫妻、朋子たちの母・敬子および付き添いの女性看護師さんまで入れて8人は、千里のG450 で能登空港から熊谷の郷愁飛行場へ飛んだ。9月2日の青葉の結婚式(越谷)に出席するためである。
一方、青葉本人は千里が運転するダイハツ・ロッキーで伏木の家を出たが・・・
「面倒臭いし疲れるからワープするね」
と言って瞬間的に浦和の家に来ちゃった。千里姉も最近大胆だなと青葉は思った。
青葉の結婚式には、友人たちは全員ネット参加することになっており、リアルで参加するのは基本的に親戚だけである。88歳と高齢の敬子についてもネット参加を考えたのだが、本人が
「多分東京に行くのはこれが最後になる」
と言うので、一緒に連れて行くことにした。念のため看護師さんに付き添ってもらった。敬子は
「ビジネスジェットなんて初めて乗った。いい冥土への土産ができた」
なとと言い
「まだ冥土に行くのは早いですからね」
と朋子たちに言われていた。
「お祖母ちゃん、メイドさんになる?」
などと桃香が言う。
「なってみたーい」
と言うので、向こうに着いてから、若葉に頼んでエヴォンのメイド服を1着(コロナ以前のデカダン・スタイル(*32) のもの)分けてもらい、着せたら喜んでいた。
「若いメイドさんのサイズの服が着られるってお母さん凄いよ」
と典子が感心していた。
「ちゃんとファスナーは上がったね」
(*32) 2020年春まで神田店で使用していた、英国ヴィクトリア朝時代のメイド服をベースにした制服。コロナ以降は感染防止対策のため空気を遮断した防護服としての機能がある“プラスチック・スタイル”の制服になっている。
ちなみにコロナ以前、エヴォン新宿店はルイ王朝風、銀座店は現代英国王室風、渋谷店はロマノフ王朝風であった。コロナ以降に出来た秋葉原店は最初からプラスチック・スタイルである。
盛岡組はHonda-Jet
gold, 北海道の玲羅夫妻をHonda-Jet
blueを借りて運んだ。
そして佐賀の古賀太兵・梅子夫妻(青葉の実父の両親)は、千里のHonda-Jet
blackで運んだ。古賀夫妻が青葉に会うのは、震災直後の2011年3月以来実に11年ぶりである。太兵さんが“女みたいな格好してる”青葉をずっと認めていなかったのが、東京五輪で金メダルを取ったことから
「こいつ凄いな」
と太兵さんは言い、それで梅子が
「だったら電話しておめでとうと言ってあげなさいよ」
と言った。
実際には電話番号が分からないので大船渡の佐竹慶子に手紙を出し、それで連絡を受け、青葉から電話したが、それでついに太兵は青葉と和解したのである。一度会いに行きたいと言っていたが、コロナ下でもあり、また青葉のスケジュールに全く余裕が無かったことから、実現していなかった。
それが結婚式を挙げるということで来てくれることになった。太兵たちは自分たちの曾孫が生まれる予定と聞いて物凄く喜んでいた。
佐賀空港に迎えに行った時は
「こんなおもちゃみたいな飛行機がほんとに飛ぶのか?」
などと不安がっていたが、実際に離陸すると
「すごーい!ビジネスジェットって結構乗り心地いいね」
などと、はしゃいでいた。
太兵は実は生まれて初めて飛行機に乗ったらしかった。コーパイ席に座らせたら更にはしゃいでいた。
「でもこれの運賃いくらなの?」
「青葉の義理のお姉さんの千里さんの所有機だからタダですよ」
とパイロットのエリッサが説明すると
「飛行機を所有してるってすごいね!」
などと感心していた。
9月1日(水).
歩夢は夏休み前と同様に女子制服を着て、学校に登校した。
「おはよう」
「おはよう」
とクラスメイトたちと声を掛け合う。
体育館で全体朝礼があり、教室に戻ってから担任の先生がみんなに言う。
「川口さんはこの春頃から身体が女性化し、大学病院で診察を受けた結果、完全な女性であると判定されましたので、戸籍も女性と修正し、学校の登録簿も女子生徒に変更になりました。今日からは完全な女子生徒として就学しますので、皆さん、特に女子のみなさん、仲良くしてあげて下さいね」
「あゆちゃんは、とっくの昔に女子だった気がします」
という声。
「うん。だから事前にクラス委員2人で彼女と話し合ったけど、今までと何も変わらないよね、と話した」
とクラス委員の女子が言った。
そういうわけで、歩夢の新しい性別でのスクールライフは夏休み前と全く変わらない状況で始まった!
9月1日(水).
梨原可能は今日から学校が始まるのだが、朝出かける準備をしていて困惑した。
キティちゃんのパジャマのまま居間に出ていき父に尋ねる(母はまだ寝ている)。
「ねえ、お父ちゃん、ぼくの制服のズボンとか知らないよね?」
「ああ、母ちゃんが29日の布紐類の日に全部捨ててたぞ。お前のワイシャツとか学ランとか、学生ズボンとか」
「え〜〜!?」
「だってどうせお前ズボンなんか穿かないだろ?スカートで通学するんだろ?」
そんなぁ。スカート通学とか恥ずかしいよぉ。これまでも気分が乗っている時はスカートで出て行くこともあったけど、と思う。
(↑うそだ。半分はスカート穿いてたぞ)
「ま、どっちみちズボンとか無いんだしスカート穿いて出て行きなさい。みんな男の子が女の子になるのは受け入れてくれるけど、男と女の間をふらふらされると困惑するものだよ。もうお前も覚悟を決めて女子中学生になればいい」
と父は言った。
えーん。まだ覚悟ができないよぉ。
「中学卒業するまでに性転換手術受ける?」
「受けない」
今のはマジで訊かれた気がした。曖昧な返事したら本当に手術を受けることになりそうなので速攻でしっかり断った。
でもズボンが無いならスカートを穿いていくしかないので、可能はこの日、ブラウスとスカートで学校に出て行った。胸元にはリボンも結んだ。
「おはよう」
「おはよう」
と、みんなと声を掛け合う。
可能は結構ドキドキしていたのだが、彼女の服装のことについては誰も何も言わない。1時間目の後、トイレに行くときは他の女子と一緒に女子トイレに行く。でもこれは6月からずっとそうなっていたから、これまでと同じだなと思った。
2時間目には身体測定があったが
「かのちゃん、もう女子と一緒でいいよね」
と保健委員の子から言われて女子と一緒に保健室に行った。
中に入り、他の女子と一緒に下着姿になり、並んで体重と身長を測られる。
「かのちゃん、体重38kgしか無いんだ?」
「やせすぎだよ。もっと御飯食べなきゃ」
「そ、そだね」
「しっかり食べないと、おっぱい大きくならないぞ」
などと言われてブラの上から胸に触られた!
(きっと性別の再確認)
触られて赤くなり俯いていると
「可愛い」
と言われた。
それでこの後、可能は学校でも完全に女子扱いとなり、彼女の生活は10月を待たずに100%女子中学生生活となったのである。
可能に生理が来る日も近い!?
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