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■春一(4)

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それで千里はN県議の事務所に電話した。
 
受付の女性が出るが、千里が〒〒テレビの番組制作に協力している会社の者ですがと名乗ると秘書さんにつないでくれた。
 
「どうもお世話になります。私は珠洲市の人形美術館の件で番組制作に協力している朱雀林業の代表取締役で村山と申します。あ、はい、お世話になります。実は先日美術館が崩壊する直前に中の美術品の搬出をした時に中に幾つか貴重な物品を忘れてしまった可能性がありまして。もしご許可を頂けましたら、ちょっと掘り返して探したいのですが、あ、構いませんか?ありがとうございます。作業した後は“きれいに整備”しておきますので」
 
それで千里は電話を切った。
 
「掘る許可を得ましたよ」
「凄い!でもあれを掘るには物凄い費用が」
「大丈夫です。ほとんど費用を掛けない方法がありますから。ただあまり人に見られたくないので今夜作業します」
「今夜ですか!だったら私今から少し仮眠して夜に備えますね」
 
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「いえ。夜間に年配の方に無理されて、それこそ夢で見たみたいにお風邪でも引かれてはいけません。代わりに遙佳さんと歩夢さんを貸していただけませんか?たぶん一番見付ける力があるのは遙佳さんだと思います。歩夢さんもその手伝いに」
 
「はい。多分あの子たちならやってくれると思います」
 
この時薫は、コイルさんは何も言わなかったけど、悲惨な状態になっている人形があった時それを自分に見せないように自宅で待っていてくれと言ったのではないかと想像した。
 
それは半分正解だが、あと半分は館長の想像範囲外のことであった。
 

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それで深夜0時、千里、九重、真珠、明恵、遙佳、歩夢の6人が人形美術館の跡にやってきた。
 
「んじゃこの土砂をどければいいんですね?」
と九重が訊く。
「うん。じゅうちゃんならマッチ棒細工を扱うのも同然だよね?」
「あれ苦手なんですけど。すぐ壊れちまうから」
「あはは。丁寧にやってね。たぶん人形が埋もれてるから」
 
「私たちは人形を見付ければいいんですね」
と真珠が確認する。
 
「そそ。君たち4人で見付けてほしい」
「了解です」
と遙佳も言った。
 

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それで、じゅうちゃんはそこに堆積している土砂・岩石・樹木などをどけ始めた。石川県地方は、昨日の朝までは雨だったのだが今日は晴れている。土がやわらかくなっていて掘りやすいが、逆に崩れやすくもあるので注意して掘る必要がある。
 
じゅうちゃんは掘った土砂・岩石・樹木を取り敢えず駐車場の所に“投げ飛ばして”いく。真珠や明恵は驚かないが、遙佳と歩夢は「すごーい」という感じで眺めている。
 
1時間ほど掘った所で美術館の屋根が見えてくる、じゅうちゃんは、屋根もポイと投げ飛ばした。ああ、千里さんはこういうのをお祖母ちゃんに見せたくなかったんだろうなと思った。祖母が何十年も自分の住まいのようにしてきた美術館である。九重の作業は続く。彼は美術館の壁とかもポイと投げる。
 
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「あ、徳部さん待って」
と真珠が言って九重が投げようとした壁に駆け寄る。
 
「ひとり挟まってた」
 
それは2月に作ったバルコニーと壁の間に挟まれていたのである。
 
「これはカナリアちゃんだ」
「でも身体がバルコニーの支柱に挟まってる」
「この支柱を曲げればいいな」
と言って、九重が曲げてくれたので、無事カナリアを救出できた。
 
「ボディは傷んでるけど顔は無事みたい」
「顔さえ無事ならなんとかなるよね」
「はい。身体は最悪再度作ればいいので」
 
救出した子は歩夢が保護することにした。簡単に土とかを払ってからプチプチで包み、段ボール箱に入れる。
 
その後も壁に挟まったりしていた子を全部で4体保護した。
 
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壁が全部取れてしまったが照明やら空調やら展示ケースが破損していて現場はかなり危険である。しかし真珠・明恵・遙佳の3人は軍手をし、安全長靴を履いて、建物の中に入り人形たちを探す。その間、九重は崖が崩れてこないように、崖を“ぎゅーっと押した”。結構大量の水が出てくる。
 
「この崖は元々崩れやすくなってるなあ。水の出てくるルートが無いもん」
と九重は言っている。
 
しかしこの段階の探索で3体のビスクドールを保護できた。この子たちは土に埋まっていたので汚れが酷いし、ボディがかなり傷んでいるが、とにかくも顔は無事っぽい。
 
歩夢が顔を拭いてやり、プチプチで包んでさっきの子たちとは別の段ボール箱に入れる。
 
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いったん全員退去し、九重の手で建物内の土砂がどけられる。床が次第に露わになっていく。この土砂撤去作業中に、真珠と遙佳が土砂の中に居たドールを1体ずつ保護した。これで全部で9体である。館長の夢に出て来たのは全部で10体だから残り1体である。
 
土砂が取り除かれた館内を全員で探索する。
 
「居た!」
と言って歩夢が、館長室跡の付近で1体見付けた。どうも崩れた壁と床の間に挟まっていたようだ。
 
「これで全部かな」
「まだ居るかもしれない。もう少し探そう」
 
建物の“外”になる場所で明恵が一体見付けた。
 
「やはり10体だけじゅないんだな」
 

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「あゆ、これまで救出した子を見せて」
と言って遙佳が人形たちを見ている。見ながら名前を書いているようだ。人形を見ただけで名前が分かるのは遙佳と館長だけである。一応名札を付けているのだが、土砂で汚れてよく分からない。
 
「パルマが居ない」
と遙佳は言った。
 
「やはりまだ埋もれている子がいるのか」
 
それで再度みんなで探す。
 
「ひとり居たけど・・・」
と明恵が悲しい顔で言う。
 
その子は顔が砕けていた。
 
「あぁあ」
「これ絶対館長には見せられない」
「遙佳ちゃん、個体名分かる?」
 
遙佳もさすがに砕けた顔からは人形を識別できない。名札を何とか判読する。
 

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「この子はメタスラのようです」
 
「パルマではない子か」
「千里さん、この子“生きて”ます?」
「凄く弱々しいけどまだ生きてる」
「だったら再生できます?」
「再生できる人は居る」
 
まあ“人”ではないけどね。
 
「だったら千里さんのポケットマネーで再生を依頼できません?」
「いいよ。頼んであげる」
と千里は笑って言った。まあ5000万円くらい寄付したらやってくれるかな。
 
「ところでこの子、男の子だよね?」
と千里は遙佳に確認する。
 
「はい。そうです。元は凄く優しい顔だったんです」
「顔は完全に再生するけど、ボディは女の子のボディ使ってもいい?」
「はい。きっとこの子、女の子になれたら喜びますよ」
「ではそれで」
 
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女の子のボディならストックがあるが、男の子のボディは作るのが大変である。その分少し手抜きさせてもらおうと千里は思った。
 

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探索を再開する。
 
どうしても見付からないので、九重に床も撤去してもらった。
 
「居た!」
「なんで床の下に?」
「怪我はしてないみたい」
「この子がパルマです」
「やっと全員見付かったかな?」
「念のためもう少し探そう」
 
それで探していたら更に2体見付かったのである。1体は顔は無事。もう1体は耳が取れていたが、九重が
「ちょっと貸せ」
と言って、取れた耳を顔の耳がある場所に“ぎゅーっと”押しつけたら、くっついちゃった!
 
「徳部さんすごーい。これ、この子の代わりのお礼」
と言って遙佳が徳部の頬にキスする。
 
九重は舞い上がって喜んでいた!
 
そして舞い上がった拍子に近くの電柱にぶつかったら、電柱の上から何か落ちてくる。千里が抜群の反射神経で飛び付いてキャッチした。
 
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「こんな所にも居た!」
「なんで電柱の上に?」
「分からないけど無事みたい」
 
これで見付かったビスクドールは顔が砕けていた子まで含めて16体である。
 
九重が更に土砂を全部取り除くと更に2体見付かる。2人とも顔は無事である。
 
「夜が明けてきた。そろそろ撤退しないと」
「あと少し探そう」
 

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それで探していたら、更に2体見付かる。
 
「駐車場に積み上げた土砂はどうする?」
「ああ。運ばせますよ」
といって九重が人(?)を呼ぶと、すぐに広沢ほか数名が運転する大型ダンプが来てあっという間に土砂をダンプに積み、走り去った。
 
「すごーい!」
 
夜明けが来る。九重は崖が崩れないように、広沢が持って来てくれた水抜きパイプを50本くらい崖に“差しこんだ”。
 
その間も探索班は人形を探し更に2体見付けた。1人は鼻が取れ、1人は首が折れていたが、どちらも九重がくっつけちゃった!
 
「首が折れてた子生きてる?」
「大丈夫。かなり苦しんでたみたいだけど今は『ありがとうございます』と言ってる」
「よかった」
 
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完全に周囲が明るくなったところで引き上げた。結局保護した人形は全部で22体である。
 
「あの晩かなりチェックしたのになあ」
「現場は混乱してたからね」
 
人形は全部千里が預かり、メンテした上で持ってくるということだった。
 
今夜の探索に参加したメンツは全員昼過ぎまで川口家で寝ていた。ただし九重は“危険”なので車内で寝せた。
 
お昼には高さんがみんなにお礼と言って上等の能登牛のステーキを作ってくれた。九重が
 
「美味しーい!これ凄くいい牛ですね」
と言って10枚くらい食べていた。
明恵と真珠も2枚、遙佳も3枚食べた。
 
でも九重には、千里がご褒美で神戸牛を丸ごと1頭と日本酒1樽をあげた。彼はその牛1頭を1日で食べちゃったらしい。でも彼は今回ほんとによくやってくれた。
 
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薫館長はその後、人形が震えてる夢を見なくなったので、どうもこれで全部回収できたようである。
 
千里は小杉に撮影させておいた作業の様子を撮したビデオを真珠に渡した。
「“放送に適さない場面”は撮影してない」
「多分本当に放送できない所ですね。ビデオありがとうございます」
 
 
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